表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2803/3865

2803話

今日から才能は流星魔法という新連載を始めました。

タイトル通り流星魔法の才能を持った主人公が異世界に転移するという話です。

興味のある方は以下のURLからどうぞ。


https://ncode.syosetu.com/n1104gw/


今日から5日は毎日更新します。

 風雪のアジトの中を走るレイは、前から三人程が近付いて来る気配を感じる。

 暗殺者だけあって気配の殺し方は上手いのだが、それでもレイを欺けるような水準には達していなかった。


(さて、どっちだ? この状況で気配を消してるってことは、攻めて来た暗殺者達って可能性が高い。けど、同時に侵入してきた相手に対処する為に気配を消して移動している風雪の暗殺者という可能性もある)


 どのみち、護衛兼見張り達には自分から攻撃しないと約束している。

 そうである以上、まずは相手の出方をしっかりと把握しておく必要があった。


「レイ!?」


 通路の向こうからやって来た三人のうち、一人がレイを見てその名前を叫ぶ。

 自分の名前を知ってることから風雪の暗殺者か? と思うも、考えてみれば攻めて来た者達もドーラン工房に雇われている可能性が高い以上、レイの名前を知っていてもおかしくはない。

 そう思い、いつ攻撃されてもいいように準備をしていたのだが……声を発した者の顔に見覚えがあったので、レイも緊張を緩める。

 そこにいたのは、今日――時間的には昨日か――リンディと模擬戦をした時に、見ていた者の一人だ。


「お前は模擬戦の時にいたな。それで、どうしてここに……とは聞くまでもないか」


 風雪に所属している者が現在この状況で一体何をしているのかは、それこそ考えるまでもないだろう。

 寧ろ向こうにしてみれば、レイこそが何故このような状況でこのような場所にいるのだと、そう思ってもおかしくはない。

 レイやその仲間は風雪に匿われている存在なのだから。


「ああ。侵入してきた連中の迎撃だ。それで、レイこそ何故ここに?」

「俺も似たようなものだ。相手は結構な腕利き揃いで、しかも数も多い。なら、俺のような戦力は風雪にとってもありがたい筈だろう?」

「それは……」


 男はレイの言葉に沈黙する。

 実際、現在の風雪の状況においてレイという存在がいるのは非常にありがたい。

 それは間違いのない事実なのだが、だからといってレイを好き勝手に動けるようにしてもいいのか。

 男の様子から、正確なところまでは分からないものの、それでも何か迷っているのは理解したのだろう。レイはそんな男に対し、改めて口を開く


「言っておくが、これは俺が勝手に行動しているって訳じゃないぞ。きちんと風雪の上層部から許可は貰っている」


 その言葉に、男は微かにだが安堵した様子を見せる。

 現場の判断ということで見逃してもよかったのだが、そのような真似をしなくてもしっかりと上から許可を貰っているのなら何も問題はないと判断したのだ。


「そうか。それはよかった。それで、レイはこれからどうするんだ? 俺達と一緒に行動するのなら助かるんだが」

「それもいいけど、一旦外に出たい。セトがいるのに、暗殺者達がどうやって侵入してきたのかが気になる」

「それは……」


 言われてみれば、男もそんなレイの言葉に同じような疑問を抱く。

 グリフォンのセトがいる状況で、一体どうやってアジトの中に多数の暗殺者を派遣してきたのか。

 それを疑問に思い、その一件を解決しない限りは今回襲撃してきた相手をどうにかしても完全に安心は出来ないだろうと判断する。

 襲撃してきた相手を捕らえて尋問すればその辺の情報も入手出来る可能性があったが、仮にも相手は暗殺者である以上、欲しい情報をそう簡単に入手出来るかどうかは分からない。

 また、もし情報を入手しても、その情報が正しいのかどうかを確認する必要もあった。

 そのような手間を考えれば、自分達でセトが現在どうなっているのか確認した方が手っ取り早い。

 捕らえた暗殺者から聞き出した情報の補強という一面もある。

 そう考えた男は、レイに向かって口を開く。


「分かった。レイが一度外に出て状況を確認するなら、俺も一緒に行こう」

「いいのか? 俺としては助かるけど」


 レイがこのアジトの中を動く上で一番厄介だったのは、護衛兼見張りの男達と話したように敵味方の区別がつけにくいということだ。

 場合によっては敵を敵と思わず、味方を味方を思えない可能性もある。

 そんな状況だけに、風雪に所属する男が一緒に来てくれるのならその辺りについての心配は必要なくなる筈であり、これはレイにとって非常に大きな意味を持っていた。


「ああ、構わない。このままレイを自由にさせておけば、最悪俺の仲間達にも被害が出る可能性が否定出来ないからな」

「そうしてくれると、俺としても助かる。けど、いいのか? 俺はともかく、そっちは上からの命令で動いてるんだろ? なのに、そんな中で俺と一緒に行動して」

「そうだな。だから、レイと一緒に行動するのは俺だけだ。……いいよな?」


 男が確認するように仲間の二人に声を掛けると、その二人は素直に頷く。

 現在の自分達の状況を考えれば、今は臨機応変に行動した方がいいのは明らかだったのだから。

 それを抜きにしても、上手くいけばレイという強力な戦力を侵入してきた暗殺者達の主力にぶつけられるかもしれないという思いがあるのも、間違いなかった。


「そういう訳だ。もしグリフォン……セトだったよな? そのセトを相手にして勝てる奴がいた場合はレイに相手をして貰うことになると思うが、それでいいんだよな?」


 確認するように聞いてくる男の言葉にレイは頷く。

 もっとも、セトとの繋がりからセトが何らかの大きな怪我をしたといったようには思っていなかったが。

 それでも、もしかしたら……万が一にもということを考えた場合、やはりまず一度地上に戻ってその辺の状況を確認する必要があるのは間違いなかった。


「話は決まったな。なら、そっちは任せるぞ。くれぐれも無理はするなよ」


 男の言葉に、他の二人が頷く。

 その会話を聞き、レイは意外に思う。

 てっきりレイと話していた男だけではなく、他の二人も自分と一緒に行動するのだろうと思っていた為だ。

 だが、今の会話からするとレイと一緒に行動するのは一人だけで、他の二人は男と別行動を取るということになる。

 そう言えばレイと一緒に行くのは俺達ではなく俺だけだと言っていたのを思い出す。


「全員一緒じゃなくていいのか?」

「当然だ。上からの命令がある以上、全てをこっちの好き勝手に出来る訳がない」


 そう言う男の言葉は、レイを納得させるには十分なものがある。

 だからこそ、レイはその件についてはそれ以上突っ込むような真似はせずに話題を変える。


「分かった。じゃあお前だけが俺と一緒に行動するんだな。……何て呼べばいい?」


 今までは特に気にしていなかったが、これから一緒に行動する以上は名前を聞かないで行動するといったような真似をする訳にもいかない。

 レイの言葉に、男も自分を何と呼べばいいのかが分からないと不便だと思ったのだろう。渋々……本当に渋々といった様子ではあったが、口を開く。


「クロウと呼んでくれ」

「クロウか。分かった」


 クロウという言葉にどことなく日本風なものを感じたレイだったが、そういうこともあるだろうと判断し、それ以上突っ込むような真似はしない。

 和風の名前があったところで、この世界においてはそこまでおかしなことではないのだから。


「じゃあ、クロウ。行くぞ。途中で誰かと遭遇したら、敵味方の判別はお前に任せる」

「ああ、それは本気でやらせて貰う」


 クロウにしてみれば、自分の判断によって風雪の暗殺者達が受ける被害が減るかどうかの瀬戸際だ。

 そうである以上、ここで自分が頑張らないといった選択肢は存在しない。

 レイの言葉に真剣な表情で頷く。

 そうして話が纏まると、レイとクロウは地上に向かって移動し、残る二人は上に命令された仕事をこなすべく移動を開始する。


「それで、結構な数の暗殺者ギルドが手を組んでやって来ているって話だったけど、具体的にはどのくらいの敵が侵入したのか分かるか?」


 クロウの案内に従ってアジトの通路を走りながらレイが尋ねる。

 レイも何度か通った道なので、地上に出る場所までの道順は理解していたのだが、それでもやはりここは風雪に所属しているクロウに案内して貰った方が確実だろうし、何よりもレイの知らない近道であったり、敵との遭遇する可能性の有無を考えて行動するといった真似が出来ると言われれば、レイとしてもそちらに任せないという選択肢はなかった。


「生憎と俺達はまだ敵と遭遇していないな。だが、こっちに入っている情報によれば大きな組織が侵入してきているらしいから、結構な人数になるだろう。そうである以上、そろそろ遭遇してもおかしくはない。それに、俺達は地上に、敵が侵入している方に向かってるんだし」

「そう言っても、実際に全く遭遇する様子がないだろ?」


 レイの言葉にクロウは何も言い返せない。

 クロウもまた、レイが言ったようにここまで来てもまだ敵と遭遇していないのを不思議に思っているのだろう。

 レイに言葉を返さず、沈黙したままクロウはアジトの中を進む。


(本当に、一体どうなってるんだ? 暗殺者と戦わなくてもいいのは楽だけど。……ただ、その場合はリンディ達がいる場所に多くの暗殺者が集まるかもしれないってことで、そういう意味では完全に安心は出来ないけど)


 走りながら、現在の状況はありがたいようでもあり、困ったようでもあるとレイは考え……そうして走り続けていると、やがてクロウが口を開く。


「そろそろ地上だ」

「見覚えのある場所だと思ったけど、ようやくか」


 地下通路であっても、どことなく見覚えのある場所を見ながらレイは呟き、そして地上に続く階段を見つける。


「分かってると思うが、暗殺者がいるかもしれない。その辺は注意しろ」


 クロウの言葉にレイは何が起きてもいいように意識をしつつ、階段を上っていくが……


「あれ?」


 完全に予想外なことに、階段を上っている最中に全く暗殺者が出て来る筈もなく、カモフラージュ用の建物の中にも暗殺者の姿はない。

 レイの口からそんな間の抜けた声が上がるのも、ある意味では当然だろう。


「どうなっている!?」


 クロウの口からも動揺した声が出る。

 風雪のアジトに侵入してきた以上、当然ながらそこに繋がるここには敵がいなければおかしくなかった。

 でなければ、もし風雪のアジトから脱出しようとした時、ここを風雪の者達に封鎖されてしまえば脱出出来ないのだから。


『グルルルゥ?』


 そんなレイやクロウの声が聞こえたのだろう。建物の外からセトの声が聞こえてくる。

 特に何らかの怪我をした様子もないような鳴き声であると考えると、やはりセトに何かあったという訳ではないのだろう。


「クロウ、一度外に出て状況を確認してみよう」

「ああ」


 レイの言葉に短く言葉を返すクロウ。

 元々おかしいと考えてはいたものの、ここにきて完全に何かがおかしいと、そのように思ったのだろう。

 実際にレイもまたそんなクロウと同じ気持ちなのは間違いない。

 そんな二人が揃って建物の外に出てみると……


「やっぱりな」


 ある意味で予想した光景がそこには広がっていた。

 風雪の門番役の二人と、セトの姿がそこにはあったのだ。

 唯一レイの予想と違っていたのは、寝転がっていると思っていたセトが立ち上がって扉の側で待っていたことか。


「グルルルゥ!」


 レイの姿を見て嬉しそうに喉を鳴らし、顔を擦りつけてくるセト。

 そんなセトを撫でながら、レイは周囲の様子を確認する。

 そこにはスラム街の景色が広がっているだけで、血痕の類があったりはしない。

 いや、古い血痕はそれなりにあるが、新鮮な血痕はどこにもないというのが正しいだろう。

 また、暗殺者と思しき者が倒れている様子もなかった。


(門番役の二人も普通だし、こうして見る限りだとやっぱりここから侵入されたって訳じゃないのか? というか、あの二人は現在風雪のアジトに敵が侵入してるのを知らないっぽいな)


 セトを撫でながら疑問を抱くレイの近くでは、クロウが門番の二人に声を掛けている。


「お前達が無事だということは、敵はここから侵入した訳ではないのか」


 そう尋ねるクロウだったが、それは驚くというよりも納得しているような声だ。

 レイと同様、クロウもここまでやって来て異常がないことこそが異常であると、そう理解したのだろう。


「はい。その様子だと何かあったんですね」

「そうだ。ここではないどこかから、多数の暗殺者ギルドが連合を組んで侵入してきた」

「それは……」


 門番達も予想はしていたものの、クロウの口から出たのはそんな門番達にとっても驚くべき内容だったのだろう。

 唖然とした様子を見せ、二人の門番が揃って顔を見合わせる。


「お前達が知らなかったということは、ここ以外のどこか別の場所から侵入してきたということになる。一体どういう手段を使ったのかは分からないが」


 厄介なと、そう口にするクロウに、レイも同意するように頷くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ