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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
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2777話

「さて、取りあえずお前達には捕まって貰ったんだが……思ったよりも人数が少ないな」


 ロープで手足を縛られている者達を眺めつつ、レイは疑問を抱く。

 ロープで縛られているのは、七人の男女。

 スラム街の子供から聞いた話によると、スラム街にやって来たのは二十人くらいだという話だった。

 勿論、十七人という数は約二十人と考えてもいい。

 しかし、それでもやはり何となく人数が足りないと思ってしまう。


「一応聞くが、お前達はこの七人で活動していたのか? ああ、ちなみにもう片方の十人で行動していた方は既に全滅しているぞ」

「殺した……のか?」


 セトの放った王の威圧の効果から回復しつつある男の一人が、レイに向かってそう言ってくる。

 一瞬どう答えようかと迷ったレイだったが、喋られなければ殺されると思った方が大人しく情報を話すだろうと判断し、その男の言葉に笑みを浮かべる。


「苦しい思いはしなかった筈だぞ」

「てめえっ!」


 ロープで身動きが出来ないように縛られているにも関わらず、男はそう叫んでレイに襲い掛かろうとする。

 だが、身動きが出来ない状態でそのような真似をしても攻撃出来る訳もなく、ただ地面を転がるだけだ。


(あの十人の中に知り合いがいたのか? まぁ、同じ依頼を受けてるんだから、同じパーティだったりする可能性もあるか。それなら何で別行動をしてるのかが疑問だが……俺には分からないような理由があるんだろ)


 そこまで深く考えても意味はないだろうと判断し、レイは地面の上で暴れている男を一瞥してから他の六人に向かって口を開く。


「さて、そんな訳で大人しくこっちの質問に答えてくれれば、無事に解放しよう。俺と敵対してこうして生き残るってのは、実は結構珍しいことなんだぞ?」


 それは合っているようで、間違ってもいる。

 何気にレイと敵対した相手でも、生き残っている者はそれなりにいるのだ。

 ただし、何らかのトラウマを負っていたり、あるいは手足の一本がなくなっていたりといったような状態になっている者も多いが。

 とはいえ、レイにエグジニス周辺で盗賊が消えているという情報を教えた盗賊のように、レイの趣味である盗賊狩りの対象であるにも関わらず五体満足で生き残っている者もいる。

 この辺は基本的にレイの気分で決まっている以上、ある意味で適当なのは間違いなかった


「ほ、本当か!?」


 レイの言葉に真実味を感じたのか、縛られていた男のうちの一人が一縷の希望に縋るような視線を向け、そう叫ぶ。

 そんな男に何人かが責めるような視線を向けるものの、今の状況を思えば文句を言ったりは出来ない。

 捕まった者達にしてみれば、ここで何も言わなければ殺されると思っても仕方がないのだから。

 レイの計算通りの流れになっており、内心で上手くいったと考えながら。レイは口を開く。


「勿論だ。ただし、あくまでも俺の質問に対して素直に答えるなら、だけどな。……で、他の連中はどうする? その男は素直に情報を話すという以上、お前達が黙っていても意味はないぞ」


 実際には一人から話を聞いただけでは、その情報が正確かどうかというのは分からない。

 そうである以上、やはり複数から話を聞き、その情報が合ってるかどうかを確認するといった真似をする必要があった。


(とはいえ、こっちから話を聞くのは難しいだろうけどな)


 レイの視線が向けられたのは、先程レイに襲い掛かってきた相手。

 今は地面の上で暴れるといったようなことはしていないが、それでも自分の仲間をレイに殺されたと思っている男は、レイを睨み付けていた。

 そんな相手に対し、レイは今は構わない方がいいだろうと判断し、その視線を無視する。


「さて、まずは最初の質問だ。お前達はドーラン工房に雇われてスラム街にやって来た。違うか?」

「いや、違わない。俺達はドーラン工房に雇われている」


 この点に関しては最初に襲撃した者達の会話から理解していたので、特に驚くようなことはない。

 ……もっとも、実はこの集団が先程レイが襲撃した者達とは全く関係のないグループであったりした場合、意味がなかったのは間違いないが。


「第二の質問。お前達がドーラン工房に依頼されたのは、何だ?」

「昨夜ドーラン工房を襲撃した相手と、そこから逃げ出した者達を捕らえること」

「……なるほど。とはいえ、相手が俺だというのは聞かされてなかったのか?」


 それはここにいる者達の強さでレイを捕らえるのは無理だと、お互いの実力差をこれ以上ない程にはっきりと言ったものだったが、実際に現在の状況を見ればそれに対して不満を口にするような真似が出来る筈もない。


「だから、正面からレイと戦うのではなく、レイが拠点にしている場所を見つけようとしたんだよ」


 その言葉に、レイは自分の予想が間違っていなかったことを理解する。

 やはりそれが目的で自分達を尾行していたのか、と。


「なるほど。俺じゃなくて別の目標を狙っていた訳か。……第三の質問だが、ドーラン工房から逃げ出したというのは違法奴隷だったというのは知ってるのか?」

「……は?」


 レイの口から出た言葉を聞き、捕まっている者達は数秒の沈黙の後で間の抜けた声を上げる。

 そんな者達を見て、レイはやっぱりなと納得する。

 ドーラン工房にしてみれば、違法奴隷を集めていた……ましてや、その違法奴隷はネクロマンシーを使って魂をゴーレムの核の素材として使うなど、とてもではないが教えられる筈もない。

 そう予想していたからこそ、レイは目の前の者達がその辺の情報を知らないだろうと予想していたのだが……その予想が見事に当たった形だった。


「ちなみに、ドーラン工房はその違法奴隷をゴーレムの素材として使っている。それも知ってたか?」


 どうせなら、この連中にもドーラン工房の真実を教えてやろう。

 そうすれば目の前の者達も混乱して、場合によってはドーラン工房と敵対するかも。

 そんなつもりでレイはドーラン工房の秘密を暴露したのだ。

 勿論、そのような真似をすればレイの前にいる者達がドーラン工房に狙われる可能性もある。

 その辺はレイも若干悪いと思わないでもなかったが、それでもこの者達は自分やアンヌ、イルナラといった面々を狙ってスラム街にやって来たのだということを考えれば、そこまで自分が気にする必要はないだろうと、そう判断する。

 何をするにしても、今の状況において手札というのは多い方がいい。

 一応風雪もレイの手札ではあるものの、風雪の場合はレイが報酬を支払って動いて貰っている形だ。

 支払う報酬という点ではまだ大量にあるものの、それでも出来れば報酬を必要としない手札があった方がいいのは事実。


「さて、これでお前達はドーラン工房の秘密を知ってしまった訳だ。つまり、俺と同じ立場になった」

「な……そんなの……」


 レイの説明を聞いた者達にしてみれば、完全に巻き込まれたといったところだろう。

 知りたくもなかった情報を無理矢理聞かされ、それによって結果として自分達はドーラン工房の秘密を知ってしまい、レイ達と同じように狙われるのだから。


(いっそ風雪の拠点に連れていくか? いや、駄目だな。この連中の性格が分からない以上、場合によってはアンヌ達を連れ出してドーラン工房に渡して自分の身の安全だけを考える……といったような真似をしてもおかしくはない)


 しっかりと性格を理解しているのなら、どう行動するのかといったようなことも予想出来るだろう。

 しかし、目の前にいる者達とは今日会ったばかりなのだ。

 とてもではないが、信じるといった真似は出来ない。


「お前達がこれからどう行動するのかは、自由だ。このまま何も知らない振りをして、ドーラン工房に戻ってもいい。ただ……お前達が知った秘密は、ドーラン工房が絶対に知られたくないと思っているものだというのは忘れるな。そして誰か一人でも秘密を知ってると思われた場合……」


 それ以上は言葉にしなかったレイだったが、何を言おうとしたのかは考えるまでもなく明らかだ。

 この中の誰かが秘密を知っているとドーラン工房に知られれば、他にも秘密を知っている者がいないかどうかを徹底的に調査するだろうし、それを知った者がそのままにされるとは到底思えない、


(ゴライアスのようにな)


 実際には、まだゴライアスがドーラン工房に捕まったという確証はない。

 だが、レイの予想としては既に捕まっており、ゴーレムの素材として使われてるという可能性が高かった。

 証拠の類がある訳ではないが。


「じゃ、じゃあ……どうしろって言うんだよ」

「さぁ? その辺は俺が考えるようなことじゃないだろ。お前達が自分で考えればいい。……ああ、そうそう。さっきの最初に遭遇した十人を殺したというのは嘘だ。まだ生きている。とはいえ、スラム街で気絶している状況だけに、どうなるのかは分からないが」

「な……ちょっ、ならこれを解けよ!」


 先程レイに向かって攻撃しようとした男が、その言葉を聞いて叫ぶ。

 ロープを解いて何をするのかと言われれば、当然ながら気絶している者達の所へ向かおうというのだろう。

 どうする? と少し迷ったレイだったが、ドーラン工房の秘密を知っている者が活発に動き回るというのは、レイにとっても悪い話ではない。

 ネブラの瞳で鏃を生み出すと、素早く投擲してロープを切る。

 ロープが解けると、男はすぐにその場を走り去り……それを見送ったレイは、残った者達に視線を向け、口を開く。


「まず一人は行動を起こした。他の奴は……そうだな。俺に必要な情報を教えてくれた奴から、自由にしてやる。何か重要そうな情報を持ってる奴はいるか?」

「私は知ってるわ! ドーラン工房は警備兵に手を回してレイを捕らえるようにと指示を出してるけど、それを渋っている警備兵がかなりいるわ」

「へぇ、それは……」


 女の口から出た情報がもし本当だとすれば、それはレイにとってありがたい。

 この冒険者達のようにドーラン工房が私的に雇った相手と戦うのは何の問題もないが、警備兵を相手に戦った場合、後々面倒なことになりかねない。

 それでもどうにか誤魔化す方法はあるだろうが、そもそも戦わないのならそっちの方がいいのは間違いないのだから。


「けど、何でだ? エグジニスという街にとって、ドーラン工房の存在は大きい筈だ。そのドーラン工房からの要望に従わないというのは、街を守る警備兵としては逆らえないんじゃないか?」

「そこまで詳しい話は知らないわ。けど、ドーラン工房からの命令が滅茶苦茶で、自分達を雑用扱いしているって言ってたわね」

「なるほど。その可能性はあるか」


 警備兵にしてみれば、自分達は別にドーラン工房の私兵という訳ではなく、あくまでもエグジニスという街を守っているという自負があるのは当然だろう。

 だが、そのような思いがあろうとも、現在エグジニスにおいてドーラン工房が最高のゴーレムを製造出来るということで、強い影響力を持つ。

 だからこそ、警備兵はドーラン工房からの指示にもある程度従わなければならなかった。

 それが面白くないと思うのは当然の話だろう。


(それに、イルナラ達の扱いを見れば、ドーラン工房の主流派はかなり調子に乗っている。そんな者達が警備兵を相手にどういう態度を取るのか……想像するまでもないしな)


 女のその情報は、レイにとっても重要なものだった。

 なので約束通りネブラの瞳で生み出した鏃でロープを切る。

 女は自分が自由になったと判断するや否や、即座にその場から走り去った。

 今はまだ、ドーラン工房に自分達のことは知られていない。

 そうである以上、どのような行動を取るにしろ、出来る限り早い方がいいのは間違いないのだ。

 女が走り去ったのを見て、レイがきちんと約束を守るのだと判断したのだろう。

 男の一人が、これ以上出遅れる訳にはいかないと叫ぶ。


「ドーラン工房では、スラム街の探索にゴーレムを使うという噂がある!」

「それはまた……まぁ、ドーラン工房のゴーレムの性能を考えれば、そのくらいはやってもおかしくないのかもしれないな」


 以前山の中で見たゴーレムと盗賊との戦い。

 それは一方的で……それこそ蹂躙と呼ぶに相応しいものだった。

 そのゴーレムはドーラン工房のゴーレムではなかった以上、スラム街の探索に使われるゴーレムは間違いなくもっと高性能なゴーレムだろう。

 それこそ、レイがドーラン工房で戦ったイルナラ達が作ったゴーレム以上の性能を持っているのは間違いない。

 そんな風に考えつつ、ネブラの瞳でロープを切り……他の者達からも話を聞くのだった。

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