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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2762/3865

2762話

「へぇ……ここが風雪のアジトか。何だか最近地下室に縁があるな」


 ニナとの交渉は取りあえず無事妥結し、レイは現在風雪のアジトにいた。

 アジトとはいえ、カモフラージュ用の廃屋ではなく、きちんとその地下に用意された本物のアジト。

 前回来た時はここには入らなかったのだが、今回は話が別だ。

 だからこそ、レイはここにいる間に周囲の状況を物珍しそうに眺めていた。

 それはレイだけではなく、他の者達にしても同様だ。

 今ここにいるのは、暗殺者ギルドについては殆ど何も知らないような者達ばかりなのだ。

 それだけに、こうして自分の目でしっかりと暗殺者ギルドを……そのアジトを見るような機会など、そうあることではない。

 だからこそ暗殺者ギルドという存在に恐怖を覚えつつも、どこか興味深そうにしているのだろう。


「それにしても、地下にアジトがあるというのは分かっていたけど……よくここまで巨大な地下空間を用意出来たな」


 地下街……とまでは言わないが地下に巨大な屋敷が一つ埋まっているかのような、そんな巨大なアジトを見ながら、レイが呟く。

 とてもではないが、このような場所を簡単に作れるとは思えない。

 暗殺者ギルドの中でも最大規模の風雪なら、そのような真似も可能なのかもしれないが、当然そのような真似をすれば周囲に目立つ。

 ここに風雪のアジトがあると、そう周囲に知らしめるには十分な程に。


「ゴーレム産業が盛んだということは、特殊なゴーレムを用意するのも難しい話ではないのですよ」


 案内役のニナが、レイの呟きを聞き取るとそう告げてくる。

 そして特殊なゴーレムという言葉に反応したのは、当然ながらレイ……ではなく、錬金術師のイルナラ達だ。

 ゴーレムに関しては自分達が専門家といった認識がある以上、そのような判断になるのはおかしな話ではないのだろう。


「ゴーレムを……? そうなると、掘削用のゴーレムですか。しかし、そのような特殊なゴーレムは……」

「それに、掘削するとなれば当然周囲にも音は響きます。隠してこのような空間を用意するのは、まず不可能かと」

「ですよね。あ、でもほら。以前どこだったかな……ゴーレムの発生させる駆動音を小さくするって装置を開発した工房があったじゃないですか、それを思えば……」

「いや、それはあくまでもゴーレムの駆動音だろ? なら、地中の掘削にはそこまで効果はないと思う」


 そんな会話が後ろからしてくる。

 先程までは若干及び腰といった様子でもあったのだが、ゴーレムの話題が出た瞬間にこうなったのだ。

 とはいえ、職人に近い性質を持つ者達だと考えれば、そのようなことになってもおかしな話ではないのだろう。


「このアジト……風雪以外の者達で、来たことがあるのは実は俺達だけとか、そういうことはないよな?」

「ありませんね。風雪に依頼をする人々を招待することも珍しくないですし。それに……これは言ってもいいのかどうか微妙なところですが、私達に保護を求めてくるという者もいない訳ではないのです」

「なるほど。俺と同じようなことを考える者は、少なからずいる訳か」

「そうなりますね。ただ、レイ様の場合とは多少接触してくる理由が違いますが」


 そう言い、意味ありげな笑みを艶然と浮かべるニナ。

 それは風雪という自分達の組織に対し、強い自信があるからこその笑みだった。

 暗殺者ギルドという、表舞台に出るようなことはない組織。

 しかし、その組織の者にしてみれば、そのような組織だからこそ自ら所属する組織に誇りを持つということなのだろう。


「護衛……というか、匿うといった手段も行う暗殺者ギルドか。それはちょっと暗殺者ギルドとしてはどうなんだ? と思わないでもないが。……風雪の規模を思えば、そこまで不思議な話でもないか」

「そう言って貰えると、こちらとしても嬉しいですね。……さぁ、そろそろ客室に到着しますよ。暫くの間はここで暮らして貰うことになるので、色々と注意する必要もあるかもしれませんが、その辺は受け入れて下さいね」


 最初の台詞はレイに、そして続いての台詞は他の面々……具体的には匿われる面々に向かって、そう言う。

 ニナの美貌に目を奪われていた者達は、半ば呆然とだが、そんなニナの言葉に頷く。


「奴隷の首輪の方は、もう少し時間が必要だと思います。色々と忙しい人なので」

「だろうな」


 忙しいというのが、具体的にどのような意味を持つのかは、正直なところレイにも分からない。

 しかし、普通は奴隷の首輪というのはそう簡単に外せるような代物ではないのだ。

 それくらいはレイにも十分なくらいに理解出来た。

 だからといって、ここでそれを言っても意味はない。

 勿論、風雪にしてみればレイという存在を敵視したいとは思わない。思わないが、だからといってレイの要望に全て従うといったような真似が出来る筈もない。

 もしそのような真似をしたとすれば、それこそ風雪としては勝てるかどうかは別として、レイに戦いを挑む……もしくは縁を切るといったような真似をするだろう。

 ただでさえ血の刃の一件でレイによっていいように使われたと思っている暗殺者もいるのだ。

 結果として血の刃というライバル、それも街中で堂々と襲撃をするといったような相手ということで快く思っていなかった暗殺者ギルドを潰せたのだから、そういう意味では決して悪い結果ではなかった。

 結果ではなかったものの、それでもレイにいいように使われたというのは決して面白くない出来事だったのだ。


(実際、すれ違った者の何人かは俺に苛立ち交じりの視線を向けてきていたしな)


 この地下にあるアジトを移動している途中、当然ながら途中で何人かとすれ違っている。

 この場にいる以上、当然のようにすれ違った相手というのは風雪に所属する暗殺者であり、だからこそレイに向かって苛立ちや不満の視線を向ける者もいた。

 それでもレイと戦えば決して勝てないという実力差は分かっているので、直接的な行動に出て来るような者はいなかったが。

 とはいえ、そのような者達にしてみればレイが連れてきたアンヌやイルナラ達はレイの知り合いというだけで気にくわない相手だと判断する者が出て来てもおかしくはない。

 そんな中で、レイがこのアジトから離れた場合、一体どうなるか。

 風雪はエグジニスで最大規模の暗殺者ギルドであるという意識があり、暗殺者としてプライドを持っている者も多い。

 しかし人数が多くなれば、当然ながらその中には性格的に問題が出て来るような者もいる。

 そのような者達がアンヌやイルナラ達に何らかのちょっかいを出すといった可能性は決して否定出来るものではなかった。

 もし下手にちょっかいを出した場合、それこそ風雪とレイの関係は致命的なものとなり、最悪風雪が壊滅するといった未来も存在するのだが……そこまで考えが及ばない者も多いのだろう。


「ニナ、一応言っておくけど預けている連中に妙なちょっかいを掛けるような奴がいた場合……」

「はい、そのような者がいた場合は、こちらで対処します」


 レイが思いつくようなことは、当然ながら既にニナも理解していたのだろう。

 最後まで言わせず、ニナはそう言い切る。


「そうか。なら、任せる」


 ニナが断言したことで、レイはその件については任せても大丈夫だろうと判断し、それ以上は何も言わない。

 ニナが決めた以上、もしアンヌやイルナラ達にちょっかいを出そうとしようものなら、その者には最悪の未来が待っていると理解出来た為だ。


「ええ、お任せ下さい。……さて、到着しましたよ」


 レイとの話が一段落したところで、ニナがそう告げる。

 ニナが案内したのは、幾つもの部屋が並んでいる区画。


「部屋は三人で一つを使って下さい。本来ならもう少しのんびりと出来る筈だったのですが、この人数となると……」


 ニナのその言葉に、レイは改めて自分の連れて来た人数を見る。

 それを見れば、三人で一部屋というニナの言葉も否定は出来ない。

 いや、寧ろその程度で済んだのは運がよかったと言ってもいいだろう。

 もし現在他に匿われているような者がいた場合、一部屋に三人どころか四人、五人……もしかしたらもっと多数といったようなことになっていた可能性も否定は出来ないのだから。


「構いませんよ。匿って貰うのですから、これくらいは。他にも私に何かお手伝い出来ることがあれば、協力させて貰います。一応、孤児院で働いていたので、家事全般は得意です。料理の類とかは……」

「申し訳ないけど、料理は専門の者が作ってるから」


 ニナの言葉に残念そうなアンヌだったが、これはある意味で当然のことでもあった。

 何しろ、食事というのは毒を混ぜるのに最適なのだから。

 ここが孤児院ならアンヌに手伝って貰うといった選択肢もあったかもしれないが、生憎とここは暗殺者ギルドだ。

 本当に信用出来る者でなければ、食事を任せるといった真似は出来ない。

 とはいえ、レイが連れてきたアンヌにそれだけを言って何もさせないのは少し不味い。

 また、料理以外で手が足りないことがあるのもまた事実である以上……


「洗濯と掃除とか、そういうのは頼むかもしれないけど、構わないかしら?」

「あ、はい! 問題ありません! そっちも得意です!」


 本来なら、洗濯であっても服に毒針を仕込んだり、掃除も風雪のアジトを調べるという意味ではそれなりに危険を伴うのは間違いない。

 だがそれでも料理よりはまだ安全度が高い。


「そう。じゃあ、他にも協力してくれる人達がいるなら、歓迎するわよ?」





 そうニナが笑みを浮かべて告げると、女の何人かが自分でも出来ることがあるのならと、そして男も結構な数がニナの美貌に誘われて参加を決める。

 錬金術師の中にも、同じように思う者がいたのか何人かがそちらに向かおうとするものの、そちらはイルナラが止める。

 イルナラにしてみれば、錬金術師が風雪に協力するということに迷いを抱いていたのだろう。

 それこそ、もし約束の期日がすぎた場合は自分達の知識を渡すといったようなことになる可能性も否定は出来ない。

 だからこそ、今から万が一の時に備え、風雪に渡してもいい技術をしっかりと考えておく必要があった。

 そういう意味でも、錬金術師達を雑用に派遣する訳にはいかない。


「それで……これからレイ様には風雪の頭領と会って貰いたいのですが、構いませんか?」

「今からか? 随分といきなりだな」

「レイ様が来られたのが、いきなりでしたので」


 そう言われてしまえば、レイも迂闊に反論するような真似は出来ない。

 実際、殆ど成り行きで現在の状況になっているのは事実なのだから。

 当初……それこそドーラン工房に忍び込んだ時は、ドーラン工房にいる錬金術師から情報を聞き出し、人を素材にしているという証言や証拠を得てから、アンヌを助けて脱出するつもりだった。

 だというのに、実際にドーラン工房に侵入してみれば、そこでは非主流派の錬金術師がいて、奴隷もアンヌ以外に多数おり、そして何よりも人を素材にしているのかと思っていたところ、実は人の魂を使うといったような手段を行っていた。

 これはレイにとっても完全に予想外のことで、それらが積み重なった結果として、当初の予定通りにことを運ぶのは完全に不可能になってしまう。

 その結果が、現在の状況だった。

 臨機応変と言えば聞こえはいいが、実際には行き当たりばったりという表現の方が正しいだろう。

 だからこそ、レイとしてはニナの言葉に驚きつつも納得してしまう。


「分かった。なら会おう。会うのは俺だけでいいよな? 他の連中は普段そこまで激しい運動をしないから、今夜の一件でかなり疲れている。出来れば休ませてやりたいんだが」


 レイにとっては今夜の出来事はそこまで疲れるようなものではない。

 しかし、それ以外……奴隷となっていた者達やイルナラを始めとした錬金術師達にしてみれば、ドーラン工房からスラム街まで走り続け、スラム街に入ってからも速度は遅くなったがそれでも歩き続け……といった状況だったのだ。

 それも時間的には既に真夜中になっており、普段であれば寝ていてもおかしくはないだろう、そんな時間に。

 レイは冒険者として夜中に活動することも多かったものの、一般人にとって体力的にかなり厳しいのも事実。


(いやまぁ、錬金術師なら徹夜とか慣れてるのかもしれないけど)


 レイの中にあるイメージとして、錬金術師というのはやはりギルムにいるような者達という認識が強い。

 それだけに……いや、だからこそか、自分の趣味の為なら徹夜は平気といった印象がある。

 そんな風に思われているとは知らず。イルナラはレイの言葉に助かったといった表情を浮かべるのだった。

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[気になる点] レイの名前が、アランになってます。
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