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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2747/3865

2747話

「ふぅ、取りあえずこれで終わりか」


 床に倒れた警備兵達を見て、レイは呟く。

 本来なら、この警備兵達もドーラン工房に雇われ……しかも主流派しか使っていない区画の警備を任されていただけに、腕利きだったのは間違いないのだろう。

 だが、例え腕利きであってもそれはあくまでもエグジニスの中では腕利きというだけだ。

 実力もないのにコネで警備兵をしていた者に比べれば随分とマシなのは事実だが、腕利きの冒険者の集まるギルムで活動し、異名持ちのランクA冒険者となったレイにしてみれば、そこまで警戒すべき相手でもない。

 勿論殺すのではなく気絶させるだけに留めるといったことが大変だったのは間違いのない事実ではあるが。

 それでもレイなら少し苦労した程度ですんだのは幸運なのだろう。


「うわぁ……嘘でしょ……」


 今の一瞬で起きた出来事に、リンディがそんな呟きを漏らす。

 リンディにしてみれば、今回の一件はアンヌとゴライアスを助け出すのが目的であり、そんな二人が恐らくここにいるだろうということで、やる気に満ちていた。

 それこそ、少し気を付けなければ突っ込んでもおかしくないくらいに。 

それだけアンヌやゴライアスのことが心配だから、仕方がないのだろうが。

 そんなリンディであっても、現在目の前で起きた出来事は驚くことしか出来なかったのだ。

 今の状況を思えば、少しでも早く敵のいる場所に向かってもおかしくはない、リンディが。


「取りあえずこの連中はどこかに隠しておいた方がいいな。この辺に使ってない部屋とか、そういうのはないか?」

「あ、えっと。ちょっと待って欲しい。こっちの方にあったと思うんだが」


 イルナラは、目の前で見た光景に唖然としながらも、何とかこの辺りについてのうろ覚えの知識からそう告げる。

 以前……まだ、非主流派となる前に、この辺りに来たことは何度かあった。

 その時からあまり変わっていないとすれば、この近くには幾つか部屋がある筈。

 そう思いながら、イルナラはレイに部屋のある場所を教える。


「別にそこまで驚くことはないんじゃないか? 俺はお前達のゴーレムを倒したんだぞ? それを思えば、警備兵を纏めて倒すのはどうということはないと思うんだがな」


 レイの言葉は間違いなく事実ではあるものの、それでもゴーレムと警備兵では戦うべき相手としては色々と違う。

 勿論、警備兵達と自分達の作ったゴーレムが戦えば、ゴーレムの方が強いと思う。

 それくらいの自負はあるし、客観的に考えてもそのようになるのは間違いなかった。

 だが……それでも、やはりゴーレムと警備兵では違うのだ。

 イルナラはそれを分かっているだけに、驚いたのだろう。

 とはいえ、今はそんなことよりも早く行動する方がいいと判断し、頭を切り替える。

 こうして明らかに強引な真似をしてしまった以上、もうゆっくりとしているような時間などはないのだから。

 だからこそ、今は少しでも早く行動を起こす必要があった。

 ドーラン工房を立て直す。

 それはレイに言われたことであり、正直なところその言葉が自分を動かす為のもので、レイが本気で言ってる訳ではないというのは、イルナラにも十分理解出来ていた。

 しかし、その言葉を実行しない限り、ドーラン工房はこのまま潰れてしまう可能性が高い。

 それも商売が下手だったり、技術力が低くて潰れるといったような理由ではなく、人の道を外れた外道として、あってはならない存在といったように認識されてしまう可能性が高かった。

 ドーラン工房に憧れて錬金術師になったイルナラにとって、それは絶対に許容出来ないことだ。

 だからこそ、イルナラは現在の自分で出来ることを最大限やるつもりだった。


「この部屋だ。とはいえ、私がこの辺りの区画に近付かなくなってからそれなりに時間が経っている。その辺の事情を考えれば、今はもう何か別のことに使われている可能性も否定は出来ない」


 それでもいいかと、扉の前でレイに視線を向けてくるイルナラ。

 レイはここまで運んできた警備兵……ドーラン工房に雇われたのだろう冒険者達の気絶した様子を見ながら頷きを返す。


(扉の前でこうして話しているにも関わらず、部屋から誰か出て来る気配もないし、何より部屋の中には誰の気配もない。俺に察知出来ないくらい巧妙に気配を消すことが出来る奴がいる訳でもない限り、中にいる敵に襲撃されるという心配をしなくてもいいと思う)


 イルナラはかなり警戒している様子を見せていたものの、レイにしてみれば中に誰かが潜んでいるとは考えていない。

 レイはそのことを教えた方がいいのか? とも思ったのだが、今の様子を見る限りでは、特に何かを教えるといったような真似をしなくてもいいだろうと、そう判断する。

 警戒しないよりは、当然のように警戒する方がいいのは間違いないのだから。

 そして扉に手を伸ばし……やがて、一気に開ける。


「ふぅ」


 安堵した様子で息を吐くイルナラ。

 そんなイルナラの様子を見れば、部屋の中が特に何か怪しい場所ではないのは明らかだった。


「入ってくれ。どうやら倉庫のようだ」


 イルナラに続いて部屋に入る。

 部屋の広さは、レイがぱっと見たところでは十畳には若干足りないくらいの大きさ。

 ゴーレムの部品、もしくはそれ以外にも色々と収納する部屋としては、そこまでおかしくはない……普通の部屋だろう。


(いや、ゴーレムの大きさを考えれば、もしかしたら小さいのか?)


 ゴーレムには色々な大きさが存在する。

 それこそ五m以上の高さを持つゴーレムから、人間と同じくらいの大きさのゴーレムまで。

 とはいえ、当然ながら小さいゴーレムというのは大きいゴーレムに比べて作る難易度が高いし、その割には純粋な性能……特にゴーレムにとって重視される力の類に関しては、どうしても大きなゴーレムに劣る。

 そういう意味では、ゴーレムは大きな方が一般的だ。

 勿論大きければそれでいいという訳でもないのだが。

 大きなゴーレムが一般的である以上、そのゴーレムの予備部品の類も当然ながら大きくなる。

 分解して保存されているのだろうが、それでも大きなゴーレムの予備部品である以上、当然ながらその予備部品も大きくなる。


「さぁ、今のうちに警備兵はここに隠しておこう。そうすれば、暫くは時間が稼げる筈だ」


 イルナラの指示に従い、レイを含めた面々は警備兵達を倉庫の中に隠していく。

 当然ながら、警備兵達は目覚めてもすぐに行動出来ないように手足をしっかりとロープで縛られている。

 武器の類も置いておけば敵の利益になるだけだと判断し、ミスティリングに収納する。


(ゴーレムの予備部品が置かれている倉庫か。出来れば、これも持っていきたいんだけど……駄目だろうな)


 ここにあるゴーレムの予備部品が、具体的にどのような意味を持つのかはレイにも分からない。

 だが、それでもドーラン工房のゴーレムの部品となれば、それは間違いなく価値のある物だろう。

 レイにとってはそこまで重要な価値があるとは思えないが、それはあくまでもレイにとってはの話だ。

 とはいえ、ドーラン工房という工房を愛しているイルナラがいるこの状況では、盗賊からお宝を奪うようにここにあるゴーレムの部品を奪うといった訳にもいかないだろう。

 結局レイはゴーレムの部品については諦める。


(ロジャーにこの部品を見せれば、人を素材にしている件について少し何か調べることが出来たかもしれないんだが……まぁ、今はそっちよりもアンヌの件だな。それにこれから向かう場所には、もしかしたら……)


 人を素材にするといったような真似は、当然だが誰の目にも入るような場所で出来る筈もない。

 ましてや、レイの目から見てもイルナラは善良な性格をしている。

 そんなイルナラの目に付くところでそのような真似をしていれば、間違いなく大きな騒動となる。

 そうならないようにする為には、やはり別の場所でその作業をやる必要があり……そういう意味では、イルナラ達が入ることを禁じられている区画というのは、まさに最善の場所だった。

 とはいえ、今回最優先にするのは、あくまでもアンヌ。……それと可能であればゴライアスだ。


(とはいえ、カミラがエグジニスまで徒歩でやって来た日数を考えると……どうだろうな。そしてゴライアスがいたら、余計に最悪の未来しか見えない)


 出来ればゴライアスはドーラン工房によって連れ去られたのではなく、何らかの理由でエグジニスから出てどこか他の場所に行ってるだけであって欲しいと、そう思う。

 リンディにとっては可哀想だが、好きな女に会う為に出掛けているといったような理由であった方が、まだマシだろうと、そう思えるのだ。


「では、行こう。この先は私も何があるのかは分からない。そうである以上……いや、レイがいるのだから、心配する必要はないのかもしれないが」


 そんな風に言い、イルナラは緊張した様子でその区画に足を踏み入れる。

 錬金術師達はレイから色々と話を聞いていたのでこの区画に入った瞬間に何か起きるのではないかと思っていたのだが、幸いなことにこの区画の中に入っても特に何かが起きる様子はない。

 考えてみれば、この区画に入ってすぐに何かがある訳ではないのだが。

 とはいえ……それは、あくまでもイルナラ達錬金術師や、冒険者としてはそこまで突出した存在ではないリンディだけだ。

 レイだけは、違う。

 この区画に入った瞬間、何かを……そう、ナニカとでも表現すべきものを感じたのだ。

 それが具体的にどのようなものなのかは、レイにも分からない。

 だが、それを感じたのだけは否定しようのない事実であり、そう考えるとレイにとってはこの区画に何かがあるのは間違いないと思えた。


「レイ? どうしたの? そんなにピリピリとして」


 錬金術師達は気が付かなかったが、同じ冒険者のリンディはレイが何かを感じ、それに対して神経質になっているのに気が付いたのだろう。

 だが、レイの異変には気が付いても、レイが何故そのように感じているのかということまでは分からなかったらしい。

 不思議そうに尋ねるリンディに、イルナラを始めとした錬金術達も不思議そうな視線を向ける。


「何かがあるのは間違いない。それも、ちょっとやそっとじゃない何かだが。……多分、結界か何かでそれを遮ってたんだろうな」


 結界があったというのすら、レイは気が付かなかった。

 しかし、気が付かずとも結界の中に入るといったようなことは出来る。

 そして結界の中に入ったレイは、その中に存在する何かを感じたのだろう。

 レイの言葉に、イルナラは眉を顰める。

 出来れば、レイが感じた何かを気のせいだと言いたい。

 しかし、今のレイの様子を見て気のせいといったような言葉は、とてもではないが出て来ない。

 それはつまり、このドーラン工房で何かが……それもレイですら警戒するような何かが起きているということを意味していた。


「これは、人を素材にする云々って話じゃないかもしれないな。もっと別の何かが行われている可能性が高い」


 呟くレイは、冗談でも何でもなく真剣な様子だ。

 人を素材にするのも、当然大きなことではある。

 しかし、この区画に入って感じた何かは、とてもではないが単純に人を素材にして云々といったようには思えない。

 それ以上の何か。

 具体的にそれが何なのかは、まだレイにも分からない。

 ただ、ドーラン工房にはレイが予想していた以上の何かがあるのは、間違いないだろう。


(問題なのは、それが何かということか。……人を素材にするのを、その程度と表現したくなるような、何か。一体何が起きてる?)


 そんな疑問を感じつつ、ここからはレイが先頭になり、間にイルナラを含めた錬金術師達が、そして最後尾にはリンディとなる。

 レイとしては、出来れば最後尾にはもっと腕の立つ人物がいて欲しかったのだが、使える戦力が限られている以上、それは仕方ない。

 ゴーレムを移動させるように、通路は広い。

 それこそセトも十分に動き回るだけの広さであることを考えると、セトを連れて来た方がよかったのでは? と、思わないでもなかった。


(いや、今更そんなことを考えても意味はないか。それに、外で警戒する必要があるのも事実だし)


 そう思うレイだったが、それでもやはりセトという戦力がここにいれば頼もしいと、そう思えるのは間違いなかった。


「今はとにかく、この区画内を進む。イルナラには悪いが、何かあったら建物を破壊して外に出るぞ」


 レイの口から出た言葉に、イルナラは何かを言おうとするものの……レイの表情を見て、そのような真似をしなければならないのだと判断し、黙り込むのだった。

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