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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2742/3865

2742話

レジェンド16巻、発売しています。

この時勢、外にあまり出歩けないので、レジェンド16巻で少しでも楽しんで貰えると嬉しいです。


4万文字オーバーの追加エピソードもありますので、続刊に繋げる為にも是非とも応援よろしくお願いします。

 レイが暴れた結果、既に建物の中で動いているゴーレムの姿はなかった。

 その残骸を次から次にミスティリングに収納していくレイは、どこか満足そうな様子ですらあった。

 こうして自分を襲ってきたゴーレムを全て倒すといったような真似が出来たのは、レイにとって決して悪くないストレス解消だったのだろう。

 そんなレイの様子を、建物の隅でリンディは唖然としながら見ていた。

 レイが強いというのは深紅の異名を持つということや、流れてきた噂で十分に知っていた。

 また、山で盗賊と戦った時も、その強さの片鱗を見ている。

 ……実際には、盗賊との戦いで見せたのは本当に片鱗でしかなく、レイの本気の一割も出していないと、ゴーレムとの戦いでそう理解してしまったのだが。

 ゴーレムとの戦いも、レイが全力を出した訳ではないだろうというのは十分に理解出来た。

 とにかく、今の状況を考えるとレイの実力はリンディから見た場合、とてもではないが実際にどれだけのものなのかというのが、理解出来ない。

 それだけ、現在のリンディとレイの間には絶対的な実力差があるのだ。


(ゴライアスさんの件も含めて、レイに協力をお願いしたのは正解だったわね)


 しみじみといった様子で、リンディは自分の判断に満足する。

 もしリンディがレイに助けて貰っていない場合、とてもではないがこのようなゴーレムの群れを自分だけで倒せるとは思えなかった。

 いや、それ以前にドーラン工房に辿り着けたのかも疑問だろう。

 カミラからアンヌの件を聞いても、それでどうにか出来たのかと言われれば、微妙なところだった。

 ブルダンに戻るといったような真似をしても、実際にそこでガービーを相手に何か出来たのかと言われれば、リンディとしては首を横に振るしかない。

 リンディは自分が冒険者としてはそれなりの技量を持っているのは知っている。

 しかし、それはあくまでもそれなり程度でしかないのも、また事実だった。


「リンディ、ゴーレムの片付けも終わったし、そろそろ行くぞ」


 そんなリンディに、レイが声を掛ける。

 勿論ゴーレムの片付けが終わったと言っても、それはあくまでも大きな部品に限っての話だ。

 もっと細かいゴーレムの破片は、まだ床に多数落ちている。

 本来なら、それらも収納した方がいいのだろう。

 どの部品にどんな技術が詰まっているのか、分からないのだから。

 しかし、ゴーレム十匹近くが集まって動き回れるような、そんな広い建物の中だ。

 当然のようにそこにある部品を全て拾おうなどと考えるような真似をすれば、その時間は幾らあっても足りない。

 ましてや、今のレイ達はあくまでもドーラン工房に忍び込んだ身だ。……完全に見つかっている以上、忍び込んだというよりも殴り込んだという表現の方が正しいのだろうが。

 それでも今はここで無駄に時間を使いたくないと、そう思うのは当然の話だった。

 そして、リンディもそれはまた同様だ。

 今は少しでも早く動いて、なるべく早くアンヌを助けたいのだから。

 とはいえ……


「でも、どうするの? ここを見る限り、私達は完全に閉じ込められてるわよ?」


 リンディは建物の中を見ながら、そう告げる。

 扉は閉まっており、ゴーレムが入ってきたと思しき場所も、今は閉じられているのが分かる。

 そうである以上、今この状況でどうするのかとリンディが疑問に思うのも当然の話だった。

 しかし、そんなリンディの疑問に対し、レイは特に気にした様子もなく、建物の壁に視線を向ける。

 そこにあるのは、特に何の変哲もない普通の壁。

 敢えて特徴を挙げるとすれば、この空間の中でゴーレムが暴れて、何らかの理由で壁にゴーレムの攻撃がぶつかっても壊れるようなことはないくらい、頑丈な壁だといったところか。


「外から見た感じだと、あっちの方に他の建物があった。そうなると、多分あの壁の向こうには何らかの部屋が……もしくは通路がある可能性がある」


 建物に入る前に、レイはその辺についてもきちんと確認してあった。

 とはいえ、入ってすぐの場所がこのようになっているとは、とてもではないが思えなかったが。


(いや。そもそもこの建物に俺達が入ってきたのは偶然に等しい。壁を越えるというのは他の連中にも普通に出来るだろうけど、どこの壁を越えてくるのかというのは、それこそ人によって違う。俺とリンディは偶然あの壁を跳び越えてきたけど……そうなると、ここにいたゴーレムって、実は俺達を待ち構えていた訳じゃなくて偶然ここにいたのか?)


 可能性としては十分に有り得ると思いながらも、レイ達が入った途端に扉が閉まり、更には扉に鍵が掛かり、明かりが幾つも点灯するといったことを考えれば、偶然とは思えない。

 そうなると、レイがウォーターゴーレムと戦っている間にこの巨大な部屋にゴーレムを集めたのかとも思ったが、それはそれで疑問が残る。


「ともあれ、この向こうに何らかの建物があるのは間違いない。なら……後は、この壁を壊して無理矢理にでも進めばいいだけだ」


 そう言い、デスサイズと黄昏の槍を手にして、壁に向かって進む。

 リンディはそんなレイの後ろを進むが、どこか呆れの表情を浮かべながら、レイの背に向かった声を掛ける。


「普通なら、こういう時は頭を使って謎を解いて扉の鍵を開けるとか、そういう風にするんじゃないの?」

「普通ならそうかもな。けど、幸い……いや、この場合幸いって表現が正しいのかどうかは分からないが、俺には力押しでこの場をどうにかする手札が揃っている。まぁ、あの壁が俺の攻撃にも耐えられるような頑丈さを持っていれば話は別だが……それはないだろうな」

「何でそんなことが分かるの?」

「ゴーレムと戦っている時に、黄昏の槍を投擲しただろ? ゴーレム数匹を破壊して威力が弱まったにも関わらず、壁を破壊した。つまり、それなりに頑丈ではあっても防御力が万全って訳じゃない証だろ」


 レイの言葉に、リンディはなるほどと納得する。

 それでもスマートな解決方法ではないと言いたげなリンディに対し、レイは再び口を開く。


「それに、知恵を絞ってどうにかするって方法もない訳じゃないだろうけど、そんな風になった場合、この部屋から脱出するのに時間がかかるけど、それでもいいのか?」

「それは……」


 少しでも早くアンヌを助けたいリンディにしてみれば、レイのその言葉に対し、とてもではないが否とは言えない。


「そんな訳で、行くぞ。……少し離れていてくれ。壁を破壊するから、それに巻き込まれないようにな」


 壁の近くでデスサイズを構えると、レイはリンディに向かってそう告げる。

 リンディはそんなレイの言葉に頷き、少し離れた。

 レイの実力を思えば、その程度の事は出来ると信じての行動だった。

 そうしてリンディが離れたのを確認してから、レイはデスサイズを握る手に力を込め……


「はぁっ!」


 鋭い叫びと共に、デスサイズが振るわれる。

 壁は全く何の抵抗もなく、デスサイズの刃によって斬り裂かれ……ズズ、とそんな音と共に壁が切断され、そして床に落ちていった。


「……」


 リンディは声も出せないくらいに驚き、唖然とした様子で斬り裂かれた壁に……そして壁の向こうに存在する部屋に驚く。

 レイならやれるとは思っていた。

 ゴーレムとの戦いでレイの実力を改めて目の当たりにし、それを思えばそのような真似は容易に出来ると思っていた。

 思っていたのだが、それでも実際に目の前で壁を切断したところを見れば、驚くのは当然だった。


(ましてや……)


 床に転がっている壁の厚さは、二メートル近くもある。

 レイが斬ったのを自分の目で見ていたが、それでもその岩の塊が壁とは、少し信じられないくらいだった。


「へぇ、やっぱりいたか」


 リンディが壁の残骸に目を奪われていたところで、不意にレイがそんなことを呟く。

 一体何が? と疑問に思ったリンディだったが、レイの視線を追ったところでどういう意味か理解し……一瞬前までの唖然とした感情は消え、怒りがその身に満ちあふれる。

 壁の向こう側で何が起きたのか分からず、呆然としている数人の男女を見て。

 当然ながら、このような場所にいた以上、ドーラン工房に所属する者であるのは間違いない。

 ましてや、レイがゴーレムと戦ったすぐ隣――分厚い壁があったが――にいたのだから、先程の戦いでレイが倒したゴーレムと無関係とも思えない。


「あんた達ぃっ!」


 レイが改めて何かを言うよりも前に、リンディは長剣を構えて一気に走る。

 レイの切断した壁の穴から、向こう側の部屋に向かって飛び込んでいくその様子は、本来のリンディが持つ実力以上の速度だっただろう。

 しかし、それも当然の話ではあった。

 何しろ姿を現した錬金術師達は、アンヌを奴隷として送るようにガービーに要請し、またこちらは確実ではないものの、ゴライアスが行方不明になっている件にも関わっている筈だった。

 自分の大事な者達に危害を加えた錬金術師達を前に、リンディは長剣を振るおうとし……


「リンディ、止めろ!」


 その長剣が振り下ろされようとした瞬間、レイの口から鋭い言葉が発せられた。

 もし叫んだのが他の……その辺の冒険者であれば、リンディは無視して長剣を振るい、何人かの錬金術師を殺していただろう。

 あるいは殺すまではいかなくても、重傷を負わせていたのは間違いない。

 だが……今こうして叫んだのは、レイなのだ。

 叫んだ声に含まれた鋭さは、怒り狂ったリンディの攻撃を止めるには十分なものだった。




「ひっ!」


 四十代程の男……今にもリンディの長剣が振るわれそうだった標的の男の口から、そんな小さな悲鳴が漏れる。


「ふぅ……ふぅ……ありがとう、レイ。頭に血が上っていたわ」


 怒りに満ちた気分を落ち着かせるように大きく息を吐きながら、長剣の柄を握り締めていた手の力を抜くリンディ。

 そんなレイの隣にやって来たリンディは、助かったと安堵している男に……そして周囲にいる者達に向け、笑みを浮かべて一瞥する。

 ドラゴンローブのフードを被っているのでレイの顔は隠れているのだが、その口元は錬金術師達にしっかりと見えていた。

 レイの浮かべた笑みに、何か不吉なものを感じたのだろう。

 慌てて何人かが部屋から逃げようとするが……


「ぎゃあっ!」

「痛ぁっ!」


 そのような者達は、数歩も歩かないうちに床に倒れ込み、痛みに悲鳴を上げる。

 足……太股の裏やふくらはぎ、足首の後ろ……そんな場所には、鏃のような物が突き刺さっていた。

 魔力を流すだけで鏃を作ることが出来るマジックアイテム、ネブラの瞳。

 それを使って、逃げようとした者達は足を攻撃されたのだ。


「逃げるな」


 短い一言。

 しかし、その一言はその場にいた全員の耳にしっかりと入り、とてもではないが今のレイの言葉を聞いて逃げるといったような真似は出来なかった。


「さて、ちょうどいい情報源も入手した。それなりに人数がいるし、一人や二人は減っても構わないだろ」


 それは、情報を話さない場合は何人か殺すといった宣言。

 今、レイは躊躇なく逃げ出そうした者達を攻撃した。

 そうである以上、人数を減らしてもいいというのは、決して脅しの類ではないだろう。

 実際に殺す場合、最初に狙われるのは間違いなく逃げ出そうとしてレイに攻撃された者達になる筈だった。


「な……何が狙いだ……?」


 最初にリンディに長剣を振り下ろされそうになった男が、恐る恐るといった様子でレイに尋ねる。

 自分を殺そうとしたリンディを止めてくれただけに、多少なりとも会話の余地があると判断したのだろう。

 ある意味それは間違っていない。間違っていないが……レイがリンディを止めたのは、人を殺すことを嫌っているという訳ではなく、単純に情報収集する相手が減るのは不利益になると、そう考えたからでしかない。


「何が狙い、か。それは狙われる心当たりが幾つもあるってことでいいんだな?」


 尋ねるレイに、しかし男は沈黙を返すだけだ、

 へぇ、と。レイはそんな男の態度に笑みを浮かべる。


「この状況で沈黙を保つということは……現在の状況をあまり理解出来ていないみたいだな」


 デスサイズの切っ先を突きつける。

 レイにとっては、セトとは違う意味で相棒と呼んでもいいデスサイズだが、何も知らない者にしてみれば、不吉な大鎌でしかない。

 その切っ先を突きつけられた男……いや、その男だけではなく他の者もデスサイズの巨大な刃を前にしては、沈黙することが出来ない。


「どうしても俺の質問に答えないのなら、少し喉の通りをよくしてやる必要があるだろうな。丁度デスサイズもあるし」


 このまま沈黙を続けるのなら、喉を斬り裂く。

 暗にそう告げるレイに、錬金術師達は降伏するしかなかった。

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