2741話
レジェンド16巻、発売しています。
この時勢、外にあまり出歩けないので、レジェンド16巻で少しでも楽しんで貰えると嬉しいです。
4万文字オーバーの追加エピソードもありますので、続刊に繋げる為にも是非とも応援よろしくお願いします。
レイがまず真っ先に向かったのは、ストーンゴーレム。
身体が岩で出来ているゴーレムだけに、重量もある。
それはつまり、動く速度という点では決して素早くないということを意味していた。
リンディはレイの邪魔にならないように、建物の隅へと避難していた。
出来れば、レイとしては建物から出て欲しいのだが、扉は閉まっており、開く様子はない。
あるいはリンディが本気で攻撃をすれば、扉を壊して外にでるといったような真似もできるのかもしれないが……侵入者の二人を、ここまで用意周到に待ち受けていた者達だ。
そうである以上、扉が破壊されるといったようなことを考えていない筈がない。
もし扉を破壊して外に出ても、別のゴーレムが待ち受けている可能性が高かった。
考えすぎか? と思わないでもなかったが、こうして待ち受けていたのを考えると、そのくらいはやるだろう。
「っと!」
リンディの方に意識を向けていたレイだったが、そんなレイに向かってストーンゴーレムは拳を振るう。
その一撃を回避し、デスサイズを振るう。
魔力を流されたデスサイズは、あっさりとその腕を切断したものの……
「違うな」
手首で切断された腕が地面に落ちるのを回避しつつ、レイは呟く。
それは、デスサイズを振るった時の感触。
正確には、ストーンゴーレムの腕を切断した時の感触と言ってもいい。
そんな一撃は、レイにとって違和感のある一撃だった。
全体的に抵抗が大きい。そう感じたのだ。
勿論、切断した相手は岩だ。
それもただの岩ではなく、ゴーレムの素材として厳選されており、錬金術師によって手を加えられているのは間違いない。
そうである以上、普通の岩とは違うのは間違いないが……それだけではないと、そうレイには思えた。
(人を素材にしているからか?)
そう、それこそがドーラン工房のゴーレムの特徴。
人を素材にすることで、具体的にどのような効果があるのかはレイにも分からない。
しかし、こうして実際に戦ってみたところでは、それが影響していると考えるのは当然だった。
少なくても、ストーンゴーレムは普通の個体よりも明らかに強いし……
「知能も高いってか!」
そう叫びながら、背後から迫ってきた金属の紐に繋がれた腕の攻撃を、跳躍することで回避する。
(いわゆる、ロケットパンチか?)
空中で身体を捻りながら、自分に向かって攻撃してきた相手を確認する。
当然の話ではあったが、ゴーレムと一対一で戦うといったようなことは、向こうも考えていなかったのだろう。
最初にストーンゴーレムがレイに向かって攻撃をしてきたのは、単純にレイが自分に近付いてきたからか。
そうしてレイとストーンゴーレムだけの戦いと思わせておきながら、他のゴーレムもレイに向かって攻撃をする。
賢い……と、そう言っても決して間違いではない。
実際にもしここにいるのがリンディだけであれば、ゴーレム達の罠に引っ掛かっていた可能性が高い。
しかし、現在ゴーレムと戦っているのは、リンディではなくレイだ。
背後から攻撃をしてきたゴーレムの動きを察知するといった真似は、容易に出来る。
(けど、本当に色々なゴーレムがいるな)
空中に跳躍するというのは、本来なら愚行でしかない。
空中では身体を動かすといった程度の動きしか出来ず、普通に攻撃をされた場合はまず回避が不可能だからだ。
事実、少し離れた場所にいるゴーレムは、右掌が開くと、そこから槍を射出してレイを狙う。
本来ならそんな攻撃を回避するといった真似は不可能だろう。
だが……それは、あくまでも普通ならの話だ。
スレイプニルの靴を発動し、空中を蹴る。
そのまま何度も連続して空中でスレイプニルの靴を発動することにより、狭い場所でゴムまりやピンポンボールを思い切り投げたかのようにランダムで空中を蹴りながら槍を回避し……その槍を放ったゴーレムへと間合いを詰め、デスサイズで首を切断しようとした瞬間……
(は?)
ゴーレムが手で顔を庇うような真似をしたのを見て、レイは一瞬疑問を抱く。
今のゴーレムのその行動は、まるで人が反射的に自分の顔を庇うかのような、そんな様子に思えた為だ。
勿論、いざという時にそのように動くように設定されている可能性があってもおかしくはない。
おかしくはないのだが、疑問を抱いたのはレイだからだ。
他の者も今のゴーレムの様子を見て、同じように思ったのかどうかは微妙なところだろう。
(人を素材にしてるから、人っぽい動きを出来るようにしたのか?)
そんな風に思いつつも、レイは攻撃を止めない。
顔を庇った手をデスサイズで切断し、左手で持っている黄昏の槍による突きで頭部を砕く。
ゴーレムの核が一体どこにあるのかはレイにも分からない。
ウォーターゴーレムのように外見が半透明になっているのなら、その辺も確認は出来るのだろうが……今、こうしてレイが攻撃をしているのは、あくまでも普通の素材を使って作られたゴーレムでしかない。
だからこそ、頭部を破壊しただけで動きを止めたゴーレムを見て、レイはそこに核があったのかと、意表を突かれる。
てっきり心臓の部分に核があったのだろうと、そのように思っていたからだ。
とはいえ、早々に一匹目のゴーレムを倒すことが出来たというのは、レイにとって悪い話ではない。
この広い空間の中に、まだ複数存在するゴーレム。
それらのゴーレムと戦うということを考えれば、ここは出来るだけ素早く数を減らしていくのを優先させた方がいいと、そう判断したからだ。
「次ぃっ!」
頭部が破壊され、動きが止まったゴーレムの身体を蹴り、近くにいる別のゴーレム……先程ロケットパンチを飛ばしてきたゴーレムとの間合いを詰める。
ロケットパンチというのは相手の意表を突くには便利な攻撃方法だが、当然ながら一度放ってしまえばそれを手元に巻き戻すまで手としては使えない。
そして現状においては、まだロケットパンチを放ったゴーレムは腕を完全に手元に戻すといったような真似は出来ておらず、レイにしてみれば、そんな敵を狙うには絶好の好機だった。
「パワースラッシュ!」
スキルを発動し、ロケットパンチを放ったゴーレムの胴体をデスサイズで斬り裂く。
一撃の威力が極端に上がるパワースラッシュは、現在レベル五。
レベル四までは、威力が極端に強いものの、その反動で下手をすればデスサイズを握る手……正確には手首に影響が出てもおかしくはなかったのだが、レベルが五になったことにより、他のスキルと同様、一気にパワースラッシュは強化された。
具体的には、一撃の威力が高まったものの、その反動は全く存在しなくなるというような使い勝手のいいスキルと変わっていた。
そうして放たれたパワースラッシュは、全高七m程もあるようなゴーレムの身体をあっさりと砕く。……そう、吹き飛ばすといった訳ではなく、砕いたのだ。
その威力が一体どれだけ強力だったのかは、今の一撃の結果を見れば明らかだろう。
「次! うおっ!」
次のゴーレムを狙おうしたレイだったが、そんなレイに向かって別のゴーレムが殴り掛かってきた。
その一撃を床に着地した瞬間にそこを蹴って回避しつつ、デスサイズを振るう。
魔力が込められているせいか、デスサイズの刃はあっさりとその腕を切断する。
それこそ切断された部分だけで、レイの身長よりも大きな部位が空中を回転しながら飛んでいく光景は、離れた場所からそれを見ているリンディに、どこか現実感を抱かせない。
しかし、そんな現実感の有無は関係ないとばかりに、レイは次の行動に移る。
腕を切断されたゴーレムは、突然そのようなことになった為かバランスを崩しているように見えた。
そうして隙を見せた相手を、レイが見逃す筈でもない。
「くたばれ!」
左手に持つ黄昏の槍を投擲する。
魔力の込められた槍はそのまま真っ直ぐゴーレムの胸を貫き……その威力は、胸だけではなく上半身をも破壊した。
ゴーレムの核が具体的にどこにあるのかは、レイにも分からなかったが、それでも上半身にあったのは間違いないのだろう。
その核が消失したことにより、動くことが出来なくなって床に倒れる。
それも、黄昏の槍が倒したゴーレムは一匹だけではない。
上半身が砕かれたゴーレムの背後にいた別のゴーレムの上半身を砕き、更にその背後にいた別のゴーレムをも破壊することに成功する。
もっとも、さすがに威力が落ちたのか、三匹目のゴーレムは前の二匹のように上半身を完全に破壊するといったような真似は出来なかったが。
その上で、更にこの広い空間の壁を破壊してどこか遠くに向かったところで、黄昏の槍を手元に戻す。
どこにあっても、その気になればいつでも手元に戻すことが出来るというその能力は、レイにとって非常に使いやすいものだった。
「さて、結構数が減ってきたな。ドーラン工房がどういうつもりでここにゴーレムを集めたのかは分からないが……試験運用の為ってことなら、意味がなかったな!」
何しろ、まだレイとろくに戦いもせずに、二匹のゴーレムが撃破されてしまったのだ。
錬金術師達が悔しがっているだろうと思いつつ、泥水のゴーレムによる一撃を回避する。
水系の身体を持つゴーレムということでは、建物の外にいたウォーターゴーレムと同様ではあったのだが、その身体が普通の水で出来ているのか、泥水で出来ているのかというのは、大きな違いだ。
だが、その違いは大きい。
ウォーターゴーレムは透明な水だったので、核がどこにあるのかがすぐに理解出来た。
しかし泥水である以上、身体の中は濁っており、具体的にどこに核があるのかといったようなことを見つけることは出来なかった。
「というか、足場が邪魔だな!」
倒されたゴーレムは、当然だがそのまま床に横たわっている。
この建物の中はかなりの広さなので、それでもまだ動くのに余裕はあるが……だがそれでも、移動する上でゴーレムの残骸が邪魔になるのは間違いのない事実だった。
このままでは、いずれより面倒なことになる。
また、ドーラン工房のゴーレムである以上、後でロジャーに渡すなり、あるいは何か他のことに使うなりといったことを考えても、取りあえず入手しておくのは悪い話ではない。
そう判断し、レイは泥水のゴーレムや他のゴーレムの攻撃を回避しながらも、床にあるゴーレムの残骸に触れてはミスティリングに収納していく。
(錬金術師達は、多分何らかの手段でここの様子を見ている筈だ。さて、自分達の製造したゴーレムを壊され、そして残骸までも奪われるということになれば……一体どう思うんだろうな)
錬金術師というのは、自分の作品には強い興味を持っている者が多い。
そのような状況の中、こうして自分で製造したゴーレムの残骸をレイに奪われるというのは、決して許容出来るようなことではないだろう。
……正直なところ、レイとしては人を素材としているようなゴーレムというのは、ミスティリングの中とはいえ、あまり入れたくないのだが。
とはいえ、今は好き嫌いでどうにかなるような状況ではない。
次々とゴーレムをミスティリングに収納していき、やがて足場に困らない程度には動き回れるようになる。
ゴーレムはこの状況を一体どう判断してるのだろう? ふとそんなことを思ったレイだったが、ゴーレムの状況判断能力はそれなりに高いらしく、床に転がっていたゴーレムの残骸が姿を消しても、特に混乱するようなことはなかった。
(妙に状況判断能力が高いな。ゴーレムは全てこんな感じなのか? それとも、ドーラン工房のゴーレムだけがそんな感じなのか……まぁ、後でロジャーにでも聞いてみればいいか)
そんな風に考えながら、レイは自分に向かって振り下ろされた長剣の一撃を回避する。
長剣とはいえ、それはあくまでも形状としては長剣といったものでしかなく、全高七メートル近いゴーレムが持っている長剣は、長剣と呼んでもいいのかどどうか微妙なところだろう。
少なくても、その武器を振り下ろされたレイにしてみれば、長剣というよりは巨大な打突武器といったような印象の方が強い。
「鈍いんだよ!」
ゴーレムが振り下ろした長剣の一撃は、レイが回避すると床を破壊してその動きが止まる。
レイであれば、デスサイズや槍でその一撃を回避するような真似も、やろうと思えば出来ただろう。
だが、今の状況でわざわざそのような真似をせずとも、回避するだけでいいと判断し……そしてレイは、今の一撃で隙を作ったゴーレムに向かって襲い掛かるのだった。