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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2735/3865

2735話

レジェンド16巻、いよいよ発売です。

正確な発売日は明日なのですが、どうやら早いところではもう既に書店に並んでいるところもあるようで。

この時勢、外にあまり出歩けないので、レジェンド16巻で少しでも楽しんで貰えると嬉しいです。


4万文字オーバーの追加エピーソドもありますので、続刊に繋げる為にも是非とも応援よろしくお願いします。

「見えてきたな」


 セトに乗って空を飛び、視線の先にエグジニスが見えてきたので安堵しながらそう呟く。

 何だかんだと、ブルダンに日帰りで行ったこともあり、既に夕方近い時間になっている。

 最後にガービーの自白した内容を書いた紙を渡すと、院長は真剣な表情で頷いていたのがレイには印象的だった。

 そんな状況である以上、出来れば今日中にリンディに会ってアンヌの件を伝え、今夜にはドーラン工房に忍び込みたいと、そう考える。

 幸いなことに、敵のいる場所……いや、ドーラン工房の工房がどこにあるのかは分かっている。

 とはいえ、この場合の問題はその工房で人を素材にするといった作業をしているのかどうかなのだが。

 ドーラン工房の者達にしても、自分達のやっているのが人に知られると危険だというのは十分に分かっているだろう。

 であれば、ここで分かりやすい場所でそのような作業をするのか? と言われれば、それを疑問に思ってしまうのは当然の話だった。

 とはいえ、そのような作業をする場所が隠されているとして、具体的にどうやって見つけるかとなると……時間を掛ければともかく、アンヌの件を考えると出来るだけ早い方がいいのは間違いない。


(ぶっつけ本番か。……まぁ、俺にとっては珍しいことじゃないけどな。臨機応変に事態に対処する……と表現すれば、それっぽいか?)


 幾ら言葉を飾り立てても、結局行き当たりばったりであるのは変わらないのだが、それでも言葉を言い換えれば多少はそれらしく聞こえる。

 半ば無理矢理自分を納得させていると、やがてセトが背中に乗っているレイに視線を向けてくる。


「グルルルゥ?」


 地上に降りてもいいの? と、そう尋ねるセトに対し、レイはそれで問題ないと頷いて首を撫でる。


「ああ、降りてくれ。ギルムじゃあるまいし、このまま街中に降りるなんてことは出来ない……というか、多分結界の類はあるだろうし。場合によっては、何らかの手段で迎撃されてもおかしくはないしな」


 エグジニスはゴーレム産業が盛んである以上、当然ながらそこには何かあった場合に対空攻撃用のゴーレムの類があってもおかしくはない。


(この世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界の筈なんだが、こうして見る限りだと、実はSF要素もあるのかもしれないな。まぁ、ゴーレムだからやっぱりファンタジーと表現するのが正解なんだろうけど)


 地上が近付いて来るのを眺めつつ、レイはそんなことを考える。

 セトが地上に着地すると、周囲にいた者達の多くが驚いた様子を見せるが、幸いなことにセトを寄越せといったように言ってくる者や、もしくはセトを見て驚いたからその落とし前を付けろといったような者はいなかった。

 いや、あるいはもう少し時間があればそのような者もいたのかもしれないが、それよりも前に門の近くにいた警備兵がやって来てレイを確保したので、その隙はなかったというのが正しいか。

 警備兵にしてみれば、レイは前回手続きを終えて街中に入ったかと思えば、暗殺者に襲われるといったようなことになったのだ。

 そう考えると、やはりとてもではないが手放しでレイの手続きを終えるといったような真似は出来なかったらしい。

 警備兵として、仕事をしているのかといったように他の者から言われるといったこともあっただろうし……何より、レイがエグジニスに入ってすぐに暗殺者の襲撃があったということはそれを行った暗殺者ギルド……血の刃と繋がっている者がいてもおかしくはないのだから。

 というか、レイとしてはまず間違いなく血の刃と繋がっている者がいると確信していた。

 具体的にそれが誰なのかと言われればちょっと分からないが。

 また、一応可能性としては警備兵に血の刃と繋がっている者がおらず、単純に門の見える場所で暗殺者が待機しており、レイが戻ってきたら即座に行動に移れるようにしていた……といった可能性もあるにはあるが、可能性としてはやはり低いだろう。

 レイが血の刃による襲撃を受けたのは、レイがギルムから戻ってきてからだ。

 エグジニスを出ていったレイがいつまたエグジニスに戻ってくるのかといった情報は、それこそ知っている者はレイを含めて本当に少数だ。


(今日は特に何も起きないし、今更その辺を心配しても意味はないだろうけどな)


 レイは手続きを終えてエグジニスの中に入ると、一応暗殺者がいないかどうかを確認しつつ、街中を歩く。

 とはいえ、暗殺者というのは基本的に自分の殺気を感じさせずに相手を殺すといった手法を採る者が多い。

 そういう意味では、メイドに変装して襲ってきた相手や、スラム街で正面から戦いを挑んで来た相手は例外なのだろう。


「さて、そうなるとまずはリンディ達と合流する必要があるんだが……どこに行けばいいんだ?」


 今更ながらに待ち合わせの場所を決めてなかったことを思い出し、レイはこれからどこに行くべきかを迷う。

 ギルドに行こうかとも思ったのだが、今はもう夕方だ。

 当然ながら、ギルドには依頼を終えた冒険者達が集まってきている筈で、そのような場所にリンディがいるとは思えない。

 いや、リンディだけであれば冒険者であるし、パーティを組んでいる以上、何らかの理由でギルドにいてもおかしくはない。

 ただ、今のリンディはカミラと行動を共にしている。

 レイから見ても勝ち気というか……生意気な子供に見えるカミラだけに、仕事が終わったばかりで疲れ、気が荒くなっている者が多いだろうギルドに行くとは思えなかった。

 これでリンディが高ランク冒険者であれば、カミラが何らかの問題を起こしても一人でどうにか出来るのだろうが、生憎とリンディにそこまでの強さはない。

 リンディもそれを知っている以上、今のギルドにカミラを連れていこうとは思わない筈だった。


(となると、やっぱり一番可能性が高いのはリンディの宿屋か? あそこなら一応自分の部屋ってことで、カミラがいても問題はないだろうし。……騒ぎすぎれば、話は別だけど)


 カミラが来た時、その泣き声がうるさいと言ってきた客のことを思い出し、そう考える。

 とはいえ、そこが一番可能性が高い以上、リンディの宿に行かないという選択肢はなかった。






「あ、レイ!? もう戻ってきたの!?」


 宿の中に入る……のではなく、宿の外にリンディとカミラの姿があった。

 そんな二人の様子に疑問を抱きつつ、取りあえずレイはミスティリングの中から院長や職員達に渡された手紙を取り出し、リンディに渡す。


「ああ、セトの飛行速度もだし、予想していたより早く話が進んだからな。それよりこれ、孤児院の院長とか、他の大人達からの手紙」


 院長の名前を出した瞬間、カミラはビクリとする。

 レイもリンディも、そんなカミラの様子を見つつ、特に何かを言うような真似はしない。

 一人でエグジニスまでやって来た一件は、間違いなく叱られる用件だからというのは容易に想像出来る為だ。

 もっともカミラがいなければ、アンヌの件も分からなかったのだ。

 そう考えれば、カミラの行動は決して悪いものではない。……無謀としか言いようがないのは事実だったが。

 一応、レイもブルダンを出る前に院長に対し、カミラをあまり怒らないで欲しいとは言ってきたが、それを言ったところで院長は笑みを浮かべて躾は大事ですのでと、そう返しただけだった。

 レイも、院長のその言葉の意味は理解出来る。

 今回は偶然……本当に偶然にもこうして無事にエグジニスに到着したものの、普通に考えればエグジニスに到着する前に死んでいた筈だった。

 それを思えば、二度とカミラがこのような真似をしないように説教をすると考えてもおかしくはない。

 レイにしてみれば、カミラの性格を考えれば、また同じような真似をするだろうと、そう思っていたのだが。


「リンディの部屋……いや、うるさくなりそうだし、情報を集める必要もあるから、俺の部屋で話をするか?」


 レイの泊まっている星の川亭は、高級宿だけだって防音設備もしっかりとしている。

 部屋の中で騒いでも、そこまで問題にはならない筈だ。

 少なくても、リンディの泊まっている安宿の部屋で騒ぐよりは問題がないのは明らかだった。

 レイの言葉にリンディの表情が厳しく引き締める。

 具体的にどうこうと言ってる訳ではないのだが、部屋の中で騒ぐとなれば、それが意味するところを考えるのは難しくない。

 奴隷にされたアンヌの身に何かあったのだろうというのは容易に予想出来た。

 それでもここでそれを言わなかったのは、それを言えばカミラが暴走するのではないかと、そう思ったからだろう。

 リンディが知ってる限り、カミラはかなりアンヌに懐いていた。

 だからこそ、その辺りについて話すことは出来なかった。

 ……同様に、レイもまたアンヌの件の詳細を話せばリンディが暴走するのではないかと、そのように思っていたのだが。

 ともあれ、リンディやカミラもレイの宿に行くというのに異論はないらしく、素直に頷くのだった。






「うわぁ……凄いね、ここ」


 星の川亭にあるレイの部屋に入ると、カミラは驚きと共にそう呟く。

 部屋の広さそのものはそこまで広くはなく、調度品の類も質はともかく、種類は一般的な物だ。

 しかし、見ている者に対する迫力は圧倒的なものだった。

 リンディは二回目だし、最初に来た時がレイが暗殺者に襲われたというのを聞いた時だったので、そこまで緊張はしていない。

 カミラもまた、子供だからかそこまで緊張した様子を見せてはいなかった。


「ああ、値段に見合った宿なのは間違いない。……さて、まずはどうする? 最初に手紙を読んでから俺の話を聞くか、それとも俺の話を聞いてから手紙を読むか。リンディの好きな方を選んでくれ」

「じゃあ、レイの話からお願い。レイは直接アンヌさんの件について調べてきたんでしょ? なら、やっぱりまずはレイから話を聞いた方がいいと思うから」


 リンディの言葉にレイは頷く。

 レイとしては、正直なところどちらでもいい。

 リンディがそう決めたのなら……と、ミスティリングから果実水を取り出すと、リンディとカミラに渡し、自分の分も用意する。

 そうして三人がソファに座ったところで、レイは口を開く。


「まず最初に結論から言う。……言っておくが、暴走するなよ」


 念を押すようにリンディにそう告げ、そんなレイの言葉の意味をリンディが理解しようとしたところで、レイは言葉を続ける。


「ガービーから聞き出したところによると、アンヌは奴隷として売られたのは間違いないが、奴隷商に売られた訳じゃない。とある特定の組織からアンヌを奴隷にして売って欲しいと頼まれて、その結果がこれだ。つまり、アンヌは奴隷商人を通さず直接その組織に売られた訳だ」

「直接……? 何でアンヌさんを? いえ、アンヌさんは可愛いから、そういう意味で欲しいと思う人は多いでしょうけど」


 リンディもそれなりに顔立ちは整っている方だ。

 エグジニスに来て冒険者として活動していれば、自分が男からどのような目で見られているのかというのは、容易に想像出来る。

 ブルダンにいた頃から、そのようなことはあったかもしれないが……ブルダンとエグジニスでは、そこに住む者の数が違う。

 そんな訳で、リンディは自分よりも可愛いと……そして優しく女らしいアンヌが男にとってはどう見えるのかというのは、何となく理解していた。

 だが、だからといって奴隷にするのはやりすぎだと不満も抱く。

 不満も抱いていたのだが……そんなリンディの不満は、次の瞬間にレイの口から出た言葉で頭の中から消える。


「ちなみに、ガービーにそのように依頼したのは、ドーラン工房だ」

「っ!?」

「落ち着け!」


 反射的に立ち上がろうとしたリンディに対し、鋭く叫ぶレイ。

 もしここでリンディを落ち着かせることが出来なければ、それこそ今すぐにでもリンディはドーラン工房に向かって突っ込んでいくと、そう判断したためだ。

 そして事実、レイのそのような対応は正しかった。

 もしここでリンディを止めることが出来ていなければ、レイの懸念通り、力の差も考えずドーラン工房に向かって突っ込んでいったのだから。

 とはいえ、それも無理はない。

 ただでさえリンディはドーラン工房によってゴライアスという想い人を連れ去られているのだ。

 ……実際には盗賊の件はともかく、ゴライアスの件にドーラン工房が関わっているというのは状況証拠でしかないのだが。

 しかし、リンディの中では既にそれが覆しようのない事実となっていたのも事実。

 結果として、リンディは焦燥を露わにしてしまうのは当然のことだったのだろう。


「とにかく落ち着け。アンヌの件でドーラン工房の名前が出たんだ。俺もそのままにしてはおけないから、今日お前と一緒にドーラン工房に忍び込むから」


 そんなレイの言葉に、ようやくリンディは少し落ち着きを取り戻すのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エピーソドじゃなくてエピソードじゃないですか?
[一言] リンディは毎回「暴走するなよ」と予め釘を刺されてるのに暴走しだして止められるとかどんだけ短期短慮なんだろ、よく未だ無事に冒険者してられるなぁ。
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