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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2721/3865

2721話

 人の素材を使うことによって、ゴーレムの性能は上がるか。

 そう尋ねられたロジャーは、深く考え込む。

 ロジャーにしてみれば、人をゴーレムの素材として使うといったことは考えたことがなかったのだろう。

 突き抜けている性格のロジャーだが、それでも最低限のモラルは守っていた。

 ……初めて見たセトの素材を手に入れる為に、街中で自分の護衛にセトを襲わせるといったような真似をしても、そのモラルには引っ掛からなかったらしいが。

 ともあれ、ロジャーは深く、深く、深く、深く考え込む。

 ゴーレムに対しては素人でしかないレイとリンディの二人は、そんなロジャーの考えを邪魔しないように、何か会話をすることもなく黙り込む。

 レイは現状でも分かっていないことが多く、そちらについて考えている。

 リンディは、レイから聞かされた話……もしかしたらゴライアスもゴーレムの素材として使われているかもしれないといったことについて考えていた。

 ゴライアスがゴーレムの素材として使われているなど、何かの間違いであって欲しいと。

 盗賊の消失とゴライアスの行方不明は、一緒の事件であって欲しいとリンディは思っていた。

 そうなれば、盗賊の消失を追っているレイが自然とその一件について調べてくれるだろうと思っていたのだから。

 だが、今の話を聞いて、とてもではないがそのように思うことは出来なくなってしまった。

 何しろ、もしレイの予想が当たっていた場合、ゴライアスがどうなっているのかは容易に想像出来るのだから。

 勿論、リンディの考えすぎということもある。

 具体的には、人間を素材として使っている可能性が高いとはいえ、別にそれが取り返しの付かない部位ではないという可能性も。

 リンディが予想しているのは、手足や内臓の一部、眼球がなくなっているような光景だった。

 この辺は、リンディが冒険者でモンスターの死体から素材の剥ぎ取りもそれなりに経験しているから、というのが大きいだろう。

 そうして二人が黙り込んでいるところで……やがてロジャーが口を開く。


「考えが纏まった」

「なら、説明を頼む。人を素材として使った場合、ゴーレムは性能は上がるのか。もっと具体的には、ドーラン工房で製造されているゴーレムと同等の性能を有するのか」


 レイの言葉に、リンディがロジャーに縋るような視線を向ける。

 出来ればレイの言葉を否定して欲しい。

 そんな思いを込められた視線を向けられたロジャーは、その視線を感じながらも口を開く。


「レイの言葉を真似る訳ではないが、これはあくまでも仮定に仮定を重ねたものだ。あくまでも私が知っているゴーレムの知識の上で、という話なのを前提にしてくれ」


 そう言い、レイとリンディが頷くのを見てからロジャーは説明を始める。


「まず最初に、少なくても私が知ってる技術では人間の素材を使ってもゴーレムを強化は出来ない。いや、正確には若干は通常の素材よりも効率的にゴーレムを動かすことが出来るかもしれないが、それはあくまでも若干だ。人を素材にするといったような、見つかれば言い訳のしようのない危険を冒してまでやるようなことではない」


 はぁ、と。

 ロジャーの言葉を聞いたリンディが、安堵する。

 ゴライアスは、やはり盗賊の消失と関係がなかった。

 いや、盗賊の消失と関係があっても、捕まってゴーレムの素材となるようにはされていない。

 そう思ったのだろう。

 しかし、そんなリンディの期待を砕くかのようにロジャーが言葉を続ける。


「だが、もしドーラン工房が私の知らない技術を持っており、それを使えば人の素材でゴーレムの性能を上げるといったことは十分に可能かもしれない」


 そんなロジャーの言葉に、安堵したリンディは、すぐにその表情を変える。

 もしロジャーの言葉が正しいのなら、ゴライアスがゴーレムの素材として使われる可能性もあった。

 特にゴライアスは、冒険者としても優秀な人材だった。

 具体的にロジャーの知らない技術というのがどのようなものなのかは、リンディにも分からない。

 しかし、リンディにとっては盗賊とゴライアスの身体、どちらの方が優れているのかと言われれば、当然ながらそれはゴライアスの身体となる。

 勿論、盗賊と一口に言っても、中には今まで何度も冒険者を倒してきた者もいるだろう。

 しかし、リンディはゴライアスであればそんな相手よりも強いだろうと、そう信じていた。


「ロジャーが知らない未知の技術。そういうのが本当にあるのか?」

「当然だろう。その技術があるからこそ、ドーラン工房は私よりも高性能のゴーレムを作れるのだから」


 そう告げるロジャーは、悔しげであり……それと同時に苛立ちを露わにしている。

 ロジャーにしてみれば、自分よりも高性能なゴーレムを作れる技術があるのだから、人を素材にするといったような外道な真似をするというのは許容出来ないのだろう。

 ……実際には、レイも言っていたようにドーラン工房が人を素材としているというのは、仮定の話なのだが。


「そうなると、結局のところロジャーにその辺を聞いても駄目だったか」

「それは聞き捨てならないな!」


 レイの言葉が不満だったのか、ロジャーはそう叫ぶ。

 そんなロジャーの叫び声を聞いて護衛が一瞬反応したものの、現在建物の中にいるのはレイ達だけなので、動くようなことはない。

 それだけ、ロジャーの叫びは家の中一杯に響き渡ったのだ。


「怒るなよ。別にロジャーを侮辱した訳じゃない。そもそも、もし本当にそういう技術があるのなら、錬金術師達が解析したりしている筈だろ? エグジニスにおいてゴーレム産業は大きい。そうである以上、錬金術師達も自分達の技術を少しでも上げようと考えている筈だ」

「それは否定しない。もっとも、実際にドーラン工房のゴーレムを入手した者は少ないが」

「……だろうな」


 レイも、ロジャーの言葉に対してはそう言わざるをえない。

 そもそもドーラン工房のゴーレムを購入する為に、ミレアーナ王国中から……いや、場合によっては周辺諸国からも人が集まってきているのだ。

 エグジニスの錬金術師達が購入するのは難しいし、ドーラン工房側でもその辺はチェックしている可能性が高い。

 他には運よくドーラン工房のゴーレムを購入出来た者から買い取るといった方法もあるが、そもそもがドーラン工房のゴーレムを購入する為にエグジニスまでやって来た相手……それも大半が貴族や大商人といった者達だ。

 そうである以上、そのような相手からそう簡単にゴーレムを購入は出来ないし、もし購入するにしてもとんでもない金額になる。

 あるいは自分の工房で製造したゴーレムと交換……といった手段を考える錬金術師もいるかもしれないが、そもそもエグジニスで一番性能の高いゴーレムがドーラン工房のゴーレムだ。

 そのゴーレムを購入した者にしてみれば、何故わざわざ性能の低いゴーレムと交換しないといけないのか、と思うのは当然だろう。

 その辺りの説明をロジャーがし、だが……と最後に付け加える。


「それでも入手方法は色々とある」


 具体的にそれがどのような入手方法なのかは、レイには分からない。

 分からないが、ロジャーが具体的な方法を言わないということは、完全に黒……という訳ではないのだろうが、それでも灰色といった方法なのだろう。

 その辺はレイにはあまり興味がない。

 いや、もし自分の知り合いに危害を加えられ、それが看過出来ないのなら話は別だが。

 今はとにかく、ドーラン工房のゴーレムについての情報が欲しかった。


「で? それでも結局はその技術を解析出来ていないんだろう? ゴーレムを入手しているというのはちょっと意外だったが……」

「ぐぬぅ」


 レイの言葉に唸り声を上げるロジャー。

 その様子からして、ロジャーの所属する工房でもドーラン工房のゴーレムを入手してるのは間違いないのだろうと、そう思えた。

 しかし、今の様子を見る限りではやはりその技術の解析は進んでいなかったのだろう。

 だが……と、ロジャーはレイに向かって口を開く。


「確かに私達はまだドーラン工房のゴーレムの技術を解析出来ていない。だが、人間を素材にしているというのを前提にして解析すれば、それも進む筈だ。……もっとも、本当に人間が素材として使われていればの話だが」


 自信満々といった様子のロジャー。

 何もない状態からどのような特殊な技術が使われているのかを調べるのは難しくても、その技術がどのようなものなのか分かっていれば、解析するのは難しくないということなのだろう。

 そういうものか? といった疑問をレイが抱く。

 何か怪しい部分があれば、そこを調べればいいだけなのでは? そうも思うのだが、生憎とレイはゴーレムについてそこまで詳しい訳ではない。

 人の素材を使ってゴーレムを作っている以上、メンテナンスや修理でその辺が見つかるのでは? といった思いもあったし、ロジャーもその言葉に同意していたように思うのだが。

 だが、ゴーレムというのはそういう物だと言われれば、納得するしかなかった。


「ねぇ、待って。ちょっと待って」


 レイとロジャーの会話に、リンディが割り込む。

 その目にあるのは、大きな不満と不安。


「何だかゴーレムを解析する流れになってるけど、ゴライアスさんの件はどうするのよ? ドーラン工房に囚われているのかもしれないのなら、それこそまずそっちをどうにかする必要があるでしょ」


 リンディにしてみれば、それは当然の言葉だった。

 そもそも、リンディがレイに協力するといったような真似をしているのは、あくまでもいなくなったゴライアスを見つける為というのが最大の目的なのだから。

 ここでゴライアスに繋がる……かもしれない手掛かりがあるというのに、それを調べないというのはリンディにとって我慢出来ることではなかったが。


「俺も、出来ればこのままドーラン工房を襲撃したいんだが、さすがに証拠が契約書一枚って事になると、どうしようもない」


 血の刃にレイを殺すようにと依頼した契約書はあるものの、それだって極論すれば偽造だといったように騒がれる可能性があるのは間違いない。

 何より、もしドーラン工房を襲撃しても、人を素材にしている証拠がそう簡単に見つかるとは思えないというのが大きかった。

 ゴーレムを製造している場所に、盗賊やゴライアスのように行方不明になった者がいれば、まだ話は分かりやすいだろう。

 しかし、さすがにそこまで分かりやすいような真似はしていない筈だった。

 もしドーラン工房に乗り込み、そこで手掛かりを探して何らかの手掛かりを見つけられればいい。

 だが見つけられない場合、レイの立場は最悪のものになってしまう。

 特に現在のエグジニスには、ドーラン工房のゴーレムを購入する為に多くの貴族や商人が集まっている。

 ドーラン工房を襲撃し、結局そこで何らかの証拠を見つけられなかった場合、レイはそのような相手を完全に敵に回してしまうだろう。

 いや、レイだけではなくギルムにいる仲間のエレーナ達や、レイを自分の懐刀として匂わせているダスカー、それ以外にも様々な者達に迷惑を掛けてしまう可能性があった。

 これがレイだけの問題であれば、最悪レイがミレアーナ王国を出て、どこか他の国にでも行けばいいのだが。

 今のレイはそんな真似は出来ない。


「落ち着け。ドーラン工房が盗賊の消失に関わっているってのは……そして人の素材を使ってゴーレムを作っているってのは、あくまでも予想で、仮定に仮定を重ねた結果でしかない。そうである以上、ドーラン工房を襲撃するなんて真似が出来ないのは分かるだろ? ……何らかの証拠があれば、また話は別なんだが」

「その契約書が、何よりの証拠じゃない」

「リンディの言いたい事は分かるけど、これだと証拠として弱いのは間違いないんだよな。それこそ、もっとしっかりとした証拠の類があればいいんだが」

「じゃあ、このまま黙って見逃すっていうの!?」


 部屋の中に響く、リンディの悲痛な叫び。

 リンディにとって、ドーラン工房は既に真っ黒な存在という認識だった。

 だからこそ、このままドーラン工房に向かう……それこそ攻め込むといったような真似をしても、問題ないと、そう思ったのだ。

 リンディのそんな気持ちは分かるし、それこそもしレイにとってもエレーナ達が同じようなことになっていれば、実行するしないは別としてもリンディと同じように考えてもおかしくはない。

 しかし、それでも……レイが寄ってきた孤児院が頼るべき相手だと知っていても、今のレイの状況でそのままドーラン工房に突っ込むといった真似は到底出来なかった。

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