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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2701/3865

2701話

現在、ラノベ人気投票『好きラノ』2020年下期が開催されています。

レジェンドの15巻も対象になっていますので、是非投票をよろしくお願いします。

投票締め切りは1月10日の24時となっています。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2020_07-12/

「ちょっといいですか?」


 大通りを歩いていたレイは、不意にそんな声を掛けられる。

 一体何だ? と疑問に思いつつ声を掛けてきた相手に視線を向けると、微妙に嫌な予感を覚える。

 何故なら、レイの視線の先にいたのはローブを身に纏った人物だった為だ。

 声からして、男。

 だが、目の前にいる人物が一体何の用件で自分に声を掛けてきたのかといったように思えば、それは決してレイにとって利益になるようなことでないのは明白だった。


「悪いけど、急いでるんだ。ここで無駄に時間を使っている暇はない。また今度にしてくれ」


 そう言い、声を掛けてきた男の前から立ち去ろうとするレイだったが、そんなレイに向かってローブの男は言葉を続ける。


「そんなに立派なマジックアイテムを着ているのに、そこまで急ぐ必要はないでしょう?」


 マジックアイテム……ドラゴンローブを着ているのと、ここで錬金術師の男の話を聞くのにどういう関係があるのかといったような疑問を抱くも、それを指摘してここで錬金術師に騒がれるといったような真似をされても面白くはない。

 もしここで錬金術師が騒いで、その結果として自分の存在を周囲に知らせるようなことになった場合、それは最悪の結果を招きかねない。

 こうして人の多い場所でレイだというのを知られれば、それこそ多くの者が集まってくるだろう。

 レイとしては、そのようなことは出来るだけ避けたいというのが正直なところだった。


(そうなると、少し話を聞いた方がいいか。その方が面倒がなくなるだろうし。それに、マリーナの仕事が終わるまではまだ少し時間がある。だとすれば、この錬金術師の話を聞くことによって、その暇潰しが出来ると考えれば、悪い話じゃない……と、思う)


 レイは半ば自分に言い聞かせるように納得し、錬金術師に話し掛ける。


「取りあえず詳しい話を聞くとしよう。ただ、こんな場所で聞くのも何だし、どこかゆっくり出来る店でいいよな? 勿論、そっちの奢りで」

「それで構いません」


 先程までは会話が通じるようで通じていなかったのだが、話を聞くと言った瞬間に話がしっかりと通じるようになった。

 もしかして、さっきのはわざとそんな風に言ったのか? と思わないでもなかったが、レイとしてはそんな風に言ってまた面倒なことになるのならと、取りあえず流す。

 そうして近くにある店に入ったのだが、その店は軽食を食べるような店で、もうすぐ夕方という時間帯もあって夕食前に軽く何かを食べようとしている者がそれなりにいた。

 レイにしてみれば、出来ればもう少し人の少ない店がよかったのだが……生憎と今の状況を思えばそれも仕方がないかと考える。

 果実水と軽く食べられるサンドイッチとスープのセットをレイは頼み、錬金術師は冷たい果実を幾つか頼む。

 そうして注文が終わったところで、錬金術師が口を開く。


「そのローブ、かなり高度なマジックアイテムですね?」

「そうだな。このドラゴンローブは隠蔽の効果もあるから、それを見破ったのは凄いと思うが」

「ドラゴンローブという名前からすると、ドラゴンの素材が使われているのですか?」

「そうなる。ドラゴンの革と鱗が使われている」

「それは、また……そのようなマジックアイテムを作れるとなると、相当腕の立つ錬金術師の仕事でしょう? 一体誰が作ったんです?」


 錬金術師の言葉に、レイは何と答えればいいのか迷う。

 実際にレイが着ているドラゴンローブを作ったのは、ゼパイル一門の錬金術師にして、歴史上最高の錬金術師とも言われているエスタ・ノールの作品だ。

 だが、そのような有名人なだけに、もしこの錬金術師にエスタ・ノールが作ったマジックアイテムだと言えば、間違いなく今よりも面倒なことになる。


「失礼します」


 レイが何と言うべきか迷っていると、店員が注文した料理を持ってやって来た。

 そうしてテーブルの上に注文された料理を置くと、そのまま去っていく。

 店の中にはそれなりに客がいるので、そちらに対処する必要もあるのだろう。

 レイにしてみれば、そうして一度話を切ってくれたのは非常に助かったが。


「これは師匠から貰ったマジックアイテムだから、誰が作ったのか、俺には分からないな。師匠もどこかの店で買ったって話だったし」


 取りあえずドラゴンローブの出所は、架空の師匠に丸投げする。

 実際には架空の師匠の存在が、アンデッドのグリムになっていたりすることも多いのだが、今はその辺については考えてないでおく。


「師匠が……そうですか。ギルムに来たばかりでこんな凄いマジックアイテムを持った人に出会ったので、もしかしたらそのマジックアイテムを作った錬金術師がギルムにいるのかと思ったのですが」


 そうして残念そうに呟く男の言葉に、レイは驚く。


「お前、ギルムの錬金術師じゃないのか?」

「え? あ、はい。ギルムでは錬金術師の数が幾らいても足りないということだったので。いわゆる引き抜きですね。もっとも、兄弟子達から疎まれていたので、僕としても丁度よかったですが」


 そんな言葉に、何となくドロドロとしたものを感じたレイだったが、それ以上突っ込むのは止めておく。


(樵とかもダスカー様はスカウトしてたしな。そう考えれば、錬金術師をスカウトするのも当然か)


 普通の仕事……肉体労働をする為の労働力なら、それこそ幾らでも集まってくる。

 だが、樵や錬金術師、それ以外にも専門職となると、話が違ってくる。

 勿論、その専門職でもギルムに来る者はいるだろうが。


「まぁ、ギルムは錬金術師にとって悪くない土地だ。そういう意味では、ギルムに来たのは正解だったと思うぞ。以前いた場所でなにがあったのかは分からないが」

「そうですね。辺境だからこそ入手出来る素材があるでしょうし、普通の素材に関しても他の場所で購入するよりは安く購入出来ると聞いています」


 この男も、錬金術師としてギルムに来るとういうことの意味をしっかりと理解していたのだろう。

 嬉しそうに、そして挑戦的な笑みを浮かべて、そう告げる。

 以前の工房では何か問題があってギルムにやって来ることになると言っていたものの、本人もギルムに来るのは望み通りだったのだろう。


「ギルムにいる錬金術師は、かなり癖の強い奴も多い。そういう意味では、かなり気をつけて行動した方がいいのは間違いないぞ」

「癖が強い、ですか?」

「ああ。自分の欲望に正直な、と言い換えてもいいな」


 レイが思い浮かべたのは、トレントの森で伐採した木を加工する施設にいる錬金術師達だ。

 そのような者達との付き合いがあるだけに、レイは余計にそのように思うのだろう。


「なるほど、興味深いですね。……ちなみに、貴方のマジックアイテムはどこで作ってるんですか?」

「いや、だからこれは師匠がどこかから買ってきた物で……」

「いえ、違います。勿論そのドラゴンローブでしたか。そちらについても興味深いのは間違いないですが、それ程のマジックアイテムを持っている以上、他にもマジックアイテムを持っているのでは?」


 錬金術師だからというのもあるだろうが、それ以上に人を見る目があるのだろうとレイは納得する。

 もっともドラゴンローブはともかく、スレイプニルの靴は外から見ればすぐに分かる。

 スレイプニルの靴も、それなりに高価で希少なマジックアイテムなのは間違いない。

 そのようなマジックアイテムを普通に使っている以上、他にもマジックアイテムを持っていると思われるのは当然のことだった。


「どうだろうな。ギルムで入手したのもあれば、他の場所で入手したのもある。そういう意味では色々な場所に行ってるから、何とも言えないというのが正直なところだ」


 レイの口から出たのは、嘘ではない。

 レイが持つマジックアイテムは結構な数になっているが、それは色々な場所で入手した物なのだから。


「そうですか。なら、僕も貴方が購入する気になるようなマジックアイテムを頑張って作りますね」

「そうなってくれれば、俺としては嬉しいな。ただ、出来れば実戦で使い物になるような、そんなマジックアイテムであれば俺としても助かる」


 レイの趣味として、飾り物くらいにしか使えないマジックアイテムであったり、それ以外にも効果は凄いが使うのに非常に厳しい条件がついてるようなマジックアイテムは、興味を惹かれない。

 勿論、それはあくまでもレイの趣味であり、場合によってはそのようなマジックアイテムを欲しがったり、集めている者もいるだろう。


「実戦で使い物になるとなると……武器の類ですか?」

「それもいいけど、個人的に武器はそれなりに間に合ってるんだよな」


 デスサイズと黄昏の槍があり、それ以外にも魔力で鏃を作り出すネブラの瞳もある。

 武器として使えるマジックアイテムという意味では、レイはもう十分に満足していた。

 もっとも、本当に何か突出した性能を持つマジックアイテムの武器があれば、それを欲する可能性は十分にあったが。


「武器ではない? 実戦に使える、というのが条件なんですよね?」

「分かりにくかったな。正確には、依頼を受けて行動している時に使えるといったようなマジックアイテムだ。特に街の外で活動するのに便利なマジックアイテムは大歓迎だな」

「具体的には、どういうのでしょう?」

「そうだな。例えばマジックアイテムの窯とかは料理とかに使えるから結構重宝してるな。他にもマジックテントとか」

「えっと……そういうマジックアイテムを持ち歩いてるんですか? ああ、もしかして簡易版のアイテムボックスを持ってるとか? ギルムのような辺境でなら、そういうのを使ってる人もそれなりにいるのかもしれませんね」

「あー……まぁ、そんな感じだ」


 正確には簡易版ではない、本当に希少な……それこそこの世に数個しか存在していない純正のアイテムボックスを持っているのだが、取りあえずそれは秘密にしておく。

 もしそれを言った場合、そこからレイの正体を知らせる可能性が十分にあった為だ。

 ドラゴンローブはそこまで有名ではないが、レイがアイテムボックスを持っているというのは、かなり有名な話なのだから。


「やはりギルムは素晴らしい。もっとも、他にも錬金術師向けの場所というのはあるのですけど、知ってます?」


 錬金術師向けと言われ、レイが最初に思いついたのは、やはり現在ゴーレムを購入する為に行動しているエグジニスだった。

 とはいえ、それを素直に言うの面倒なことになるような気がしたので、別の件を口にする。


「ベスティア帝国は国を挙げて錬金術師を育成しているという話を聞くな」

「ああ、それも聞きますね。でも、国に仕えるとなると、自分の好きな研究をしたりといったような真似は出来なさそうなんですよね。錬金術とかで使う素材には困ることはなさそうですが」

「その辺は人それぞれだろうな。ギルムでは自分の好きな研究とかを出来たりもするが、その研究に使う資金や生活費とかも、自分でどうにかする必要があるんだろうし」

「う……それは……」


 男にとって、レイの意見は痛いところだったのだろう。

 言葉に詰まった様子を見せる。

 とはいえ、レイにしてみれば自分の生活の為に稼ぐのは当然といった思いがある。

 それこそ、その辺りを全く気にせずに研究をしたいのなら、後援者やパトロンといった存在を見つける必要がある。

 ただし、当然ながらそのような者達も誰であっても資金援助をする訳にはいかないので、相応の成果を期待されるだろうが。


(そういう意味だと、ベスティア帝国の国で錬金術師をバックアップするってのは、悪くない制度なんだよな。……金の量がもの凄いことになりそうだけど)


 錬金術師が素材として使う中には、当然ながら高価な物も多数ある。

 それを国家単位で使うといったようなことになった場合、一体どれだけの金が必要となるのか。

 それこそ大国と呼ばれるベスティア帝国だからこそ、出来ることなのだろう。


「ギルムで資金援助をしてくれる人、知りませんか?」

「それを俺に聞かれてもな。俺はマジックアイテムを持ってはいるが、錬金術師でも何でもないぞ?」

「それでも、それだけのマジックアイテムを持っているということは、そのような相手にも伝手はあるのでは?」


 あるのかないかのかと言われれば、伝手はある。

 ただし、その伝手というのはダスカーだ。

 他にも何人か金持ちの知り合いはいるものの、錬金術師のパトロンになるのかと言われれば、レイとしては首を傾げざるをえない。


「後援者が欲しいのなら、まずはギルムで錬金術師として有名になるんだな。そうなれば、後援者になるといったような者が出て来てもおかしくはない」


 そう、レイは告げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この錬金術師はレイのドラゴンローブに気付けた時点で物凄い目利きだと思う、ギルドで木材加工に集まって(レイにたかって)いた錬金術師達の多くは気付けなかったと思う
[一言] 図々しいやつだな。
[良い点] 予想外にまともに近い人間性の錬金術師だったか。
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