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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2700/3865

2700話

現在、ラノベ人気投票『好きラノ』2020年下期が開催されています。

レジェンドの15巻も対象になっていますので、是非投票をよろしくお願いします。

投票締め切りは1月10日の24時となっています。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2020_07-12/

 レノラとの話は、そう長くは掛からなかった。

 正確には、レノラも仕事があるのであまりレイと長話をしているような余裕はなかった、というのが正しいのだろう。

 そうして、レイとの会話を終えると、レノラは去っていく。

 レイが本格的にギルムに戻ってきたのなら、もっときちんと色々な話をする必要があったのだろうが、今回レイが戻ってきたのは、あくまでもクリスタルドラゴンの素材を回収する為で、恐らく明日にはもうギルムを発つと言われれば、大雑把な話だけで終わるのも、レイには納得出来た。


(魔石の解析がまだ終わってないのは、残念だったけどな。いやまぁ、日数的にはしょうがないのかもしれないけど)


 レイがランクAモンスターの死体の解体をギルドに頼んでから……いや、昇格試験を終えて魔の森から帰ってきてから、実はまだそこまで時間は経過していない。

 昇格試験が終わってから怒濤のイベントラッシュだったので、レイとしては昇格試験が終わったのは、もう随分と前のような気がするのだが。

 本当に色々とあった……いや、エグジニスでの盗賊の消失やゴライアスの件を考えると、色々とあったのではなく、現在進行形で色々とあるというのが正しい。

 それだけに、今の状況においてしみじみと考えているのは、レイも疑問に思わないでもなかった。


「じゃあ、俺はこの辺で失礼するよ。クリスタルドラゴンの解体の方、よろしく頼む」

「おう、任せておけ。次は……そうだな、頭部の解体をそろそろやろうと思っているから、少し時間が掛かると思う。十日後くらいに来てくれ」

「……また、随分と時間が掛かるんだな」


 十日後というのは、レイにとっても予想外だった。

 しかし、親方はそんなレイの様子に事情を説明する。

 ドラゴンの素材はどれもが非常に希少ではあるが、その中でも頭部は大きな意味を持つ。

 さすがに魔石に比べれば劣るものの、それ以外の部分では最重要な部位の一つと言ってもいい。

 ましてや、クリスタルドラゴンは未知の存在だ。

 丁寧に解体する必要があり、それを考えれば時間が必要となるという説明にレイは納得する。

 元々、レイはクリスタルドラゴンの解体を急がせている訳ではない。

 そのような状況である以上、丁寧に解体するから時間が掛かるというのは、レイにとっても十分に許容出来る事だった。


「そんな訳で、頭部の解体はかなり丁寧に進める必要がある」

「理由は分かった。けど、なら何でクリスタルドラゴンの頭部をこれから解体するんだ?」

「まずは他の部位を解体して、クリスタルドラゴンが一体どのような感じなのかというのを、学ぶ必要があるからな」


 レイはモンスターの解体はそれなりに出来るものの、それはあくまでもそれなりだ。

 この世界に来た当初に比べると、明らかに技量が上がっているが、それでも親方を始めとする本職達と比べると、レイの解体技術は明らかに低い。

 それだけに、親方がそう言うのであればそういうものなのだろうと、判断する。


「そういうものか。なら、頑張って解体してくれ」

「おう、任せろ」

「取りあえず、これは置いていくから、疲れを癒やす宴会にでも使って欲しい」


 そう言い、レイはミスティリングの中から各種料理と酒を出していく。

 レイ自身は酒を美味いとは思わないものの、贈り物として喜ばれたり、度数によっては消毒薬にも使えるということで、ミスティリングの中にはそれなりに酒が入っている。

 そのうちの幾つかを出したのだが、そんな酒を見て親方は嬉しそうに……それこそ心の底から嬉しそうに笑う。


「おう、任せろ!」


 言葉そのものは数秒前に発したものと全く同じだったが、その言葉に含まれる熱量は、明らかに違う。

 何でだ? とレイは疑問に思う。

 別にレイが料理や酒を親方に渡すのは、これが初めてではない。

 また、ギルドからもこの倉庫に半ば閉じ込めるような形になっている以上、せめて不自由を感じさせないようにと、酒や食料は可能な限り満足して貰えるように渡していた。

 それでも親方がここまで喜んだのは……レイの出した酒の中に、親方が好んで飲む酒があった為だ。

 勿論そのようなことになったのは、半ば偶然でしかない。

 そもそも、レイが酒を出す時に選んだ酒は、適当に選んだ物が大半なのだから。

 だが、それが偶然であっても……いや、偶然だからこそ、親方は自分の好きな酒があることに喜び、クリスタルドラゴンの解体という仕事にやる気を見せた。


「おう、お前達! クリスタルドラゴンの解体をしっかりと丁寧に、それでいて出来るだけ早くやるぞ!」


 突然放たれた親方の言葉に、クリスタルドラゴンの解体をしていた者達は驚き……そして再び必死になってクリスタルドラゴンの解体を行うのだった。






 士気の上がった親方達を倉庫に残し、レイは外に出る。

 するとレイが来た時に倉庫を護衛していた冒険者が、驚きの表情を浮かべて口を開く。


「もう出て来たのか? てっきりもっと長い時間倉庫の中にいると思ったんだが」

「用事は終わらせたしな。そうなれば、もう俺がやるべきことは残ってないし。後は、親方達に任せるだけだよ」

「そう、か」


 冒険者の男が複雑な表情を浮かべたのは、クリスタルドラゴンの死体を前にして、こうもあっさりと倉庫から出てこられるというのが信じられなかったからだろう。

 冒険者の男はギルドの前に展示されたクリスタルドラゴンの死体を見たことがある。

 その時に見た衝撃は、恐らく一生忘れられないだろう。

 男もギルドからこの場の警備を任されてるだけあって、相応の実力を持つ高ランク冒険者だ。

 ギルムで活動する上で、多くのモンスターと戦ってきた経験も持つ。

 未知のモンスターを発見し、それをギルドに知らせたといったことも何度もあった。

 それでも、クリスタルドラゴンは存在の格そのものが違った。

 倉庫の中で解体を始めてからは見ていないが、解体されている状態のクリスタルドラゴンを見て

自分がどのように思うのかといったことを考えると……少し不安もある。

 あれだけ自分に圧倒的な衝撃を与えたクリスタルドラゴンが解体されている光景を見て、自分は本当に何も思わないのか、と。


「じゃあ、ここの警備は任せる。俺はそろそろ行くよ。次にここに来るのは十日くらいしてからになると思うから」

「え? あ、ああ。分かった。こちらはそれで問題ない」


 冒険者はレイの言葉で我に返り、そう言葉を返す。

 そんな冒険者に仲間が大丈夫か? といった視線を向けていたが、レイはそんな冒険者の様子を特に気にした風もなく、立ち去る。

 当然、ドラゴンローブのフードを被り、顔が見えないように注意してだ。


「さて、後は帰るだけだけど……今更だけど、どうしたもんだろうな」


 ギルドを出て、大通りを歩きながら困ったように呟く。

 マリーナの家から出る時は、エレーナの馬車に乗せて貰って無事に脱出出来た。

 だが、そんなエレーナも、現在は街中を見て回っているのか、あるいはもうマリーナの家に戻ったのか、それ以外に何かをしているのかは分からないが、とにかくここにはいない。

 そうなると、レイは一人で貴族街に入ってマリーナの家に戻ることになるのだが、そうなるとレイがエレーナの馬車に乗って移動する理由になったことが再び問題になる。

 即ち、ドラゴンローブの隠蔽機能で普通のローブにしか見えない物を着たレイが、一人で貴族街を歩いていれば悪い意味で目立つということを。

 そうなると、貴族街の見回りをしている者達に怪しまれるのは確実だ。

 ギルドに向かう為にマリーナの家から出る時は、帰ってくる時のことを全く考えていなかった。


(いっそ、このまま行けるところまで普通に進んで、誰かに呼び止められたら顔を見せて、そうなったら後は走ってマリーナの家まで行くか?)


 そう考えるも、大通りならともかく貴族街で走るといったような真似をした場合、間違いなく目立ってしまう。

 レイがレイであるというのを知られた以上、普通に歩いて移動していれば間違いなく誰かから話し掛けられるだろう。

 それはレイにも分かっていたが、それでも現在の状況を思えば仕方がないだろうとは思えた。


(となると、もっと別の……ああ、マリーナの家に帰るんだし、マリーナと一緒に移動すればいいのか。そうすれば、精霊魔法でどうにかしてくれるかもしれないし)


 精霊魔法でレイをレイと認識させないような真似が出来るのかどうかは、レイにも分からない。

 だが、マリーナ程の精霊魔法の使い手であれば、大抵のことは出来るだろうというのがレイの予想だった。

 実際に今までマリーナの精霊魔法の万能さを見てきているだけに、恐らく大丈夫だろうという楽観的な思いもある。

 そうしてレイはマリーナと会う為に診療所に向かう。

 とはいえ、レイだということが他の者に知られれば、間違いなく面倒なことになる。

 そうである以上、いつものように気軽に診療所を訪ねるといった訳にもいかない。


(とはいえ、マリーナの仕事が終わるのを待ってるってのもな。……怪我人がどれくらいいるか)


 当然の話だが、診療所におけるマリーナは非常に重要な人物だ。

 何しろ、ポーションや薬草を使わず、精霊魔法を使った回復魔法で瞬く間に怪我を治してしまうのだから。

 回復魔法は使える者もそう多くはなく、そもそも魔法使いが希少な存在だ。

 それだけに、診療所ではマリーナは非常に大きな戦力となっていた。

 増築工事において、レイがやっていた仕事の大半は他の冒険者でもどうにか出来るようになったものの、診療所だけはマリーナがいなければ今までと同じような怪我人の治療は不可能だろう。

 だからこそ、顔を隠したレイが診療所でマリーナに会いたいと言っても、それは怪しんでくれと、場合によっては警備兵に連絡されてもおかしくない。

 顔を見せればレイであると診療所で働いている者も納得するだろうが、そうなると、今度はレイという存在を見て驚き、場合によっては叫んでしまい、レイとクリスタルドラゴンの素材について交渉したいといった者が診療所に殺到してもおかしくはなかった。


(うーん、どうする? そうなると、診療所を訪ねないで外で待っていた方がいいのか? それはそれで怪しいけど)


 フードを被って顔が見えないようにしている人物が、診療所の前で待つ。

 普通に考えれば、それは明らかに怪しいだろう。

 そして診療所で働いている面々は、マリーナを抜きにしても多くの者が非常に貴重な人材だ。

 そのような人材に危害が加えられるかもしれないとなれば……それは、通報されてもおかしくはない。

 これがクリスタルドラゴンの死体を公開した時のように祭りの最中であれば、そこまで気にする者もいないだろう。

 だが、既に祭りは終わって数日が経っている。

 もう祭りの余韻を引きずっている者はいない。

 そんな中では、やはりフードで顔を隠しているレイが診療所の外で待っていれば、目立つ。

 ただでさえ、現在はまだ夏なのだ。

 既に秋に近い晩夏とはいえ、それでも日中の気温は三十度近いし、場合によってはそれ以上になる。

 だからこそ、そんな中でフードを被るといたような真似をしていれば、目立つのだ。

 簡易エアコン機能があるので、フードを被っても全く問題はないのだが、それが分かるのは実際にドラゴンローブを着ているレイだけで、周囲にいる者達はそれが分からない。


「とはいえ、それでもマリーナに頼むしかないのは事実なんだよな」


 トレントの森で働いているヴィヘラやビューネと接触出来れば、そちらに頼るといった選択肢もない訳ではない。

 だが、生憎とトレントの森で働いているだけに、ヴィヘラ達はいつギルムに戻ってくるのかは、分からないのだ。

 であれば、レイとしてはやはりヴィヘラよりもマリーナに頼る方がいいのは明白だった。


(取りあえず診療所に行って駄目なようなら、正門の近くでヴィヘラが戻ってくるのを待ってもいいかもしれないな)


 そう判断し、レイはマリーナの働いている診療所に向かう。

 多くの者が自分の仕事をしており、急いで道を歩いているが、中には今日が偶然休日であったり、もしくは仕事が早く終わって暇をしているような者達もいた。

 そのような者達の中の何人かは、冒険者として高い技量を持っていたり、錬金術師だったりすることもあり……レイの歩く様子から、その技量を見てとったり、あるいはレイの着ているドラゴンローブの隠蔽の効果を突破して非常に貴重なマジックアイテムであると認識する者もいた。

 それでも冒険者は面倒に関わり合いたくないということで、レイに話し掛けたりはしなかったが……錬金術師は、自分が興味を持つマジックアイテムを持っているレイに向かい、一歩踏み出すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2700話おめでとうございます。 マリーナに頼るのも一つの手だけど ダスカー様経由で連絡して貰うのも 一時避難的に選択肢にもなると思うかな?
[一言] 2700話おめでとうございます!
[一言] 2700話おめでとう㊗️ございます!
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