2695話
これが今年最後の更新となります。
今年も一年、レジェンドを読んでくれてありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
現在、ラノベ人気投票『好きラノ』2020年下期が開催されています。
レジェンドの15巻も対象になっていますので、是非投票をよろしくお願いします。
投票締め切りは1月10日の24時となっています。
URLは以下となります。
https://lightnovel.jp/best/2020_07-12/
盗賊は結局あっさりと警備兵に引き渡された。
その後、レイは手続きをして街中に入る。
警備兵に渡した盗賊は結局一人だけしかいなかった以上、レイが手に入れた金額は多くない。
もしレイが自分で奴隷商に会いに行って、盗賊を犯罪奴隷として売るといったような交渉をした場合は、もう少し高く売れただろう。
だが、レイとしてはその手間が面倒だった。
その為に、レイは警備兵に盗賊を売るといったような真似をしたのだ。
そうすれば、奴隷商に売るよりも割安ではあるが、迅速に手続きが完了する。
これでレイが金に困っていたり、もしくは奴隷商との交渉を楽しみたかったりといったようなことでもあれば、また話は違っただろう。
しかし、レイはそのどちらでもない。
そうである以上、ここは素早く取引が終わる警備兵に任せるというのが最善の選択なのは間違いなかった。
「さて、そうなると後は……宿に戻るか。まさか、もう情報が入ってるとは思わないけど」
「グルルゥ?」
レイの言葉に、そうなの? と喉を鳴らすセト。
セトにしてみれば、もう情報が入っているかもしれないと、そう思っていたのだろう。
だが、今日話した錬金術師や冒険者達だ。
ましてや、レイはセトに乗って山から飛んで降りてきたのに対し、向こうは歩き。それも錬金術師や冒険者の他に、ストーンゴーレムもそこにはいる。
ストーンゴーレムの歩く速度がどのくらいなのか。そもそも、歩いて山道を移動出来るのか。
その辺の事情を考えると、レイが盗賊を捕らえてお宝の鉄のインゴットを奪ったり、情報収集をしていた時間を含めても、まだ山から降りている最中だろうと予想は出来た。
勿論、それはあくまでもレイの予想であって、実はレイが知らない何らかの手段で素早く山の中を移動出来るような方法があってもおかしくはないのだが。
何しろ、向こうには錬金術師がいる。
ゴーレムの製造に特化している錬金術師とはいえ、別にマジックアイテムを作れない訳ではない。
ゴーレムを製造する際に、何らかの弾みで全く新しいマジックアイテムを開発した……といったような事になっても、おかしくはない。
そうである以上、まだ山にいるというのが絶対といった訳ではなかったが……それでもレイの予想からすると、やはりまだ街にはいないだろうと、そのように思えた。
そんなレイの予想は、宿に入って受付で自分に何らかの伝言が残っているのか聞いても、それが否定されたことではっきりする。
(まぁ、エグジニスに戻ってきたからとはいえ、情報を持っていたら星の川亭に来いと言った以上、何の情報もなければ来ないだろうけど)
そんな風に思いつつ、レイは部屋に向かおうとし……
「レイ!」
不意にそんな声が背中から掛けられる。
聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこにいたのは予想通りマルカだった。
ニッキーの姿も、マルカの側にいる。
そんな見覚えのある二人の姿を見て、レイは手を上げる。
「マルカ、今日はもういいのか?」
「うむ。レイの方はどうだったのじゃ? 今日は盗賊狩りに行っておったのじゃろう?」
「盗賊を見つけたけど、こっちが欲しがっていた情報は持っていなかったな。代わりに、面白そうなものを見たけど」
「ほう……興味深いな。詳しく聞かせて貰えると嬉しいのじゃが?」
「そうだな。何か適当に食べながら話すか? 俺は明日には一旦ギルムに戻るしな。マルカやニッキーとゆっくり話が出来る時間もあまりないし」
「もう……それは残念じゃのう。いっそ、妾もギルムに向かうか?」
「止めて下さいよ、お嬢様。ギルムっすよ? あんな化け物揃いの場所に行ったら、お嬢様を守り切れる自信はないっすよ」
そう言うニッキーだったが、レイが見たところでは、ニッキーも相応の実力を持っている。
それこそギルムでも普通に冒険者としてやっていけるだけの実力があるのは間違いない。
そんな中でニッキーがそのように言うのは、やはりマルカをギルムに行かせない為だろう。
ニッキーにしてみれば、マルカの護衛は最優先の仕事だ。
だからこそ、自分ではギルムでマルカを守り切ることが出来ないと、そう主張したのだろう。
(ギルムを一体何だと思っているのやら。……いやまぁ、色々と特殊な奴がいるのは間違いないが。それに、今は増築工事で多くの者が入り込んでいるから、余計に妙な連中がいるのは間違いない)
以前からギルムに住んでいる者達ですら、現在ギルムにやって来ている者が具体的にどのような者達がいるのか、というのは分からないだろう。
エッグ率いる裏の存在であっても、現在のように大量に多くの者が集まっている状態では、その全てを把握するというのは難しい。
そういう意味では、レイの倒したクリスタルドラゴンの死体のお披露目では、何人も把握していなかった不審人物を捕らえることが出来たので、エッグが感謝しているのは間違いなかった。
「むぅ……ニッキーなら大丈夫であろう? もしニッキーが無理でも、レイがおるではないか」
「レイの兄貴なら問題ないと思うっすけど、それでもレイの兄貴に迷惑を掛ける訳にはいかないっすよ」
必死に言うニッキーに、マルカは不承不承といった様子で納得した様子を見せる。
マルカも、実際には本気でギルムに行けるとは思っていなかったのだろう。
行ければラッキー程度の気持ちで言ったのだから、それが却下されてもそこまで気落ちはしていない。
「むぅ、しょうがないから諦めるのじゃ」
そう言うマルカやニッキーと共に、レイは自分の部屋に向かう。
何人かは今の意味ありげな会話に興味を持っていたし、何よりレイがギルムに戻るといったことを普通に言っているのに疑問を抱く。
当然ながら、星の川亭に泊まっている者の多くはドーラン工房のゴーレムを欲している。
レイもまた、そんなゴーレムを欲しているのだと、そのように多くの者が思っていたからだ。
だが、次回のドーラン工房のゴーレムが誰にどのように売るのかといったことは、まだ決まっていない。
そんな中でエグジニスからギルムまで移動するとなると、当然ながら相応の日数が掛かり、その間にドーラン工房のゴーレムについての売買方法が決まったらどうするのか。
そのように疑問に思う者が多いのは、当然の話だろう。
勿論、ドーラン工房側でも多少は日数の余裕は設けているだろうが、エグジニスからギルムまでの旅路となると、普通はそんな日数の余裕は使い果たしてしまう。……そう、普通なら、だ。
しかし、レイの場合は相棒のセトがいる。
それでもドーラン工房のゴーレムの件がある以上、ギルムでゆっくりする暇はない。
ギルドでクリスタルドラゴンの素材を入手して、一泊したらすぐにでもまたエグジニスに戻ってくる必要があった。
マルカもそれが分かっているからこそ、自分もギルムに行きたいと、そのように言ったのだろう。
そんな疑問を抱く者もいれば、セトの存在を知っているのか納得している者も多少はいる。
そのような者達をその場に残し、レイはマルカとニッキーと共に部屋に向かうのだった。
「ほう、ストーンゴーレムか」
部屋の中でレイが山での出来事を話すと、マルカは興味深そうに呟く。
マルカにしてみれば、ストーンゴーレムの運用試験を盗賊相手の実戦でやっているというのは、予想外だったのだろう。
野試合をやっている建物があるだけに、余計にそう思ってもおかしくはない。
(いや、でもマルカだぞ? そのくらいのことは予想出来ていてもおかしくはないと思うんだが。そうなるとこうして喜んでいるのが……もしかして、俺の話に興味を持っているといったようなことを示す為にか?)
そんな疑問を抱くが、マルカの様子を見る限りでは素直に驚いているようにしか見えず、とてもではないが演技とは思えない。
「それで、他には何があったのじゃ?」
「え? あー、そうだな。その後は盗賊のアジトを見つけたんだが、生憎とアジトには盗賊が一人しか残ってなくてな。で、アジトの掘っ立て小屋の中には、何故か斧が大量に置かれていた」
「……斧が?」
何故そんなに斧が? と、そうマルカが疑問に思うのは当然だろう。
レイもまた、何故あんなに斧があったのかは、分からない。
いや、正確には盗賊達が使う予備の武器として斧が置かれているというのは、理解出来る。
しかしレイが疑問に思っているのは、何故盗賊達はそこまで斧に固執したのかということだろう。
(あの盗賊に、その辺を聞いておけばよかったかもしれないな)
もう警備兵に引き渡した以上、盗賊に何故あそこまで斧を持っていたのかということを聞くのは難しい。
あるいは鉄のインゴットを大量に所持していたとの同様、何らかの襲撃で斧を大量に入手したといった可能性も否定は出来なかった。
「ちなみに、これがその斧だ」
興味深そうに話を聞いていたマルカに、レイはミスティリングの中から斧を一本取り出す。
マルカに刃物を持たせるのは危ないか? と思わないでもなかったが、マルカは刃物の類を触ったことがない訳ではない。
それこそ、武器屋に行けばレイピアに興味を持ったりするように、ある程度刃物の類には慣れている。
そうである以上、レイが斧を見せても問題はないと判断したのだ。
「へぇ、これが。見たところ特に何もおかしいところがない、普通の斧っすね。ただ、戦闘用の……いわゆるバトルアックスや戦斧と呼ばれるような斧じゃなくて、樵とかが仕事で使うような斧っすけど」
ニッキーがレイの出した斧を見て、そう呟く。
まさかニッキーが武器の見立てを出来るとは思わず、少し驚くレイ。
いや、長剣や槍のような一般的な武器であれば、その見立てが出来てもおかしくはない。
だが、斧となると話は違ってくる。
斧を戦闘で使うような者もいるが、やはり長剣や槍のような武器と比べれば使用する者は少ない。
……デスサイズのような大鎌を使っている者は、斧を使っている者よりも更に少ないのだが。
「分かるのか?」
「そこまで詳細にではないっすけど。樵の斧と武器としての斧では、やっぱり違うところがあるんすよ。ほら、短剣とナイフでもそういうのがあるっすよね?」
そう言われると、レイも納得出来る。
戦闘用の短剣と、何らかの作業に使うナイフというのは、仕様とでも呼ぶべきものがそれなりに違う。
戦闘にナイフを、作業に短剣を使うといったような真似も出来るので、その仕様というのも絶対ではないのだが。
「普通の斧でも武器として使えるから、大量に用意していたのかもしれないな。それに、斧は相手を斬るというよりも、叩き付ける、もしくは叩き切るといったような戦い方だし」
「そうかもしれないっすね。とはいえ、そういう武器をレイの兄貴に奪われた以上、盗賊達がどうなるのかは分からないっすけど」
壊れることを前提として斧を武器として使っていた以上、壊れた時の予備がなくなるというのは、かなりの痛手だ。
レイもそれは分かっているので、ニッキーの言葉には素直に頷く。
「だろうな。それに、お宝も……」
そう言い、次にミスティリングから取り出したのは、鉄のインゴット。
「俺に軒並み没収されたし」
「お宝? え? それがっすか?」
「ほう、鉄のインゴットじゃな。しかし、それが盗賊のお宝じゃと?」
ニッキーとマルカの双方が、不思議そうな表情でそう告げる。
普通に考えて、盗賊のお宝というのは金銀財宝、もしくは美術品やマジックアイテム……といった諸々を想像するだろう。
だが、盗賊狩りを趣味にしているレイにしてみれば、そこまでのお宝を持っている盗賊というのはそう多くはない。
……だからといって、鉄のインゴットをお宝として持っているのは、レイとしてもどうかと思わないでもなかったが。
「ああ。どうやら商人を襲って入手したらしくてな。こういうインゴットも、きちんと売れば相応の値段になる」
「ふむ、鉄はそれなりに使い道は多い。そうだとすれば、レイの言葉も正しいのじゃろう。しかし……盗賊が売るには問題があるから残っていたといったところか?」
「そんな感じだな。盗賊達と取引がある商人にしてみれば、鉄のインゴットは売ろうと思えば売れるが、実際に売るとした場合は、そこまで利益にはならん。そして鉄のインゴットは、相応の重量がある。商人にしてみれば、手間は掛かるが利益は少ない商品だろうな」
また、レイが入手した鉄のインゴットは、結構な量がある。
商人がそれを鍛冶師に売ろうとしても、どこから入手したのかといったようなことが話題になったりもするだろう。
そんな風に考えながら、レイはマルカ達と話を続けるのだった。