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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2692/3865

2692話

 錬金術師達と別れたレイとセトは、再度盗賊を捜して山の中を歩いていた。

 こうして闇雲に山の中を歩いていても、普通の盗賊と接触することはあっても、盗賊が消えている原因と遭遇するなどといったことは、基本的に考えられない。

 しかし、それでも手掛かりになりそうなのは山にいる盗賊達なのだ。


(それに誰が盗賊達を消しているのかは分からないが、そんな真似をしていて、盗賊達を追加で呼び込んでいるということは、犯人は盗賊達がいて貰わないと困る訳だ。そんな中で、俺が盗賊達を次々に倒していけば、どうなるか)


 レイを相手にするのは危険だと察して、手を出してこないという可能性もある。

 だが、レイを排除してしまえば手っ取り早いと、そう考えてもおかしくはなかった。

 レイが狙っているのは、それだ。

 ……あるいは、それが宿に侵入してきた暗殺者なのかもしれないが。


「グルルルゥ」


 山の中を進んでいると、不意にセトが喉を鳴らす。

 それが何を意味してるのか分かるレイは、セトと共に山の中を進み……


「ありゃ、外れか」

「な……何だてめえっ!」


 目の前に広がっている光景に、レイは残念そうに呟く。

 何故なら、レイの前に広がっていたのはいかにも手作りといった様子の掘っ立て小屋が一軒あり、その小屋の前にはいきなり姿を現したレイ……正確にはセトの背の上に乗っているレイを見て驚いている盗賊が一人いるだけだったのだから。

 盗賊の溜め込んだお宝を奪うという意味では、これ以上ない程の当たりだろう。

 しかし、レイが目的としているのは盗賊狩り……盗賊の数を減らすことだ。

 ここで盗賊を一人倒し、掘っ立て小屋の中にあるお宝を奪っても、それはレイの目的を達成出来ない。

 普通に盗賊狩りをしているだけなら、盗賊と戦う手間が省けたという意味で楽だったのだが。


「ここにいるってことは、お前は見張りか。降伏しろ。そうすれば痛い目をみないですむぞ」

「な……ふ、ふざけんなぁっ!」


 いきなり格下のように扱われ、それこそ倒す価値もないといったように言われたのが、面白くなかったのだろう。

 実際、この男は盗賊団の中でもそれなりに腕は立つほうなのだから、尚更だった。

 ただし、それはあくまでも右足の捻挫がなければの話だが。

 他の盗賊団と山の中で遭遇した時、どうなるか。

 前々から顔見知りで友好的な相手ならともかく、そうでなければ盗賊同士で戦いになってもおかしくはない。

 普通に考えれば、盗賊同士ということで意味もなく敵対してもデメリットしかないのだろうが、基本的に盗賊というのは荒くれ者揃いだ。

 目の前に自分よりも強いと思う相手がいるとなれば、大人しくすれ違うといったような真似は出来ない。

 結果として、盗賊同士で戦いが行われ……そしてこの場に残っている男は右足を捻挫するといった怪我をした。

 他にも何人か怪我をした者はいたが、それは軽い斬り傷や腕の打撲といったようなものでしかない。

 そのような怪我と比べると、足の捻挫というのは山の中を歩いて移動する盗賊としては、明らかに足手纏いとなる。

 だからこそ、この男は留守番役としてこの場に残っていた。

 ……その場所にレイとセトが現れたのだから、男にとって不運としか言いようがない。

 それでも、レイはともかくセトを前に怯えたり逃げ出したりしない辺り、さすがなのかもしれないが。


(いや、違うな。単純に動揺しすぎてセトを前にどう反応していいのか分からないだけか?)


 目の前の盗賊は、取りあえず倒してしまった方が向こうも興奮が落ち着き、それで自分が絶対に勝てない相手だと判断され、大人しく情報を聞き出せる。

 そう判断したレイは、セトの背から降りると斧を手にした盗賊に向かって近付いていく。


「止まれ! こっちに来るな! こっちに来たら、この斧で殴り飛ばすぞ!」

「やってみろ。それが出来たら、お前はこの場から逃げることが出来るかもしれないな」


 レイにしてみれば、足を怪我している男が自分やセトを相手にどうにか出来るとは思えなかった。

 いや、盗賊の技量からすれば、それこそ万全の状態であってもどうにも出来ないだろう。

 男は盗賊の中では腕利きだったのは事実だが、それはあくまでも盗賊の中だけでの話でしかない。

 男も、自分の前にいるのは小柄なからも圧倒的な強者だというのは、今の言葉で理解したのか、追い詰められた表情で、自分が手にした斧が最後に頼れる存在だと言いたげに、それを握り締める。


「大人しく降伏すれば、殺しはしない。捕らえて警備兵に突き出すだけにしてやる」


 その結末は犯罪奴隷だけなのだが、それでも普通なら冒険者に負けた盗賊の大半が殺されることを思えば、せめてもの救いではあるのだろう。

 とはいえ、その後に待っているのは鉱山で働くか、戦いに駆り出されるか……それ以外でも、とてもではないが楽な暮らしは出来ないと思った方がいい。

 男もそれが分かっているからこそ、レイには勝てないと理解しながらも、何とかこの場から逃げ出す方法を考える。

 戦っても勝てないのなら、逃げ出せばいい。

 ……ただし、足を怪我している状態で無事に逃げ出せるかとなると、また話は別だろうが。


「どうする? あまり時間を掛けても、俺にとっては利益がない。このままここで戦って気絶させられるか、大人しく降伏するか。……あ、自殺は出来れば止めてくれると助かる」


 そう告げるレイだったが、気楽な様子は本当に男に死んで欲しくない……といったようなことは考えていないように思えた。

 それこそ、出来れば死んで欲しくないといったような、そんな態度。

 しかしそんな態度こそがレイが男に対して本気でそのように思っていると、そう理解させるには十分だった。


「……降伏する」


 どうあっても自分はこの場から逃げることが出来ない。

 そう判断した男は、結局最後にそう告げる。

 男にしてみれば、自分がどう動いてもこの状況からではどうしようもないと、そのように思ったのだろう。

 実際、その判断は間違っていない。

 男がここから逃げ切れる可能性は、全くなかったのだから。

 ……いや、実際には本当の意味で皆無という訳ではない。

 もしかしたら、いきなりランクSモンスターがここに現れるかもしれないし、空から隕石が降ってくるかもしれない、あるいは雷が落ちてレイに命中する可能性だって皆無ではないだろう。

 そのどれもが、可能性としては恐ろしく低い。

 低いが、それでもそうなる可能性は存在するのだ。

 何しろ、トレントの森の地下にいるモンスターによって、異世界と繋がるなどといったようなことすら起きているのだから。

 とはいえ……奇跡というのは、そう頻繁に起きるものではない。

 それこそ、起きないからこそ奇跡と呼ばれるのだから。

 そういう意味で、盗賊の男が奇跡によってこの場を無事に逃げ切るといった可能性は……まずないだろう。

 結局、どうしようもないと悟った男は、自分の守り神のように握っていた斧を地面に放り投げる。

 武装解除をして、自分が投降すると、そう態度で示したのだろう。


「そうか。ならまずは妙なことをしないように手を縛るぞ」


 ミスティリングから取り出したロープで、後ろに回した盗賊の手首を縛る。

 盗賊の中には、縄抜けを得意としている者もいる。

 関節を外し、縄に隙間を作ってそこから手を抜くといったように。

 あるいは手の肉が削れようとも全く関係ないといった様子で強引に縄から手を抜いたり、中には縄を力で強引に切るといったような者もいた。

 だからこそ、盗賊を縛る時は縄抜けが出来ないように気をつける必要がある。

 そうして腕を縛られた盗賊に対し、レイは真っ先に聞くべきことを尋ねる。


「それで、お前の仲間の盗賊はいつ戻ってくる?」

「……少し遠くに向かうって言ってたから、今日は無理だ。何日後になるのかは、俺にも分からないが」

「遠くに? エグジニスの客を狙うんじゃないのか?」


 この山がエグジニスに近くにある。

 そんな場所をアジトにしている以上、当然ながら標的はエグジニスに出入りする者達……そんな中でも、盗賊達が自分達だけで倒せると思っている相手だろう。


「エグジニスの客を狙うってのは間違いないが、エグジニスの側だと警戒心が残ってるからな。だが、エグジニスからある程度離れて、俺達の襲撃範囲から出たと思えば、警戒も緩む」

「なるほど」


 そう納得するレイだったが、それなら別にエグジニスの近くにある山にアジトを構えなくても、それこそエグジニス周辺の盗賊達の襲撃範囲から外れた場所にアジトを構えればいいのでは?

 そんな疑問を抱く。


「なら、何でわざわざここにアジトを構えてるんだ?」

「俺達もいつもはエグジニスの近くで仕事をしてるからだよ。今回の件は、あくまでも試してみるからだしな」


 つまり、その思いつきの方法で上手くいくかどうかを試してみる為に、今ここには誰もいないらしい。

 レイにしてみれば、そんな程度で本当に上手くいくのか? といった思いと、コロンブス的な卵的な感じで意外と上手くいくのかも? といった、二つの気持ちがある。


(とはいえ、そうなるとどうするか)


 レイの予定としては、ここで目の前の盗賊を捕らえた後は、少ししてからここを拠点にしている盗賊達が戻ってきたところを一網打尽にするといったつもりだった。

 しかし、それはあくまでも今日……それも数時間程度で戻ってくると考えてのことだ。

 まさか数日もここで待ってるといったような真似は出来ない。

 そもそも、明日か明後日には一度ギルムに戻ろうと、そのように思っていたのだから、尚更だ。

 そう思えば、やはり今回の件は失敗と言ってもいいだろう。

 レイはそう判断し……ならば、せめて盗賊達のお宝だけでもと、掘っ立て小屋の方に向かう。


「セト、そいつを見ていてくれ。逃げ出したら、適当に対処してくれていいから」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かった! と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトの意思を理解出来るものの、それはあくまでもレイだからだ。

 自分のすぐ側でセトが喉を鳴らしたのを見ていた盗賊にしてみれば、セトが一体どういうつもりでこのような真似をしたのか……その辺りについては、全く理解出来ない。

 それこそ、場合によっては自分は食べられてしまうのではないかとすら、思ってしまう。


「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな!」


 焦った様子でレイに向かって叫ぶ盗賊の男だったが、レイは笑みを浮かべて口を開く。


「お前が妙な真似をしなければ、問題はない。……妙な真似をしなければ、だがな」


 それは、妙な真似をした場合はセトがその爪やクチバシが自分に襲い掛かってくるといったことを意味していた。

 レイとしてはそこまでのことを考えてはいなかったのだが、盗賊の男にしてみれば自分が妙な行動をすればセトによってあっさりと殺されるといったように思えた。

 無言で激しく頷く男をその場に残し、レイは掘っ立て小屋の扉を開け……


「これだけか?」


 お宝と呼ぶべき物は、殆どない。

 それこそ盗賊達が使うのだろう予備の武器がそれなりに置かれてはいるものの、その武器が全て斧となると、レイにとってはどうしようもない。

 それも戦闘用の……いわゆる戦斧やバトルアックスと呼ばれるような物ではなく、普通に樵達が使うような斧。

 それ以外には食料として干し肉や木の実の類が置かれており、とてもではないがお宝の類はない。

 勿論、レイもお宝……例えば本当の意味で金銀財宝の類であったり、ミスリルを始めとした希少金属の類であったり、マジックアイテムであったり……あるいは、エグジニスの近くにあるアジトであると考えると、ゴーレムの類……といった物を期待していた訳ではない。

 訳ではないのだが、それでもやはりもう少しお宝らしいお宝が欲しいと、そう思うのは当然だった


(この連中もここに来たばかりなのか? いや、でもこの掘っ立て小屋は作られてからそれなりに時間が経ってるように思える。だとすれば……いや、この連中が古株という可能性よりも、たまたまここに掘っ立て小屋があったからこそ、ここを拠点に使ってると考えた方がいいか?)


 そう判断し、改めて掘っ立て小屋の中を見て、特に床に怪しい場所がないかを確認する。

 掘っ立て小屋である以上、壁に隠し通路を作ったりすることは不可能に近い。

 しかし、床なら……地面の下になら、地下室の類があってもおかしくはないのだから。

 そんな風に思って調べるも、生憎と特に何かそれらしい物はない。

 自分だけでこうして探すよりも、この辺りについて知ってる者に聞いた方がいいと判断し……レイは、取り合えず掘っ立て小屋の外に出るのだった。

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