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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2688/3865

2688話

 レイの言葉を聞いたライドンは、数分程沈黙した後で口を開く。


「盗賊を集める? 何をする為にそのような真似をするのだ?」

「さぁ? それこそライドンが得た情報……というか噂が事実なら、もしかしたらそれに関係している可能性も否定は出来ないと思うが」

「それは、本当に関係があるのか?」

「ない。さっきも言ったが、仮定に仮定を重ねて、その上で更に仮定としたようなものだ。それを思えば、正しいとは必ずしも言えない。ただ、俺がちょっと気になっただけだしな」

「レイ殿が気になったことがか」


 普通なら気のせいだと思ってもおかしくはない。

 しかし、それを言ったのがレイなのだ。

 冒険者になってから短期間……それこそ冒険者とての歴史の中でもこれ以上の速度でランクアップしたり異名を得た者はいないか、いても本当に少数といったような、そんな速度でランクA冒険者になったのだ。

 そんなレイが気になったと言うのだから、ライドンも気のせいだと考える訳にもいかない。


「ふむ、そうだね。では、私の方でも少し調べてみよう」

「……いいのか? 下手をすれば、お前の使用人が体験したように暗殺者を送られるかもしれないぞ?」


 実際にはレイと一緒に盗賊の消失やゴライアスの件を調べていたリンディに、暗殺者は送られていなかった。

 それを思えば、レイに暗殺者が送られてきたのは全く別の理由からという可能性が高いのは事実だが、それも絶対ではない。

 リンディは冒険者ではあるが、そこまで突出した強さを持っている訳でもなく、高ランク冒険者という訳ではない。

 そういう意味では、リンディは特に危険な相手と見なされなかっただけといった可能性も否定は出来ない。

 何しろ、レイに向けて放たれた暗殺者は決してレベルの高い相手ではなかったのだ。

 本人は一流のつもりだったようだが、今まで何度も暗殺者に狙われてきたレイにしてみれば、二流三流といったところでしかない。

 そうである以上、エグジニスにある暗殺者は全般的にレベルが低いという可能性も否定は出来なかった。

 ともあれ、リンディがそのような理由で見逃されていた場合、貴族のライドンが同様に見逃されるとはレイには思えない。

 ライドンは貴族……それも中立派の貴族だ。

 レイが中立派を率いているダスカーの懐刀として有名なのは、少しでも情報に詳しい者なら知っている。

 そんなレイと接触した中立派のライドンが盗賊の消失について調べた場合、それを行っている黒幕達にとって、ライドンはリンディとは比べものにならないくらい危険人物と認識されるのは確実だろう。

 そしてライドン本人はそこそこ鍛えてはいるようだったが、それでもいいところランクC冒険者程度といった実力でしかないように思えた。

 そしてレイをここに連れて来た使用人にいたっては、戦いの経験は全くない素人のようにしか思えない。


「ちなみに、聞くまでもないと思うけど護衛はいるんだよな?」

「当然だろう。だが、レイ殿と会うのに護衛は無粋だろう?」

「……それで、俺が実は刺客だったりしたら、どうするつもりだったんだ?」


 きょとん、と。

 そんなことは全く考えていなかったといった様子のライドン。

 ライドンにしてみれば、セトを連れている時点でレイが偽物ということは有り得ない。

 そしてレイについての情報は、中立派である以上他の派閥の者達よりも多く手に入れている。

 相手が貴族であろうとも、敵対すれば容赦せずにその圧倒的な力を振るうというのは知っているが、それと同時に一部の貴族のように何の意味もなく力を振るうといったまねはしないというのも知っている。

 そうである以上、ライドンは自分がレイに危害を加えられる可能性を、皆無とまでは言わないが、限りなく小さいだろうと認識していた。


「そんなことは考えていなかったな。それに、私はこう見えて人を見る目はあるつもりだ。だからこそ、中立派に所属しているんだし」

「……はぁ」


 自分のどこを見てそんなに信頼したのかというのは、分からない。

 だが、ダスカーを信じて中立派に所属していると言われれば、レイとしてもそんな相手を害するといった真似は出来なかった。


「取りあえず俺の件はともかくとして。盗賊の件は本当に調べるつもりか?」

「勿論だよ。それに……こう言ってはなんだが、レイ殿は貴族とのやり取りは慣れていないだろう?」


 そう言われれば、事実である以上はレイも反論出来ない。

 レイがランクA冒険者に昇格した結果、マリーナが交渉役として任命されたのも、それが最大の理由なのだから。


(とはいえ、貴族に盗賊の消失の件で何か知ってることがあるのか?)


 エグジニスにいる貴族の大半は、ここに住んでいる訳ではなく、ゴーレムを購入する為にやって来ている者達だ。

 そうである以上、エグジニスについての深い事情まで知るというのは無理だろう。

 盗賊が消えているのなら万々歳。

 しかし、盗賊が消えている筈なのに襲撃されるのは変わらない。

 この辺りの事情を考えれば、寧ろ盗賊について聞いたことがライドンと他の貴族との間で不和の原因になりかねなかった。


(それでも、もしかしたら貴族故に俺が知らないような情報を知っているといった可能性も否定は出来ないから、やれるのなら頼んだ方がいいのか? 問題なのは、暗殺者に狙われることだけど)


 そう思い、レイは改めてライドンに尋ねる。


「さっきも言ったが、この件に関わったら暗殺者に狙われる可能性が高い。それでもやってくれるのか?」

「ああ、勿論」


 一瞬の躊躇もなく頷くライドンに、レイはどう反応したらいいのか迷い……結局その疑問を素直に口に出す。


「何でそこまでしてくれるんだ? ドーラン工房に怪しい噂があると俺に教えてくれるのはいい。話すだけなら、特に労力は掛からないしな。けど、他の貴族から情報を集めるというのは、ライドンにとってはそこまでメリットがないだろ?」

「いや、ある。それもちょっとやそっとじゃないような、大きなメリットが」

「どんなメリットだ?」

「レイ殿に貸しを作れるというのは、非常に大きなメリットじゃないか?」


 そう言われたレイは、そうか? と疑問に思う。

 レイの反応はこのようなものだが、実際異名持ちのランクA冒険者に貸しを作ることが出来るというのは、大きな意味を持つ。

 ましてや、それが中立派を率いるダスカーの懐刀ともなれば、その意味は非常に大きい。


「まぁ、そっちがそれでいいのなら、俺は助かるんだけど……ダスカー様に怒られたりするのはごめんだぞ?」

「はっはっは。その辺は上手くやるから安心してくれ。これでもそれなりに貴族については詳しいんだ。個人的には、貴族よりも冒険者になって活躍したかったというのが正直なところなのだがな」


 そう告げるライドンに、レイはどう反応するべきか迷う。

 冒険者は気楽な職業なのは間違いない。

 少なくても貴族のように礼儀正しくしなければいけなかったり、食事をするにも作法があったり、自分で好きな時に好きなことを出来ない……といったようなことは、冒険者にはない。

 だからといって、冒険者が気楽な仕事かと言われれば、レイは頷くことは出来なかった。

 冒険者に求められるのは、最終的には実力だ。

 貴族の子弟だから、大商人の子供だから……そんなことは、モンスターと戦う時には全く役に立たない。

 勿論、そのような社会的な地位があれば、依頼人と交渉する際に有利になったり、もしくは戦力を用意する時に重要な意味を持つのは間違いなかった。

 しかし、それでも最終的にはやはり本人の実力が大事なのだ。

 場合によっては、自分の地位でどうにか出来る……といったような可能性もあるが、やはりそれよりも大事なのは自分の実力だった。

 そして貴族の場合は立ち回りに失敗すれば恥を掻いたり、家が不利な立場になったり、最悪死んだりすることもある。

 それに対して、冒険者は依頼の最中に失敗すれば、死ぬ可能性が非常に高い。

 貴族もまた最終的に死という可能性があるのは事実だが、冒険者の場合は貴族よりも更にその可能性が高いのだ。


「冒険者に憧れるのはいい。俺が聞いた話だと、貴族の中には冒険者を呼んで今までどういう依頼をやったのかといった冒険譚を聞きたがる酔狂な奴もいるらしいしな。けど……それで満足するのならともかく、冒険者になろうと考えるのは止めた方がいい」


 そう言うレイだったが、貴族の子弟で冒険者になるという者が皆無という訳でない。

 長男として生まれず、家を継ぐことが出来なかった者。

 そんな中でも自分の力に自信のある者は、冒険者という道を選ぶこともある。

 あるいは他に何も出来ることがなく渋々冒険者になる者もいるが、そのような者達は基本的にそう長く生き残ることは出来ない。

 レイにしてみれば、貴族としての教育を受けているのなら読み書き計算、それ以外にも様々な礼儀作法を知っているのだから、商人か何かになれば冒険者にならなくてもやっていけると思うのだが。


「貴族には冒険者が、冒険者には貴族が羨ましく思えるか」

「どこかの言葉に、隣の芝生は青いという言葉がある。他人の物の方がよく見えるって意味の言葉だな。ライドンが感じているのも、その辺が理由なんだろ」

「それは……なるほど。言われてみればそうかもしれないな」


 レイの言葉に素直に納得出来るところがあったのか、頷くライドン。

 レイにしてみれば、そこまで感心するようなことではないのでは? と思わないでもなかったのだが……今の状況を思えば、それも仕方がないかなと考える。


「話を戻すぞ。とにかく、盗賊の消失に関して調べるのなら、護衛は可能な限り一緒にいた方がいい。俺が狙われたように、メイドの振りをして星の川亭に侵入してくるといった可能性も否定は出来ないからな」


 レイが繰り返し身の安全に気をつけるように言うと、ライドンもそれに頷く。

 ライドンにしてみれば、くどいくらいに言われているので面白くなく思ってもおかしくはないのだが、何故かそこまで不機嫌そうな様子には見えない。

 それどころか、寧ろレイの言葉を嬉しく思っている様子すら見せていた。

 何故だ? と思わないでもなかったが、本人が納得しているのなら、取りあえずそれでいいだろうと、レイもそれ以上追求するような真似はしない。


「それで、盗賊の件について何か情報を得たら、レイ殿に知らせに行けばいい訳だ。これは少し面白くなってきた」

「……本当に状況を分かってるんだよな? 一応言っておくけど、これは別に遊びでもなんでもない、本気の調査だぞ?」

「勿論分かっている。こちらも相応に危険な目に遭うかもしれないのだ。そうである以上、そこで手を抜くといった手段はとらないから、安心して欲しい」


 断言するライドンに、この相手を本当に信じてもいいのか? と若干疑問に思うレイ。

 しかし、実際にライドンが貴族達から情報収集をしてくれれば助かるのも、間違いのない事実なのだ。

 貴族である以上、盗賊の消失についての情報をそこまで深く知っているのかどうかは分からない。

 分からないが、それでも情報がないというのは、それだけで一つの情報となる。

 レイがわざわざ手間を掛けて貴族から情報を集めなくてもいいというのも、この場合は大きい。


「分かった。なら、任せる」

「うむ。ちなみに、レイ殿はドーラン工房が盗賊の消失に関わっているのは、どのくらいの確率だと思う?」

「そうだな、可能性としては半分よりもっと下といったところか」


 レイとしては、三十パーセント程度と、そのように予想している。

 そこまで可能性が高くないのは、やはり盗賊を殺したとしても、それをどうゴーレムに活かすかといった問題がある。

 普通に考えれば、心臓のような内臓をゴーレムの素材として使うといったような感じなのだろうが、そのゴーレムは他人に売るのだ。

 そうなると、場合によってはゴーレムを分解されるといったようなことも考えられるだろう。

 不慮の事故でゴーレムが壊れて修理したり、あるいは単純に好奇心からゴーレムの内部が一体どのようになっているか見てみたいといったように。

 ブラックボックスのように開けられないようにしてあっても、貴族や大商人といった物であればそれを開けられる可能性も高い。

 そうなると、内部に人間の内臓の類があった場合、見つかってしまうだろう。


(あるいは錬金術によって見つからないようにしてあるのか……ともあれ、今のところ可能性としてはそう高くない。寧ろ、ドーラン工房に勝つ為に新しい技術に挑戦している錬金術師の仕業とか、ゴーレムの試験的な意味合いの方が強い思うけど)


 そう考えるレイだったが、可能性としては低いと聞いたライドンは、残念そうな表情を浮かべるのだった。

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