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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2682/3865

2682話

「ここでやってるのか……?」


 そう呟くレイの言葉には、若干の驚きと、もしかして騙されてるのではないか? といった感情が込められていた。

 当然だろう。レイの視線の先にあるのは、体育館……それも高校にあるような体育館ではなく、市立や県立といった規模で建っている体育館と同じような大きさであった為だ。

 野試合という話を聞いていたので、それこそこのような建物の中ではなく、どこかの空き地でやるのかと思っていたのだ。


「そうっすよ。来る途中にも言ったと思うっすけど、錬金術師達が自分の作ったゴーレムの試験をする為にやられてるっすからね。自然とこういう場所が必要になるんすよ。それに……聞いた話によると、この野試合を見て気に入った商人や貴族がゴーレムを買ったりすることもあるらしいっす」

「なるほど。ゴーレムの性能試験の他に、商品閲覧会的な意味もあるのか」

「そんな感じっす。だから、純粋にゴーレムの性能試験をしたい錬金術師は全ての技術を見せたりはしないっすけど、買い手を探している錬金術師はここぞとばかりに技術を見せたりしてるっすよ」


 野試合と言われていたが、随分と本格的なものなのだとニッキーの説明で理解する。

 理解したのだが、同時に疑問も抱く。


「そういう規模なら、普通はどこかが後ろ盾になったりしないか? 聞くからに、色々と利権が大きそうだし、それを期待するような奴はそれなりにいるだろ?」

「あー、俺もそれは思ったんすよね。で、ちょっと調べてみたんすけど……実際、今までこの野試合を牛耳ろうって組織は色々とあったみたいなんすけど、何故か途中で挫折してるんすよ。多分、そういう風に仕向けてる誰かがいるっすね」

「なら、その仕向けてる連中が後ろ盾になっているというか、牛耳ってる感じなのか?」

「うーん、俺もそう思ったんすけど、そういうのはいないみたいなんすよ。勿論、調べたってのはお嬢様の護衛をしながらの片手間なんで、もっとしっかりと調べれば話は別かもしれないっすけど」


 ニッキーの説明に、レイは疑問を抱く。

 普通なら有り得ないと思えることなのだから、当然だろう。

 一般的に考えて、どこかの組織が野試合の後ろ盾になっているのなら、自由にさせすぎるといったようなことをするとは思えない。

 それこそ、自分達の利益になるように動くのは当然だろう。

 だというのに、自分達の利益になるような真似はせず、かといってどこかの組織がこの野試合に手を出そうとすれば邪魔をする。

 そういうことが普通に有り得るのか? と、そんな疑問を抱くのは当然だった。

 とはいえ、実際に目の前にそのような場所があるのだから、実在しているのは間違いないだろう。

 レイにしてみれば、何故? といったように思うのだが、目の前の現実を認められない程ではない。


「話は分かったけど、この建物を借りるにもそれなりに金が必要になるんじゃないか?」


 日本では建物を借りるのに一時間で幾ら、もしくは三十分で幾らといったように料金を支払っており、その料金もまた体育館を運営する資金に回されているというのを、何かで聞いた覚えがあった。

 この世界……いや、エグジニスでも同じなのかどうかは、レイにも分からない。

 だが、レイが見たところでは相応に立派な建物である以上、維持費の類も必要になるだろう。

 ましてや、この建物の中で行われているのはゴーレム同士の野試合……戦いだ。

 そうである以上、何らかの拍子に建物が壊れるといったようなことになってもおかしくはなかった。

 それを修理するとなれば、これもまた当然ながら費用が掛かる。


「さぁ? 俺もそれは分からないっすね。ただ、錬金術師達はここで自由にゴーレムを戦わせることは出来るらしいっすよ? 勿論、見学をするのも自由ってことで」

「そうか。……まぁ、何か怪しいところがないのなら、いいか」


 まだ若干気になるレイだったが、今は盗賊やゴライアスの件もある。

 それに近いうちに一度ギルムに戻り、クリスタルドラゴンの解体で剥ぎ取れた分だけの素材を受け取ってくる必要があった。

 この体育館のような建物の運営について気になるのは事実だったが、だからといってそれを調べるような余裕がある訳でもない。

 だからこそ、レイはこの件についてはこれ以上特に突っ込むといったような真似もせず、大きく手を振っているマルカと、そのマルカを背に乗せているセトのいる場所に向かう。

 この建物が大きいのは、ゴーレムの中にもかなり大きな個体がいるからというのもあるが、そうなれば当然のように建物の中に入る為の扉も相応の大きさを持つ。

 本来なら建物の中で戦うゴーレムの出入り口は別にあってもおかしくはないし、実際にそうなっている可能性もあるのだが、それでも扉の方もゴーレムが使えるような大きさになっている。

 つまりそれは、セトであっても普通に中に入ることが出来るということを意味していた。


「おい、ちょっとあれ見ろよ。グリフォンだぜ?」

「そう言えば、ギルムの深紅が来てるって話があったけど……おい、まさかあのお嬢ちゃんが深紅なのか?」

「いや、俺が聞いた話だと女顔だって話だが性別は男だった筈だ」

「女装する趣味を持ってるとか? 身体付きも女には見えな……ひぃっ!」


 マルカの体型について話していた男は、鋭い……それこそ殺気の籠もった視線を向けられ、悲鳴を上げる。

 一体何故自分がそんな悲鳴を上げたのかは分からない。分からないが、それでも自分に視線を向けている少女が原因なのだろういうのは、容易に予想出来た。

 マルカもまた少女とはいえ、女だ。

 ましてや、母親も慎ましやかな体型をしているとあって、微妙に将来を心配している中で、突然あのようなことを言われたのだから、反射的に殺気の籠もった視線を向けても仕方がなかった。


(うわぁ……)


 当然のように、レイやニッキーもそんなマルカの殺気を感じたが、ニッキーは自分は何も見ていない聞いていない感じていないといった様子で視線を逸らしている。

 レイは昨日襲ってきた暗殺者の殺気よりも鋭かったのでは? といった感想を抱く。

 他にも何人か施設の前にいる者達が、殺気を発したマルカに視線を向けていたが、結局それ以上は特に何かがある訳ではなかった。


「えっと、いつまでもこうしているのも何ですし、とっとと建物の中に入りましょうか。レイの兄貴も早くゴーレムの野試合を見たいっすよね?」

「それは否定しない」


 ゴーレムを購入する為にエグジニスに来たレイにしてみれば、どのようなゴーレムがいるのか、そしてどのような性能を持ち、どのように戦うのかといったことには興味津々だ。

 ドーラン工房のゴーレムを買おうとしているし、ロジャーからは防御用のゴーレムと清掃用のゴーレムを購入――代金は金ではなく素材だが――予定ではあるが、それでもまだ他に色々と購入出来れば、それに越したことはない。

 普通であれば、清掃用のゴーレムのような安価なゴーレムはともかく、貴族や商人が欲しがるゴーレムはそう簡単に買えるものではない。

 金銭的な問題もあるし、何よりゴーレムは場所を取る。

 ゴーレムを複数購入するということは、そのゴーレムを自分で運び、そして保管する場所が必要となるのだ。

 貴族にしろ商人にしろ、金と保管場所は限られている。

 だが、それに対してレイの場合は金は元々大量に持っているし、足りなくなれば盗賊狩りをすればいい。

 保管場所に関しても、ゴーレムが生物ではない以上ミスティリングに収納可能な筈だった。

 そういう意味で、レイはゴーレムを購入するという意味ではかなり有利な要素を持っていた。

 もっとも、だからといって無意味に購入するかどうかは、また別の話だったが。

 あくまでもレイが欲しいのは、実際に使えるゴーレムだ。

 ロジャーに頼んだ、清掃用のゴーレムしかり、防御用のゴーレムしかり。

 中途半端なゴーレムや、意味のない高性能さを持つゴーレムは、レイにとって決して欲しい物ではない。

 そうしてレイとニッキーは先頭を進むセトとマルカに導かれるようにして、建物の中を進む。

 外見からは体育館といった印象を受けた建物だったが、床となる場所は木でも石でもなく、普通の土だ。


(これは……まぁ、ゴーレムとかも移動するらしいし、何かあった時に修理しやすいようにとかなんだろうな)


 レイがニッキーから聞いた話によれば、この建物の中で行われるのは、ゴーレムの性能試験と見本市を兼ねたようなものだ。

 見本市の方はともかく、性能試験ということは、まだそのゴーレムが完全ではないということを意味している。

 つまり、ゴーレムが何らかの理由で暴走したり……そこまでいかなくても、思わぬ行動をしてしまう可能性があるということを意味していた。

 そうなった時、しっかりとした木や石で出来た床であれば、直すのにも相応の労力や資金が必要となる。

 だが、踏み固めた土であった場合は、その土を均すなり、あるいは新しい土を持ってきて踏み固めるなどといった真似をすれば、それで問題ない。

 勿論土を運んだり踏み固めるといった真似をするにも、労力は掛かるだろう。

 しかし、金銭的な負担という意味では殆ど考えなくてもいい。

 ……もっとも、多少ではなく大量の土が必要となるといったようなことになった場合は、相応の代金が必要になる可能性は十分にあったが。


「ついたぞ、レイ。ここじゃ」


 そうマルカが言ったのは、通路を進んだ先にあった空間だ。


「これはまた、随分と広いんだな。予想した以上だ」


 建物の大きさから予想は出来ていたが、もしかしたらある程度の大きさを幾つかの部屋に区切っているのでは? といったような思いもあった。

 ここが純粋にゴーレムの性能試験の為に野試合をする場であっても、その性能を隠しておきたいと思う者もいる。

 あるいは、ゴーレムを気に入って商談をするといった場合に、あまり人目につきたくないと思う者もいるだろう。

 その辺の事情を考えれば、広い空間だけではなく普通の部屋も必要になる筈だった。


(そういう交渉をする部屋は、この空間の近くじゃなくてもっと別の……離れた場所にあるのかもしれないけど)


 そんな風に思っているレイの視線の先では、三m程の高さのゴーレム同士が戦っていた。

 きちんとリングと思しきものが用意されており、その上から出ると負けになるとニッキーから聞いて、なるほどと思う。

 以前レイが参加したベスティア帝国の闘技大会でも、リングの類はきちんと用意されていた。

 それを思えば、ゴーレムの性能を確認する為の野試合においても、一定のルールが必要になるのは当然だろう。


(ここまでルールとかが整備されていて、それでも後ろ盾というか、スポンサーとかそういうのがいない、もしくは表に出てこないってのは信じられないけど)


 片方のゴーレムは、典型的な岩で出来たゴーレム。いわゆるストーンゴーレム。

 そしてもう片方は半分ロボットのように見えなくない……そんなゴーレム。

 双方共に相手に攻撃を命中させようと頑張っているのが見て分かる。

 ストーンゴーレムの方は、手に石で出来た棍棒を持っており、半分ロボットの方はレイピアに近い武器を手にしていた。

 そうして戦っているのだが……


「何だか少し期待外れだな」


 レイの口からそんな言葉が漏れる。

 レイとしては、もっと躍動感溢れる戦いを期待していたのだ。

 だが、実際に目の前で行われている戦いは、呆れる程にテンポが悪い。

 期待しすぎたか? と思うものの、実際にレイが欲しているゴーレムがこのような動きしか出来ないとなれば、わざわざ購入する必要があるとは思えなかった。


「ゴーレムってのは、制作者によって能力が大きく変わるんすよ。ただ、お嬢様と一緒に見た限りだと……あのゴーレムは、平均よりも少し下ではあっても、そんなに悪くないっすよ?」


 ニッキーのその言葉に、レイは嫌な予感を覚える。

 現在戦っているゴーレムが平均より少し下程度の実力となると、最高峰の技術を持つというドーラン工房のゴーレムは一体どのような性能を持つのか。

 そしてレイがロジャーに頼んだ防御用のゴーレムは、一体どうなるのか。

 もしかして無駄に素材を渡しただけになるのでは? とすら思ってしまう。


「清掃用のゴーレムを見た感じだと、ゴーレムの動きはもっと丁寧でもいいと思うんだけどな」

「それはまぁ、清掃用って用途が決まっているのと、多用途に使えるゴーレムとなれば、制御とかも色々と違ってくるっすから」


 そんなニッキーの言葉に、レイはそういうものかと考え、自分の嫌な予感が当たらないようにと思いつつ、野試合を見物するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>ゴーレムが生物ではない以上ミスティリングに収納可能な筈だった。 はいここ試験に出ますよ。 >>勿論土を運んだり踏み固めるといった真似をするにも、労力は掛かるだろう。 そこは勿論、土…
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