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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2663/3865

2663話

 マルカやニッキーと話をし、それが一段落すると二人は自分の部屋に戻っていった。

 それを見送ると、レイはこれからどうするべきかを考える。

 セトと共にエグジニスの中を色々と見て回るか、ゴライアスを捜すか、リンディと会って色々と聞くか、マジックアイテムやゴーレムについて見て回ってもいいのだが、どうしようかと考えていると、不意に扉がノックされる。


「誰だ?」

『失礼します、私はとある御方に仕えている者です。主人がレイ様とお会いしたいと要望しているのですが、可能でしょうか?』


 早いな。

 それが、扉の向こうから聞こえてきた相手に対して、レイが思ったことだ。

 マルカ達が出ていってから、まだ数分だ。

 だというのに、その数分でこうして自分の部屋を尋ねてくる者がいたということは、恐らくマルカがいなくなるのを待っていたのだろうということは予想出来る。


(つまり、廊下でこの部屋を見張っていたのか? ……いや、そういう気配はなかったし、そうなるとやっぱりこれは偶然なのか?)


 だとすれば、あるいは何らかのマジックアイテムでもあるのかもしれないなと思いつつ、今の状況で貴族や商人の相手をするのは面倒だと思い、口を開く。


「悪いが、もう少ししたら出掛けるんだ」

『そうですか。分かりました。では、主人にはそのようにお伝えします』


 思いの他あっさりと相手が引き下がったことに、レイは感心する。

 ここでしぶとくレイと話そうとしても、それはレイに悪印象を抱かせるだけだと、知っているのだろう。


(次に来たら会ってもいいかもしれないな)


 そんな風に思いつつ、出掛ける準備を整えると部屋から外に出る。

 先程声を掛けてきた相手は、既に廊下にいない。

 このままここにいれば、また誰かに話し掛けられるかもしれないと、急いで厩舎に向かうのだった。






「結構明るいな。それもマジックアイテムの明かりだ」

「グルゥ」


 マルカと話している間に、既に日は暮れていた。

 夏もそろそろ終わりに近付いてきているので、以前と比べると日が暮れる時間は早くなっている。

 とはいえ、それでも懐中時計で時間を確認すると、まだ午後七時前といったところだが。

 そのような時間だけに、多くの者が酒場や食堂で食事をし、酒を飲み、あるいは酔っ払って喧嘩をしている者もおり、周囲に止められている。

 中には激しい喧嘩となり、警備兵がやって来るといった様子もあった。


「この辺はゴーレムじゃないんだな」


 ゴミ拾いはゴーレムに任せていたので、あるいは警備兵の仕事も全てではなくても、ある程度はゴーレムが代わりにやってるのでは? と予想していたのだが、その予想が外れた形だ。

 もっとも、ゴミ拾いであれば対象はゴミだ。

 多少失敗しても、そこまで大きな問題にはならない。

 しかし酔っぱらい同士の喧嘩となると、話が違ってくる。

 酔っ払っているだけに、どういう行動をするのか予想するのは難しい。

 それが原因で、ゴーレムが酔っ払いを傷付けてしまうといった可能性も、否定は出来ないのだ。

 だからこそ、酔っぱらい同士の喧嘩を止めるとなると、ゴーレムではなく警備兵が最適となる。


(まぁ、噂に聞く高性能なゴーレムなら、もしかしたら人間でないと駄目な仕事とかも出来るようになるのかもしれないけど)


 近くで売っていたサンドイッチをセトと分けて食べながら、レイはエグジニスの中を見て回る。

 当然だが、セトの存在は多くの者の目を惹く。

 しかし、レイにとってそれはいつも通りのことでしかない。

 ギルムにいる時は多くの者がセトを愛でる為に見るし、近付いて来る。

 それに対して、現在向けられているのは恐怖と好奇心。

 好奇心を抱いているのは、恐らくロジャーと同じような錬金術師だろうなと予想は出来る。

 幸い、ロジャーと違ってセトに危害を加えようとする相手はいないので、好奇心の視線を向けられても、レイとセトは特に気にした様子がない。


「このサンドイッチは、そこそこだな。……出来ればもっとエグジニスの名物料理とか、そういうのを食べたかったんだが。しまったな。リンディやロジャーにその辺を聞いておけばよかった。……店は、大半が閉まってるし」


 夜になったので、当然ながら店の多くは閉まっている。

 食堂や酒場、あるいは盛り場にあるような様々な店はまだ開いているし、これからが稼ぎ時といった様子だったが、マジックアイテムやゴーレムを売る店は既に閉まっていた。

 全ての店が閉まっている訳ではなく、探せばまだ開いている店もあるのだろうが……生憎と、レイはこのエグジニスにやって来たばかりで、その辺については詳しくない。

 リンディがいれば、まだ開いている店に案内して貰えたのかもしれないが。


(いや、この場合はニッキーの方がいいのか? 兄貴とか言ってくるくらいだし、店の案内くらいは……マルカを放っておく訳にもいかないし、まさか夜の街に連れ出す訳にもいかないから無理か)


 お転婆なマルカだが、だからといってまさか夜の街に出す訳にもいかない。

 そうである以上、マルカの護衛のニッキーも宿の外でレイを案内したりは出来ないだろうと、諦める。

 軽い性格のニッキーだったが、コアンの代わりにマルカの護衛を任されている人物だ。

 そんな人物が、まさかマルカを放っておいてレイと一緒に街中に繰り出すとは……そう思い、ニッキーの性格を考えると、もしかして? と思ってしまう。


「取りあえず、今日のところは適当に見て回ってから帰るか。宿にいれば、他にも会いに来る連中が多そうだし」


 貴族や商人達にしてみれば、深紅の異名を持つレイと知り合いになっておきたいと思うのは当然だろう。

 それはレイも分かるが、だからといってそれに付き合いたいかと言われれば、それは否だ。

 そう思ってセトと一緒に色々な店を見て回っては、買い食いしていく。

 最初こそセトの存在に驚くような者もいたが、レイとしてはこうしてセトを連れ回していれば、いずれはセトを見ても怖がらなくなるだろうという予想があった。

 言ってみれば、今日は顔見せ的な意味合いの行動と言ってもいい。


「うーん、それにしても……あまり珍しい料理はないな」

「グルゥ……」


 幾つかの屋台を見てみたが、どこの屋台も一般的な料理しか売っていない。

 敢えて珍しい料理となると、川魚の塩焼きくらいだろう。

 エグジニスの近くにはそれなりに大きな川があり、そこで獲れた魚らしい。

 しかし、川魚というだけならギルムでもそれなりに料理に使われている。

 エグジニスには、ギルム程ではないにしろ、多くの者達が集まってくるのだから、もっと地方色豊かな料理が多くあってもいい……というか、それを期待していただけに、レイとしては完全に期待を裏切られた思いを味わっていた。


「まぁ、ゴーレムで有名な街に珍しい料理とかを期待した俺が間違ってたのかもしれないけど」

「おっとぉ! そこのお兄さん。そういう風に言われちゃ、エグジニス育ちの俺としちゃあ、黙っていられないね」


 レイの呟きが聞こえたのか、少し離れた場所にいた男がレイに向かってそう声を掛けてくる。

 一瞬また面倒事か? と思ったレイだったが、声に悪意の類はない。

 改めて声のした方に視線を向けると、そこにいたのは十代後半といった年齢……レイより若干年上に見える男だった。

 そんな男に対してレイが口を開こうとするが、それよりも前に男は話し始める。


「さっきの呟きからすると、兄さんはエグジニスに来たばかりなんだろ? なら、まだこのエグジニスの楽しい場所を全く理解していないんだ。なのに、もうエグジニスを分かった気になられたら、それは少し困るな」

「そう言われてもな。こうして見た限りだと、特に何か変わったところはないぞ? ……まぁ、ゴーレムの数が多いのはともかく」


 日中に比べて、酔っ払いが多くなった為だろう。

 道端に捨てられるゴミは、明らかに多くなっていた。

 そのゴミを片付ける為に清掃用ゴーレムの数も多くなっており、ゴミを拾い続けている。

 レイの気のせいかもしれないが、ゴミを拾うゴーレムはどことなく嬉しそうにすら見えた。

 もっとも、清掃用のゴーレムはその名の通りゴミを拾う為に作られた存在だ。

 自分の仕事を思う存分出来るということは、ゴーレムにとって嬉しいのかもしれないが。


「そうか? エグジニスでは、この光景はいつものことだしな。俺にとっては、見慣れたものだよ」


 そう告げる男の言葉に、レイもだろうなと納得する。

 例えば自分の故郷が評判になるような綺麗な海だったり湖だったり……あるいはそれ以外の光景があったとしても、それを見慣れている者にしてみれば、その光景は日常でしかないのだ。

 そういう者達にしてみれば、自分達の日常にある光景を見て感激する者がいるのを疑問に思う者すらいるという。

 そういう意味では、目の前の男にとって清掃用ゴーレムはいて当然の存在であり、それを見て感心しているレイの様子に疑問を抱いてもおかしくはない。


「その辺は人によって大きく違うだろうな。俺にしてみれば、清掃用のゴーレムがこんなに街中にいるってのは、かなり珍しいよ」


 清掃用のゴーレムによって、エグジニスは他の街よりも間違いなく清潔だった。

 それが普通になっている者にしてみれば、自分達がどれくらい恵まれているのかというのは理解出来ないのだろうが。


「そういう風に言う奴は珍しいな。……まぁ、いい。それよりもエグジニスが普通の場所であまり面白くないと思ってるのなら、俺がエグジニスらしい場所に案内しようか? ゴーレムが好きなら結構満足して貰えると思うぜ?」


 その言葉に、レイは興味を抱く。

 このまま適当に歩き回っていても、特に面白い出来事はないように思える。

 あるいは、セトの存在を見て絡んでくる酔っ払いだったり、それを装っての行動をする者もいる可能性はある。

 そういう意味では、面白い出来事が起きる可能性もあるのだが……しかし、どうせならエグジニスらしい場所の様子を見ることが出来るのなら、そっちに興味を向けるのは当然だった。


「それはありがたいな。けど、そういうのを俺にする意味が何かあるのか?」

「別に何も思ってはいないよ。ただ、折角エグジニスに来たんだから、出来ればエグジニスを楽しんで欲しいと思っただけだ」

「ふーん。……セト、どうする? ちょっと行ってみるか?」

「グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは少し考えてから喉を鳴らす。

 行ってもいいよ、と。

 そう自分の意思を示すセトを見て、レイは男に向かって頷く。


「セトも構わないそうだから、よろしく頼む」

「……今ので、行くって言ったのか? まぁ、いいけど。ただ、その、セトだったか? さすがにこれだけの大きさだと入るのは無理だぞ? 外で待ってて貰うことになると思うが」

「残念だけど、セトが店に入れないってのは頻繁にあることだからな。ただし、もし店の外にいるセトに何か危害を加えようとした場合、そいつがどうなっても知らないぞ。特にこのエグジニスでは、ゴーレム専門の錬金術師が多いから、セトの素材を欲しがる奴が多そうだし」


 セトを襲ったロジャーの一件もあって、レイは前もってそう言っておく。

 そんなレイの言葉に、男は少し困った様子を見せる。

 その様子からすると、もしかしたらレイが言ったような出来事があるかもしれないと、そう思ったのだろう。

 実際、これから男がレイを連れていこうと思っていたのは珍しい物好きが来る場所となる。

 それ以外にも、ゴーレムを作っている錬金術師や、何となく雰囲気が気に入っているといったような者達も含まれてはいるが。

 そのような場所である以上、中にはセトを見つけてちょっかいを出すような者がいてもおかしくはない。

 そのちょっかいが、セトを愛でるといった方に向かうのならセトも問題はない。

 しかし、ロジャーのようにセトを自分の物にしたいと思って行動するような者がいた場合、その相手は殺されるようなことはないだろうが、それでも怪我くらいは当然するだろう。

 怪我をしたのが地位のある人物であった場合、後々問題になるのは確実だった。


「その、出来るだけ怪我をさせないようにしてくれると、こっちとしても助かるんだが……もしくは、その、セトが外で待っていても暇なだけだし、宿に置いてくるとか?」

「宿に置いてくるといった選択肢はないな。今日こうしてセトを連れ歩いているのは、セトという存在を見せつけて、怖くないといった印象を与える為なんだから。……そう考えると、酔っ払いが多いというのは気が大きくなってる奴がいるって意味で悪くないけどな」

「いや、酔っ払いなら人によっては完全に酔っ払ってる時のことを忘れるんじゃないか?」


 そう告げる男を促し、レイはセトと共にエグジニスらしい場所とやらに案内して貰うのだった。

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