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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2662/3865

2662話

「それは、また……レイらしいと言えばらしい出会い方じゃな」

「うわー……あのロジャーにそんな真似をするなんて、兄貴って呼んでもいいっすか?」


 レイがどうやってロジャーから紹介状を貰ったのかといった話をすると、それを聞いたマルカは笑いを堪えきれない様子を見せ、ニッキーにいたっては言葉遣いすら先程とは違うものになり、レイに向かって兄貴と呼んでもいいかとすら言ってきた。

 レイにしてみれば、この二人がそのような態度をするということは、リンディから聞いたように、やはりロジャーはこのエグジニスという街で大きな影響力を持っているのだな、と。そう納得する。

 ……レイとしては、出会い方が最悪に近い状況だったし、その後のやり取りもあってか、ロジャーに対してそこまで凄い人物といった印象はない。

 その辺の認識の違いが大きいのだろうが、レイは特に気にした様子もなく目の前にある紅茶を口に運ぶ。

 ここはレイが泊まることにした宿、星の川亭にある一室。

 ホテル風の様子に違わず、部屋も値段によってランクが分けられていた。

 そんな中で、レイが泊まる部屋は平均よりも少し上といったランクの部屋。

 レイの資金があれば、それこそ最高級の部屋に泊まることも出来たのだろう。

 だが、レイとしてはそこまでの部屋でなくても、この部屋で十分満足出来た。

 もっとも、最高級の部屋に興味があるのなら、その部屋に泊まっているマルカに見せて貰えばいい話なのだが。

 マルカとしてはクエント公爵家の令嬢という立場もあり、また本人も次代の実力者と見なされていることもあり、見栄というのが大事だった。

 だからこそ、マルカ本人はそこまで気が進まなかったが、最高級の部屋に泊まることになったのだ。

 マルカの性格からすれば、そこまで豪華な部屋というのは好みではないのだろう。


「ロジャーは腕利きだったという話だったが、それでも現在エグジニスで売られているっていう、今までとは比べものにならないくらいのゴーレムには及ばないんだろ?」

「それはそうじゃが、それでもそのゴーレムが出て来るまでは常にエグジニスの中で最高峰の性能を持つゴーレムを作っていた者の一人じゃぞ? レイに分かりやすく言うのであれば……ふむ、ランクA冒険者、それも異名持ちに近い存在といったところか」


 その言葉に、レイは恐らく自分のことを言ってるのだろうというのを理解する。

 この部屋に来て話をし始めた時、レイはその辺については既に話してあった。

 ……あるいは、ニッキーがレイを兄貴と呼ぶようになったのは、ロジャーの件もあるが、そちらも影響してる可能性がある。


「そういうものか。ただ、俺が欲しいのはロジャーの制作したゴーレムじゃなくて、高性能なゴーレムの方なんだけどな。勿論、それ以外にも色々と便利そうなゴーレムがあれば欲しいけど」


 そんな中でもレイが興味を示しているのは、街中で見掛けたゴミ掃除用のゴーレムだろう。

 自動的にゴミ掃除をしてくれるようなゴーレムであれば、マリーナの家でも便利に使える筈だった。

 とはいえ、マリーナの家は精霊によって快適にすごせるように整えられているため、ゴーレムが掃除をしなくても精霊が掃除をしてくれるのだが。


「ふむ、高性能なゴーレムか。レイもそれが狙いじゃったか。しかし……あのゴーレムは生産性が低く、数も少ない。値段の方はともかくとして、購入出来るかどうかは、正直運次第じゃぞ? 妾が欲しておるのも、同じゴーレムじゃしな」

「お前達も噂の高性能ゴーレムが目的だったのか? いやまぁ、マルカがわざわざエグジニスまで来てるんだから、その辺は当然のことなのかもしれないが」

「正確には、この宿に泊まっている者の多くが高性能ゴーレムを狙っておる筈じゃ。もっとも、本気で購入を狙っている者や、運よく買えればいいといったような者もおるので、それぞれの熱意は違うのじゃろうがな」


 なるほどと、レイはその言葉に納得する。

 そもそもの話、高性能なゴーレムというのは数が少ないと聞いていた。

 そうである以上、当然ながら購入しようとしても出来ないということを考えておく必要がある。

 貴族の類はともかく、商人であれば特にそうだろう。

 ここでゴーレムを買うのは、あくまでも商売の為なのだから。

 ……もっとも、余裕のある商人であれば、商品ではなく自分の持ち物としてゴーレムを使ってもおかしくはなかったが。


「そうなると、やっぱり運次第か。……戦って一番強い奴がゴーレムを購入出来るとか、そういうのはないか?」

「ある訳がなかろう」


 レイの言葉に、マルカは呆れの視線を向ける。

 そんなマルカとは裏腹に、ニッキーは顔を引き攣らせていたが。

 マルカの護衛としてエグジニスに来ている以上、もしレイの言うように戦って勝利した者がゴーレムを購入出来るといったようなことになった場合、当然だがマルカを戦いに出す訳にはいかない。

 そうなれば、戦いに出るのはニッキーとなる。

 そして戦いになった場合、ニッキーはレイと戦うことになるかもしれないのだ。

 ニッキーも、コアンの代わりにマルカの護衛を任されるだけの実力を持つ人物だ。

 その辺の冒険者が相手であれば、余裕で勝てるといった程度の技量は持っているし、その自負もあった。

 しかし、それはあくまでもその辺の冒険者を相手にした場合だ。

 異名持ちのランクA冒険者を相手にして、とてもではないが勝てるとは思わなかった。

 また、レイはクリスタルドラゴンの件を言ってはいなかったが、もしクリスタルドラゴンを倒した……つまりドラゴンスレイヤーでもあると聞かされれば、絶対に、心の底から戦うのはごめんだと言うだろう。


「だとすれば、オークションとか? だとすれば、ゴーレムの数にもよるけど、少し不安があるな」


 レイはこれまでの依頼の報酬や、盗賊狩りによって蓄えは人生を数度生まれ変わっても遊んで暮らせるだけのものがある。

 だが、星の川亭に集まっている者達は、いずれもが貴族や大商人のような裕福な者達だ。

 当然ながら、そのような者達はレイに負けない程の資産を持っている者は少なくない。

 この星の川亭に泊まっている者達も、希少な高性能ゴーレムを購入しようとしてきているのを思えば、レイが買えるとも限らない。

 特にレイが口にしたオークションの形式ともなれば、競り合って相手に負けてたまるかといったように、通常よりも高い金額を出す者もいる。

 出来ればオークションではなく、もっと自分にもチャンスのある方法で購入者を決めてくれればいいのだがと、そんな風に思う。

 とはいえ、結局のところ購入方法を決めるのはレイではなく、そのゴーレムを作っている者達なのだが。


「以前オークション形式で販売したことがあったそうじゃが、オークションが終わった後で色々と問題があったようでな。それ以後はもうオークションはやらなくなったらしい」

「それは、また……」


 何となく、レイにもその問題というのが予想出来た。

 オークションというのは、その場にいる者達で値段をつり上げていく代物だ。

 これがネットオークションのように他にオークションに参加している者が分からないのならそこまで問題にならないのかもしれないが、お互いの顔を見せて取引をしているとなれば、オークション終了後に落札した相手を攻撃して商品を奪うといったようなことがあってもおかしくはない。

 勿論、このようなオークションに参加している時点で相応の資産はあり、護衛を用意していたりもするのだろうが……それでも、絶対ではない。


「そうなると……オークションじゃなくて、もっと別の方法か。例えば、向こうが指定する素材を持ってくるとか。それなら俺にも結構勝ち目はあるかもしれないな」


 レイのミスティリングの中には、多数の素材が入ってる。

 その素材の中には非常に希少な素材もあるし、あるいはレイが持っていない素材であってもエグジニスの近くに存在するモンスターの素材を持ってくるといったようなことであれば、セトのいるレイが有利になる。


「そのような時もあったらしいな。妾が聞いた話では、最近はなくなったらしいが」

「ぬぅ……そうなると、どうやってだ?」

「さて、その辺は妾にも分からぬよ。ただ、突然ゴーレムを購入出来るようになったという者もおるし。そういう意味では、錬金術師達がどうやってゴーレムを売るのか、その相手を見定めておるのかもしれんの」

「そうなると、俺がどう判断されるのかだな。……セトの毛とかで、どうにかなればいいけど」


 レイにしてみれば、ロジャーが言っていたようにセトそのものを寄越せというような要望には一切応えるつもりはない。

 だが、毛や羽根の類であれば、セトが普通に生活しているだけでも抜けたりする。

 そのような物であれば、レイもセトの素材として売り渡すといったことをしても心が痛まない。


「お主、それはずるいじゃろう」


 セトの素材という言葉に、マルカは恨めしそうな視線を向ける。

 クエント公爵家であっても、グリフォンの素材というのはそう簡単に入手出来るものではない。

 ましてや、セトはただのグリフォンではなく、数多のスキルを使いこなす希少種だ。

 ……実際には、魔獣術で生み出された存在である以上、特殊なキメラでもあるのだが。


「まぁ、あくまでもそういう風に出来たらと思っているだけだよ。向こうが欲しがらないというのなら、結局のところ意味はないけどな」


 そう言うレイだったが、ロジャーがセトの素材を欲しがっていたのを思えば、恐らく錬金術師達も欲しいと思うだろうと予想していたが。


「それに、俺はゴーレムの件以外にも色々とやるべきことがあるしな」

「ふむ? レイがわざわざやるべきことじゃと? 興味があるのう」


 言葉通り、興味深そうな視線をレイに向けるマルカ。

 ニッキーはそんなマルカの様子に嫌そうな表情を浮かべる。


「マルカ様、妙なことに首を突っ込むのは止めて下さいよ。兄貴の迷惑になるっすよ」

「じゃが、ニッキー。レイのやるべきことじゃぞ? それに興味はないか?」

「う……」


 マルカの言葉に、ニッキーは何も言えなくなる。

 実際、ニッキーもこのような状況でレイが何をやろうとしているのかは、気になるのだ。

 ゴーレムを買いに来たレイが、それ以上に優先すること……それは何なのかといったように、マルカはレイを見て、ニッキーもそれに釣られるようにレイを見る。

 そんな二人の視線を向けられたレイだったが、自分がやるべきことは特に隠すような必要もない。

 あるいは、これがマルカ達でなければ、あるいは話を逸らしたかもしれないが。


「別にそこまで興味を抱くようなことじゃないぞ? いなくなった冒険者を捜すだけだし」


 その言葉に、マルカの期待の視線は急速に熱を下げていく。

 冒険者がいなくなるというのは、それこそ珍しい話ではない。

 何らかの理由でエグジニスにいられなくなって出ていったというのもあるし、あるいは依頼を失敗して死んでいる可能性もある。

 他にも冒険者がいくなった理由は、幾らでも思い浮かべることが出来た。

 マルカもそれが分かっている以上、何でわざわざレイがそんな相手を捜す必要があるのだ? といったように思うのは当然だろう。


「一応聞いておくが、その冒険者はレイにとって重要な人物なのか?」

「重要かどうかと言われれば……別に重要じゃないな。こう言えばなんだけど、顔も知らない相手だし」


 レイの言葉に、マルカは心の底から不思議そうな表情を浮かべる。

 何故顔も知らない相手を捜すといった真似をするのか、それが分からないのだろう。


「あれっすか? その人物を捜すように依頼を受けたとか。兄貴は冒険者っすから」


 マルカと違ってある程度世間を知っているニッキー、冒険者としてギルドで依頼を受けてその人物を捜すのではないかと、そう尋ねてきたが、レイはその言葉に対しても首を横に振る。


「いや、別に誰からも依頼を受けたりはしていないな」

「……なら、何故そのような真似をするのじゃ?」

「そうだな、単純に言えば成り行きってところか」


 色々と現在の自分の状況を示す言葉を考えたが、結局レイの口から出たのはそんな説明だった。

 そう、アンヌやリンディにゴライアスという人物を捜してくれと頼まれた訳ではない。

 ただ、あの孤児院の現状を知り、そしてゴライアスが孤児院出身で冒険者として稼いだ金を寄付していたと聞けば、そのような人物が死ぬのは後味が悪いと、そう思ったのだ。

 あの孤児院が現在金銭的にかなり危ないのも、その辺は関係しているだろう。

 最終手段としては、レイが寄付をするといった方法もあったのだが……それだと、結局のところ問題の先送りにしかならない。

 その辺については、結局当事者達が解決していくしかないのだろうと、そう思うのだった。

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