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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2655/3865

2655話

 遠くに、巨大な……それこそ都市と呼んでもおかしくはないような街が見えてくる。

 現在のギルムよりは小さいが、それでも普通に考えれば街と呼ぶには少し無理のある規模だ。


「あれがエグジニスか。……セト、いつものように正門のすぐ側に降りるんじゃなくて、もう少し離れた場所に降りてから、歩いてエグジニスに向かうとしよう。セトが攻撃されたりしたら、洒落にならないし」

「グルルゥ」


 レイの言葉に、分かった! と元気よく喉を鳴らすセト。

 アンヌ達のいた孤児院のあった街から出る時は、何人かから驚かれ、怖がられたりもして悲しい思いもしたのだが、今はレイと一緒に空を飛べるということで十分に満足出来ていた。

 それが分かるからこそ、レイはセトをそっと撫でながら声を掛けたのだ。


(エグジニスでも、やっぱり最初はセトが怖がられるか? いや、けどさっきの街とは違ってエグジニスには結構長期間滞在する予定だ。……頻繁にギルムに戻る予定ではあるけど。そうである以上、エグジニスの住人もセトには慣れてくれる筈だ)


 もっとも、それでもギルムの時のようにほぼ全ての住人がセトに慣れるといったようなことはないと思われた。

 レイが泊まる予定の宿や、その周辺の住人達や、レイが行くだろう店。

 そのような場所では、何度もセトと会う以上はいずれ慣れてくれるだろうと、そういう思いがある。

 そんなことを考えている間に、セトは地面に向かって降下していく。

 セトも初めて会う人を驚かせるのはどうかと思っているのか、街道から少し外れた場所に着地した。

 レイやセトにしてみれば、周囲の人達……特にエグジニスの警備兵に対して気を遣った行動だったのだが、エグジニスに向かって街道を進んでいた者達にとって、そんなセトの存在は警戒すべきことだった。

 エグジニスには、大商人や貴族といった者達が多数向かう。

 そのような者達は当然のように護衛を雇っており……ましてや、エグジニスに向かう途中では盗賊が多く出るという話も聞いていた。

 エグジニスの姿が見えているこのような場所であっても、盗賊が襲ってくる可能性というのは否定出来ない。

 そんな中で街道から少し離れた場所にセトが降りてきたのだから、警戒するなという方が無理だった。

 とはいえ、幾らエグジニス周辺に盗賊が多いとはいえ、空を飛ぶ存在……グリフォンを従えているというのは、考えられない。

 そしてミレアーナ王国の中には、グリフォンを従えている有名な異名持ちの冒険者の姿があった。

 そう判断し……街道の中でも、特にレイ達から近い場所にいた集団から、騎兵が一騎レイ達のいる方に向かって近付いてくる。


「グルゥ?」


 近付いてくる騎兵に対し、どうするの? とセトが自分の背中から降りたレイに尋ねる。

 レイは何も問題ないとセトを撫でながら、騎兵を見ていた。

 十分に近付いたところで、それ以上は馬が怖くなって近づけなくなる。


(あまりいい馬じゃないな)


 それが、レイの感想だ。

 しっかりと訓練された馬……戦場であっても怯えるようなことがない馬であれば、セトを怖がったりはしない。

 エレーナの馬車を牽く二頭の馬がその典型だろう。

 しかし、近付いてきた騎兵の馬は、セトの存在に怯えている。

 それでもある程度の距離まで近付くことが出来たのは、曲がりなりにも訓練された馬だからか。

 これが殆ど訓練されていない、ただ馬車を牽くだけの馬であれば、そもそもここまで近付くことも出来なかっただろう。

 場合によっては、少しでもセトから遠ざかろうと暴走するといった可能性もあった。


「え? あれ、おい。どうした? ほら、進むんだよ。なんで足を止めるんだ? おい」


 馬に乗っていた兵士は、何故か急に足を止め、意地でもそこから前に進まないといった様子の自分の愛馬に疑問を抱きつつ、一分程苦戦していたが、やがてどうあってもこれ以上は馬が進まないと判断したのだろう。

 これ以上は馬で進むのを諦め、馬から降りてレイのいる方に歩いてやってくる。

 そんな兵士の外見は、二十代といったところか。


「君は、深紅のレイで間違いないか?」

「ああ」

「やっぱり。グリフォンを従えている冒険者は、私が知ってる限り深紅のレイしかいないからね。その、よかったら私達と一緒にエグジニスにいかないか? ここにいるということは、レイもエグジニスに用事があるんだろう? 私の主が、是非君と話をしてみたいと言ってるんだが」

「そう言われてもな。……俺と一緒に移動するということは、当然だがセトも一緒だぞ? あの馬みたいに、動けなくなったりしたら困るんじゃないか?」

「それは……」


 レイの言葉に、兵士は何も言い返せない。

 実際、自分の愛馬が一定の距離から動かなくなったのは事実だったからだ。

 そうである以上、レイやセトを連れていけば同じようなことになる可能性は十分にあった。


「セトを離れて移動させるって訳にはいかないし、そうなると難しいんじゃないか?」


 そう言うレイだったが、面倒なことは遠慮したいという思いもあった。

 こうして騎兵を従えている以上、その主人というのは当然のように大商人か貴族だろう。

 その辺りの事情を考えると、ここで問題は起こしたくない。

 ここがエグジニスから離れた場所ならいいのだが、これからエグジニスに入るというのに、そこで問題を起こすというのは色々と不味いと判断した為だ。


「む……むぅ……少し待っていて欲しい。主にその辺りについて聞いてくるので」


 そう言い、兵士は馬のいる場所に戻っていく。

 この場から離れるというのは、馬にとっても嬉しい話だったのか、先程までセトの側に移動しようとしていた時に全く動かなかったのが嘘のように、馬はすぐに動く。


(現金だな)


 馬を見ながらそんな風に思うレイだったが、馬の生存本能を考えると、寧ろそれは当然のことだと言えるのだろう。


「さて、どうするセト? 俺としては、このままあの兵士の主人と一緒に行ってもいいんだが……そうなると、セトをどうするかが問題になるな」


 レイはランクA冒険者のギルドカードを持っている。

 それを見せれば問題はない筈だったが、先程の兵士の主人が警備兵に取り次ぐような真似をすれば、もっと楽にエグジニスに中に入ることは出来るだろう。

 街中に入る際の面倒は、出来るだけ避けたいと思うのは当然の話だった。


「グルゥ」


 セトは迷いながらも、レイに任せるといったように喉を鳴らす。

 出来れば、セトとしてはレイと一緒に移動したい。

 だが、どちらの方が後々得なのかということを考えれば、やはりここはレイと少し離れて移動した方がいいのかも……と、そう思う。

 レイはそんなセトを撫でながら待つ。

 すると数分程で、先程の兵士が再び馬に乗って姿を現した。

 とはいえ、馬は当然のようにセトから離れた場所で足を止め、そこからはどうあっても足を動かすような真似はしなかったが。

 兵士は渋々といった様子で地面に降りて、レイの方にやってくる。


「主が、可能であればそれでも話をしたいと言っているのだが……どうだろうか?」

「そこまで言うのなら、俺はそれでも構わないけど。セトはどうするんだ? やっぱり離れた場所を歩かせるのか? それはそれで危ないと思うけど」


 この場合の危ないというのは、セトが危ないのではなく、セトに襲いかかった者が危ないという意味だ。

 ランクAモンスターのグリフォン――実際にはスキルの関係で希少種と認識され、ランクS相当なのだが――がいるのを見れば、他の者達が危ないと判断して倒そうと攻撃しようとしたり、もしくはグリフォンの素材が欲しくて攻撃をしたりといったようなことになりかねない。

 もしそのようなことをした場合、敵対した相手と認識したセトによって、間違いなく大きな被害を受けるだろう。

 そのようなことにならないようにする為には、やはりセトの側にレイがいるのが最善なのだが。


「いや、主の乗っている馬車の側にグリフォン……セトだったかと一緒に近付いてみて欲しい。主の乗ってる馬車を牽く馬は、しっかりと鍛えられている馬だ。そうである以上、グリフォンが近付いても大丈夫だと思う」


 その言葉の全てを信じた訳ではなかったが、向こうがここまで譲歩している以上、レイとしてもある程度譲歩してもいいと判断する。

 これが、貴族や大商人といった地位にある者が、権力を使って強引にレイに命令をするといったようなことがあった場合、レイもまた相応の対処をしただろう。

 そういう意味では、兵士の主人という人物は上手い具合にレイと接した。


「分かった。けど……俺とセトがあの馬車に近付くってことは、その護衛が馬車に近づけないってことになるんだけど、それは大丈夫か?」


 護衛をする人物が、護衛対象の指示によって離れるというのは、レイにしてみれば本末転倒でしかない。


「こちらもそう言ったんだが……」


 そう言い、困った様子を見せる兵士。

 どうやら主人は頑固で、兵士の言葉を聞くといったようなことはなかったらしい。

 もっとも、兵士にしてみれば主人と話すのはレイだ。

 異名持ちの冒険者が側にいるのだから、それこそ盗賊やモンスターが出たとしても、対処するのは容易だろうという考えもあった。

 ……護衛がそれでいいのかと言われれば、返す言葉もないのだが。

 レイも兵士をこれ以上困らせるつもりはなかったので、それ以上その辺を突くのは止めておく。


「分かった。セトと一緒でもいいっていうのなら、こっちとしては何の問題もない。ただ、くれぐれも馬車を牽く馬が暴走したりしないように、気をつけてくれよ」


 兵士の言葉を信じるのであれば、馬車を牽く馬はセトが近付いても問題はない筈だった。

 だが、それはあくまでも兵士から聞いただけの話であって、実際に試してみた訳ではない。

 実際にはセトが近付いたら、馬が暴走して馬車諸共にどこかに向かって走り出す……といったようなことになる可能性は十分にあるのだ。

 だからこそ、レイとしては出来ればそうならないようにと思う。

 しかし、兵士はそんなレイの様子を見ても全く問題ないといったように……それどころか、自信満々といった様子で口を開く。


「大丈夫。主がそう言ってるのだから、もし何かあっても主が責任を持つよ」

「いいのか、それ?」


 兵士の言葉は、主に責任を丸投げしているようにしかレイには思えない。

 だが、兵士がそう言うのなら……と、レイはセトと共に馬車のある方に向かう。

 兵士が乗っていた馬は、セトが近付いて来るのを見ると、そのまま逃げ出そうとし……だが、その直後、兵士によって押さえられる。


「ほら、落ち着け。大丈夫。大丈夫だから」

「ブルルルル」


 兵士のその言葉に、馬も多少は落ち着いた様子を見せる。

 そんな光景は、馬車に近付くにつれて他の騎兵隊の間でも起こっていた。

 ……当初は、レイを呼びにいった騎兵が自分の馬を満足に御せていない様子に笑ったり呆れたりしていた者達だったが、セトが近付いてきたことによって自分の馬の挙動がいつもと違うようになり、振るえていたり、一歩も動けなくなったり……場合によっては、それこそ走って逃げ出そうとする様子を見せていた。

 しかし……そんな中で、馬車を牽いてる馬だけはセトをじっと見てはいるものの、何か普段と違う様子にはならない。

 この辺り、レイが兵士から聞いた説明が正しかったということなのだろう。


(動けないじゃなくて、動かないって感じだしな)


 動けないと動かないというのは、似てるようで大きく違う。

 主と呼ばれる人物を運んでいる馬車を牽くに、十分な能力を持つ馬なのは間違いなかった。

 ……もっとも、それでもエレーナの馬車を牽く馬と比べると、さすがに格は一段も二段も落ちてしまうが。

 エレーナの馬車を牽く馬は、それこそケレベル公爵という巨大な権力と財力を持つ人物が、娘の為に金に糸目を付けずに集めた馬だ。

 それこそ、種別的には動物であるが、外見的にはその辺のモンスターよりも圧倒的な迫力を持っている。

 外見だけではなく、実際にその辺のモンスター程度であれば容易にその蹄が踏み砕くだろう。

 そんな規格外な馬と比べられるような馬は、そう簡単に見ることはできない。

 当然のように、レイの視線の先にいる馬車を牽く馬もまた、そのような相手と比べるのが間違いだった。

 レイの考えを読んだのか、馬は不満そうな様子を見せる。

 そうして馬車に近付いていくと……やがて馬車の窓が開き、そこから一人の男が顔を出す。

 年齢としては三十代から四十代といったところか。

 その男は、レイとセトを見て満面の笑みを浮かべて口を開く。


「レイ、私はニーグル・ドレステン男爵だ。ダスカー様と同じ中立派の者だ。よろしく頼む」


 そう、名乗るのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レイになんのメリットも無いの貴族や商人らしき人と行動を共にしようとするのは不自然なような........。
[気になる点] 兵士の主が何処の誰でどんな立場の人物かも確認せずに一緒に行こうと決めるのはかなり軽率なような... せめてもう少し相手の素性を確認してからにした方が自然な気もしますが。
[気になる点] 馬の製造本能→馬の生存本能 ですね。
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