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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2636/3865

2636話

「じゃあ、取りあえず出してみて」


 マリーナに促され、レイは舞台の上でクリスタルドラゴンの死体をミスティリングから取り出す。

 当然ながら、舞台の周囲は周囲から見えないようになっている。

 ただし、それをやったのはレイが先程ギルドに来た時に舞台を見えなくしたイーガルではなく、マリーナだ。

 現在舞台はマリーナの精霊魔法によって、周囲から見えないようになっていたのだ。

 それも、ただ土の壁で舞台を覆うといったような真似はせず、土、風、水の三つの精霊の力によって舞台の周辺は覆われている。

 どのような効果によるものなのか、まるでマジックミラーのように向こう側からは舞台は見えないのだが、舞台の上にいるレイとマリーナからはしっかりと舞台の外側は見えていた。

 最初にこれを見たイーガルは、ショックを受ける……かと思いきや、マリーナの精霊魔法である以上は当然だと納得し、寧ろ自分の魔法についてのアドバイスを貰ったことで、嬉々として領主の館に帰っていった。

 イーガルもダスカーが信頼している部下の一人である以上、当然ながら現状では色々と仕事がある。

 この場所をマリーナに任せられるのなら、喜んで自分は仕事に戻ると言って去ったのだ。


「これは……凄いわね……」


 クリスタルドラゴンの死体を見たマリーナの口からは、感嘆の声が漏れる。

 首を始めとして切断されている場所もあるので、完全な状態ではない。

 だが、その完全な状態ではないというのが、また見た者に戦いがどのようなものだったのかという、そんな姿を見せることが出来た。


「まぁ、強かったしな。それに見応えも十分にあるし。ダスカー様が公開しようと思うのも、理解出来るだろ?」

「そうね。……寧ろ、この死体を私が先に見たとなると、ダスカーも羨ましがると思うわよ?」


 マリーナの言葉は、レイにも納得出来るものだった。

 ダスカーのクリスタルドラゴンの死体に対する思いは、公開して他の者達に見せるということからも窺える。

 とはいえ、あくまでもクリスタルドラゴンの死体の所有権はレイにあり、ダスカーもそれを十分に理解してはいるのだが。


「なら、どうする? 今からダスカー様を呼んでくるか?」

「やめておきましょう。ダスカーも今はワーカーと色々と打ち合わせをしているでしょうし」


 ダスカーとワーカーは、色々と接することが多い。

 それでも今は双方共に仕事が忙しいので、以前までのように頻繁に会うといったことは出来ていなかったが。

 それでも手紙のやり取りをしたりすることで、意思疎通の類は行われていた。

 レイが特殊な昇格試験を受けることになったのも、その二人の相談が理由なのだから、意思疎通がしっかりしていることの証だろう。


「それに、どうせ見せるのならしっかりとクリスタルドラゴンの死体を公開出来る状態にしてからがいいでしょ?」

「まぁ、そう言われると」


 折角なのだから、しっかりとした状態で見せた方がいいというマリーナの意見には、レイも納得出来るところがあった。


「じゃあ、どういう風に死体を設置する?」


 レイとしては、自分にその手の芸術的なセンスがないのは分かっているので、この件は完全にマリーナに任せるつもりだった。

 そもそもマリーナはその為にやって来たのだから、それが当然だろうという思いがレイにはある。

 そんなレイの様子に、マリーナは少し考え、指示していく。

 死体を迫力があるように見せる為に、精霊魔法まで使う力の入れようだ。

 その為、首を始めとして切断された部位も空中に浮かび、きちんと切断面とくっついているように思える。


(なるほど。マリーナが呼ばれたのは、この件もあってか。……精霊魔法って凄いよな。いや、凄いのはここまで精霊魔法を使いこなせているマリーナだけど)


 実際、精霊魔法を使える者は、普通の魔法使いよりも少ないが、皆無という訳でもない。

 だが、マリーナと同じレベルで精霊魔法を使える者がいるのかと言われれば、レイとしてはとてもではないが頷くことは出来ない。

 もっとも、世界は広い。

 世の中にはマリーナよりも精霊魔法を使いこなせる者がいても不思議ではないのだが。


「どう?」

「凄いな」


 満足げに尋ねるマリーナに、レイは素直に頷く。

 見るからに迫力があるクリスタルドラゴンは、下手をしたらこのまま動き出すのではないかと思うくらいに躍動感がある。

 こうなると、倉庫で血を抜いておいたことが吉と出た形だ。

 もしクリスタルドラゴンの死体の中にまだ血が残っていれば、舞台を血で汚してしまうだろう。

 とはいえ、その血は新種のドラゴンの血であり、素材としても一級品だ。

 もし血が死体から落ちるようなことがあれば、その血が落ちた舞台の一部を欲する者はかなり多いだろう。

 そういう意味でも、やはりクリスタルドラゴンの血を取りだしておいて正解だったのは間違いない。

 もっとも、マリーナの精霊魔法があればその辺もどうにか出来た可能性は十分にあったのだが。


「うん、繰り返しになるけど、凄いとしか言えない」


 レイの言葉を聞き、マリーナは改めて満足そうな表情を浮かべる。

 この手の作業は今まで何度かやったことがあるが、受ける印象というのはその人によって変わる。

 例えばAという人物が気に入るものであっても、Bという人物はどうしても受け入れられないといったようなことは、珍しくないのだ。

 ある意味、相性によってその辺りは大きく変わると言ってもいい。

 そうである以上、もしかしたらマリーナが飾り付けたクリスタルドラゴンの死体を気にくわないとレイが思っても、おかしくはなかった。

 それだけに、マリーナはレイが心の底からこの光景に満足していると知り、安堵したのだろう。


「取りあえずこれで完成したとして……どうする? もう少しゆっくりと見るか? それとも、ダスカー様を呼んでくるか?」

「そうね。もう少しゆっくりと見させてちょうだい。……私も、色々な場所に行ってきたけど、このクリスタルドラゴンというのは、初めて見るわね」


 知的好奇心を優先させ、そう告げるマリーナ。

 クリスタルドラゴンに触れ、その感触に納得の表情を浮かべる。


「クリスタルドラゴン……ね。相応しい名前だわ」

「一応言っておくけど、クリスタルドラゴンってのは俺が適当に考えただけで、正式な名前じゃないぞ?」

「あら、でもこれは新種のドラゴンなんでしょ? だとすれば、その名前をつけるのはレイよ。勿論、相応しくない名前なら変えるように言われるかもしれないけど、クリスタルドラゴンなら名前はそのままでいいでしょ?」


 改めてそう言われると、レイも納得する。

 実際、目の前の死体を見てクリスタルドラゴンと言われれば、納得出来るものではあった。


「モンスターに名前をつけるのか。……そう考えれば、少し感慨深いものがあるな」


 日本でも……いや、地球でも、新種の生物を見つければ、それに名前をつけることは出来る。

 あるいは生き物ではなくても、新しい星を見つけても名前を付けることは可能だった。

 それをレイも知っているだけに、名前をつけると言われて、色々と思うところがあったのだろう。

 もっとも、南米のアマゾンを始めとして、その気になればすぐにでも未知の生き物を見つけるといったことは出来るのだが。


「そうね。その辺を気にする人はそれなりにいるわ。私はあまり気にしないけど」

「そういう風に言うってことは、名前をつける機会があったのか? なければ、そんな風には言わないし」

「そう? 元々気にしないのなら、その辺は特に気にしなくてもいいと思うけど。……まぁ、でもそうね。以前に未知のモンスターと遭遇したことが何度かあったけど、結局名前をつけるといったようなことはなかったわね」


 そうしてレイと言葉を交わしながらも、マリーナの手はクリスタルドラゴンの死体に触れ続けていた。

 数分、レイとマリーナはクリスタルドラゴンの死体に触れながら話をしていたのだが、やがてマリーナは残念そうに手を離す。


「そろそろダスカーを呼んできましょう」

「いいのか? もう少しゆっくりしていてもいいと思うけど」

「いえ、やめておくわ。ドラゴンはかなり興味深い存在ではあるけど、いつまでもこうしている訳にはいかないでしょうし」


 そう言いながらも、マリーナは若干残念そうな様子を隠せない。

 本心では、やはりもう少しクリスタルドラゴンの死体に触っていたり、色々と調べたりしてみたいのだろう。

 マリーナはモンスターに興味がある訳ではないものの、それでもやはり新種のドラゴンとなれば話は違うらしい。


「じゃあ、ダスカー様を呼びに行くか」


 そう言ったレイは、マリーナと共に舞台から下りてギルドに向かう。

 当然の話だが、ギルド職員の大半はマリーナのことを知っている。

 マリーナのことを知らないのは、応援として他からやって来たギルド職員達だったが……そのようなギルド職員でも、マリーナの名前くらいは聞いたことがあったし、一目見ればマリーナが普通の存在ではないというのは理解出来た。

 そんな中で最初に反応したのは……当然のように、レノラとケニーだ。

 レノラはレイの担当の受付という点から、ケニーはレイが来たということか。


「ダスカーとワーカーに伝言をしてくれる? 準備が整ったから、確認するために見に来るようにと」


 本来なら、マリーナが直接ダスカーとワーカーのいる執務室に行ってもいいのだが、既にマリーナはギルドマスターではない。

 そうである以上、勝手にマリーナがギルドの奥にある階段を使って執務室に行く訳にはいかなかった。

 これが何らかの緊急事態であれば、また話は変わってきただろうが。

 レノラが一礼し、カウンターの奥に向かうのを見たマリーナは、早速レイに話し掛けているケニーに呆れの視線を向ける。


「ケニー、仕事の方はいいのかしら?」

「ええ、取りあえず一段落したところですから。……ちょうど、少し休憩したいと思っていたところですしね」


 そう言うケニーの前にある書類を見てみると、確かにその書類は一段落したようなところだった。

 マリーナもそれを見れば、ケニーが頑張っているというのは理解出来たので、レイに話し掛けるケニーにそれ以上は何も言わないことにする。


「レイ君、結局何をしたの?」

「その辺はまだ秘密だな。ただ……驚くのは間違いないと思うから、楽しみにしていてくれ」

「えー……少しくらい教えてくれてもいいじゃない」

「こういうのは、前もって知っていても面白くないだろ?」

「それは……まぁ、そうかもしれないけど」


 せっかくのサプライズなのに、そのサプライズの内容を知っていたら驚けないだろう。

 とはいえ、ケニーもギルド職員だ。

 解体を仕事をとしている者達が倉庫に集められているのは知っている。

 ……というか、それによって自分達の仕事が増えたのだから、それを忘れろという方が無理だろう。

 この忙しい時に人を引き抜くといった真似をするのだから、当然ながらそれは相応の理由があるのは当然であり、それがレイの言ってる件に関わっていると判断出来たのは、さすがと言うべきだろう。

 恋する女の勘、というのも多分に関係しているのかもしれないが。


「取りあえず、舞台の件はもう少しで皆が知るだろうから、それまで我慢してくれ」

「しょうがないわね。レイ君の言うことだから、こうして信用するんだからね? その辺、しっかりと理解してるわよね?」


 もしこれがレイでなければ、どうにかして聞き出していた。

 暗にそう告げるケニーに、レイは少しだけ困ったように頷く。


「あら、残念だけどそこまでね」


 と、マリーナの声がレイとケニーの会話を中断させる。

 そんなマリーナにケニーは不満そうな様子を見せるが、マリーナの視線を追えば、そこにはダスカーとワーカーが自分達のいる方に向かってきているのが見える。

 それを見れば、ケニーもマリーナが話を中断させた理由を理解し、渋々といった様子だが再び書類仕事に集中する。

 さすがにギルドマスターと領主のいる前で、レイと話を……それも重要な話ではなく、世間話をしたいとは、言えないのだろう。

 そうしてケニーが書類に戻るのと、レノラが案内する形でダスカーとワーカーがカウンターまで来るのはほぼ同時だった。


「レイ、マリーナ。用事ということは……舞台の件はどうにかなったのか?」

「はい。マリーナのおかげで、無事に。なので、ダスカー様にも見ておいて貰った方がいいかと思って」

「うむ。では早速見に行くとしよう」


 何だかんだと、ダスカーもクリスタルドラゴンの死体を見るのは楽しみだったのか、レイ達を率いてギルドの外に出るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、ケニーってあんま好きになれないなぁ
[一言] 「うむ。では早速身に行くとしよう」 身に行くとしよう × 見に行くとしよう 〇
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