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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2624/3865

2624話

 武器屋で購入した槍は、どれもが鍛冶師になって武器を打てるようなったばかりの者が作ったという槍だけあって、品質としては二流どころか、三流、もしくは四流……あるいはそれ以下といった代物だったが、それでもレイにとっては十分だった。

 何しろ、これらの槍は元々使い捨てで投擲するのだから。

 今までそのような武器は、それこそ武器屋には必ずあるゴミとして廃棄される為の場所から貰っていた。もしくは半ば捨て値に近い値段で買っていた。

 そういう、穂先が欠けていたり、柄の部分が壊れそうになっていたりするような槍に比べれば、ここで売っている槍は見習いとはいえ、鍛冶師が打った槍だ。

 投擲した時に使い捨てとなるのは変わらないだろうが、命中した時の威力は以前までのような壊れそうな槍と比べても、間違いなく上がる。

 ……具体的にどのくらい上がるのかは、それこそ試してみなければ分からないのだが。

 レイは槍を纏めて購入出来てラッキー。

 店員も在庫が減ってラッキー。

 お互いに損のない取引を終えたレイは、満足しながら店を出た後は他にも何か掘り出し物の店でもないかと思い、初めて来る場所を楽しんでいた。

 とはいえ……そういう初めて来る場所で、しかもレイはセトを連れておらず、更にはドラゴンローブのフードを被っているので、顔を完全に把握することは出来ない。

 そしてドラゴンローブには隠蔽の効果があり、それによってその辺で売っているようなローブにしか見えないという状況になっていた。

 だが、それでもレイがよく行く場所であれば、レイであると認識して絡んでくるような馬鹿はいないものの、初めて来る場所となると……


「おっと、悪いがここから先を通りたければ、通行料として有り金を全て置いていって貰おうか」


 そう言い、手に持つ短剣の刃を舐める男。

 周囲にはそんな男の仲間か手下か、何人か獲物を見るような目をレイに向けている。

 ……獲物を狙うという意味では、レイが遭遇した屋台の店主と同じようなものだったが、視線の種類は同じでもその格は違う。

 当然、屋台の店主の方が圧倒的に上で、現在レイに絡んで来ている男達が下だ。


「はぁ、こういう面倒なのはとっとと駆除するに限るな」


 レイの口から出た言葉に、男達は不愉快そうな表情を浮かべる。

 何人かは、顔を真っ赤にしながら額に血管を浮かび上がらせて怒り心頭といった様子だった。

 当然だろう。男達にしてみれば、レイはその小柄な身体とその辺に売っている普通のローブを着ているようにしか見えないのだ。

 どんなにしっかりと見ても、精々が魔法使い見習いといったところか。

 ただし、魔法使い見習いであっても、魔法発動体となる杖を持っていないこともあり、それこそ戦闘力という点では圧倒的に劣るような人物にしか見えない。

 ……あるいは、男達の中に多少なりとも相手の強さを見抜いたり、感じたりするような能力を持っている者がいれば、レイのちょっとした仕草からでも腕利きだと気が付いた可能性はある。

 だが、男達にとって不幸なことに、そのような者はいなかった。


「取りあえず、消えろ。俺はこう見えても冒険者だぞ。お前達が戦って勝てる相手じゃない。そもそも、こんな下らないことをやってるのなら、冒険者にでもなって働いたらどうだ? 今なら、危険なギルムの外に行かなくても、街中で幾らでも仕事があるだろうに」


 増設工事で、それこそどこも人手は幾らでも欲しがっている。

 そうである以上、仕事をする気があれば仕事に困るようなことはない。

 そもそもの話、腕利きの冒険者が多数いるギルムにおいて、恐喝のような真似は非常に危険だ。

 今回は絡んだ相手がレイだったからいいものの、冒険者の中には相手が素人でもあっても平気で殺そうとする者もいる。

 そういう意味では、レイはまだ優しい方なのだろう。

 ……レイがそう思っていることを他人が聞いて、どう思うのかはまた別の話だったが。


「てめえっ!」


 レイの言葉に我慢の限界が来たのか、男達は殴り掛かってくる。

 だが、特に鍛えてる訳でもなく、街中で素人を相手に行っていた喧嘩の技術しかないような者達が、多数で掛かってもレイをどうにか出来る筈もなく……十秒と持たず、男達は全員がその場に崩れ落ちる。


「ぐ……くそ……先生、先生! 何をしてるんだよ! 助けてくれよ」


 倒れて、それでもまだ意識のあった男がそう叫ぶと少し離れた場所にある屋台で串焼きを食べていた男が近付いてくる。


「どーれ。全く、俺を頼るようなことになったら、面倒だろうが。絡む相手……を……」


 先生と呼ばれた男は、最初こそ倒された男達に呆れの視線を向けていたものの、それをやった相手……レイに視線を向けると、何も言えなくなる。

 レイを見たことがあったのか、それとも自分とレイの実力差を感じる程度の力はあったのか。

 その辺はレイも分からなかったが、レイを見た男の顔は急速に青くなっていき、冷や汗が顔一杯に浮かぶ。


「あ……ああ……」


 そんな言葉を上げる男に、レイは視線を向けながら口を開く。


「で? やるのか?」


 ぶんぶんぶん、と。

 見ていて首が大丈夫か? とレイが思ってしまう程に、素早く首を横に振る男。

 そんな男に驚いたのは、レイもそうだが、やはりレイに絡んできて、現在は地面に倒れている男達だろう。

 全員の意識がある訳ではなく、寧ろ多くの者が気絶しているのだが、それでもまだ意識があった者は一体何があったのかといったように先生と呼んでいる用心棒の男を見る。

 男達にとって、用心棒の男は圧倒的な強さを持っている存在だった。

 それこそ、自分達では何をどうやっても勝てるような相手ではなく、だからこそ今まで大きな顔をしていたのだ。

 絡んだ相手には、自分達だけでは勝てないような相手もいた。

 そのような相手であっても、用心棒の男が出てくれば、あっさりと自分達が勝ったのだ。

 だからこそ、今回も自分達は負けたものの、用心棒の男が出てくれば自分達の勝利は間違いないと、そう思っていた。

 だというのに、自分達が見ている光景はなんなのか。


「こんな連中の用心棒をしているなら、冒険者として活動しろよ。そこそこの腕はあるんだろ?」

「分かってる。けど、俺だとギルムのモンスターには勝てねえんだよ」


 ああ、なるほど。

 男の言葉を聞いて、レイはそう納得する。

 増築工事で働く者達、あるいは商人の護衛か何かとしてギルムにやって来たものの、ギルムで普通に冒険者として活動することは出来ない、そのような技量の持ち主。

 中途半端に強い為に、増築工事の仕事をするといったような真似はどこかプライドが許さず、こうしてチンピラ達の護衛として働いていたのだろう。

 レイにしてみれば、どうせ用心棒をやるのなら、このようなチンピラ達ではなく、もっとしっかりとした店の用心棒でもやればいいものを、と思ってしまう。

 もっとも、店の用心棒をやる場合は、当然店で暴れている相手と戦う必要が出て来る。

 その店がどのような店なのかにもよるが、自分よりも強い相手がいた場合、男では勝てない。

 いや、勝てないというのはそこまでおかしなことではないのだろうが、男はそうして負けるといった姿を周囲に見せるのが嫌だったのだろう。


「取りあえず、お前の様子から何となく話は分かった。……俺からはこれ以上は何も言うことがないな。後は好きにしろ。ここで腐っていくのもよし、冒険者として活動するもよし」


 そう言い、レイはやる気も失せたといった様子でその場から立ち去る。

 いつもなら、それこそ自分に絡んで来た相手からは金や装備品を奪ったりといったような真似をするのだが、用心棒とのやり取りでレイはそんな気をなくしていた。

 ……ある意味、用心棒としての仕事を多少なりとも果たしたのかもしれない。

 レイはその場から立ち去り……用心棒の男は、自分がレイから相手にもされなかったことを悔しく思うのだった。

 この後、この男は奮起して再び冒険者として活動するようになり、将来的にはランクB冒険者まで昇りつめるのだが……それはまた後の話。

 また、そんな男と一緒のパーティを組んでいる男達は、一時期ギルムでも手の付けられないチンピラとして知られていた者達だったのだが、これもまた今は関係のない話だった。






「全く、気分よくまわってたのにな」


 チンピラ達に絡まれた場所から離れ、現在レイはまたも見知らぬ場所にやってきていた。

 何度か通ったことのある道を少し外れるだけで、こうして見覚えのない場所になるというのは、レイにとっても新鮮ではあった。

 ギルムという、自分のホームグラウンドであるにも関わらず、こうしてまだ見知らぬ場所がある。

 そんなことがどこか新鮮で、途中で購入したサンドイッチを食べながら、その辺を歩く。

 とはいえ、増築工事の仕事だったり、明後日の祭りだったりで、多くの者が現在は忙しそうに動き回っている。

 そういう意味では、レイも何となく浮き足立つような気持ちがあった。

 ……途中で何度か喧嘩騒ぎを目にしたが、またそれに絡まれるのも面倒だと判断してそっちには手を出していない。

 あるいは、その騒動が周囲に広がりそうになっていれば、話は別だっただろうが。

 それ以外にも、警備兵や治安維持の為に雇われている冒険者達が来ているというのも、レイが喧嘩騒ぎに関わらなかった理由だろう。

 そうして歩いていると……ふと、近くの食堂から聞こえてくる声があった。

 正確には、食堂の中ではなく、外に用意したテーブルで食事をしている男の声。

 客の数が多く、店の中に入りきれない時もあるので、こうして……一種のオープンテラスのようにしていたのだろう。

 そんな中で、具たくさんのスープと野菜と一緒に炒めた肉、そしてパンを食べている男が、口を開く。


「本当だって。その街で作られたゴーレムはかなり高性能なんだよ」


 ゴーレムという単語に、レイは興味を抱く。

 ローリー解体屋の地下倉庫で、ある種のゴーレムが使われていたことを思い出したのだ。

 レイとしては、別にそこまでゴーレムに興味があった訳でもないし、ゴーレムを用いるつもりもなかったのだが、それでも珍しかったということもあって、その話が気になった。

 少し空腹だったこともあり、レイはゴーレムについて喋っている男の方に近付いていく。


「興味深い話をしているな。少し聞かせてくれないか?」

「は? 誰だよ、あんた」


 男にしてみれば、自分の話を全く信じない友人に、どうにかして自分が見てきた光景を話すといった真似をしていたところで、急に話し掛けられたのだ。

 話の邪魔をされたと不機嫌そうな様子を見せる男に、レイは店員を呼んで酒と食べ物を適当に注文する。

 勿論、酒はレイが飲むのではなく、ゴーレムについて話していた者達に対するものだ。

 話を聞かせて貰う情報料という意味もあるし、それ以外にも口の滑りをよくする為というのもある。


「奢るよ。俺もちょっとゴーレムに興味があってな」


 実際には、さほどゴーレムに興味がある訳ではない。

 ただ、今日は特にやるべきこともないので、半ば暇潰しという意味の方が強い。

 ローリー解体屋の地下倉庫で見たゴーレムが、かなり便利そうな代物だったというのもレイが気になった理由の一つだが。

 ゴーレムは当然のように生き物ではない。

 そうである以上、レイの持つミスティリングに収納も可能だ。

 色々と便利なゴーレムがあったら、それを買ってミスティリングに一つや二つ入れておいてもいいのではないかと、何となく思ったのもこうしてレイが話を聞くつもりになった理由の一つだったが。

 ともあれ、レイのことを不満そうに見ていた男は、レイが奢るというのを聞き、実際に酒や食べ物を注文したのを見て、それならばと満足そうに頷く。

 自分が見たゴーレムの凄さを話されていた男も、奢ってくれて、その上でゴーレムの話を自分の代わりに聞いてくれるのならと、不満はない。

 フードを被っているので、二人揃ってその人物がレイだとは気が付いている様子がなかったものの、レイにしてみれば余計な騒動にならないので、それは寧ろ助かる。


「で? どういうゴーレムがあるって?」

「おう、普通、ゴーレムってのは錬金術師とか魔法使いとか……そういう連中が作るんだが、そういうゴーレムってのは、どうしても動きが鈍いんだよ。こう……見ててゴーレムの動きだなと分かるくらいには。モンスターのゴーレムとかなら、魔石の関係からか、かなり動きが滑らかなんだが。けど、エグジニスっていうゴーレムの製造が盛んな街で俺が見たゴーレムは、それこそ人間と変わらない……ってのはちょっと大袈裟かもしれねえが、そんな動きをするゴーレムがあったんだよ」


 酒の力もあり、男は自分が見たゴーレムについて詳細に説明するのだった。

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[気になる点] お、これはもしやオゾス行きの伏線か? オゾスたまに話に出ても何故かすぐ忘れちゃうからめっちゃ気になる
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