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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験

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2621/4154

2621話

「これは、また……うん。随分と頑張ってくれたな」


 ローリー解体屋の地下倉庫にやって来たレイは、預かり証を渡して解体を頼んだモンスターの状況を見て、感心したように呟く。

 どのモンスターもしっかりと解体されており、素材として使えると思える部分や、食用として使える肉、そして魔石といった具合にしっかりと分けられている。

 魔の森のモンスターということで、大半が未知のモンスターだということもあり、どの部位が素材として使えるのか、もしくは食用に出来るのか……といったことが分からない為に、基本的には解体した全てがそこには並んでいた。

 さすがに胃の中や腸の中といった場所は綺麗に洗って掃除してあるが、それでもこれだけ肉や内臓といったものが多数あると、独特の臭いが周囲に漂う。

 とはいえ、ここは解体用の倉庫だ。

 ここで働いている者達もその臭いに慣れているというのもあるし、それ以外にもこの倉庫そのものに消臭用の設備やマジックアイテムが用意されている。

 今はこれだけのモンスターの死体が大量に並んでいるので、消臭用の設備やマジックアイテムもそこまで効果を発揮してはいないようだったが。


「殆どが未知のモンスターだったから、それを解体することが出来たのは俺達にとっても悪い話じゃなかったよ。こういう仕事をやっていれば、いつどんなモンスターの解体を頼まれることになるのか分からないからな」


 未知のモンスターの解体というのは、ここで働いている職人達にとっては、それだけで大きな利益となるのだ。

 そういう意味では、寧ろここの職人にしてみればレイには感謝しかない。

 ……実際、これだけ大量のモンスターの解体を頼んだということや、何よりも解体屋の費用が幾らくらい掛かるのかといったことをレイは知らなかったので気が付かなかったが、実は解体費用は本来の値段よりも大分割引されていた。

 その理由こそが、未知のモンスターの存在だった。

 ローリー解体屋においては、未知のモンスターの解体を頼まれた場合、その情報料として解体費用が割引される。

 とはいえ、未知のモンスターの解体だけに、場合によっては解体が失敗するという可能性も否定は出来ない。

 勿論、ローリー解体屋の職人達は皆が値段に相応しいだけの腕利き揃いだけに、解体を失敗して素材を使い物にならなくするということは、基本的にはないのだが。


「助かった」

「いや、何度も言うようだが、未知のモンスターを解体出来たんだ。それに……昨日、レイが置いていってくれた肉はもの凄く美味かったしな」


 その男の言葉に、他の者達も同意するように頷く。

 本当に……心の底から、あの肉は美味かったのだ。

 それを考えれば、あの肉をくれたレイの為に頑張るというのは当然のことだった。

 中には、もしかしたらまたあの牛肉を貰えるかも? と考えている者もいたが、レイはそのような真似をするつもりはない。

 昨日食べたステーキの味を思い出せば、自分達の取り分を減らすというのは考えられない。

 寧ろ、あの牛肉はもっと確保しておいて、いつでも食べたいと思う。

 レイもこの世界に来て、色々と美味い肉は食べてきた。

 だが……あの牛肉は、様々なモンスターの肉を食べてきたレイにとっても、間違いなく最高クラスの肉と言ってもいい。

 その上、モンスターそのものはそこまで強くはないのだ。

 ……とはいえ、それはあくでもレイやセトだからこそ、そこまで強くないと言い切れるのだが。

 魔の森の周辺に棲息しているモンスターだけに、その辺の冒険者が束になって掛かったとしても、太刀打ち出来るかどうかは微妙なところだろう。

 ギルムには腕利きの冒険者も多数いるので、そのような者達であれば倒せるかもしれないが……基本的に魔の森には近付いてはいけないので、そう簡単に近付けない。

 魔の森の近くに移動するまでに、一体何匹のモンスターに襲われ、何度の戦いを行わなければならない事か。

 しかし、レイの場合はそのようなことを気にする必要はない。

 セトに乗って飛べば、地上を移動するよりも圧倒的に速く移動出来るし、モンスターと戦う回数も圧倒的に少なくなる。

 空を飛ぶモンスターもそれなりにいるのだが、そもそもセトの気配を察知して襲ってくるようなモンスターはそう多くはない。

 また、何よりも大きいのは、やはりレイが持つミスティリングだろう。

 腕の立つ冒険者が魔の森の近くで牛と戦っても、その巨体故に死体を持ち帰るのは、難しい。

 それこそ、アイテムボックスの廉価版を持っていれば、何とか一匹を持ち帰れるといったところで、そのアイテムボックスの廉価版すら、かなり高額なマジックアイテムとなる。

 それ以外だと馬車で運ぶといった方法もあるが、牛の重さを考えるとそこまで多くを運ぶことは出来ない。

 何より、そのような場合は馬車の死体に惹かれて多くのモンスターが襲ってこないとも限らなかったし、馬車を牽く馬が殺されてしまえば、自分達で運ぶ必要があり、そうなればモンスターの襲撃への対応も遅れてしまう。

 結局のところ、牛を倒して十分に確保するといった真似が出来るのは、レイ達以外には難しい。

 ……それでも絶対に不可能だと言い切れないのが、ギルムに集まっている冒険者の技量の高さを示しているのだろう。


「モンスターの飼育が出来ればいいんだけどな。あの牛はかなり高ランクのモンスターだったし、ギルムであっても難しいだろ」


 そう言えば、以前誰かとゴブリンの牧場について話したことがあったような……とうろ覚えの内容を思い出しつつ、レイは牛の牧場は余計に無理だろうと思う。

 高ランクモンスターである以上、牛の攻撃力は非常に強力だ。

 それはつまり、牧場を作ってもあっさりと破壊して逃げられるか……場合によっては、ギルムの住人に被害が出る可能性も高い。

 とてもではないが、そう簡単に出来るような代物ではない。


(もしやるとすれば、ダスカー様が領主として本格的にやるつもりになれば、もしかしたら……と思わないでもないけど、今はとてもではないがそんな状況じゃないしな)


 現在のダスカーは、それこそ幾らでも仕事がある。

 増設工事や祭りの準備が主なものだが、それ以外にも緑人による香辛料畑であったり、地上船の工場について……といったようなものがある。

 それらを考えれば、とてもではないが高ランクモンスターの牧場をやるなどといった真似は出来ないだろう。

 そもそもの話、もし牧場をやるのなら魔の森から牛を連れてくる必要がある。

 それも殺してではなく、生きたままだ。

 レイのミスティリングには死体を収納することが出来るが、生きている存在を収納するような真似は出来ない。

 魔の森から生きたまま牛を連れてくる。

 それも一匹や二匹ではなく、牧場が出来るだけの規模が必要になる。

 普通に考えれば、到底無理だ。

 そんな風に考えつつ、レイは地下倉庫でのやるべきことを全て終えて地上に向かう。


「さて、こうなると……これからどうするべきだろうな。本来ならトレントの森に顔を出す筈だったんだけど」


 しかし、今日はセトがレイと一緒にいない。

 そうである以上、トレントの森や湖に顔を出すにしても、自分で行く必要がある。

 ……樵や冒険者達は皆が毎日移動しているのだから、レイもやってやれないことはないのだろうが。

 だが、人間一度楽を覚えると、それを捨てるといった真似は容易に出来ない。

 セトであれば、それこそ数分で到着するだけの距離を歩いて移動するというのは、レイにとっても面白くなかった。


「なら……ん?」


 これからどうするべきかと考えながら道を歩いていたレイは、ふと足を止める。

 視線の先にある屋台が、妙に気になった為だ。

 ただし、それは屋台で売っている料理が気になったとのではなく、屋台の店主が気になってのことだった。

 勿論、美形であったり、あるいは筋骨隆々の大男だから……といった訳でもない。

 外見は中肉中背、二十代から三十代程の男で、顔立ちも美形でもなければ不細工でもない……それこそ平均的な顔をしている。

 一目見ても、後で思い返そうとすれば全くどのような人物なのかが分からないような男。

 そんな男ではあったが、目が違う。

 客寄せをしながらも、周囲を見ている男の目は獲物を探しているかのような印象をレイに与えた。


(俺の気のせいか?)


 単純に目つきが悪いだけ、もしくは屋台に客寄せをするのに必死なだけかもしれないと思うも、そんな男の様子を見ていると妙に気になり……視線を感じたのか、不意に男はレイの方を見る。

 こうして視線を感じるといっただけで、屋台の店主がただの一般人でないことは確実だったが、同時に屋台というのは冒険者が趣味でやっていることも多い。

 そう考えれば、例えレイの視線を感じてもそんなにおかしなことではなかった。


「そうだな、このまま観察していても意味はないだろうし、小腹も空いた。なら……ちょっと買ってくるか」


 呟き、レイは屋台に向かって進む。

 自分に視線を向けていたレイが屋台に近づいてきたことに若干驚いた様子を見せた男だったが、レイが客だと判断すると、笑みを浮かべて口を開く。


「いらっしゃい。何にしますか?」


 店主の言葉に、屋台に並べられている料理を見るレイ。

 そこにあるのは、串焼き。

 串焼きというのは、非常に一般的な料理だ。

 これだけの屋台がたくさんある以上、串焼きを売ってる屋台も当然のように多くなる。

 それだけに料理の技量や素材の珍しさ、あるいはそれ以外の何らかの売り――値段の安さや味付け等――が必要になるのだが、この屋台は特に何らかの売りがある訳でもなく、店主の外見と同様、平凡な串焼きだ。

 値段も他の串焼きに比べて安い訳でもなく……実際、そのような屋台だからか、レイの目から見てもあまり流行っているようには見えない。


「そうだな、串焼きを一本……いや、三本貰うか」

「毎度」


 そうして金を払って串焼きを受け取り、早速口に運ぶが……やはりと言うべきか、屋台としてやっていけるような味ではない。

 趣味で屋台をやっているものはともかく、仕事として屋台をやっている者は、競争は非常に厳しい。

 にも関わらず、レイが口に運んだ串焼きは……不味い訳ではないが、決して美味いとも言い切れない。

 肉の下処理がいい加減な為か、若干生臭さが残っているし、焼き加減も生焼けではないものの、火の扱いが得意ではない為か、かなり焦げている場所がある。

 多少の焦げであれば、串焼きという料理の手法を考えればおかしくはない。

 だが、レイが買った串焼きはかなり焦げの範囲が大きい。

 ……それでも一応屋台で売ってるだけに、食べようと思えば食べられない訳ではないのだが。


(そう言えば、焦げを食べると癌になりやすいって話を何かで見たことがあったけど……どうなんだろうな?)


 串焼きの焦げが広範囲にあった為か、レイはそんなことを思い出す。

 だが、レイが聞いたのは誰かと話していた時だったのか、それともTVか何かだったのか……その辺は全く覚えておらず、首を傾げる。

 実際には焦げの中に発癌物質が含まれているし、焦げを食べさせ続けたマウスが胃癌になったという実験もあるのだが、その食べた量は人間に換算した場合、毎日丼一杯の焦げを数十年食べ続けるといったような真似をする必要があり、実際には殆ど気にしなくてもいい程度でしかない。

 そんなことを知らないレイだったが、全く気にせず焦げの多い串焼きを食べていく。

 レイにしてみれば、現在使っている身体はゼパイル一門が総力を結集して作った代物だ。

 焦げを食べた程度で癌になるとは、到底思えなかった。


「どうですかね?」

「そうだな。……普通だ」

「普通ですか」


 普通という表現に何か嫌な思い出でもあったのか、残念そうな様子を見せる店主。

 レイにしてみれば、そんなに残念そうにするのなら、もっと調理技術を磨くなり、珍しい素材を用意するなりすればいいのにと思う。

 そう思いながらも、店主をじっと観察する。

 レイが側にいる為か、店主の目に先程のような獲物を探すような色はない。

 店主の方も自分がレイに何かを怪しまれているというのは分かっているのだろうが、それを態度に出すような真似はしない。

 ……寧ろ、レイに観察されるように見られて、それでも何も態度に変化がない辺り、よりレイが疑いを深くする原因となったのだが。


「ああ、ギルムで屋台を出すのなら、もっと工夫した方がいい。……本当に屋台を出すのが目的なら、だけどな」

「え? 一体何のことです?」


 意味ありげに告げるレイに、男は戸惑った様子を見せるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] どっかの組織が探り入れてる感じかねぇ すぐに忘れそうな特徴のない顔ってのは密偵とかそういう類の連中にありそうな要素だし 屋台の串焼きの味も可もなく不可もなくにして印象に残らないようにしてる感…
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