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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2610/3865

2610話

「じゃあ、これが預かり証ね」


 そう言い、ローリーはレイが渡したモンスターの死体三匹分の預かり証を渡す。

 その預かり証には、レイにはよく分からない略語が幾つか書かれていた。

 とはいえ、その辺の説明はして貰っているので、略語が何を意味するのかというのは理解している。

 ようは、解体したモンスターの肉や素材といった部位は全てレイが引き取るといったようなことが書かれているのだ。

 本来なら討伐証明部位の件も書かれていてもおかしくはないのだが、何しろ牛もオークナーガも未知のモンスターだけに、ギルド側で討伐証明部位は決まっていない。

 レイが金に困っているのなら、討伐証明部位についてもギルドと色々と交渉したりもしたのだろうが、幸いなことにレイは金に困っていない。

 それどころか、人生数度生まれ変わっても、その全てで遊んで暮らせるだけの財産を持っている。

 そうである以上、ギルドと交渉をしてまで討伐報酬を欲しいとは思わない。

 勿論、くれるのなら躊躇することなく貰うだろうが。


「さて、取りあえず夕方までは暇になったな」


 夕方になったら、ギルドに行って女王蜂の素材を受け取り、次に解体するキメラの死体を置いてくる必要がある。

 時間的には、まだ午後三時をすぎたところといった程度なので、まだ三時間程度の余裕はある。

 なお、ギルドでの用事が終わったら、次にローリー解体屋に戻ってきて牛とオークナーガの解体した素材や肉を受け取る予定になっていた。


「グルルルゥ、グルルゥ?」


 レイの横を歩きながら、牛の魔石はデスサイズに使わないの? と喉を鳴らすセト。

 折角魔石を入手したのだから、使えばいいのにと思っているのだろう。

 そんなセトの身体を撫でながら、レイは少し迷う。


「使わないかどうかとなると、やっぱり使いたい。ただ……問題なのは、どこで使うかだな」


 現在のギルムは、それこそ人のいない場所はないのではないかと思うくらい、多くの者が集まっている。

 そうである以上、下手な場所で魔石を使うような真似をした場合、誰かに見られる可能性があった。

 また、魔の森の近くに棲息するモンスターである以上、牛は間違いなく高ランクモンスターだ。

 そして高ランクモンスターであれば、これまでの経験から考えてスキルを習得出来る可能性が高かった。

 であらば、どうせなら新しく習得したスキル……もしくはレベルアップして強化されたスキルを試すという意味でも、出来れば人目がないだけではなく、それなりの広さのある場所がいい。


「そうだな、ちょっと騒がしいのも疲れたし、ギルムから離れるか」


 セトの飛行速度を考えれば、ギルムからある程度離れた場所に移動し、そこで魔石の使用とスキルを試すといった真似も出来る。


「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトもまた問題ないと嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、ギルムで皆と遊ぶというのも好きだが、レイと一緒にゆっくりしたいという思いもあった。

 そうして話が決まれば、レイは躊躇しない。

 すぐに門に向かい、手続きを終えてギルムから出る。

 その途中で何軒かの武器屋に寄り、壊れていて投げ売りされている槍を探したのだが……ギルムで働く者の数が増えた為か、そんな槍であってもそれなりに売れるようで、レイが買えたのは本当に状態の悪い物だけだった。

 もっとも、レイにしてみれば使い捨ての投擲用として欲していたので、投擲出来ない程に壊れている物ではなければ、問題なく購入したが。

 そうして数は少ないながらも槍を補充出来たことに満足しながら、セトの背に乗って空を飛ぶ。


「さて、こっちの方に今は人がそんなにいない筈だ」


 レイが向かったのは、毎年ガメリオン狩りの行われている場所だ。

 もう数ヶ月もすれば、ここにはガメリオンや、それを目当てにしたギルムの冒険者が大量にやってくるだろう。

 だが、まだ夏である今、そこに広がっているのは草原だけで、他に生物の姿は見えない。

 いや、よく探せばモンスターや動物の類がいるのだろうが、レイが今やるのは魔石を使うことだ。


「そうだな……セト、あの辺りに下りてくれ」


 レイが示したのは、草原にある岩の近くだ。

 そこまで大きくはなく、高さ二m程の岩ではあるが、デスサイズで魔石を切断するという光景を他人に見られるようなことはないし、スキルの習得か強化が行われたら、それを試す標的としてもちょうどいい。


「グルゥ!」


 セトもレイのそんな気持ちを理解したのだろう。

 翼を羽ばたかせながら、地上に向かって降下していく。

 そうして、ギルムを出てから十分も経たないうちに、レイは周囲に誰の目もない場所に到着した。


「さて……そうなると、やっぱりまずはこれからだな。一体どんなスキルを習得出来るか。セトの場合は、パワーアタックというパワー系のスキルを入手したけど」


 パワーアタック……ようは、ただの体当たりなのだが、それでも体長三mオーバーのセトが行う体当たり、それもスキルの効果つきだ。

 単純な効果でセトの身体能力も威力に影響されるおかげで、レベル一であっても大人三人が手を繋いだくらいの太さを持つ木の幹をへし折るような真似が出来る。

 そうである以上、レイも同じようなスキルを手に入れた場合、その威力はかなり強力な効果になるという可能性は否定出来なかった。


「グルルゥ」


 レイの言葉に、セトも期待するように喉を鳴らす。

 そんなセトを軽く撫でてから、レイは魔石とデスサイズをミスティリングから取り出し、魔石を空中に放り投げると同時に、デスサイズを振るう。


【デスサイズは『ペネトレイト Lv.五』のスキルを習得した】


 脳裏に流れる、アナウンスメッセージ。

 それは、スキルが強化されたことを意味してはいたが……


「ペネトレイト?」


 何故? と、レイの口から戸惑ったような声が上がる。

 当然だろう。牛のモンスターである以上、セトが新しく習得したように一撃の威力が上がるようなスキルを習得するか、そうでなければパワースラッシュのレベルが上がるかも? と思っていたのだ。

 それが、何故ペネトレイト? と。

 だが、改めて牛の姿を思い出せば、何となく納得出来た。

 牛は頭部に鋭い角を持っており、その角を使った一撃は牛の巨体と圧倒的な突進力を考えた場合、十分強力な一撃となったのだから。

 その一撃は突進……つまり、ペネトレイトと似たような部分がある。

 そうである以上、ペネトレイトのスキルが強化されてもおかしくはない。


「ともあれ、これでペネトレイトもレベル五か。……一体、どれだけ強化されたんだろうな」


 魔の森に行ったことにより、レベルが四だったスキルが幾つもレベル五になった。

 それは、レイにとってランクAへの昇格よりも、場合によっては大きな意味を持っている。


「グルルゥ!」


 先程頭に流れたアナウンスメッセージは、当然ながらセトにも聞こえていた。

 だからこそ、セトも強化されたペネトレイトを見たいと、そう喉を鳴らす。


「そうだな。レベル五になったことで、どのくらい強化されたのか。ちょっと試してみる必要があるか。セト、念の為に少し離れていてくれ」


 レイの指示に素直に従い、セトはレイから離れる。

 それを確認してから、レイはデスサイズの石突きを岩の方に向け、槍のように構える。


「ペネトレイト!」


 スキルを発動すると同時に岩に向かって駆け出し、石突きを槍のようにして放つ。

 その一撃は、あっさりと岩を砕き……それだけではなく、砕いた岩の周辺が螺旋状に抉れていた。


「これは……ドリル……?」


 そう、その螺旋はレイにとってドリルの一撃のようにしか思えなかった。

 ドリル……というのは、日本でも工業において使われている。

 だが、そのドリルとレイが口にしたドリルとは違う。

 レイが口にしたのは、俗に言うロマン武装としてのドリル。

 そんなドリルが放ったような一撃により、岩は砕かれたのだ。

 数十秒、改めてドリルを見て、デスサイズを見て、改めてレイは今の一撃が自分が口にしたようにドリルを使った一撃であったというのを理解する。


「ドリルか。レベル五になって強化されるとは思っていたけど……まさか、ここまでとはな」


 しみじみと呟く。

 レイとしては、ドリルにそこまで執着はない。

 それでも、こうして一撃の威力を見れば、レベル五のペネトレイトは極めて強化された存在だというのは理解出来た。


「グルルルルルゥ!」


 レイの様子に、セトは凄い! と激しく喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、このような攻撃は自分でも出来るものだろう。

 だが、それでもやはりレイがデスサイズを使って行った今の一撃は、セトを驚かせ、喜ばせるには十分だった。


「相変わらずレベル五になると強化されるのは変わらないんだな。まぁ、それでも十分にその実力を発揮していたから、構わないけど」

「グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうな様子を隠してはいない。

 デスサイズを使っている自分よりも喜んでいる様子を見せられれば、レイとしてもそんなセトの態度に笑みを浮かべる。


「ともあれ、最大の目的でもある牛の魔石の使用は終わった。これからどうする? まだ約束の夕方までは、結構な時間があるけど」

「グルゥ」


 そうだね、とレイの言葉に喉を鳴らすセト。

 時間的には、まだ夕方まで結構な時間がある。

 太陽も、夕陽へと姿を変えるまでは、まだかなりの余裕があった。


「少しここで遊んでいくか?」

「グルルルゥ!」


 遊んでいくかというレイの言葉は、セトにとって嬉しいものだったのだろう。

 周囲に響き渡る程の鳴き声を上げる。

 レイは、まさかこんなにセトが喜ぶとは思っていなかっただけに、少しだけ驚く。

 魔の森にいる時はずっと一緒だったし、ギルムに戻ってきてからもマリーナの家ではイエロと遊んでいたし、街中で活動している時は多くのセト愛好家がセトと遊んだ。

 それを考えれば、そこまで自分と遊びたがっているというのは予想外だった。

 それでも、そうして自分と一緒に遊びたがるというのは、レイにとっても嬉しいことではあったが。


「じゃあそうだな、取りあえず……これで遊ぶか?」


 そう言ってレイが取り出したのは、木の枝。

 犬とよく遊ぶ方法で、投げた木の枝を取ってくるというのがある。

 ……もっとも、セトはグリフォンで、獅子の要素もあることから、どちらかといえば猫科なのだが。

 しかし、それでもセトの性格という点で考えれば、人懐っこい犬のように思える。

 だからこそ、こうした遊びでも十分にセトが楽しめるのではないかと、そうレイは思ったのだ。


「グルゥ!」


 レイの取り出した木の枝で、セトも何をしようとしているのか理解したのだろう。

 嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でてから、レイは枝を構える。


「いいか、セト。この木の枝を取ってくるんだぞ? ……それっ!」


 その声と共に、投擲される木の枝。

 しかし、子供が投げるのではなくレイが投げた木の枝は、当然ながらかなりの速度で飛んでいく。


「グルゥ!」


 セトは素早く大地を蹴り、レイの投げた木の枝に向かって走り出す。

 その走る速度はかなり速く、それこそレイが投げた木の枝との距離を急速に縮めていく。


「お、これは……落ちる前にキャッチ出来るか?」


 猛スピードで走るセトは、まるでそんなレイの言葉が聞こえたのかのように一段と走る速度を上げ……そして木の枝が次第に地面に向かって落下していくところを、素早く跳躍し、見事にクチバシで咥えることに成功する。

 そうして木の枝を持ってきたセトは、凄いでしょ、褒めて褒めてといったように喉を鳴らしてレイに顔を擦りつけた。


「よしよし、よくやったな。なら……次は、これで試してみるか?」


 そう言い、レイがミスティリングから取り出したのは丸い木の皿。

 フリスビー代わりに使えるのではないかと、そう思っての選択だった。

 とはいえ、レイもフリスビーは小学校の頃に遊んだくらいで、あまり経験は多くない。

 また、当然ながらこの皿は食事の時に使っている皿で、別に高級品という訳でも何でもない、普通の職人が作った皿だ。

 当然だが、日本で売っているような皿とは違い、機械で作った訳ではないので正確な円形という訳ではなく、それが風の抵抗を受けて不規則に揺れる筈だった。


「グルゥ!」


 受けて立つ! といったように喉を鳴らすセトを見て、レイはそれなりに力を入れて、木の皿を投擲する。

 円形だけに、木の枝とは明らかに違う軌道で飛ぶ木の皿。

 セトはそんな木の皿を追って、地面を駆け出す。

 木の枝はその形からそれなりに風の抵抗にあって不規則に動いたが、木の皿はそんな木の枝と違って速度が出ながら不規則に揺れる。

 セトは急いで走り……そしてタイミングを合わせて、素早く跳躍し……見事木の皿をクチバシで受け止めるのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.六』『飛斬 Lv.五』『マジックシールド Lv.二』『パワースラッシュ Lv.五』『風の手 Lv.四』『地形操作 Lv.五』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.五』new『多連斬 Lv.五』『氷雪斬 Lv.四』『飛針 Lv.一』『地中転移斬 Lv.一』


ペネトレイト:デスサイズに風を纏わせ、突きの威力を上昇させる。ただし、その効果を発揮させるには石突きの部分で攻撃しなければならない。レベル五になったことで、一撃に螺旋ドリルによる追加効果が発生するようになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴァンパイアの魔石の吸收忘れた
[気になる点] 氷雪斬のレベルは2587話で4になってたはずです。
[一言] >>そうでなければパワーアタックのレベルが上がるかも? と思っていたのだ。 多分パワークラッシュかと。
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