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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2609/3865

2609話

活動報告の方にも書きましたが、カドカワBOOOKSにて、5周年記念の特設サイトが出来ました。

夕薙さんの素晴らしいイラストを見ることが出来ます。

また、私も記念のSSを書かせて貰いましたので、気になる方は以下のURLからどうぞ。


https://kadokawabooks.jp/special/5th-anniversary.html

 地下空間の中に入ると、そこでは多数の店員がそれぞれにモンスターの解体を行っている光景が見えた。

 その姿は、非常に忙しそうだ。


「これは、また。随分と繁盛してるんだな」


 レイの呟きに、隣にいたローリーは頷いてから口を開く。


「現在、ギルドは忙しいからね。解体も引き受けていない。……いや、基本的には引き受けていないと言った方がいいのかね?」


 基本的にはと言ったのは、レイが魔の森で倒したモンスター……ランクAモンスターを、ギルドで解体していると知っていたからだろう。


「そうだな。ギルドも今は忙しいし」

「……高ランクモンスターなら、うちで解体してもいいんだよ?」

「残念ながら、それは出来ないな。ギルドの方で解体して貰うってことで、もう約束されてるし」

「そう」


 短くレイに返すが、その口調には残念そうな色がある。

 ローリーにしてみれば、魔の森のモンスター、それもランクAモンスターを解体したいと、そう思っているのだろう。

 今回レイが頼むモンスターも、魔の森のモンスターではある。

 正確には牛のモンスターは魔の森の外で倒したモンスターなので、魔の森で棲息していないモンスターもいるのだが。

 それでも魔の森の近くで倒したモンスターである以上、そういう意味では問題ないのかもしれないが。


「それに、この状況を見るとかなり忙しいんだろ? そこに俺が魔の森のモンスターを大量に持ってきても、処理しきれないと思うけどな」


 元々、ローリーからは大量のモンスターを解体出来ないと言われていた。

 そういう意味では、ここに来てローリーの言動が逆転している形になる。

 

「まぁ、その件はそれでいいよ。……それで、どんなモンスターを解体して欲しいんだい?」

「取りあえず、この三匹だな」


 そう言い、レイは二匹の牛のモンスターとオークナーガを一匹取り出す。


「これが……」


 レイが持つミスティリングについても、話は聞いていたのだろう。

 若干驚いた様子は見せたが、それよりも興味を持ったのはやはりレイが取り出した三匹のモンスターだ。


「見たことがあるか?」

「……どっちも初めて見るね。特にこっちは……」


 ローリーの視線が向けられたのは、牛ではなくオークナーガの方だ。

 レイとしては、肉が美味いという意味ではオークナーガも悪くないのだが、それでもやはり純粋に肉の美味さという点では牛の方が上だ。

 それだけに、ローリーがオークナーガに集中したことに少しだけ驚く。


「オークナーガか?」

「オークナーガ……そう言うのかい?」

「いや、正式な名称は分からないな。俺の持ってるモンスター図鑑にも載ってなかったし、上半身がオークで下半身が蛇だから、単純にオークナーガと名付けただけだ。もしかしたら、もっとモンスターに詳しい奴なら正確な名前を知ってるかもしれないけど。……知らないか?」


 一応、といった様子でレイはローリーに尋ねてみる。

 解体屋としても優良店として知られているローリー解体屋の店長なら、多数のモンスターを解体してきている筈だ。

 であれば、もしかして……と、そう思っての問い。

 とはいえ、ローリー本人がオークナーガというのか? と尋ねてきていたことを考えれば、その辺りの反応から考えて、ローリーがオークナーガについての知識がないことは明らかだったが。


「初めて見るわね。……能力は?」

「簡単な魔法を使ってくる」

「魔法を? この個体が特別だとか、そういうことではなく?」

「ああ。全ての個体が纏めてだ。それも、オークナーガはオークの習性が強いのか、それとも単純に魔の森の中では弱い方だからなのか、ある程度の集団で活動していた」

「魔法を使うモンスターが集団で!?」


 レイの口から出た情報に、驚きの声を発するローリー。

 とはいえ、それは当然だろう。

 個体として弱くても、そして簡単な魔法しか使えなくても、そのような魔法を使える個体が集団で行動するというのは、非常に厄介な敵となる。

 レイやセトだからこそ、特に被害らしい被害もないままに勝ったのだが、もしその辺の冒険者がオークナーガの集団に遭遇すれば、それは極めて危険だろう。

 ギルムにいる冒険者なら、一発や二発の魔法であれば、回避するなり、防ぐなり……腕の立つ冒険者で魔剣やスキルの類を持っているのなら、斬り捨てるといったことも可能だろう。

 だが、それはあくまでも少数の場合の話だ。

 敵の数が十匹、二十匹、三十匹となり、その全てが攻撃魔法を使ってくるとなると、それこそ防いだり回避する方も、数発程度ならまだしも限界がある。

 このエルジィンにおいては、質が量を上回るといったことも珍しくはないが、それでも誰もが同じようなことを出来る訳ではない。

 いや、寧ろそのような真似を出来る者は非常に少数だ。

 そういう意味では、オークナーガは個としてはそう強くはない相手だが、群れとして行動している時は飛躍的に厄介さが上がるということになる。

 そうである以上、ローリーがこうしてオークナーガーの生態を聞いて驚くのは当然だった。


「ああ。とはいえ、初歩的な魔法だから、ギルムの冒険者なら、あるいは対処するのも難しくはないかもしれないけどな」

「いやいや、ギルムの冒険者は強い者が多いけど、全員がそれだけの技量を持っているって訳じゃないんだから。低ランク冒険者も大勢いるに決まってるだろ」

「……そもそも、低ランク冒険者ならオークナーガが棲息する魔の森には行かないと思うんだけどな」


 低ランク冒険者が魔の森に向かった場合、それこそ魔の森に到着するまでの間にモンスターによって殺されてしまう可能性の方が高い。

 実際にレイが魔の森に向かった時は、セトがいたので余計な戦闘は起こらなかったが、それはセトがいたからこその話だ。

 もし普通に魔の森に向かおうとすれば、間違いなく多くのモンスターとの戦闘が起きるだろう。

 ローリーもそんなレイの意見には反対しない。

 しないが、完全に納得することが出来ないという思いもあった。


「低ランク冒険者だけなら、よっぽどの馬鹿でもない限り、自分から魔の森に行こうとは思わないだろうさ。けど、高ランク冒険者がポーター役として連れていくという可能性はあると思うけど?」

「あるかないかで言えば、あるだろうな。けど、そこまで面倒をみろって方が無理だろ。ポーターとして行くって決めた冒険者がいるのなら、それこそ自分で決めたんだろうし」


 結局のところ、冒険者というのは自分で全てを決める必要がある。

 そういう意味では、他人がどうしたからそれに責任を持てという方が無理だろう。


「……そうだね。少し先走りすぎてしまったみたいだ。悪いね」


 ローリーもレイの言葉で自分が先走りすぎていたというのを理解したのか、謝罪の言葉を口にする。


「いや、気にしないでくれ。それより、解体の方は頼めるか?」

「ああ、この三匹くらいなら問題ないよ。……けど、こう言っちゃなんだけど、本当に三匹だけでいいのかい? もう少し余裕はあるよ?」

「今回は、まずはここがどのくらいの解体技術を持ってるのかを知るって意味も大きいしな。俺が知ってる解体の専門職となると、それこそギルドくらいしかいないし。そのギルドとどのくらいの差があるのか、確認しておきたいんだよ」

「ギルドと比べられるのかい……」


 微妙な表情を浮かべるローリー。

 ギルドの解体を行っている者は、高い技量を持つ。

 それを理解しているからこそ、このような表情を浮かべたのだろう。

 その上、レイにしてみればギルドが基準となっているのだから、余計に解体に気を遣うのは間違いなかった。


「まぁ、ギルドと比べると言っても、そこまで酷くなければ気にしないから、安心しろ」

「……へぇ」


 レイとしては、気楽にやって欲しいという思いでそう言ったのだが、そう言われたローリーの口から出て来たのは、不機嫌そうな声だ。

 何かミスったか?

 そうレイは思うも、一度口にしてしまった言葉はなかったことには出来ない。

 取りあえずローリーの出方を窺おうと判断していると……


「皆、聞きなさい!」


 と、レイの隣にいたローリーが叫び、倉庫の中にその声が響き渡る。

 倉庫の中はかなりの大きさなのだが、ローリーのその声は倉庫の隅々まで響き渡った。

 解体をしていた者達は、自分の雇い主の声である以上、当然のように仕事の手を止め、声のした方に視線を向ける。

 その時になって、ようやくレイの存在に気が付いた者もいたのだが、今はレイよりもローリーの方に意識を集中させる必要があった。


「レイのことは知ってるわね? つい昨日、昇格試験を行った魔の森から帰ってきたばかりなのだけれど、魔の森で倒したモンスターの解体を私達に任せたいと言ってきたわ」


 その言葉に、ローリー解体屋の職員……いや、職人達は様々な表情を浮かべる。

 嬉しそうにしているのは、魔の森にいるモンスターのという、普通ならとてもではないが解体出来ないようなモンスターを解体出来ると思っている者。

 あるいは嫌そうな表情を浮かべているのは、ここ暫くは解体の仕事で忙しく、出来れば大きな仕事は遠慮したいという者。

 中には、仕方がないといったような諦めの表情を浮かべている者もいる。

 そんな様子に、ローリーは再度口を開く。


「けど、レイが依頼してきた魔物は三匹よ! これが何を意味しているか、分かる?」


 ローリーの口から出た言葉の意味を理解した者のうち、何人かはレイに向かって鋭い視線を向けてくる。

 自分の技術に強い自負心があるからこそ、ローリーの口から出た言葉が許せなかったのだろう。


「レイは、自分で解体しない時はギルドで解体して貰っているそうよ。そんな状況で私達に依頼をしに来たにも関わらず、解体するモンスターは三匹。それはつまり、私達の解体の技量がギルドよりも低いと、そう思われているから、技術を見てみたいそうよ!」


 そんな言葉で、先程ローリーの言葉の意味を理解出来なかった職人達も、何故レイが三匹しか解体を頼まなかったのか、というのが分かったのだろう。

 先程の数人ではなく、全員がレイに向かって挑戦を受けて立つといったような視線を向ける。


「これ、俺が思いきり悪者になってるんだが」

「ごめんね。でも私達にも解体屋としてのプライドがあるわ。特に今回の一件は、ギルドと比べられるという意味も大きいし。それに……ここ暫くは忙しかったこともあって、僅かにだけど集中力が欠けてきた人もいたから、そういう意味では……」


 丁度よかった。

 そう告げるローリーの言葉に、レイは自分がダシに使われたのだと、そう理解する。

 とはいえ、技量を見たいと言ったのは自分である以上、それくらいのことは受け入れてもいいと思うが。


「まぁ、今回の件については理解した。だとすれば、早速解体して貰うか。どっちも未知のモンスターである以上、色々と大変だろうが、よろしく頼む」

「ええ。素材の方はどうするの? 未知のモンスターなら、こちらで購入したいところだけど」


 素材と言われたレイは、ふと思い出す。

 魔の森を出てから色々と……本当に色々とあったのですっかりと忘れていたが、牛の方は最初に倒した個体からは既に魔石を取り出し、セトが使っているが、二匹目の方は魔石をまだ取りだしていない。

 オークナーガの方は、既に魔石をセトとデスサイズで使っているので、心配はいらないのだが。


「取りあえず素材も肉も全てこっちで引き受ける。ただ……そうだな。その牛のモンスターの肉はかなり美味いし、お前達にもかなり無理をさせるから、ある程度渡しておくよ。料理して英気を養ってくれ。それと……悪いけど、そっちの牛からは今すぐ魔石を取り出してくれないか?」


 レイのその言葉に、ローリーだけではなく他の職人達も嬉しそうな笑みを浮かべる。

 つい先程までレイに攻撃的な視線を向けていたとは、思えない程に。


「だ、そうよ。なら、まずは私達の技量を少しでも見て貰いましょうか。……短剣を」


 そうローリーが言うと、職人の一人が自分の持っている短剣をローリーに手渡す。

 短剣を受け取り、レイの出した牛……まだ魔石を取り出していない方の死体に向かう。

 牛はかなりの巨体を持ち、それに比べるとドワーフのローリーは背が小さい。

 双方の大きさの差は圧倒的だったが……ローリーは死体に近付いた次の瞬間、素早く短剣を一閃する。

 レイの場合は、解体する時には内臓を傷付けたりしないように慎重に行う。

 だが、ローリーは躊躇なく短剣を一閃し、内臓を避けて皮膚と肉だけを斬り裂いたのだ。

 その技量は、マリーナが推薦するだけのことはあると、そうレイに納得させるのに十分なものだった。

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