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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2608/3865

2608話

 店の奥から姿を現したのは、先程レイがこの店に来た時にいた店員と……小さな女だった。

 だが、背が小さいながらもそのがっしりとした体格から、何となくその女の種族は予想出来る。

 今までにも何度かその種族……ドワーフと会ったことはあるというのも大きいだろう。


「私の店へようこそ。私はローリー。この店の店長をしているわ。まさか、異名持ちの冒険者が来てくれるとは思わなかったけど」


 ローリーと名乗ったドワーフの女を見て、ふとレイは気が付く。


(ローリーって……こうしてドワーフだからローリーなのか? いわゆる、エターナルロリータ的な)


 レイが日本にいた時に楽しんだ、漫画、アニメ、小説、ゲーム……それらには、昨今の流行もあるのか、いわゆる十歳前後の少女で不老だったり不死だったり、吸血鬼だったりといったようなキャラがそれなりの頻度で出て来た。

 そういう意味で、もしかしてローリーもエターナルロリータの類なのではないかと、そう思ったのだが……さすがに、それを直接言葉に出すような真似はしない。


「ああ、この店はモンスターの解体の腕は高いって言われてな。……ああ、これ紹介状」


 そう言い、レイはミスティリングから昨夜マリーナに書いて貰った紹介状を取り出す。

 それを見たローリーは、誰が紹介状を書いたのかを理解し、微かに眉を顰める。

 元ギルドマスターのマリーナからの紹介状だとは、思ってもいなかったのだろう。


「マリーナからか。……それだと、断る訳にもいかないね」


 出来れば断りたい。

 そう思っていたローリーだったが、マリーナがギルドマスターをしていた時には色々と手を貸して貰ったこともある。

 そんな相手に紹介状を書かれたとなると、ローリーとしても断る訳にはいかない。


「そう言って貰えると、俺としても助かるよ。……で、具体的にどのくらいのモンスターの解体を引き受けて貰える?」

「……どのくらい?」


 レイの言葉に、ローリーは嫌な予感を抱く。

 今の言い方だと、それこそ数え切れない程にモンスターの死体がありそうではないか。

 実際、それは間違いではない。

 現在のレイのミスティリングには、今回の昇格試験で倒した分のモンスター……それもランクAモンスターとランクSモンスターを抜きにしても、結構な量の死体が収納されている。

 レイも、それらのモンスターを全てローリー解体屋で解体して貰おうとは思っていなかった。

 他の冒険者であれば、それこそモンスターの死体をそのままにしておけば腐ってしまうということもあって、レイのような真似は出来ない。

 何しろ、今は夏真っ盛りだ。

 これが秋や冬なら、まだもう少し余裕もあったのだろうが。

 そんな訳で、レイとしては無理をしない範囲で解体して貰えれば、それでいい。

 冬になってギルドの仕事がある程度落ち着いたら、そちらに改めて解体を頼んだり、もしくはギガント・タートルのように解体の依頼を出してもいいのだから。

 取りあえずレイが欲したのは、暫くの間食べる分の魔の森のモンスターだ。

 エレーナ達に、魔の森のモンスターの肉を食べさせてやりたいという思いから、こうしてマリーナに紹介状を書いて貰ってまで解体屋にやって来たのだ。

 それこそ、解体屋で無理なようなら、自分で解体してもいい。

 実際、魔の森で自分とセトが食べる分の肉はレイが解体していたのだから。


「ああ、量的な意味でどれくらい、だな。こう言っては何だけど、現在俺のミスティリングには結構な数の魔の森のモンスターの死体がある。まさか、それを全部解体して貰うって訳にはいかないだろうから、どれくらいなら無理なく解体出来る?」


 レイの言葉に、ローリーは安堵の息を吐く。

 マリーナからの紹介状を持っていて、それでいてどのくらいなら解体出来る? と聞いてきたのだ。

 それこそ、最悪の場合は限界まで酷使されるのかと、そう思ったのだろう。


「そうだね。解体するモンスターの大きさにもよる。例えばウサギ程度の大きさのモンスターでも、オークくらいの大きさのモンスターでも、その大きさの違いはともかく、一匹は一匹だろ?」

「それは……まぁ」


 言われてみれば、その言葉には納得出来るところが多かった。


「うーんそうなると……最優先で解体して欲しいのは、魔の森の近くにいた牛のモンスター。それも二匹分だな。……一匹は中途半端に解体されていて、もう一匹は損傷が激しかったりするけど」


 あの牛のモンスターの肉は、非常に美味だった。

 それこそ、美味いとされるオークの肉が霞んでしまう程に。

 ……もっとも、牛肉と豚肉という違いがある以上、正確に比べるといったような真似は難しいだのだが。

 とにかく、牛の肉が美味いのは間違いのない事実だ。

 そうである以上、レイとしてはエレーナ達に是非ともそれを食べさせてやりたかった。


「中途半端に? ……まぁ、いいわ。取りあえずどういう状況なのかは、私が自分の目で確認する必要があるわね。こっちに来て」


 そう言い、ローリーは店の外に向かう。


(店の外?)


 どこに連れていく気だ?

 そう思ったレイだったが、ローリーは既に店から外に出ており、自分が店の中にいても意味はないと判断し、ローリーを追う。

 店員……ローリーの身内か何かだと思われる男は、既に自分の仕事に戻っている。

 そんな店員をその場に残して店の外に出ると、ローリーは店から少し離れた場所で寝転がっていたセトをじっと見ていた。

 ローリーの様子に微妙に嫌な予感がしたレイは、一応念の為といった様子で口を開く。


「ローリー、言っておくけど解体するのはセトじゃないからな」

「わ、分かってるわよ。けど、グリフォンを……それも希少種をこんな間近で見ることはないんだから、少しくらい観察してもいいでしょ」


 ああ、と。

 何となくレイはローリーが何故そこまでセトを見ているのか、理解した。

 ローリーは、マリーナが勧める程に腕のいい解体屋だ。

 しかし、当然ながら解体屋が解体するモンスターというのは、死んでいる。

 ……生きたまま解体したいという、妙な趣味を持つ者もいるのかもしれないが、少なくてもレイはそのような人物については知らない。

 つまり、ローリーは生きているモンスターを見るといったことが、基本的にはないのだ。

 だからこそ、生きているセトに興味を抱いて見ていたのだろう。


「セトは基本的に誰にでも懐くから、今日の仕事が終わったらセトとちょっと遊んでみたらどうだ?」

「い……いいの? 私は解体屋だよ?」


 ローリーが何を心配しているのか、レイにも理解出来た。

 つまり、ローリーは自分がモンスターの解体をしているので、セトにも嫌われると思ったのだろう。

 そんなローリーの気持ちは分からないでもなかったが、それでも心配しすぎだというのはレイの予想だった。

 そもそも、セトは普通にモンスターを狩って自分で食べたりする。

 事実、ローリーに解体して貰おうと思っているモンスターのうちの一匹……牛のモンスターは、セトが倒したモンスターなのだから。

 そのようなモンスターを、自分達に食べやすくしてくれる解体屋という存在は、セトにとって決して忌み嫌うべき相手ではない。

 寧ろ、そのような仕事をしてくれてありがとうと、そのような感謝の気持ちを抱いてもおかしくはなかった。


「問題ない。セトにしてみれば、解体という作業は自分が食べるモンスターの肉を食べやすくするといった作業だ。そういう意味では、ローリーはセトに感謝されるかもしれないぞ?」

「そんな……」


 レイの言葉を完全には信じ切れないといった様子のローリーだったが、レイは決してお世辞を口にしたつもりはない。

 セトの能力を考えれば、本来なら皮や毛、羽根、鱗……そういうのがあっても、問題なく肉を食べることは出来る。

 それだけ、セトのクチバシは鋭いのだから。

 しかし、当然ながらそのようにして肉を食べるよりも、解体をしっかりして、肉を食べるのに邪魔な皮や毛、その他諸々を取り除いた方が美味く食べられる。

 そういう意味で、セトは自分が美味しく肉を食べられるようにしてくれる解体屋に感謝をすることはあっても、恨むということはないとレイには予想出来た。

 ……勿論、それは相応の技量を持っている解体屋に対しての話であって、解体もろくに出来ないような下手くそであるにも関わらず、解体屋として名高い者に対してはセトも感謝をしたりはしないだろう。


「……取りあえず仕事が先だね」


 セトの方に向かうかと思いきや、ローリーはまず仕事を優先すると言い、レイを案内してその場から離れる。

 そんなレイとローリーの姿に、当然セトは気が付いていた。

 しかし、レイの様子からまだ仕事が終わった訳ではないと判断したのだろう。

 離れていく二人を、セトは残念そうに見送り……再び目を閉じるのだった。






「あー……なるほど。そういうことか」


 ローリーがレイを案内したのは、店の敷地内ではあるが、その端の方。

 周囲からは見えないようになっているものの、そこには地下に続く坂道が用意されていた。

 それが意味するのは……


(解体は地下でやっている訳だ。まぁ、敷地内に解体用の倉庫を作ったりするよりは、楽……か?)


 倉庫の類を建てれば、当然ながら傷んでくれば補修作業の類が必要となる。

 だが、地下であれば地上の倉庫よりは補修の必要はない。

 もっとも、地下であればそれなりに大変なこともあるのだが。

 例えば、しっかりと補強の類をしなければ、下手をすると地面が落ちてきて地下空間が埋まってしまう。

 また、地下である以上は当然風のながれもそう多くはないので、暑い時は熱が籠もる。

 地下は涼しいというのが一般的だったが、それも限度があるのは事実だ。

 また、風の流れがないということは、これもまた当然臭いが籠もる。

 その辺りの対策もする必要があった。

 ましてや、今は夏真っ盛りで気温も高い。

 環境によっては、地下は灼熱地獄になっていてもおかしくはなかった。


(俺はドラゴンローブがあるから、そういう心配はいらないけど)


 そんな風に思いつつ、レイはローリーに案内されるままに地下に続く坂道を下っていく。

 そうして下っていった先には、巨大な扉があった。

 それこそ、クリスタルドラゴンであっても寝かせた状態であれば十分に運び込めるくらいには巨大な扉が。


「これは、また……この地下空間は俺が思ったよりもかなり大きいみたいだな」

「そりゃあね。こう見えても、ローリー解体屋はギルムでも一、二を争うくらいに腕のいい解体屋だしね。……レイはギルドで解体を頼んでいるから、こういう場所に世話になったりはしないみたいだけど」

「あー……まぁな。そっちの方が確実だし」


 そう言うレイだったが、それ以外に面倒だという思いもある。

 ギルドで解体を頼むのなら、依頼の成功だったりの報告をしたついでに解体を頼んだり、もしくはギルドで解体の依頼をして他の冒険者に頼んで貰った方が手っ取り早い。

 その後でここまで移動してきて、解体を頼む……といったような真似は、レイにしてみれば面倒でしかなかった。

 とはいえ、それはあくまでもレイの認識だ。

 冒険者の中には、ギルドで頼むよりは馴染みの解体屋に頼むという者も相応にいる。

 例えば、レイは解体の技量はそこそこではあるが、レイよりも長く冒険者をやっていても、解体の腕が極端に悪いという者もいない訳ではない。

 そのような人物にしてみれば、解体屋というのは非常に助かる場所なのは間違いなかった。


「まぁ、俺はほら。色々と普通とは違うから」

「……自分でそんなことをいうのは、どうかと思うけど。事実だから、その言葉は否定出来ないけどね」


 ローリーは溜息と共にそう呟き、扉の近くまで行って操作する。

 するとレイの前にあった扉は次第に左右に開いていてき……


「へぇ」


 レイは扉の向こう側を見て、驚きの声を上げる。

 何故なら、向こう側からは解体の際にはどうしても出る、血生臭い臭いが漂ってこなかったからだ。

 また、二十人近い者達がそれぞれモンスターの解体をしているのだが、その顔には暑そうな様子もない。

 それはつまり、この地下空間の中では換気や気温の調整がきちんと出来ているということになる。


(まぁ、その手のマジックアイテムはそれなりに普及してるし……それを思えば、そこまで不思議でもないのか?)


 例えば、夕暮れの小麦亭ではマジックアイテムによって、冬は暖かく、夏は涼しくといったように快適に暮らせるようになっていた。

 この地下空間にも、その手のマジックアイテムを使っているのだろう。

 ……もっとも、これだけの地下空間だ。

 それを思えば、どれだけのマジックアイテムが必要だったのかは、考えるまでもない。


(従業員が快適に働けるように……か。そういう意味では、高額な料金も納得は出来るのかもしれないな)

 そう、レイは思うのだった。

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