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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2598/3865

2598話

 クリスタルドラゴンの死体を収納し、代わりに闇の世界樹の死体――という表現がこの場合相応しいのかどうか、レイには分からなかったが――を倉庫の中に置くと、レイはワーカーと共にギルドの執務室に戻ってきた。

 そして、ワーカーが取り出したのは、各種書類。

 数こそ十枚かそこらといった程度でしかなかったが、今までランクアップした時は、特にこのような書類を書いたりはしなかった。

 それだけ、ランクA冒険者というのは冒険者全体の中でも特別な存在なのだろう。

 レイはそんな風に思いつつ、書類を読んでサインをしていく。

 そして、最後の一枚にサインを終えたところで、ようやく手続きは終わる。


「これで終わりなんだよな?」

「ええ。後は昇格試験についての合否を知らせる必要がありますが、どうしますか?」

「そんなこともするのか?」

「ランクA冒険者は、それだけ特別だということです。……カードの方も、以前とは少し違う物になりますよ」


 ランクBまでのギルドカードは、それこそ冒険者になった時から変わらなかった。

 カードに表記されているランクが昇格に従って変わっていったくらいだ。


「ランクA冒険者が特別だってのは、その辺にも現れているな」

「ええ。しかしギルドカードが特別製の物になるには、他にも理由があります」


 そう言い、ワーカーはランクA冒険者からギルドカードが変わる理由について説明する。

 ランクA冒険者というのは、基本的には冒険者の中でも最高位の存在だ。

 ……実際にはその上にランクS冒険者がいるのだが、こちらは基本的に普通の冒険者ではなることが出来ない。

 そうである以上、ランクA冒険者というのは当然ながら高い信用度を誇る。

 レイにしてみれば、少し前に絡んで来たランクA冒険者の件もあったので高い信用度? と言われても素直に納得は出来なかったが。

 寧ろ高ランク冒険者というのは、強さが飛び抜けている分だけあって変人と呼ぶに相応しい者達が多かったりする。

 とはいえ、表向きにはその辺は隠されている公然の秘密なのかもしれないが。

 ともあれ、ランクA冒険者となると信頼度が高くなるので、中にはギルドカードを偽造してその相手になりすますといったようなことを考える者も出て来る。

 だからこそ、偽造防止がされた、普通よりも高度な技術で作られたギルドカードを用意する。

 また、それ以外にも一目でそれがランクA冒険者のギルドカードであると知れば、いらない面倒も少なくなるだろうという思いがあってもおかしくはない。

 そしてワーカーは口にしなかったが、ランクA冒険者であることのプライドを満足させる為でもあるだろうというのが、レイの予想だった。

 日本で普通のクレジットカードを使っている者が多い中で、ゴールドカードやブラックカードといったような、非常に貴重なクレジットカードを使えば、人の注目を集めることも珍しくはない。

 そういう意味で、ランクA冒険者だけが持つギルドカードを持たせるという意味もあるのだろう。


「なるほど。そうなると、ランクA冒険者用のギルドカードはすぐに貰えたりはしないのか?」

「そうですね。数日は時間がかかります」

「なら、俺が昇格試験に合格したことの発表は、そのカードが出来てからでいいんじゃないか?」

「レイがそれでいいのなら、そうしますよ」


 ワーカーとしては、レイのランクA冒険者への昇格が決まったというのが一番大事だ。

 それをいつ発表するのかというのも大事なことではあるのだが。

 それでもやはりレイの合格が確定した方が嬉しいのだろう。


「じゃあ、ギルドの用件はこれでいいな?」

「ええ。ですが、闇の世界樹の解体の件もあります。幸い、闇の世界樹はそこまで解体が難しいモンスターではないということなので、明日にはまた来て貰えますか?」

「分かった。……ちなみに、ランクAモンスターの魔石も調べるのか?」

「そうですね、出来ればそうしたいところです」


 そう告げるワーカーに、レイは好きにしろと、そう告げる。

 クリスタルドラゴンの魔石を貸し出すのだから、この際出来るだけ恩を売っておきたいと、そう判断したのだ。

 レイのそんな考えは当然だがワーカーにもしっかりと読まれている。

 だが、レイの考えは特に問題もないので、ワーカーとしては寧ろ歓迎すべきことだった。


「分かった。なら、その辺は任せる。ただし、繰り返すようで悪いけど、魔石をなくすといったようなことになったら、どうなるか……分かってるよな?」


 念を押すように言うレイ。

 それこそ、レイを知っている者ならそんなレイの迫力に圧倒されてもおかしくはなかったのだが、さすがギルドマスターと言うべきか、ワーカーはそんなレイの様子を見ても、内心はともかく、表面上は全く動揺した様子を見せずに頷く。


「ええ。その辺は責任を持って」


 そんなワーカーの様子を見て、レイは分かったと気を抜く。

 ワーカーの様子を見れば、取りあえず心配はしなくてもいいだろうと、そう判断したからだ。

 レイはワーカーに軽く挨拶をしてから執務室を出る。

 そんなレイの後ろ姿を見送り……


「ぜはぁ……」


 ワーカーは、大きく息を吐く。

 緊張していた状態から、ようやく解放されたことでの大きな息。

 レイとやり取りをしている時は緊張や動揺を表に出すようなことはなかったが、それはある意味での技術だ。

 ギルドマスターとして、高ランクの……自分よりも圧倒的な強さを持つ冒険者と会うことは珍しくない。

 そうである以上、そのような相手と話している時に怯えを見せるといったようなことをすれば、相手によってはワーカーを侮るだろう。

 そうである以上、ギルドマスターとしては相手が幾ら高い戦闘能力を持っている相手であっても、怖がっているといったことを表に出さないような技術が必要となる。

 ワーカーは、そんな技術を使って先程までレイとやり取りをしていたのだ。


「それでも、レイはまだ好意的な方、か」


 呟きつつ、ワーカーは執務机の上にある書類の山に手を伸ばすのだった。






 レイがギルドの一階に下りてくると、当然だが最初にギルド職員達がレイの存在に気が付く。

 それでも、ギルド職員は仕事が忙しいので、そちらに集中する。

 ……解体の為に倉庫に行ったギルド職員達の分も、残りのギルド職員達で仕事を片付けないといけないのだから、仕事が増えるのは当然だった。

 解体要員である為に、任されていた書類そのものはそこまで多くはなかったが、それでも人数が集まれば、塵も積もれば山となるという言葉と同じようにそれなりの仕事量にはなる。

 そんなギルド職員達にご苦労さんと思いつつ、レイは書類の山を崩さないように注意しながらギルドの中を進む。


「レイさん」


 と、そんなレイに声を掛ける人物がいた。

 レイの担当のレノラだ。

 レイの担当だけに、レイがこれからどうするのかが気になったのだろう。

 レイはそんなレノラの方に近付いていく。

 そんなレノラの隣では、書類の処理をしていたケニーが羨ましそうな視線をレノラに向けていた。

 とはいえ、ここで仕事をせずにレイと話すようなことをした場合、それこそレイに注意されてしまう可能性があった。

 それ以外にも、レノラに怒られる可能性があったし……そして同時に、他のギルド職員達からも怒られる可能性が高い。

 その為、取り合えず書類仕事が一段落するまでは自分の仕事に集中することにしたのだろう。

 それでも、少しでも早くレイと話をしたいと、書類を処理する速度が上がっている辺り、ケニーの能力の高さを表していた。


「レイさんは、これからどうするんです?」

「これから? 取りあえず領主の館に行って、ダスカー様に魔の森の件についての報告をして、後は家に帰ってゆっくりとしたいな」


 今日レイが帰ってくるというのは、当然ながらエレーナ達も知っている筈だ。

 今の時間帯から考えると、エレーナとアーラ以外は仕事でマリーナの家にいないだろうが。

 それでも、今のレイにとって帰るべき場所はマリーナの家である以上。そこでゆっくりとしたかった。

 だが、そんなレイの言葉を聞いたレノラは首を横に振る。


「いえ、今日ではなく、これから……昇格試験が終わって、明日以降はどうするのかと」

「ああ、そっちの件か。正直分からないな。増築工事の方は、曲がりなりにも俺がいなくてもある程度どうにかなるようになったみたいだし」


 レイにしてみれば、自分がいなくても増築工事が進むというのは非常に助かる。

 だが、今まで自分がやってきた仕事をしなくてもいいとなれば、何だか微妙に寂しい思いがしなくもなかった。


(明日以降、何をするか……か)


 改めてレノラに尋ねられてみると、すぐに思いつくようなことはない。

 精々が、魔の森で倒したモンスターの解体をギルドに任せたり、もしくは今回の昇格試験で食べた料理を補充したり、使い捨ての槍を補充したり……といった程度か。

 そのどれもが増築工事の協力をしながら出来ることである以上、改めてそれをやりたいと思うようなことはない。


(エレーナ達を魔の森に連れていきたいとは思っていたけど、それでも昨日の今日でまた魔の森に向かうのはちょっとな)


 魔の森を出た後でぐっすりと眠り、精神的な疲労も全快した……ように、レイには思える。

 だが、それはあくまでもレイがそのように思っているだけで、実際にそう確認出来た訳ではない。

 あるいは、ステータスを見る能力とかがあれば、自分のステータスを見て疲労度といった数値を確認することも出来ただろうが。

 ともあれ、レイとしてはもし魔の森に行くとしても、もう少し時間を空けてから行きたいというのが、正直なところだった。


(そうなると……トレントの森の方か? 木の伐採じゃなくて、湖とか生誕の塔にいるリザードマンとか、もしくはトレントの森の中心にある地下空洞とか)


 そう考えると、何気にレイはやるべきことがそれなりにあるのに気が付く。

 もっとも、トレントの森の中央……ケンタウロスの世界についてや、地下に存在するウィスプの研究については、特にレイが何かをすることはない。

 リザードマンの方も、既にそれなりに言葉を喋れるようになってきている者が多い以上、今の状況でレイが特に何かをやるべきことはない。


(あ、でもスライムの件があったか。……あのスライム、いい加減燃えつきてもいいと思うんだけど)


 転移してきた湖から姿を現した、巨大なスライム。

 現在はレイの魔法で延々と燃え続けているのだが、既に燃え始めてから結構な時間が経過しているにも関わらず、未だに燃えつきる様子がない。

 幸いにも、スライムは燃えつきてはいないが、同時に何らかの行動を起こしたりもしていないといったところか。

 つまり、未だにスライムとレイの魔法で生み出された炎は拮抗した状態にあるということだ。


「レイさん? どうしました?」

「ああ、いや。そうだな。少しゆっくりした後は、トレントの森……というか、湖とかそっちの方にちょっと顔を出してみるよ。向こうでも何か起きてるかもしれないし」

「そうですか」


 レイの言葉を聞いて、何故かほっとした様子を見せるレノラ。

 実は、レノラはレイの性格を考えた場合、またすぐに何らかの難易度の高い依頼を受けるのではないか、と。そう思ったのだ。

 ランクA冒険者になったことで、レイはまた大きな行動に出るだろうと。

 ……実は、レイはまだ昇格試験に合格したとは言ってないのだが、レノラにしてみれば、レイがギルムに来た時からずっとその姿を見てきたのだ。

 それだけに、レイの様子を見ていれば試験に合格したのだろうと予想するのは難しい話ではない。

 ましてや、レイは魔の森という近付くのも禁止されている場所に行って、それでも傷一つないままで戻ってきたのだから。

 正確には、クリスタルドラゴンとの戦いで結構な傷を負ったのだが。

 それは既にポーションで治してあるので、傍から見た場合、レイは無傷で魔の森から出て来たようにしか見えない。


「では、昇格試験で疲れたでしょうし、暫くは……そうですね、三日程度はゆっくりとして下さい」


 そう告げるレノラの言葉に、隣で話を聞いていたケニーは、何か言いたそうな様子を見せる。

 ケニーにしてみれば、折角レイが魔の森から戻ってきたのだから、三日と言わず今夜にでもゆっくりと話をしたいと思ったのだろう。

 もっとも、もしそのようなことになったとしても、レイと話をするには書類仕事を全て終わらせる必要があったのだが。

 レイはそんなケニーの様子には気が付かず、レノラの言葉に素直に頷くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 紅さんだから 次回はガスター様への報告 誰も見たくない配水帳 紅さんマジで盜版殺手
[一言] 投稿者: リュミナ---- ----2020年 09月26日 18時58分 ゼパイル一門の結界レイとセトしか入リませ
[一言] お、次回はガスター様に報告するのか。 面白いリアクションを期待
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