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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2597/3865

2597話

 クリスタルドラゴンの体内から、魔石を取り出すのをやってみたい者はいるか。

 そんなレイの言葉に、当然のようにギルド職員達は揃って立候補する。

 魔石を取り出す為には、クリスタルドラゴンの体内に入って心臓から魔石を取ってくる必要があるのだが、ドラゴンの体内に潜り込むというのは、解体を得意とするギルド職員達にとって特に構わないといった感じなのだろう。

 レイにしてみれば、自分でクリスタルドラゴンの体内に潜り込むのは嫌だったから、やってみないかといった風に尋ねたのだが……ここまでやる気を見せるというのは、予想外だった。


「おい、こら。こういうのは解体の指示をする俺がしっかりと見ておく必要があるだろう。それくらいはお前達にも分かる筈だな? 素直に譲れ」


 五十代程の、ギルド職員のリーダー格……親方と皆に呼ばれている男が、自分に譲れと言う。

 だが、普段であればまだしも、今この時だけはギルド職員達も素直に親方に譲る訳にはいかなかった。


「そりゃないですよ、親方。俺達が実際にクリスタルドラゴンの解体をするんですから、俺に任せて下さい」


 そう言ったのは、レイにデスサイズを貸してくれと言ってきた、ギルド職員の中でも一番若い男。

 解体をするのは自分達であると言ってるのに、自分に任せろと言ってる辺りちゃっかりしている。


「いやいや、お前みたいに若い奴に任せるのは心配だし、かといって親方は指揮を執って貰う以上は、実際に解体する者が魔石を持ってきた方がいい。……つまり、俺だな」


 ギルド職員の一人がそう言えば、他の者も皆が自分が自分がといったように主張し始めた。

 普段であれば、ここまで揉めるようなことはない。

 だが、今回行うのはクリスタルドラゴンの心臓から魔石を取るという仕事なのだ。

 そんな重要な仕事だけに、これは絶対に他人に譲りたくないと、そのように思う者が出てくるも当然だろう。

 レイとしては、誰でもいいから取りあえず早いところ魔石を取ってきて欲しいのだが。


「出来るだけ早くしてくれよ。クリスタルドラゴンの死体だし、この倉庫の内部だからマジックアイテムで腐敗の類はしにくいとはいえ、それでも時間が経てば経つ程に死体の鮮度が落ちるのは間違いないんだぞ」


 そんなレイの言葉に、ギルド職員達は素早く相談を始める。

 解体をしている者としても、またギルド職員としても、クリスタルドラゴンの死体の鮮度が悪くなるというのが耐えられなかったのだろう。


「大変ですね」


 少し離れた場所でギルド職員達のやり取りを見ていたレイに、ワーカーがそう声を掛けてくる。


「あれって、いっそお前が誰にやらせるのかを指名した方が、手っ取り早いんじゃないか?」

「そうかもしれませんが、鬱屈した不満を晴らすのにも、ちょうどいいでしょうし」


 不満? とレイが疑問の視線をワーカーに向けると、ワーカーはギルド職員達を見ながら、口を開く。


「ええ。ここ暫くの忙しさで、大分鬱憤が溜まっていたでしょうし」


 ワーカーが説明するには、今回のギルムの増築工事で急激に仕事が増えた件によって、多くのギルド職員が書類仕事を任されることになってしまった。

 それは基本的にはモンスターの解体をしている者達も同じで、普段はやらないような仕事をやらされたことで、相当にストレスが溜まっていたらしい。

 それでもギルド職員だからということで真面目に仕事をしてはいたのだが……それでも、やはり自分に向いていない仕事ということで、思うところはあったのだろう。

 その為に、この機会にストレス発散をさせるという意味で、ああやって好きにさせている。

 そう説明されると、レイとしても納得するしか出来ない。

 そもそも、ダスカーが増築工事をすると決断したのは、トレントの森の存在もあったが……それと同等か、あるいはそれ以上にレイの能力を期待してのことなのだから。

 そして事実、レイはミスティリングやセトの機動力を存分に活かし、増築工事において多大な貢献をしていた。

 それを考えれば、ある意味でギルド職員達がこうまで書類仕事……以外にも、様々な仕事に追われているのは、レイもその一端を担っているのは間違いない。


「そうか。なら、少し息抜きはさせる必要はあるか」

「そうですね。ですが……まぁ、結果は決まってますが」


 そうワーカーが言うと同時に、『うおっしゃぁっ!』といった気合いの叫びが倉庫の中に響いた。

 その声を発したのは、親方。

 元冒険者と思しき技量を十分に発揮し、力で他のギルド職員達を沈めたのだ。


「まぁ、俺としては魔石を取ってきて貰えば、それでいいけどな」

「それですが……ドラゴンの魔石、少し預からせて貰うことは出来ませんか?」

「は? 何でだ?」


 レイとしては、クリスタルドラゴンの魔石はすぐにでも魔獣術で使おうと思っていただけに、ワーカーのその言葉に不満そうな声でそう尋ねる。


「魔石を調べることによって、そのモンスターについての様々な情報を知ることが出来るので。その辺りは、レイも魔石を集めてるだけに知ってるのでは?」


 知ってるのでは? といったように言われても、レイが魔石を集めているのは、あくまでも魔獣術の為だ。

 それでも、魔石というのはモンスターにとって非常に重要な代物だけに、そう言われればそういうこともあるのでは? と思ってしまう。

 ここでギルドに貸さないと言い切れば、それはワーカーも無理にとは言わないだろう。

 あくまでも、ワーカーが魔石を貸して欲しいと言っているのは、そのような要望であって、ギルドマスターであっても無理強いは出来ない。

 ましてや、相手はレイだ。

 もしワーカーがギルドマスターとしての強権を振るおうものなら、断固として断ってくるだろうし、最悪の場合は戦いになる可能性すらあった。

 もしそうなれば、それこそギルムは増築工事云々どころか、消滅……いや、燃滅してしまうかもしれない。

 勿論、それが必要であるのならば、ワーカーもギルドマスターとしての強権を振るうだろう。

 だが、今回の一件はあくまでもレイに向かって頼むといった様子だった。


(うーん、どうする? 実際、クリスタルドラゴンの魔石を調べて、その情報で他の冒険者が死なないようになるのなら、預けた方がいいのか? まぁ、クリスタルドラゴンと遭遇するような冒険者は、そう多くはないだろうし。それに……)


 レイが少しだけ心配になったのは、もしここで魔石を貸さず……将来的に、何らかの理由でギルドが魔石を貸して欲しいと言ってきた場合、それが不可能だからだろう。

 クリスタルドラゴンの魔石を使うのが、セトかデスサイズかは分からない。

 だが、魔獣術で使ってしまっている以上、貸して欲しいと言われても既に手元には存在しない。

 それはクリスタルドラゴンの魔石だけではなく、今回倒してきたランクAモンスター……いや、それ以外のモンスターも同様だ。

 魔の森は、基本的に近付くのを禁止されている。

 それだけに、どうしても魔の森のモンスターの情報というのは多くはない。

 だが、今回の昇格試験で、レイはその魔の森で二泊三日をすごし、多数のモンスターを確保してきた。

 それらのモンスターの多くは魔の森の固有種であると、レイは思っていた。

 少なくても、レイが持っているモンスター辞典に載っているような魔物は少数でしかなかったのだから。

 そんなモンスターだけに、ギルドにしてみればそんなモンスターの魔石は……そして当然死体もだが、宝の山と言ってもいい。

 それだけ、レイの持っている魔の森のモンスターの死体には価値があるのだ。


(それに、魔石を貸せば……いや、それ以外のモンスターの死体についても調べたりすれば、それは当然俺の功績になる。そうなると、もしかしたら、本当にもしかしたらだが俺は自由に魔の森に行けるようになるかもしれない、か)


 勿論、許可が出なくてもレイは魔の森に行くつもりではあった。

 無許可で行っても、別に見張りや結界の類がある訳ではないので、それが表沙汰になるといったことは基本的にないのだから。

 だが、もし正式に許可が出たのであれば、それこそ魔の森に向かうのを全く隠す必要はない。

 堂々と魔の森に行くことが出来るのだ。

 それは、レイの精神的な安定の為にも、それなりに大きな効果をもたらす。

 であれば、ここは素直にクリスタルドラゴンの魔石を貸した方がいいだろうと、そう結論づける。


「分かった、貸してもいい。ただ……あくまでも貸すだけで、売ったり譲渡したりといったことじゃない。それは忘れるなよ」


 高ランクモンスター……それも、ランクSモンスターのクリスタルドラゴンの魔石ともなれば、どれだけの値段がついてもおかしくはない。

 ましてや、現在ギルドには他のギルドから大勢の応援が来ている。

 そんな者達の中には、金の為なら倫理観を捨てるといったようなことが出来る者がいてもおかしくはない。

 あるいは、それがゴブリンの魔石といったような代物であれば、その程度の物の為にギルド職員という高額な報酬を貰える仕事を捨てるといったようなことはしないだろうが、ランクSモンスター、それも未知のドラゴンの魔石やランクAモンスターであっても魔の森に存在するモンスターの魔石となれば、それを盗むといった誘惑に勝てない者がいてもおかしくはなかった。

 だからこそ、レイは魔石を預けて欲しいというワーカーの言葉に、そう念を押したのだ。

 ワーカーもギルドマスターである以上、レイの言いたいことは分かる。

 今の状況でギルド内部の警備を厳しくすることに労力を使うのは、現在のギルドの仕事量を思えば、かなり厳しい。

 しかし、それでも魔石を解析してモンスターの情報を入手するという利益を考えると、ここは無理のしどころなのは間違いなかった。


「必ず」


 短い、だからこそ強い意思の籠もった一言を告げるワーカー。


「取り出したぞぉっ!」


 ワーカーが頷くと同時に、クリスタルドラゴンの腹の中から魔石を手にした親方が姿を現す。

 クリスタルドラゴンの体液に身体中が濡れており、テラテラとしているが、本人は気にした様子がない。

 普段は強面と呼ぶに相応しい顔をしている親方だったが、クリスタルドラゴンの魔石を手にしたのが余程嬉しかったのだろう。満面の笑みがその顔には浮かんでいた。

 ……もっとも、それはそれは見る者によっては怖いと言ってもおかしくはなかったが。


「でかいな」


 今までも、巨大なモンスターの魔石は見てきた。

 だが、大抵のモンスターは基本的に魔石の大きさはそう変わらない。

 いや、正確にはモンスターによってそれなりに変わるが、一定以上の大きさにはならないと言った方が正しい。

 実際、ランクAモンスターであるヴァンパイアの魔石と、ウォーターベアの魔石でも大きさはそう変わらなかったのだから。

 だというのに、クリスタルドラゴンの魔石は親方が両手で抱える程の大きさだ。


(というか、あの大きさだと……セト、飲み込めないんじゃないか?)


 そんな心配すらしてしまう。

 レイは、クリスタルドラゴンの魔石はセトに使う予定だった。

 クリスタルドラゴンの使ったクリスタルブレスは、非常に強力だったのを確認している為だ。

 幸いなことに、魔の森から脱出する時の炎の壁で一網打尽にしたモンスターの魔石でクリスタルブレスのレベルは二に上がっている。

 恐らくはクリスタルドラゴンの魔石を使えば、クリスタルブレスのレベルが上がるだろうというのが、レイの予想だった。

 ……出来ればレイとしては、もっと強力なスキルを習得して欲しいと思っているのだが。

 それこそ、王の威圧のような。

 クリスタルドラゴンの使ったような威力のクリスタルブレスになるまでどのくらい掛かるのかを考えると、そのように思うのも当然なのだろう。

 とはいえ、クリスタルブレスのレベルは現在二なので、この魔石を使えば――使えれば、だが――レベル三となる。

 そしてスキルはレベル五になると一気に強力になる以上、恐らくレベル五になった時点でクリスタルドラゴンが使っていたのと全く同じとはいかずとも、似たようなクリスタルブレスになるのではないかと、そうレイは予想していた。

 とはいえ、それはあくまでもセトがあの魔石を使えればの話だが。


「では、レイ。あの魔石はこちらで一旦預からせて貰います。厳重に保管するし、調査が終わったらすぐに返却しますので」

「そうしてくれ」


 そうワーカーに言葉を掛け、レイはギルド職員達の方に戻っていく。


「騒いでいるところ悪いけど、クリスタルドラゴンの死体は収納するぞ。確か、ランクAモンスターの解体する順番は、闇の世界樹、女王蜂、キメラ、巨狼でよかったんだよな?」


 クリスタルドラゴンの死体をミスティリングに収納し、そうレイはギルド職員達に尋ねるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ワーカーまた魔石を横流てすか
[一言] あの大きさだと……セト、飲み込めないん セトの牙を信じる
[一言] デスサイズで心臓か魔石吸收したら洗脳は解除できますか? それは何ですか グリムの繼承の心臟すでにゼパイル一門の魔獸術を超越したてすか
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