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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2596/3865

2596話

このライトノベルがすごい!2021に投票してくれた方、ありがとうございました。

後は結果を楽しみに待ちます。

 レイがデスサイズを取り出したのを見て、当然ながらギルド職員達は騒ぎ出す。

 とはいえ、それはレイがデスサイズで自分達を傷付けると思って、騒いだのではない。

 デスサイズは確かに凶悪な武器だったが、ギルムのギルドで働いている者なら、レイがどのような人物なのかは知っている。

 不満だったのは、解体出来る道具がないからということでクリスタルドラゴンの解体は後回しにされたというのに、レイはクリスタルドラゴンを解体出来る道具を持っていたということだろう。

 だが、考えてみればそれは当然のことではあった。

 何しろ、クリスタルドラゴンは首、尻尾、右腕といった場所を切断されているのだ。

 クリスタルドラゴンのあまりの衝撃に、その辺については想像出来なかったギルド職員達だったが、その死体を見ればレイがデスサイズという武器を持っているのは容易に想像出来てもおかしくはなかった。


「レイ、このドラゴンを解体出来る道具があるのなら、貸してくれよ!」


 一番若いギルド職員が、レイに向かってそう言い……

 ゴギンッ、という頭を殴ったとは思えない音が倉庫の中に響き渡る。


「が……あ……」


 痛いと言うことも出来ず、苦悶の声を上げるギルド職員。

 気絶しそうな痛みに耐えながら、自分を殴った人物……集められたギルド職員の中でもリーダー格の五十代程の男に視線を向ける。


「お、親方……何を……」


 親方という言葉のイメージ通り、その人物は年齢に見合わぬ筋骨隆々の身体をしている。

 そんな男は、何故自分を殴ったのかといったギルド職員に対し、怒鳴りつける。


「馬鹿野郎がっ! 冒険者にとって、自分の武器というのは命を預ける相棒だぞ! ましてや、レイが持っているのはクリスタルドラゴンですら斬り裂けるだけの威力を持ったマジックアイテムだ! それを易々と貸せだぁ……? 恥を知れ!」


 元冒険者だろうとレイは予想していたが、今の怒声を聞いてレイはより強く確信する。

 だからこそ、冒険者が持つ武器についての愛着を理解しているのだろうと。

 勿論、そういうのは人それぞれだ。

 中には武器は使い捨てだという考えを持っている者もいるし、それ以外にも様々な主義の者がいる。

 それでも一番多いのは、やはり自分の相棒として大事に扱うという者だろう。


「悪いな、レイ。こいつは腕はいいんだが、まだ若いだけあって世間知らずでよ」


 そう言い、親方はレイに向かって頭を下げる。

 親方に頭を殴られたのは、その言葉通りまだ二十代……いや、場合によっては十代後半と思えるくらいの年齢だ。

 しかし、若いとはいえワーカーがこの場に呼んだ人物である以上、腕が確かなのは間違いなかった。


「いや、気にするな。とはいえ……そうだな。ちょっと試してみるか。これ、持てるか?」


 レイは床にデスサイズを置き、まだ親方に殴られた痛みに呻いていたギルド職員にそう告げる。

 痛みに呻いていたギルド職員だったが、レイのその言葉に意味が理解出来ず、それでも頭を押さえながら恐る恐るといった様子で親方に視線を向けた。

 レイの言葉に従い、そのままデスサイズを手に取った瞬間、また殴られては溜まらないと、そのように思ったからだろう。


「ふんっ、やってみろ」


 だが、今回はレイが許可を出したということもあってか、親方は短くそう言う。

 そんな親方の言葉の許可を得たギルド職員は、嬉々として床に置かれているデスサイズに手を伸ばすが……


「え? あれ?」


 持ち上げようとしても、一切動かないデスサイズに困惑の声を上げる。

 そうして一度デスサイズから離れ、大きく深呼吸をしてから再びデスサイズに近付き……


「ふんっ」


 気合いの声と共にデスサイズを持ち上げようとしたが、持ち上げることは出来ない。


「ぜはぁ、はぁ、はぁ……何だこれ……」


 息を止めて何とか持ち上げようとしただけに、それが無理となると荒い息を吐く。


「何だ? 若いくせにだらしねえな。ほら、ちょっと代われ。俺がやってみるからよ」


 そう言い、別のギルド職員が親方に視線を向けて許可を求める。


「尋ねるのなら、俺じゃなくてレイだろ。レイが許可を出したのなら、俺は構わねえよ」

「別にいいぞ。……重いだろうけどな」


 若干挑発染みたレイの言葉に、力自慢のギルド職員は床のデスサイズに手を伸ばし……


「ふんぬううううううううううううっ!」


 気合いの声と共に持ち上げようとするが、デスサイズは動かない。

 ……いや、ピクリと、少しだけ浮いた。


『おおっ!』


 それを見ていたギルド職員達……特に先程デスサイズを持とうとして持てなかった若いギルド職員が、期待の声を上げるが……


「駄目だ!」


 その言葉と共に、男はデスサイズから手を離す。

 今の男が、ここにいる中では一番の力自慢だったのだろう。

 それだけに、そのような男であっても完全には持ち上げられないということに、皆が驚き……そしてレイに向け、畏怖の視線を向ける。

 とはいえ、レイとしてはそのような視線を向けられても困る。

 いや、ゼパイル一門の技術力で作られたレイの身体であれば、百kgの重量がある物を持ち上げるような真似は出来るのだろうから、この視線は決して大袈裟なものではない


「一応言っておくが……」


 そう言い、レイは床に置かれているデスサイズを片手で軽く持ち上げる。

 そんなレイの様子に、周囲で見ていたギルド職員達……特にデスサイズを持とうとした二人からは、一層強い畏怖の視線が向けられた。


「このデスサイズは、俺とセト以外が持った場合は非常に重くなるという能力がある」



 そんなレイの言葉で、ギルド職員達は納得した様子を見せる。

 それなら、レイが持つように軽くデスサイズを持ち上げることが出来なかったのは納得が出来ると、そう思ったのだろう。


「そんな訳で、このデスサイズを使ってクリスタルドラゴンを解体するというのは、結局俺が解体することになる。……まぁ、重くなるとはいえ、その重量は力自慢なら持てるくらいだし、やろうと思えばお前達でもこのデスサイズを使って解体は出来るんだろうが」


 とはいえ、その場合では皆で協力してデスサイズを持ち上げ、クリスタルドラゴンを解体していくということになる。

 そうなれば、まともに解体が出来るとはレイにも思えなかった。

 それは、レイよりもギルド職員達の方が実感しているのだろう。

 多くのギルド職員は、そんなレイの言葉に難しい表情を浮かべていた。

 それを確認してから、レイは改めてデスサイズを持ってクリスタルドラゴンに視線を向ける。


「じゃあ、後は問題ないだろうから、クリスタルドラゴンから魔石を取り出すぞ」


 レイの言葉を聞いたギルド職員達は、意識を切り替えてクリスタルドラゴンの周囲に集まる。

 まだどのように解体するのかといったことは決まっていない。

 それでもレイがデスサイズでクリスタルドラゴンの身体を斬り裂き、魔石を取り出すといったような行為を間近で見るのは、解体の役に立つのは間違いないからだろう。

 そんなギルド職員に見守られながら、レイはデスサイズを構える。

 解体技術ということに関しては、自分以上の技量を持つ者達だ。

 そのような相手に見守られながら……いや、観察されながらクリスタルドラゴンの身体を解体するのだから、緊張するなという方が無理だろう。

 実際には、完全に解体をするのではなく、胴体を斬り裂いてそこから魔石を取り出すということなので、それを解体と呼ぶのはどうかと本人は思っているのだが。


「じゃあ、行くぞ」


 そう声を掛け、レイはデスサイズを振るう。

 魔力を込められた刃は、クリスタルドラゴンの胴体……具体的には胸の辺りを斬り裂いていく。


(あれ?)


 予想していた以上にあっさりと胴体を斬り裂くことが出来たのを、不思議に思うレイ。

 だが、クリスタルドラゴンが死んでいる以上、生きてる時と同じような防御力を発揮する筈もないかと、そう思い直す。

 幸いなことに、それはレイにとって……それにクリスタルドラゴンの死体を解体するギルド職員達にとっても、悪い話ではない。


『おお』


 ギルド職員に何人かが、そうやってクリスタルドラゴンの胴体をあっさりと斬り裂いたレイに向かって、驚きの声を上げる。

 そんな声に微妙に居心地の悪い思いをしながら、レイはクリスタルドラゴンの死体に手を伸ばそうとして……動きを止める。

 クリスタルドラゴンの死体は、当然のように巨大だ。

 死体になっていて床に倒れていたり、レイの手によって尻尾や首といった場所を切断されていることもあって、倉庫の中に入ってはいるが、それでもかなりの巨体なのは間違いなかった。

 そこに手を突っ込んで心臓から魔石を取り出すとなると、当然の話だが腕を突っ込んだ程度では心臓に手が届かない。

 つまり、上半身まるごと……いや、下手をすれば、体内に全身を入れる必要があるのだ。

 レイとしては、出来ればそんな真似はしたくない。

 普段なら、まずは心臓に関係ない場所……特に内臓を取り除いてから解体していき、あまり汚れるようなことはないままに、心臓から魔石を取り出すといった手段もあるのだ。

 だが、今回その手は使えない。

 そもそも、クリスタルドラゴンを始めとしたモンスターの解体は、ギルドに任せると決めている。

 ここで下手に自分が解体するような真似をしてしまえば、素材となる部位が台無しになる可能性も否定は出来ない。







(まぁ、内臓……少なくても胃とかは、とてもではないが使えるとは思えないけど)


 炎帝の紅鎧で使えるスキル、深炎。

 それによって、胃の中を散々に燃やしたのだ。

 普通に考えれば、そんな状況で胃を素材として使えるとは、レイには思えない。

 とはいえ、あれだけ胃の中で燃えてたにも関わらず、腹を切断しても特に熱さはない。

 クリスタルドラゴンは、倒してからそう時間が経たないうちに、死体をミスティリングに収納している。

 そうである以上、実質このクリスタルドラゴンは、まだ倒したばかりの状態なのだ。

 にも関わらず、この状況。

 何故熱くない? と、そうレイが疑問に思うのも、当然のことだろう。


(深炎の熱さだけなら、それこそ俺が炎帝の紅鎧を解除したから、クリスタルドラゴンの体内にあった深炎が消えてもおかしくはない。けど、深炎が消えても、その深炎で熱せられていた……いや、燃やされていた内臓の部分が熱くないってのは……ドラゴンだからか?)


 内臓が熱くない理由としては思い浮かんだのは、ドラゴンだからというものだった。

 だが、不思議な事にそれで納得出来てしまう辺りドラゴンの不思議さを示しているのだろう。


「レイ、どうした?」


 ドラゴンの死体を見て、急に考え込んだレイを不思議に思ったのだろう。

 ギルド職員の一人が、不思議そうに尋ねてくる。

 そんなギルド職員に、レイは斬り裂いたクリスタルドラゴンの腹の肉を開きながら、口を開く。


「このクリスタルドラゴンは、クリスタルブレスっていう強力なブレスを使うんだが、それを防ぐ為に、口を開いたところに俺のスキルで生み出した炎を突っ込んだんだよ。体内から焼かれたおかげでブレスは使われなくなったけど、代わりに胃が燃えて使い物にならなくなってもおかしくはないし、死体になってからすぐにミスティリングに収納したから、まだ内臓が熱くてもおかしくはないんだが、全く熱くないのが不思議でな」


 そんなレイの言葉に、ギルド職員達は不満そうでいて、納得し、それでも悔しそうな、泣きそうな……様々な感情が複雑に入り交じった表情を浮かべる。

 これが普段から何度も解体しているようなモンスターなら、そういうこともあるだろうと、そんな風に納得も出来た。

 しかし、ギルド職員達の前に今あるのは、ランクSモンスター……それも新種のクリスタルドラゴンの死体だ。

 それこそ、この死体だけでどれだけの価値があるのか分からない程の代物だった。

 そのような死体だけに、出来れば綺麗な状態で持ってきて欲しいという思いがあるが、同時にこのようなドラゴンとの戦いであれば、綺麗に死体を残すというのが、そもそも難易度の高い話だ。

 それは分かっている。分かっているのだが、それでもやはり……と、そう思ってしまうのは、モンスターの解体を行う者として当然だった。

 そんなギルド職員達の様子から、レイも何を思っているのかは想像出来る。

 しかし、それはもう今更の話だし、何よりもクリスタルドラゴンと戦っている時には、そんなことを考えていられる余裕はなかった。

 今にして思えば、首と右腕、尻尾を切断されてはいるが、かなり綺麗に死体が残っている方だとすら思う。


「さて、クリスタルドラゴンの魔石を取り出そうと思うんだが……誰かやってみたい奴はいるか?」


 内臓で汚れるのが嫌なレイは、そうギルド職員達に尋ねるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 力自慢なら、100キロくらいなら武器として振り回すことはできなくても、床から持ち上げるくらいなら、簡単だと思う。 地球でもベンチプレスでも100キロオーバー上げる人はたくさんいるし、デ…
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