2594話
今年もまた、ライトノベル界の中でも屈指の規模の「このライトノベルがすごい!2021」が始まりました。
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締め切りは9月23日となります。
巨狼について……いや、正確にはモンスターの解体についての話が決まると、レイは巨狼をミスティリングに収納する。
今は冬ではなく夏だ。
一応この倉庫には気温を調整するマジックアイテムがあってそう簡単に腐るということはないが、それでも万が一を考えれば時間の流れがないミスティリングに収納しておいた方がいい。
「さて、次だ。これは仮称女王蜂。ただし、正直なところこの女王蜂はランクAモンスターとして相応しいのかどうか、俺は微妙だと思ってる」
そう言い、レイは女王蜂をミスティリングから取り出す。
ついでに、女王蜂に従っていた働き蜂も説明の補足の為に取り出した。
『おお』
巨狼程ではないにしろ、それでも女王蜂の死体から受ける衝撃は大きかったらしい。
それでも巨狼に比べると小さいので、ギルド職員達はすぐに我に返ってどういう風に解体していくかといったようなことを相談し始める。
そんなギルド職員達の様子を見て、やはりレイはこの女王蜂はランクAモンスターではないのか? と思う。
「なぁ、一応聞くけど……ギルド職員的に、これはランクAモンスターに認識出来そうか?」
解体の順番を話しているギルド職員達にそう尋ねると、その中の一人がすぐに頷く。
「そうですね。蜂型のモンスターというのはそれなりに数がいますが、基本的には個体の戦闘力が強くないというのが多いです。ああ、勿論それは他のランクAモンスターと比べてという話で、単純にモンスターとして見た場合は当然のように強いですが。その代わり、レイさんが出したその蜂……そういう蜂を大量に従えているのが、厄介なんですよね。個ではなく群れで戦う感じですか」
ギルド職員のその言葉に、レイは納得出来る。
実際、働き蜂もレイやセトだからこそ普通に倒すことが出来たのだが、低ランク冒険者であれば働き蜂に殺されるといったようなことがあってもおかしくはない。
「なるほど。ちなみに、この女王蜂も未知のモンスターか?」
「調べてみないとはっきりとしたことは言えませんが、恐らくは未知のモンスターかと」
「なるほど。ともあれ、女王蜂はこれでいいな。次に行くぞ」
『あ……』
レイの言葉に、ギルド職員達は待って欲しいといったような声を上げる。
ギルド職員であっても、ランクAモンスターを見る機会というのはそう多くはない。
だからこそ、今回のも出来ればもっとしっかりみたいという思いがあるのだろうが……
「レイが持ってきているランクAモンスターは、まだ他にもいるんですよ。そうである以上、ここで無駄に時間は使わない方がいいでしょう。……レイ、次のモンスターをお願いします」
ワーカーの言葉に、ギルド職員達も不承不承といった様子ではあったが従う。
本来ならギルドマスターに対する態度ではないのだが、それだけランクAモンスターが珍しいということの証明だろう。
「とはいえ、つぎのモンスターは……解体をするというのは、ちょっと難しいと思うぞ。闇の世界樹だ」
そう言い、レイはミスティリングから闇の世界樹を取り出す。
半ば……いや、半分以上が炭や灰となっているその巨大な木を見て、ギルド職員達は驚く。
(あ……いやまぁ、無事に入ったんだしいいか)
もしかしたら、半ば燃えて灰や炭になっていない状態であった場合、闇の世界樹は倉庫の中に入りきらなかったのではないか。
ふと、そんなことを思ってしまったのだが、幸いなことに今の闇の世界樹であれば問題はなかったので、レイとしては取りあえず突っ込まないことにする。
「これは闇の世界樹。こっちの……」
そう言い、レイはヴァンパイアの灰と魔石を取り出す。
「このヴァンパイアが魔の森で結界を張って育てていた植物型のモンスターだ。闇の世界樹の場合は、解体となると、それこそ木を切る程度だろ? ヴァンパイアにいたっては、解体するような場所もないし」
「それは……まぁ、そうだな。だが、ヴァンパイアの灰はそれなりに錬金術師達が素材として欲している代物だし、そっちの闇の世界樹だったか? そっちも、杖や棍棒とかの武器にも使える可能性があるし、仮にも世界樹の名前がついてるのなら、素材としては一級品の筈だ」
「世界樹って言っても闇の世界樹だぞ?」
レイは闇の世界樹が具体的にどのようなモンスターだったのかを知っている。
それこそ他のモンスターを呼び寄せて殺し、生首の生えた蔦とするような存在だ。
この闇の世界樹を素材に何かを作ったとしても、それこそ呪われているのではないかと、そう思ってしまう。
もっとも、それを言うならモンスターの素材の中には闇の世界樹と同じくらい怪しい物は多数ある。
そのような素材であっても、普通に使われているのだから、その辺はレイの気にしすぎという一面も強いのだろうが。
「それは多分大丈夫だ。錬金術師達なら、その辺をどうにかしてしまうだろう」
「……なるほど」
ギルムにいる錬金術師達全員がそうだという訳ではないが、レイの知っている錬金術師達……具体的には、トレントの森で伐採した木に魔法的な処置を施している錬金術師達のことを考えれば、それこそ闇の世界樹などという、いかにも呪われそうな素材であっても嬉々として研究するのが目に浮かぶ。
「そんな訳で、闇の世界樹についてはこっちに任せてくれ」
そう断言するギルド職員達にレイは頷き、闇の世界樹とヴァンパイアの死体や灰、炭、魔石といった諸々と纏めてミスティリングに収納してから、口を開く。
「これが最後だ。魔の森で戦った、ランクAモンスター……かどうか、女王蜂とはまた少し違う意味で分からないモンスターだ。こっちは純粋に強さ的な面で、ランクB以上ではあるがランクAには届かないといったような印象のだな」
そう言い、レイはキメラをミスティリングから取り出す。
身長三m程の巨体を持ち、顔は犬そのままの顔。
そして腰からは尻尾……の代わりに、蛇がのびてるという、そんなモンスター。
「取りあえず、キメラという風に呼んでるけど仮称だな」
「ふむ……これもまた珍しい。誰か、知ってる者はいるか?」
ギルド職員の一人がキメラを見て同僚に尋ねるが、皆がその言葉に対しては首を横に振る。
「無理矢理近いのだと、ワーウルフとかそっち系のモンスターだとは思いますが……ワーウルフというか、ワードッグであっても、これだけの巨体は持たないでしょう。それに何より、尻尾が犬ではなく蛇であるという点が大きく違います」
そんなことを言ったギルド職員に、他の者達もその言葉に同意する。
少なくても、ここにいるギルド職員達は全員がこのようなモンスターを見たことがなかった。
……とはいえ、ギルド職員たちにそこまで強い驚きの色はない。
ここまでレイが出してきたモンスターで、その辺の驚きには既に慣れてしまったのだろう。
それがギルド職員として正しいのかどうかはともかくとして、レイの持ってきたモンスターの解体をするという意味では、正しい筈だ。
(ランクAモンスターだったり、クリスタルドラゴン以外にも……ランクB以下のモンスターも、結構な数があるんだけどな)
今はこうして昇格試験に関係のあるモンスターを出してはいるが、レイのミスティリングの中にはそれ以外のモンスターの死体も結構な数が入っている。
当然ながら、レイとしてはそれらのモンスターの解体もギルドに頼む筈だった。
(特に牛とかオークナーガとか……文字通りの意味で美味しいモンスターは、俺の粗雑な解体技術ではなくて、きちんとした技術を持ってる奴に解体して欲しいし)
解体の仕方によって、肉の味は変わってくる。
だが、それ以上に解体が下手だった場合、食べられる肉の量が少なくなってしまうというのが、問題だった。
また、解体の上手い下手では、切り出した肉の形にも影響してくる。
そして肉の形に影響してくるということは、その肉を食べた時の食感にも影響してくるのだ。
勿論、形の悪い肉をきちんと切り揃えるといったような真似をすれば、食感の違いというのはなくなるが……それはそれで、食べる部位が少なくなってしまうという問題がある。
切った場所は挽肉にするなりなんなりして、別の料理に使えばいいのかもしれないが。
「このキメラだが、身体から生えている毛はかなり硬い。解体する時は、その辺を注意した方がいいと思う」
「む……これは、確かに厄介ですね」
レイの言葉を聞いたギルド職員が、毛に触れてその硬さに眉を顰める。
キメラは既に死んでいるが、それによって毛が抜けやすくなったり、柔らかくなったりといったようなことはないらしい。
それだけに、このキメラを解体する時には、かなり手間がかかる……それこそ、レイが持つミスリルナイフのような、特殊な道具を用意する必要があった。
頑丈な毛が生えているという点では、最初にレイが出した巨狼もそうだったのだが、このキメラの場合はより高い防御力を持っている。
そういう意味では、ギルド職員達から見ても十分にランクAモンスターと呼ぶに相応しい能力を持っているように思えた。
「それでも、この様子からするとそこまで大きくはないので、解体する時は……そうですね。女王蜂の次くらいが妥当でしょうか?」
「そうだな。道具はいつものじゃなくて、特殊な道具を使う必要があるが、それがいいだろ」
ギルド職員達が真剣な表情で話す。
当初はランクSモンスターのクリスタルドラゴンを早く見たかったのだろうが、こうして目の前にランクAモンスターの死体があり、それを解体するとなれば……当然のようにそちらに集中してしまう。
この辺りは職人の性という面もあるのだろう。
「ヴァンパイアは灰しかないから解体する必要はない。闇の世界樹の方は、炭となってる場所を取り除いたりする必要があるが、それでも切り分けるのはそこまで難しくない。となると……順番としては、闇の世界樹、女王蜂、キメラ、巨狼……か?」
ギルド職員の中でもリーダー格の五十代の男の声に、皆は頷く。
そして話が決まったところで……全員が一斉にレイに視線を向けてくる。
それこそ、練習でもしたのかと言いたくなるくらいに動きが揃っており、そんなギルド職員達の視線を向けられたレイは、無言の迫力に数歩後退ってしまう。
クリスタルドラゴンとの戦いでさえ、退くことなく堂々と戦い続けたレイだ。
そんなレイが後退るくらいなのだから、ギルド職員達の視線がどれだけの迫力であるかが分かりやすいだろう。
「な、何だ?」
「レイ、勿体ぶらないでくれ。俺達はランクAモンスターについて大雑把にだが調べた。まだ絶対にとは言わないが、ほぼ間違いなくレイが出したモンスターは……それこそ女王蜂もキメラも、ランクAモンスターという認識で間違いないと思う」
「お、おう。そう言ってくれると、俺も助かるよ」
ギルド職員のリーダー格の男の言葉に、レイはそう返す。
ギルド職員というのは、大雑把にレノラやケニーのように最初からギルド職員として雇われている者と、元冒険者がギルドに雇われてギルド職員になるという二つに分けられる。
実際には誰か有名な相手からの紹介状を持ってきたりする者もいるのだろうが、それは本当に少数でしかない。
そういう意味で、今レイと話しているギルド職員は間違いなく冒険者上がり……それも低ランクではなく高ランク冒険者であると、そう確信出来た。
「だろう? なら、俺達は俺達の仕事をしっかりとやった。そうである以上、次はレイが自分の仕事……という表現はちょっと違うかもしれないか。とにかく約束の物を見せてくれてもいいんじゃないか?」
ギルド職員が何を言ってるのか、当然それはレイも理解出来る。
だが、それでもそこまでクリスタルドラゴンに食いついてくるというのは、レイにとっても予想外だったのだ。
「あー……うん。分かった。問題ない。そっちがきっちりと仕事をこなしたんだから、こっちもそれに応えさせて貰うよ。それに、クリスタルドラゴンも今回の昇格試験で倒したモンスターである以上、あんた達にとってはこれも仕事の一部だろうし」
そんなレイの言葉に、ギルド職員達の何人かは照れ臭そうな表情を浮かべる。
自分の仕事が認められているというのは、それだけ嬉しいのだろう。
ましてや、レイは色々な意味で有名な冒険者だ。
そして今回の昇格試験でランクA冒険者となったそんなレイが、自分達の仕事を認めているというのだから、それを嬉しく思うなという方が無理だった。
リーダー格の男もそれは同様なのか、レイの言葉に小さく笑みを浮かべる。
そんなギルド職員達の様子を、ワーカーは少し離れた場所で眺めていた。
「よし、じゃあ出すぞ。クリスタルドラゴンだ」
そう言い、レイはキメラを収納してからランクSモンスターのクリスタルドラゴンを出すのだった。