2586話
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締め切りは9月23日となります。
レイの魔法によって生み出された巨大な魔法陣が炎の壁となり、それがレイ達とモンスターを隔てる。
そしてレイ達……正確にはセトを追っていたモンスター達は、次から次に炎の壁に向かって突っ込んでは、身体を炎で燃やされて死んでいく。
「あー……勿体ない」
身体の全てが炎で燃えている以上、当然だが素材や食べられる場所も燃えている。
それどころか、低ランクモンスターの場合は身体だけではなく魔石までも魔法によって燃やしつくされていた。
レイが勿体ないと言ったのは、それらに対してだ。
素材となる部位や、食べられる場所が燃えたのも残念だったが、やはりそれ以上に残念だったのは魔獣術で使う魔石だ。
一定以上の実力を持つモンスター……高ランクモンスターなら、魔石が無事だった個体も多いし、中には燃え残っている身体を持つモンスターもいる。
そのようなモンスターがある程度いるのは、レイにとってせめてもの救いか。
「それにしても……何だってこうも次々と魔法に向かって突っ込んでくる?」
セトのすぐ後ろを飛んでいたモンスターが炎の壁に自分から突っ込んだのは、レイにとっても十分に納得出来ることだった。
だが、飛行モンスターの中でも特に速度に優れたモンスター達はともかく、その後ろを飛んでいたモンスターであれば、速度を落として炎の壁にぶつからないようにするといった真似が出来てもおかしくはない。
にも関わらず、何故かセトを追ってきたモンスターはその全てが燃やされると知っていながら、炎の壁に自分から突っ込んでいく。
一体何がどうなっているのか、レイには分からない。
それでもこれは自分達にとって悪いことではないというのもあり、疑問を抱きはするがそれだけだった。
「グルルルルゥ」
レイの様子に、セトはどうするの? と尋ねる。
セトにしてみれば、出来れば今日はこれ以上、レイに戦って欲しくないと思っているのだろう。
レイも魔の森ですごした二泊三日で精神的に大きく消耗しているのは、霧のモンスターとの戦いで集中した時に十分理解している。
だからこそ、セトの気持ちは分かった。
「安心しろ。これ以上戦おうとは思わないから。ただ……魔石とかは拾っておく必要があるな」
かなりの数のモンスターが、魔石まで燃やされている。
だが、それは地上で死体になっているモンスターの大半は高ランクモンスターであるということを意味している。
そういう意味では、昇格試験で魔の森に入った中ではかなり大きな収穫となるだろう。
ランクAモンスターの類は、さすがにいないように思えたが。
(ランクAモンスターなら、種類にもよるけど炎の壁を突破してきたりしそうだよな。……そうなったら、セトには悪いけど戦う必要が出て来るか)
セトが心配しているように、レイとしても今夜はもう戦いたくない。
だが、レイが戦いたくないと言っても、モンスターがそんなレイの希望を叶えてくれる筈がなかった。
「セト、俺も好んで戦う気はないけど、それでも敵が炎の壁を突破してきたら戦いになるぞ。注意しておけ」
「グルゥ」
分かった、と頷くセト。
覚悟を決めた様子のセトだったが、炎を突破してくれるようなモンスターはいない。
追ってきたモンスターの中では間違いなく最高峰の強さを持つワイバーンですら、レイの生み出した炎の壁を突破出来ずに燃えながら地面に落下していった。
そうして、暫く眺めていると、モンスターは次から次に焼け死んでいく。
「これなら、特に心配する必要もないな。後は……げ……」
レイのその言葉が、あるいはフラグだったのだろう。
最後の最後……本当に最後尾を飛んでいたモンスターが、炎の壁を突破してきたのだ。
外見は、空を飛ぶ亀。
その亀が甲羅の中に手足を引っ込め、回転しながら炎の壁を突破してきたのだ。
(何だっけ? 怪獣映画にこういうのがあったよな)
予想外の姿に驚きつつも、レイはデスサイズと黄昏の槍を構える。
だが……そんなレイの意表を突くように、空を飛ぶ亀は地上に向かって落下していく。
手足を甲羅に引っ込めていたので、甲羅そのものは無事だった。
だが、炎の壁を突破する瞬間、甲羅の中は蒸し焼きといった感じになり……そのまま亀のモンスターは息絶えてしまった。
レイにしてみれば、正直なところ予想外の光景ではある。
だが同時に、今の自分の状況で余計な戦闘をしなくてもよくなったというのは、レイにとって悪いことではなかった。
「いやまぁ、うん。……さすが俺の魔法だな」
地上に向かって落下した亀を見ながら、レイは構えていた武器を下ろしながら呟く。
亀のモンスターが突破してきたことには驚いたのだが、それでも戦わなくてもいいことに安堵する。
「グルルゥ」
最後尾の亀のモンスターを倒したことにより、レイとセトを追ってきていた、魔の森の上空を飛んでいたモンスターは全て倒すことが出来た。
セトはそれをレイに教えたのだろう。
「そうだな。出来ればもう休みたいところだけど、魔石を放っておく訳にはいかないか」
炎の魔法陣によって生み出された炎の壁が消えたのを見ながら、レイはそう呟く。
折角魔法を使ってまで、昇格試験の最後に襲ってきたモンスターを纏めて焼き殺したのだ。
そうである以上、モンスターを焼き殺しただけで終わらせる訳にはいかない。
素材や討伐証明部位、そして食べられる場所に関しては半ば諦めている。
だが、魔石については話は別だ。
そもそも、最後の最後でこのような真似をしたのは、魔石だけでも入手したいという思いがあった為なのだから。
……低ランクモンスターであったり、高ランクモンスターであっても炎に対して弱い個体は身体だけではなく魔石も焼かれてしまっているだろう。
レイの使った魔法は、それだけ圧倒的な威力を持つ魔法だった。
純粋に魔石を入手するという意味では、少しやりすぎだろう。
しかし、相手は魔の森のモンスターなのだ。
もし炎の威力が弱い場合、魔の森のモンスターであれば炎の壁を突破していただろう。
そうなっても相応のダメージはあったのだろうが、倒すのはレイやセトが直接行わなければならなかった。
レイやセトが万全の状態であれば、それでもよかったのだろう。
だが、セトはともかく、今のレイはとてもではないが万全の状態とは言えない。
レイもそれが分かっていたからこそ、モンスターを過剰な火力で燃やしつくすといった真似をしたのだ。
「問題なのは、一体どれくらいの魔石が残ってるのかだな。……セト、頼む」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らして、地上に向かって降下していく。
何故セトがここまで機嫌がいいのか。
それは、追ってきたモンスターを全てレイの魔法で焼き殺すことに成功し、結果としてこれ以上レイが戦闘を行わなくてもよかったと、そう思ってるからだろう。
……それ以外にも、レイの魔法で焼き殺されたモンスターの中には、焼けて美味く食べられる肉があるかもしれないと、そのように思っているからなのかもしれないが。
もっとも、焼けて死んだモンスターの肉だ。
当然のように味付けをしたりはしていないし、肉を食べやすく切ったりといったようなこともしていない。
そうである以上、もし食べてもそこまで美味い訳ではない。
レイはそう思うのだが、セトにしてみればそれでも十分に期待出来るのだろう
(まぁ、ランクAモンスター……とはいかないまでも、ランクBモンスターとかなら、もしかしたら美味く食べられるかもしれないけど)
そんな風に考えながら、レイは着地したセトの背から下りる。
「これは、また……改めて見ると凄いな」
多数のモンスターの死体が地面にはあった。
ただし、レイの生み出した炎の壁があまりに高熱だったというのも関係しているのか、炎で完全に燃やされたモンスターは地上に落下するまでの間に完全に炭どころか半ば灰になっていた個体も多かったのか、死体そのものが殆どないモンスターも多かった。
当然ながら、そのようなモンスターは魔石までも燃えてしまっており、回収することは出来ない。
(デスサイズで心臓を破壊するような感じで殺していれば、もしかしたら新たなスキルを入手出来たのかもしれないな)
そう思うレイだったが、魔の森の上空にいたモンスターの中でも、本当に高ランクモンスターと呼ぶべき高い知性を持っているようなモンスターは、レイ達を追ってきていない。
いや、あるいは最初は追っていたが、魔の森からセトが逃げているのを見て……そしてセトが全力で逃げるのではなく、ある程度速度を調整しているのを見て、セトが自分達を誘き寄せているというのに気が付いた個体もいたのだろう。
結果として、レイ達を追ってきたのはその辺りについては全く考えていないモンスターと、知性はあっても血気に逸って考えるといったことをしなかったような、そんなモンスター達だったのだろう。
(そう考えると、最後にしてはあまりぱっとしないな。……まぁ、それでも魔石がそれなりに入手出来るのは嬉しいけど)
元々が最後の派手な花火といったつもりで行ったことである以上、強力なスキルを習得出来ればラッキー程度の気持ちだった。
だからこそ、レイはこの結果にそこまで気分が落ち込むことはなかったのだろう。
もっとも、それはあくまでもそこまで気分が落ち込まないというものであって、実際には多少気分が落ち込んではいたのだが。
「さて。……セト、まずは魔石を集めるぞ。具体的にどのくらいの量があるのかは分からないが、集められるだけ集めよう」
「グルゥ! ……グルルルゥ?」
レイの言葉に即座に頷くセト。
だが、少しレイを窺うように尋ねてくる。
それが何を言いたいのかは、レイにもすぐに理解出来た。
「ああ、この様子だともう素材とかを集めるのは無理だし、何より疲れているからゆっくりと休みたい。だから、魔石以外……具体的には肉で食べられるような場所があったら、それは食べてもいいぞ」
「グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに魔石を探し始める。
こうして実際に行動する前から、セトはレイに肉については何度か尋ねていた。
その度にレイは問題ないと言っていたのだが、こうして実際に許可を出されたことが嬉しかったのだろう。
まず、襲ってきたモンスターの中では最大級の大きさを持ち、そして一応は竜種であるワイバーンに向かう。
(ワイバーンの魔石は持ってきても意味がないんだけどな。あ、でも希少種だったり、もしくはワイバーンはワイバーンでもベスティア帝国との戦いで倒したワイバーンとは違う種族だという可能性もあるのか?)
普通なら、ワイバーンの外見を見れば違いは分かったりするのだが、レイの魔法によって燃やされてしまっている以上、ワイバーンがどんな相手だったのかを確認することは出来ない。
一応、ワイバーンが炎の壁に突っ込んできた時に少し見ることは出来たのだが、その時は炎によって明るく照らされていた影響もあったし、何よりも他のモンスターも複数突っ込んできており、それが炎の壁を突破してこないかどうかというのを見ていた為に、ワイバーンがいたというのはしっかりと理解出来たが、それが具体的にどのような外見をしていたのかといったことまでは判別出来なかった。
それでも魔の森にいた以上、もしかしたら普通のワイバーンではない可能性は十分にある。
「ワイバーンはセトに任せて、俺も魔石を集めるか」
身体が燃えていても魔石はまだ無事なモンスターの死体を見つけては、ナイフ……ミスリルナイフではなく、普通のナイフで身体を解体しては、魔石を集めていく。
身体が大きく、まだ食べられる場所が残っているモンスターについてはセトに任せ、レイが集めるのは身体が小さかったり、食べる場所がないようなモンスターの死体だ。
とはいえ、やはりと言うべきか数はそこまで多くはない。
「これも駄目か」
身体が炭化している死体を、斬り裂くというよりは破壊するようにして体内を開くも、魔石も炭と化していて、ナイフの刃先が触れると欠けてしまう。
「そうなると……ああ、あのモンスターがいたな」
レイが視線を向けたのは、最後に炎の壁に燃やされた亀のモンスターの死体。
曲がりなりにも炎の壁を突破する能力を持っているだけあって、亀の甲羅は無事だ。
……生憎と、甲羅の中身は炎に耐えられなかったようだが。
(海亀の甲羅をそのまま使ってスープにするってのを何かで見たとがあったけど……多分、これは無理だよな)
他のモンスターが炭や灰になっているのを考えれば、亀の中身も同じようなものだろう。
そう思いながら解体し……自分の予想が当たっていたことを、残念に思うのだった。