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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2584/3865

2584話

今年もまた、ライトノベル界の中でも屈指の規模の「このライトノベルがすごい!2021」が始まりました。

レジェンドにも是非投票をお願いします。


URLは以下となります。

http://blog.konorano.jp/archives/52066788.html


締め切りは9月23日となります。

「グオオオオオオオオオ!」


 三m近い身長で犬の頭部を持ち、全身が毛で覆われ、腰からは独自の意思を持つ蛇を尻尾として生やすという……レイの認識ではどう認識していいのか分からないような敵が、近付いてくるレイを見て咆吼を上げる。


(あ、この要素を考えてみれば、キメラなのかもしれないな。うん、巨人じゃなくてキメラと認識するか)


 頭の中で、相手は巨人ではなくキメラだと認識を変える。

 とはいえ、レイの中にあるキメラというのは、基本的に四足歩行のモンスターだ。

 獅子、山羊、蛇という三つの特徴を持っているのだが、レイの前にいるキメラは犬の巨人とも呼ぶべき存在で、蛇の尻尾が生えてはいるものの、レイの知っているキメラとは大きく違う。

 二足歩行と四足歩行という時点で大きく違うが……ともあれ、レイにしてみれば相手を呼称する名前がなければ面倒だと思ってのキメラという呼び方である以上、そこまで気にはしていない。

 それこそ、呼称という意味では犬の顔を持っているだけにポチといったような呼び方でもいいのだが、相手をそんな風に呼べば自分の中で戦いの集中力が切れるのは間違いない。

 であれば、やはりここはキメラということにしておいた方がよかった。


「グオオオオオオ!」


 相手をキメラと呼ぶと決めたことに反応したのか、それとも単なる偶然だったのか。

 それは分からないが、キメラは鋭い爪の生えている右手をレイに向かって振るってくる。

 そのような真似をすれば、当然だがレイとは反対側からキメラに向かっているセトに背を向けることになるのだが……キメラの腰から伸びている蛇は、自分に向かって攻撃をしようとするセトに向かって牽制する。

 腰から伸びている以上、その長さはそこまで長い訳ではない。

 それでもセトが近付かないように牽制するという意味では問題なかった。

 ……近付かせないようにするには、だが。


「グルルルルルルルゥ!」


 セトはキメラの背中に向かって衝撃の魔眼を放つ。

 威力はそこまで高くはない衝撃の魔眼だが、それでも岩に傷を付けるといったくらいの威力はある。

 あるのだが……キメラの身体を覆っている毛はかなり高い防御力を持っているらしく、衝撃の魔眼程度ではダメージを与えることが出来ない。

 それでも一瞬キメラの気を逸らす真似は出来た。

 レイにとっては、その一瞬があれば十分対処出来る。

 キメラも最初の一撃で勝負を決めるとは思っていなかったのか、レイが自分の攻撃にどう対処するのかを楽しみにしているような一撃だった。

 それでも右手から生えている爪は鋭く、身長三m近くもあるキメラの叩き付けるような一撃は、命中すれば確実に死ぬだろう。

 レイのとキメラの身長差は、倍近くある。

 そんな状況で振り下ろすような一撃を放つのだから、隙の大きい一撃だったのは間違いない。

 レイはそんな大ぶりの一撃を回避し、振り下ろされたキメラの右腕を切断しようとし……その瞬間。キメラの腕が一瞬にして引き戻されたことに驚く。


「マジか!?」


 もし衝撃の魔眼でも傷が付かなかったということに過剰な自信を持ち、デスサイズの一撃を腕で受け止めるといったような真似をしていれば、その腕を切断されていただろう。

 だが、キメラはそんなレイの思惑を読んだのか、もしくはもっと別の理由なのかは分からないが、レイが腕を切断しようとした瞬間を見計らうように、腕を手元に戻した。


「なら!」


 デスサイズの一撃を意図的に大振りにすることで、キメラに距離を取らせ……その一撃の反動を利用して、黄昏の槍の一撃を放つ。


「グワオウ!」


 そんな奇妙な声を漏らしつつ、キメラは黄昏の槍の一撃を腕で弾こうとする。

 キメラにしてみれば、デスサイズが危険なのは分かっていたが、そちらにばかり注意がいっていたのだろう。

 あるいは、背後から襲ってきた衝撃の魔眼を防いだことで、黄昏の槍の一撃も対処出来ると思ったのか。

 しかし、その考えは甘かった。

 レイの放った黄昏の槍の一撃は、キメラの腕に突き刺さり……そのまま腕を貫くかと思ったレイは、キメラの毛が切れ、腕を傷付けつつも、無理にどうこうするのではなく、腕で受け流すといった真似をしたことに驚く。

 そのような真似をしても、当然だがキメラが負った腕の傷は大きい。

 しかし、レイとしては出来れば腕を切断するか……そこまでいかなくても、戦いの最中に腕を使えないようにするつもりだった。

 だが、キメラは腕を傷つけたものの、戦闘で使えない程ではない。

 勿論、以前と比べて戦闘力は落ちるだろうが。


「グルラアアアアアアアア!」


 腕の痛みに耐えかねたのか、それともレイという強敵を前にして興奮したのか。

 どういう理由で雄叫びを上げたのかは、レイには分からない。

 分からなかったが、それでもキメラと戦う必要があるのは間違いない以上、レイもまたそれに応じようとし……


「シャアアアア!」


 不意にキメラが発したそんな声が周囲に響く。

 正確には、それはレイの向かい合っていた犬の部分が発した声ではなく、尻尾となっている蛇の発した声。

 蛇がそんな声を発した理由は、キメラの本体に危険を知らせる為だった。

 そう、キメラの背後から近付いてきたセトという危険を。

 だが、本体の方もレイを前にして、視線を逸らすなどといったような真似は到底出来ない。

 キメラにとっても、レイという存在が容易に倒せる相手ではないと、そう理解はしているのだろう。

 また、レイもキメラの後ろ側からセトが迫っているのが見えていたので、セトと共に敵を挟撃すべく、キメラの意識を自分から離さない方がよかった。


「地形操作!」


 デスサイズの石突きを地面に突き立て、スキルを発動する。

 次の瞬間、何の脈絡もなく、キメラの立っていた地面が沈む。


「グオルゥ!?」


 キメラにとっても、それは予想外の行動だったのだろう。

 あるいは、レイが直接何らかの攻撃を仕掛けてきたのであれば、キメラにも対処は出来たかもしれない。

 だが、レイが行ったのはキメラを直接攻撃するといったような方法ではなく、相手の体勢を崩す為の攻撃補助とでも呼ぶべき攻撃だ。

 セトが攻撃をする際のことを考えて、キメラが落下したのは一メートル半。

 丁度身長の半分程が穴に埋まったといったような形となる。

 本来なら五mまで地面を沈めることが出来たのだが、そうすればキメラの身体も完全に埋まってしまって攻撃はしにくくなるし、キメラの外見から考えて高い身体能力を持っているのは間違いない以上、五m程度の穴からはあっさりと跳躍して出て来てもおかしくはない。

 だからこそ、レイは身体の半分程を沈めて数秒……もしくは一瞬であってもキメラを混乱させ、その瞬間にセトの攻撃を叩き込むといったような攻撃方法を思いついた。

 そして、レイの目論見は見事に当たる。

 それ以外にも、身体の半分が地中にある状態になれば尻尾の蛇も当然ながら地中に存在するので、近付いてくるセトを確認出来ない。

 そう思っていたのだが……


「なぁっ!?」


 レイの口から驚きの声が漏れ出る。

 当然だろう。その長さから考えて間違いなく穴の中から出ることが出来ない筈だった、キメラの尻尾の蛇が、穴から顔を出したのだから。

 一体どうやったのかはレイにも分からなかったが、何らかの手段を使って尻尾の蛇を伸ばしたのだろうというのは理解出来る。

 そして伸びた蛇は、地上に顔を出してから更に伸びていく。

 具体的にどのくらいの長さがあるのかは、レイにも分からない。

 分からないが、それでも三m……いや、五mくらいの長さになっていてもおかしくはない。


「グルゥ!? グルルルルルゥ!」


 いきなり自分の方に伸びてきた蛇に、接近していたセトも驚きの声を上げる。

 それでもキメラがランクAモンスターである以上、レイやセトの予想を超える行動をするくらいはおかしな話ではない。

 だからこそ、驚きを一瞬にして攻撃を続行する。

 ただしセトが狙うのはキメラの本体……ではなく、急激にその身体を伸ばしてきた蛇の部分だ。

 キメラの背後を警戒し、ここまで圧倒的に尻尾を伸ばすといったような攻撃をする相手だけに、まずはその蛇の部分を倒してしまった方がいいだろうと判断したのだ。

 蛇もまた、セトが本体ではなく自分に向かって攻撃をしてきたというのを理解し、それに対抗するように牙を剥き出しにする。

 当然の話だが、レイもセトと蛇の戦いをただ黙って見ていた訳ではない。

 キメラが身体を沈めた瞬間には、地面を蹴って間合いを詰めていた。

 幸いにも地形操作は一度使用すれば、その地形はそのまま残る。

 地面に石突きを突いていたデスサイズも、普通に武器として使うことは可能だった。


「グルオオオオオオオオオ!」


 自分に向かって近付いてくるレイに、キメラは大きく口を開けたかと思うと咆吼し……


「風のブレス!?」


 キメラの口から風……というよりは、小さい竜巻のようなブレスが放たれたのを見て驚きの声を上げるレイ。

 だが、そんなブレスを見てもレイは特に進路を変えたりといったような真似はせずに突っ込んでいく。

 そうして竜巻のブレスがレイに向かって命中しようかとした瞬間、レイの身体の周囲を漂っていた光の盾が前に出て、竜巻のブレスを受け止める。

 どのような攻撃も、一度だけは完全に防ぐ。

 その効果は今回もまたしっかりと発動し、光の盾は竜巻のブレスを受け止めることに成功する。


「グガァッ!?」


 竜巻のブレスを放ち終わったキメラは、自分の攻撃がレイに何もダメージを与えられなかったことに驚きの声を漏らす。

 それだけキメラにとって、今の竜巻のブレスは自信のある攻撃だったのだろう。

 光の盾で受け止めたので、実際にどれだけの威力だったのかはレイにも分からない。

 だが、地面がブレスの軌道と同じように抉れているのを見れば、先程の竜巻のブレスは間違いなく相応の威力を持った攻撃だったのだろう。

 光の盾が砕けて消えていくのを横目に、レイは地面を蹴って更にキメラとの間合いを詰める。


「多連斬!」


 スキルを発動し、デスサイズを振るう。

 多連斬は斬撃の回数が増えるというだけの単純なスキルだが、増える斬撃がレイの振るうデスサイズによるものであれば、それだけで凶悪な威力となる。

 レイの振るう攻撃に危険を感じたのだろう。

 キメラは何とかその攻撃を回避しようとしたものの、身体の半分が地面に埋まっている以上は回避のしようがない。

 結果として先程黄昏の槍で怪我をした右腕を盾にする形で何とかレイの一撃を受け流そうとするが……


「甘いんだよ!」


 振るわれたレイの一撃は、次の瞬間には右腕を切断して空中を飛ぶ。

 それだけではなく、腕で防御しようした肩から袈裟懸けに胴体も斬り裂かれる。

 身体中に生えている毛と腕一本を犠牲にしたおかげで、胴体の方の傷は致命傷にはならなかったが。


「グギャアアアアアアアアアア!」


 それでも、腕一本と身体を斬り裂かれるというのは、キメラにとっても激痛を感じたのだろう。

 あるいは、竜巻のブレスが通じなかったという驚きも混ざっているのかもしれないが。

 しかし……レイは、そんな相手の雄叫びを聞いても攻撃の手を緩めない。

 右手のデスサイズで多連斬を使った後、左手の黄昏の槍をキメラの左肩に突き刺し、それを支点にして体勢を整え……


「パワースラッシュ!」


 レイの振るったデスサイズは、キメラの左腕を……いや、左肩の周辺諸共砕く。

 今までであれば、パワースラッシュはそこまで気軽に使えるスキルではなかった。

 一撃の威力が高いが、その分だけ反動も酷い。

 その反動を上手く受け流す必要があり……だからこそ、レイにとっては使う時は相応に準備や心構えが必要だった。

 しかし、この昇格試験でパワースラッシュはレベル五になり、スキルが強化されたことによって、反動を気にせずにパワースラッシュを使えるようになった。

 その成果が、現在レイの前にあった。

 右腕に続いて左腕も肩諸共破壊され、空中に吹き飛ぶ。

 そんな中からレイは黄昏の槍の能力を使って手元に戻し、身体を回転させながらデスサイズを振るう。


「グガァッ!」


 キメラも自分が絶体絶命の状況であるのは理解していたのだろうが、それでも現在のような状況となればどうすることも出来ず……せめてデスサイズの刃を牙で受け止めようとしたものの、レイが振るったデスサイズの刃はそんなキメラの動きよりも素早く、首を切断する。

 それとほぼ同時に、セトもまたキメラの尻尾の蛇の身体をパワークラッシュの一撃で破壊し……そして、ランクAモンスターと思われるキメラとの戦いは決着がついたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 光の盾が防ぐ一撃ってどんな定義なんだろう? 火球を防ぐとかはわかるけどドラゴンとかが炎のブレスを五分ぐらい吐き続けてても一撃として防ぎ続けてくれるのかな? 今回の竜巻のブレスも光の盾に…
[一言] セトに魔石を使うとしたらトルネードかサイズ変更か それともブレス系になるのかな?
[良い点] こりゃ、サイクロンか、ウィンド・ブレスとか? アロー系かも知れないな。
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