2582話
今年もまた、ライトノベル界の中でも屈指の規模の「このライトノベルがすごい!2021」が始まりました。
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締め切りは9月23日となります。
「飛斬!」
デスサイズを振るって斬撃を飛ばすと、その斬撃の飛んでいった軌跡をしっかりと見ることが出来る。
何しろ、斬撃が飛んでいった場所にあった霧は消滅するのだから。
しかし……それでもすぐに霧の消えた場所は周囲の霧が覆い隠してしまい、再び周囲は完全に霧で覆われる。
「うーん……いっそ魔法を使った方がいいか? いや、けどここは魔の森だしな」
霧そのものを燃やすといったような真似をすれば、この霧を発生させているモンスターを倒す……もしくは、その姿を見つけることが出来るだろう。
だが、当然ながら霧を燃やすということは、レイの魔法を使うということだ。
そうなれば、ここが魔の森である以上は周囲に生えている木々もまた燃える可能性があった。
その場合、魔の森のモンスターが火から逃げる為にどのような行動をとるか。
恐らくは、魔の森から出ていくといった可能性が高い。
川の源流たる、水を生み出す水晶をレイが奪った時にどうなるかと考えた内容が、火事でも起きる可能性はあった。
いや、川の水の場合は水の溜まっていた湖はかなりの大きさだったので、川に流れる水が涸れるにしても、それなりに時間が掛かるだろう。
しかし、火事となれば川の水が涸れる時のように時間は掛からない。
それこそ、最悪数時間と経たずに魔の森全体に火が回る可能性があるのだ。
だとすれば、川の水が涸れた時のことを想像した以上に大きな騒動になる可能性があった。
(とはいえ、魔の森に棲息するモンスターは、多種多様だ。そんな中には、炎を使うようなモンスターがいてもおかしくはない。それでもこの魔の森が火事になったりしたとなると……もしかしたら、火事を起こさないようにしている何かがあるのかもしれないな)
そうなった時、一番怪しいのは当然のようにゼパイル一門だ。
隠れ家があり、水源となっている結界があり……だとすれば、他にもゼパイル一門の仕掛けが魔の森のどこかにあってもおかしくはない。
「って、違う。今はまずこの霧をどうにかする方法を考えないとな。……よし、セト、効果範囲の広いスキル……クリスタルブレスでも使ってみてくれ」
「グルルルルゥ!」
レイの指示に従い、クリスタルブレスを放つセト。
レベル一なので威力は弱く、クリスタルドラゴンが使っていたクリスタルブレスとは比べものにならない。
しかし、衝撃の魔眼でも霧は消滅させることが出来るのだから、レベル一のクリスタルブレスであっても、霧を消滅させるという意味では全く問題がない。
「クリスタルブレスを放ったまま、顔を動かせ。広範囲の霧を出来るだけ長い間消すんだ」
クリスタルブレスを放ちながらだったので、レイの言葉に返事は出来なかったが、その指示通りに身体を動かす。
そうして、霧が大量に消えていく様子を見ながら、レイは意識を集中する。
周囲が霧に満ちている時は、その霧のおかげで敵がどこにいるのか分からなかった。
だが、こうしてセトが大量に霧を消している今なら、話は別だ。
極限まで意識を集中し、霧の流れる方向を見る。
集中し、集中し、集中し、集中し、集中する。
極限まで高まったレイの意識の中、不意にとある方向から感情が動く様子を感じられた。
強い焦り。
レイはその焦りを感じた瞬間、自分でも意識をしないままに黄昏の槍を投擲する。
大量に魔力が込められた黄昏の槍は、霧を消滅させつつ真っ直ぐに進み……
「ギョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
霧の空間に、そんな悲鳴が響き渡る。
同時に、レイ達の周囲を覆っていた霧が急速に薄くなっていく。
「よし」
この霧を生み出していたモンスターを倒したかどうかは分からないが、少なくてもダメージを与えたのは間違いない。
周囲の霧が急速に薄まっていくのが、それを示している。
黄昏の槍を手元に戻し、そこでようやく息を吐く。
極度に集中した為だろう。レイは自分でも思った以上に疲労していることに気が付く。
もっとも、この疲労に関しては今回の集中力だけではないだろう。
水源でゆっくりと休んだとはいえ、ランクSモンスターのクリスタルドラゴンと戦い、その後も何だかんだと多くの相手と戦い続けていたのだから。
その上、隠れ家という安全な場所とはいえ、それでも魔の森という危険極まりない場所で二泊しているのだから、自分ではまだ大丈夫だと思ってはいても、気が付かないうちに疲れているのは間違いなく、疲労をしっかりと認識したことで、一気にその疲れが来たのだろう。
それでもある程度休みながら行動していたこともあってか、そこまで極端に疲れるといった様子はなかったが。
「これは、不味いな。今は少しでも早くこの敵を倒した方がいい。……霧に何かの効果がないというのは分かっていたけど、効果がなくても効果があるってことか」
言ってる内容は若干矛盾しているが、霧に何らかの特殊な効果がなくても、その霧を見ているだけで精神的に疲労してきたり、焦燥感を抱いたりといったようなことになる。
それはこの霧を生み出しているモンスターが特に何かをしている訳ではなく、純粋にこのような状況になったレイやセトが自然とそのように思ってしまうといったところだろう。
そして疲れというのは、それが精神的なものであれ肉体的なものであれ、一度そうと実感してしまうと、そこから加速度的に疲労感が増していく。
例えば、レイが日本にいた時に体育でやった持久走の類がいい例だろう。
ある程度走ったところで、一度疲れたか? と考えると、途端に疲れが増す。
そうならない為には、周囲の様子を見たり、何かもっと別のことを考えたりといったようなことをして、自分が疲れたといったようなことを考えないのが第一となる。
勿論それは、あくまでもレイがそのように思っているだけで、個人差の類は当然あるのだろうが。
(とにかく、疲れてはいるけど、まだ動ける。それに……疲れているせいか、妙に集中力が増してきたんだよな。一体何がどうなってそうなったのかは分からないけど)
一瞬そんなことを考えるも、すぐに再び意識を集中していく。
自分の中に存在する海の中に沈んでいくイメージ……というのが、この場合は正しいのだろう。
勿論、本当にそのようなことがある訳ではなく、あくまでもレイのイメージでの話だが。
そうして海の水に沈んでいき……やがて、海底に到着する。
そのまま周囲の状況を窺い、やがてレイは先程と同じくらいの集中力を発揮することに成功する。
「そこだ!」
再び投擲された黄昏の槍。
放たれた方向は、先程レイが投擲したのとは全く違う。
だが、それでもレイはそれでいいのだと、そう理解していた。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
霧の中に響く悲鳴。
その悲鳴を聞きながら、レイは自分の攻撃が敵を殺したという実感を抱く。
レイの実感を証明するかのように、霧は急速に薄くなっていく。
霧が薄くなるというのは先程もあったが、今回は先程までよりも明らかに素早く霧が消えていく。
「よし、……セト、向こうの方に進んでくれ」
セトの背に跨がり、そう頼む。
レイの頼みに、セトは喉を鳴らして問題ないと示しつつ歩き出す。
そうして集中した分だけ気を抜きながら、レイは黄昏の槍を手元に戻すかどうかを考え……取りあえず、今は止めておいた方がいいだろうと判断する。
黄昏の槍で霧を生み出していたモンスターを倒したという確信は、レイの中にあった。
だが、それはあくまでもレイがそう感じているだけで、実際にどうなのかは分からない。
その為、もしかしたら黄昏の槍に貫かれたままではあるが、まだ生きている可能性を考えての行動だった。
(黄昏の槍の威力を考えると、身体に突き刺さったままだったり、木に縫い止めていたりするよりも、貫いて身体を爆散させてる可能性の方が高いけど。このモンスターの魔石はかなり便利そうだから、黄昏の槍で魔石を砕いていないことを祈るだけだ)
魔獣術として魔石を消費するのは、あくまでもセトが魔石を飲み込むか、デスサイズで魔石を切断するかといった行為をする必要がある。
幾らレイが使っている武器ではあっても、黄昏の槍で魔石を破壊してしまった場合、その魔石は魔獣術に使えなくなる。
霧で視界の効かない中での攻撃ということもあり、レイとしては黄昏の槍が魔石を破壊していないことを祈りながら、霧の晴れた魔の森の中を進む。
そして五分程進み続けると……
「グルゥ!」
不意にセトがそんな鳴き声を上げる。
レイがセトの視線を追うと、その先にあったのは……木に突き刺さっている黄昏の槍。
「え? あれ?」
霧のモンスターを倒したという確信が、レイの中にはあった。
だというのに、セトの視線の先にあるのは黄昏の槍だけなのだ。
それはつまり、モンスターを逃がしたということになるのではないか。
そんな疑問を感じ、慌てて周囲を見る。
しかし、黄昏の槍が突き刺さっている木の周辺には死体の類がある訳でもなく、血の跡といったものもない。
「どうなっている? 本当に逃がしたのか?」
「グルゥ……グルルルルルゥ!」
と、不意にセトが鳴き声を上げる。
一瞬、また別のモンスターが来たのか? と思ったレイだったが、改めてセトの鳴き声を聞いてみると、周囲の警戒を促すものではなく、レイの注意を引く為の鳴き声だというのが分かる。
「セト?」
どうした? と尋ねるレイに、セトは木の根元に落ちている何かを咥え、見せる。
「魔石!? いや、けど、どうして……」
セトが咥えていたのは、間違いなく魔石だった。
だが、一体何故そのような場所に魔石があったのかということを、レイは疑問に思う。
これで何らかのモンスターの死体があれば、まだ納得も出来たのだが……そう思ったレイは、ふと気が付く。
「あれ? もしかしてあの霧のモンスターって、アンデッド……ゴーストとかそっち系のモンスターだったとか?」
この森にアンデッドがいることそのものは、そこまでおかしくはない。
何しろ、ヴァンパイアがいたのだから。
それでもこうして死体が残らないとなると、やはりゴースト系のモンスターだった可能性が高い。
「グルルルゥ」
喉を鳴らすセト。
何を言いたいのかは、話しているだけで理解出来た。
つまり、セトはこの魔石を自分が使いたいと言うのだろう。
レイはどうするべきか少し迷う。
この魔石を使った場合、もし習得出来るとすれば、それは恐らくは霧を生み出すスキルだ。
魔石を持っていたモンスターが、実は霧を生み出す以外にも何らかの特徴的なスキルを持っていたが、レイとセトと戦っている時はそれを使えなかった……ということであれば、もしかしたら霧を生み出す以外のスキルを習得するといった可能性もない訳ではなかったが。
そして霧を生み出すスキルというのは、デスサイズとも非常に相性がいい。
デスサイズを手にし、ドラゴンローブのフードを被ったレイが霧の中から不意に姿を現すのを想像すれば、その意味は誰でも分かるだろう。
もっとも、あまりに似合いすぎているので、霧の中でレイが出て来るのを見た者は心臓麻痺を起こしてしまうといったような可能性もあったが。
しかし、レイはすぐに首を横に振る。
霧を出すだけなら、それこそデスサイズではなくセトにやって貰えばいいだけの話だ。
そうである以上、この魔石を使うのはセトでもいいだろう。
そう判断し、頷く。
「分かった。なら、その魔石はセトが使うといい。あれだけの霧を生み出すモンスターである以上、ランクAモンスター……とまではいかないかもしれないが、ランクBモンスターなのは間違いないだろうし」
もし霧を生み出すのがランクAモンスターであっても、現在ミスティリングの中にはモンスターの死体が大量にある。
そもそも、ランクSモンスターのクリスタルドラゴンを倒した時点で、昇格試験の合格はほぼ決まったと言ってもいい。
後は、日付が変わる前に魔の森から出れば、それで昇格試験は合格の筈だった。
レイの許可を貰ったセトは、魔石を飲み込み……
【セトは『霧 Lv.一』のスキルを習得した】
いつものように、脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「予想通りだったな。……にしても、霧ってまた単純な。セト、試してみてくれ」
「グルルルルゥ」
レイの言葉にセトは頷き、早速霧を使用する。
セトの身体から霧が生み出され、周囲を霧で覆っていく。
調べてみたところ、セトを中心に半径三百mくらいが霧で覆われているのが確認出来た。
また、霧の濃さはセトの意思で変えられるが、霧を濃くすると魔力を大量に消費するということが判明するのだった。
【セト】
『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.六』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.三』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.五』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.一』『翼刃 Lv.一』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.一』『霧 Lv.一』new
霧:セトを中心に霧を自由に生み出すことが出来る。霧の濃さはセトが自由に決められるが、霧が濃くなればそれだけ消費する魔力も増す。霧は幾ら濃くしてもセトは問題なく行動出来る。レベル一では半径三百m。