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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2579/3865

2579話

今年もまた、ライトノベル界の中でも屈指の規模の「このライトノベルがすごい!2021」が始まりました。

レジェンドにも是非投票をお願いします。


URLは以下となります。

http://blog.konorano.jp/archives/52066788.html


締め切りは9月23日となります。

 結局レイはゴーレム達に手伝って貰い、赤い果実を全て収穫することに成功した。

 ……そう、ゴーレム達だ。

 レイを果実のなっている木まで案内してきたゴーレムだけではなく、複数のゴーレムがやって来てレイの手伝いをしてくれたのだ。

 さすが土のゴーレムと言うべきか、レイの半分程しかない身長のゴーレムも、土で出来た腕を伸ばすといったような真似をして、高い場所に実っている果実を収穫した。

 一匹だけでは届かないくらい高い場所にある果実に関しては、数匹のゴーレムが融合し、その分だけ大きくなって腕の伸ばせる範囲も広くなり、果実を収穫するといった様子を見せて、レイを驚かせた。


「ありがとな。けど……本当にこの果実を全部貰ってもいいのか?」

「ピ!」


 尋ねたレイに、ゴーレムは問題ないと返事をする。

 とはいえ、それは当然のことかもしれないとレイは思う。

 この結界の中には、動物も鳥もモンスターも存在せず、いるのはゴーレムだけだ。

 ……一般的にはゴーレムもモンスター扱いされているので、そういう意味ではモンスターがいると言ってもいいのかもしれないが。

 ともあれ、ゴーレムは何かを食べたりはしない。

 そんな場所に果実の類があっても、それは誰も食べずに腐っていくことになるだろう。

 それなら、食べることが出来るレイに果実を持っていって貰った方がいい。

 ましてや、普通なら大量の果実を貰っても腐らせてしまうのだが、レイの場合はミスティリングがある。

 その中に収納しておけば、果実が腐るといったようなことはまずない。

 なら、やはりレイが果実を持っていくのが最善の手段なのは間違いないだろう。


「ありがとうな」


 一緒に協力して果物を収穫したということもあってか、レイの中にゴーレムを警戒する様子は一切なくなっていた。


「ピ!」


 レイの言葉に、ゴーレムは心なしか嬉しそうに鳴き声を上げ……そして、レイと一緒に果実を収穫していたゴーレム達は、そのまま別行動を取る。

 恐らくは自分の仕事に戻っていったのだろう。


「さて、そうすると俺はどうするかな」


 果実を食べながら、周囲の様子を眺めるレイ。

 ゴーレムが友好的な存在であることも理解出来たし、いっそ湖に戻ってセトと一緒に泳いで遊ぶか?

 そう思って湖があるだろう方に視線を向け……そんなレイの視線は、湖に流れ込んでいる滝で止まる。


「滝か」


 その滝から流れてくる水が、湖に水を供給しているのだ。

 もしかしたら湖の底の方には地下水が出ているような場所もあるのかもしれないが、少なくてもレイが見ている限りでは、そこから流れている水だけが湖に水を供給していた。

 そんな光景を見れば、滝に……正確には一段高くなっている場所にある滝の上流に興味を持つなという方が無理だろう。

 ゴーレムが友好的な存在と判明した為か、レイはゴーレムを気にするのを止めて、そのまま滝のある方に向かって歩き出す。

 ゴーレムによって整備されている為か、石が敷き詰められたりしている訳ではないが、踏み固められた地面が自然と道の役割を果たしている。

 その為、特に歩きにくいといったようなこともなく道を進み……やがてレイはあっさりと滝のある場所に到着する。


「ここも一応道はあるのか」


 恐らくゴーレム達が使っているのだろう。

 滝のある場所まで続く階段がレイの前にはあった。

 ゴーレム達もこの場所は慎重に移動しているのか、階段には手摺りまでついている。

 それを使い、レイは階段を上がっていく。

 崖の近くにある為だろう。

 階段は水で濡れており、場所によっては苔が生えているような場所もある。

 手摺りがない状態だと、人によっては滑ってしまうだろう。

 崖の上までは、五十m近くある。

 そんな距離だけに、上の方で階段を滑った場合、地面に落ちれば死んでもおかしくはない。

 もっとも、この結界内にいるのは土のゴーレムだけである以上、もし地上に落下しても特に問題ない可能性もあったが。

 そうして落ちないように注意しながら階段を上るレイは、いっそセトを呼んで空を飛んで移動した方がよかったのでは? と思ってしまう。

 とはいえ、階段からでも湖でセトが嬉しそうに泳いでいるのが見える以上、そんなセトの邪魔をするのもどうかと思わないではない。


(とはいえ、何か魚とかがいれば、それを追ったりして遊んだりもするんだろうけど。魚とかがいないこの状況で、一体何をそんなに楽しそうに泳げるんだ?)


 水中の景色を楽しむスキューバダイビングというのがあるが、セトは湖でそれをやってるのかもしれない。

 そんなことを考えながら階段を上り続け、やがてレイは崖の上に到着し……そこに広がっている光景を目にして驚き、声も出せなくなる。


「………」


 それは、巨大な……それこそ直径五m程もある水晶。

 いや、もしかしたら水晶ではないのかもしれないが、レイの目には水晶のようにしか思えない。

 具体的に言えば、よく占い師が使っているような丸い水晶が単純に巨大化したかのような、そんな水晶。

 その水晶が空中に浮かび、その水晶からは止まることなく水が流れ続けている。

 それこそ、水晶から水が流れて水晶の下にある小さな池に水が流れ込み、その池から流れている水が滝まで届き、そこから湖に落ちていた。

 それは、圧倒的なまでに幻想的な光景だ。


「凄いな……」


 空中に浮かぶ巨大な水晶を見てから数分が経過し、レイはようやく口を開くことが出来た。

 それでも目の前に広がる光景を前に、一言しか喋ることは出来なかったのだが。

 そのままじっとこんこんと水を生み出す水晶を眺め続け、ふと思う。


「水を生み出すから水晶……とか? まぁ、それだと晶がどういう意味を持ってるのかは分からないけど」


 呟きつつ、レイはようやくいつもの調子に戻る。

 改めて周囲の様子を見てみると、空中に浮かんでいる水晶が生み出す水を受け止める池の周囲には、様々な花が咲いていた。

 水晶の件もあってから、まるでここは楽園ではないかとすら思ってしまう。


「水を生み出し続けてるけど、どういうマジックアイテムなんだ? どこかの水源に繋がっているのか、それとも単純に水晶が何らかの手段で水を生み出しているのか」


 水晶から流れ出している水を見ても、レイはそれが具体的にどうやって生み出されているのかは分からない。

 それでもレイは特に落ち込んだりはしなかった。

 魔の森にあったり、結界内部に入れたり、ゴーレムが友好的だったり……それらの件から考えると、間違いなくこの結界の内部はゼパイル一門の手によるものだ。

 そしてゼパイル一門でマジックアイテムの第一人者となると、史上最高の錬金術師と呼ばれるエスタ・ノールが関わっているのは間違いない。

 ドラゴンローブやミスティリングといった、今ではレイにとっても重要なマジックアイテムの数々は、エスタ・ノールの作品だ。

 レイもマジックアイテムには強い興味を持ち、飾りの類ではなく実際に使えるマジックアイテムを集めるという趣味を持っている。

 それだけに、マジックアイテムを作る錬金術師達には劣るだろうが、それなりに見る目を持っているという自負はあった。

 だが……そんなレイとっても、視線の先に存在する巨大な水晶がどのようなマジックアイテムなのかは分からない。

 水を生み出す能力を持っているというのはわかるのだが、それがどういう理屈で行われているのかというのが分からないし、何よりもこの水晶を動かしている魔力は一体どうやって供給しているのかというのが分からない。

 普通、マジックアイテムというのは魔力をエネルギーとして動く。

 そういう意味では、この水晶は少なくても設置された当初から動き続けている訳で、一体何をすればそのように出来るのかというのは、レイには理解出来ない。


「ゴーレムが魔力を込めてるのか? いや、けどそもそもゴーレムがどうやって動いてるのかって理由もあるよな」


 モンスターのゴーレムならともかく、この結界内部にいるゴーレムは全てが同じ形をしている。

 それはモンスターでは有り得ることではなく、それはつまりこのゴーレムは錬金術や土魔法の類によって作られた存在だということだ。

 当然ゴーレムの類もモンスターではない以上、魔力を必要とする。


「あるいは、何らかの理由で空気中に漂う魔力を吸収するような能力があるのか?」


 多少なりとも空気中に魔力が含まれているというのは、この世界において常識だ。

 そのような魔力が何らかの理由で集まって魔力溜まりとなり、その魔力溜まりによってモンスターが生み出されたりするのだから。

 つまり、理論上では空気中の魔力を使うことが出来れば、マジックアイテムは使い放題となる。

 だが、それはあくまでも理論上の話でしかない。

 空気中に漂っている魔力は本当に少量である以上、マジックアイテムを発動するといった真似は難しい。

 少なくても、これだけ高性能なゴーレムを複数動かし、そして何よりもこの水晶を発動させるだけの魔力をどうにか出来るとは思えない。


「多分、エスタ・ノールの……もしくはゼパイル一門の独自技術なんだろうな」


 この場合は、どこか他の国から盗んだ技術を自国の独自技術と言い張るような意味でのみっともない独自技術ではなく、本当の意味でのゼパイル一門だけが有しているという意味での独自技術だ。


「そうなると、この水晶を持っていくのは諦めた方がいいか」


 レイとしては、可能ならこの水晶を貰っていきたいと、そう思っていた。


 何しろ、水を無条件で生み出し続けるような水晶なのだ。

 使い道は、それこそ幾らでもある。

 しかし、もしこの水晶を発動とするのに必要なのが、この結界内部でなければならないといった条件があった場合、持っていっても意味はない。

 それ以外にも、ゴーレムはこの結界内部の環境を維持する為に存在している以上、この水晶をレイが持っていこうとした場合、現在は友好的なゴーレムであっても、間違いなく抵抗してくるだろう。

 ゼパイル一門謹製のゴーレム……それも一匹や二匹ではない相手と戦いたいとは、レイも思わなかった。

 また、果物をレイに渡してきたように、そしてセトが湖に飛び込んでも怒らなかったように、ゴーレムはレイやセトに好意的な存在だ。

 そんな相手が世話をしている水晶を盗むといったような真似は、さすがにレイにも出来ない。


「それに……この水晶を盗めば、間違いなくこの景色は破壊されるだろうしな」


 水晶によって、この崖の上の幻想的な環境は維持されているのだ。

 レイが水晶を盗めば、当然だがこの環境は破壊されてしまうだろう。

 それ以外にも、水晶から生み出されている水は魔の森にある川となり、動物、鳥、モンスターを問わず多くの生き物を生かしている。

 もしここでレイが水晶を奪った場合、当然だが川に流れ込む水も消えてしまい、川は干上がってしまうだろう。

 そうなれば、魔の森では大きな騒動が起きるのは間違いない。

 場合によっては、水を求めて魔の森からモンスターが溢れ出て、一番近くにある街……ギルムに向かうということにもなりかねない。

 魔の森のモンスターは、それこそ低ランクモンスターでも相応の力を持つ。

 そんな中で、巨狼のようなランクAモンスターや……それどころか、クリスタルドラゴンのようなランクSモンスターまでもがギルムに殺到することになったら、どうなるか。

 辺境のギルムだけに、高ランク冒険者も多い。

 それこそレイのような異名持ちも結構な数がいる。

 そうなると、最終的にはギルムを襲ってきたモンスターを倒すことも出来るかもしれないが、現在のギルムには増築工事の為に仕事を求めて多くの者が集まっていた。

 その大半は低ランク冒険者か、もしくは冒険者ですらない者達であり……そのような者達が魔の森のモンスターと遭遇したらどうなるのかは、考えるまでもなく明らかだろう。

 そのような大きな騒動の引き金を引くのは、レイとしても絶対に避けたい。

 ましてや、今のギルムではレイが昇格試験を受ける為に魔の森にいるというのが、大きく知られている。

 何しろ、賭けの対象にすらなっているのだから。


「うん、この水晶は惜しいけど、なしだな」


 レイはあっさりとそう判断し、水晶を奪うという行動を諦めると、改めて周囲の光景を見る。

 何度見ても飽きず、それこそいつまででも見続けていたいと思わせるような、そんな光景。

 そんな光景を眺めつつ、レイは今回の昇格試験で魔の森にきてよかったと、しみじみと思う。

 この昇格試験では、かつてない程にスキルが習得したり強化されたりした。

 そして、このような場所にもやってくることが出来たのだから、収支はプラスだろうと、そう思う。

 ……クリスタルドラゴンのような存在と自分とセトだけで戦うのはどうかと思わないでもなかったが。

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[一言] >どこか他の国から盗んだ技術を自国の独自技術と言い張るような意味でのみっともない独自技術ではなく はい、またさらっと隣国への当て付け戴きました(笑)
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