2578話
前話でセトが習得した電撃のブレスですが、サンダーブレスに修正しました。
今年もまた、ライトノベル界の中でも屈指の規模の「このライトノベルがすごい!2021」が始まりました。
レジェンドにも是非投票をお願いします。
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締め切りは9月23日となります。
「え?」
ゴーレムの口から出て来た鳴き声……と言ってもいいのかどうかは分からなかったが、ともあれそんな声にレイは思わず声を発する。
だが、そんなレイの声で十分だったのか、鳴き声を発したゴーレムは後ろを見て、他のゴーレム達に向かい、ピピピピピといった感じで声を上げていた。
その声が具体的にどのような意味を持っているのかは、レイにも分からない。
分からないが、それでもゴーレム同士で何らかの意思疎通をしているということだけは理解出来た。
「グルゥ?」
どうするの? とレイの隣でセトが尋ねる。
このゴーレム達が纏めて襲い掛かって来たりした場合、それは厄介なことになる。
だからこそ、いっそここで先に攻撃をする? とレイに尋ねたのだが、レイは首を横に振る。
「止めておこう。この数のゴーレムと戦って、無事にすむとは思えない」
これが普通のゴーレムであれば、あるいはレイも先制攻撃をするといったことを考えたのかもしれない。
だが、この湖を隠すように張られていた結界は、ゼパイル一門が張ったものだ。
その証拠に、レイとセトは何の抵抗もなく結界の中に入ることが出来たのだから。
さすがにこれを偶然と考えるようなことは、レイには出来ない。
「ピピ……ピ」
レイがセトと話している間に通信は終わったのか、一番最初に声を発したゴーレムは再度鳴き声を上げると、深々と一礼してその場から去っていく。
他のゴーレムもまた、そんなゴーレムを追うようにして立ち去った。
「助かった、か」
ゴーレムの全てがいなくなった後で、レイは安堵した様子で呟く。
もしあのゴーレムがゼパイル一門謹製のゴーレムであれば、その外見とは違って非常に高い戦闘力を持っていてもおかしくはない。
(ましてや、ゼパイル一門には俺と同じか近い時代から召喚されたと思われるタクム・スズノセがいたんだ。実はゴーレムにビーム砲とかが装備されていても、驚かないぞ。いや、間違いなく驚くだろうけど)
ビーム兵器を持った二十匹のゴーレムとなると、その脅威度はそれこそクリスタルドラゴンに勝るとも劣らないだろう。
いや、出て来たのが二十匹程だっただけで、実際に他にももっと数がいてもおかしくはない。
この湖……というか、結界内部の広さを考えると、それこそ二百匹どころか二千匹いてもおかしくはないのだから。
「多分、あのゴーレムがこの結界内部の環境を維持してるんだろうな」
「グルルゥ?」
そうなの? とレイに尋ねるセト。
セトから見ても、この結界内部はかなりの広さを持つ。
そんな場所の環境を維持してるとなると、それはかなりの労力を必要とするだろう。
「花の受粉とか、そういうのも全部あのゴーレムがやってるんだろうな。そして、ゼパイル一門が作ったゴーレムだからこそ、俺とセトは排除されなかった」
レイの身体はゼパイル一門が作った代物だ。
そういう意味では、レイとあのゴーレム達は兄弟……とまではいかないが、遠く離れた従兄弟くらいの関係である可能性は十分にある。
そしてセトは、ゼパイル一門が開発した魔獣術で生み出された存在。
レイとセトの双方共が、ゼパイル一門と関係のある存在なのだ。
だからこそ、ゴーレム達がレイとセトを見ても特に排除しなかったと考えれば、納得出来る。
勿論、これはあくまでもレイの予想だ。
もしかしたらゴーレムはゼパイル一門とは全く無関係の存在が開発した代物で、レイとセトがゴーレムに攻撃されなかったのも、別の理由という可能性は否定出来ない。
「ともあれ、俺とセトがここにいてもゴーレムに攻撃されるといったようなことがない以上、ここでゆっくり出来るのは間違いないな」
モンスターはおろか、動物の類も存在していない空間だ。
この魔の森でこれ以上安全な場所は、それこそレイ達が拠点としていた隠れ家くらいだろう。
……何らかの理由でゴーレムが襲ってくるといったようなことがなければの話だが。
「グルルルゥ」
レイの言葉を聞いて、セトもここでゆっくりするといったことに決めたらしい。
すぐにリラックスモードになり、周囲の様子を確認し始めた。
実際、ここから見える景色は十分に素晴らしい。
観光を目当てにやって来る者がいてもおかしくはないくらいに。
……もっとも、この場所は結界によって隠されているので、この景色を見ることが出来るのはレイを含めて非常に少数だろうが。
「魚とかもいないのは、ちょっと残念だよな。釣りとか出来たら面白そうなんだけど」
そう呟くレイは、湖の中を見る。
澄んだ水だけに透明度が高く、湖の底までしっかりと見ることが出来た。
だが、そこには水草の類があったりはするのだが、魚の類は勿論、蛙や虫といった生き物もいない。
(植物の受粉はゴーレムがやってるんだろうけど、水草とかの管理ってどうやってるんだ?)
レイは魚を飼ったりしたことがないので、その辺は詳しくはない。
それでも魚を始めとした水中の生物が水草の類に大きく影響をしているのかというのは、何となく理解出来る。
そんな水中の生き物がいないとなると、恐らくは地上の植物と同じくゴーレムがどうにかしているのだろうとは思うのだが、それでもしっかりとしたところまでは分からない。
「グルルルルゥ!」
と、不意に聞こえてきた嬉しそうな声に、レイは視線を向ける。
するとそこでは、湖の中で泳いでいるセトの姿があった
「って、おいセト!?」
その光景を見たレイは、思わずといった様子で声を出す。
当然だろう。この結界の内部は、ゴーレム達が管理しているのだ。
それも、レイの予想が正しければ魔の森に何らかの影響を与える……例えば水の類を供給して、モンスターをより多く生かす為といったような理由で。
そうである以上、その水を供給している湖に飛び込んで泳ぐといったような真似をしたら、ゴーレムがどう反応するのか分からなかった。
レイとセトがこの結界内にいることは許容したらしいゴーレム達だったが、その結界内で好きに動いてもいいのかと言われれば、その答えは微妙なところだろう。
そして、ゴーレムはゼパイル一門が作ったのだろう存在だけに、何かあった時にどのような行動をするのかが全く分からなかった。
それだけに、セトのいきなりの行動に驚いたのだが……
慌てて周囲を見回したレイは、湖の側に立つ数匹のゴーレムを見つけた。
そのゴーレムがどう行動するのか、レイは慎重に見定める。
もしセトに攻撃をしようものなら、最悪の場合はゴーレムを破壊しなければならない可能性もある。
そうなれば、恐らく自分とセトはゴーレムに敵対判定される可能性が高く、ゼパイル一門が制作したのだろうゴーレムと戦うといったことにもなりかねない。
(攻撃するなよ)
レイとしても、ゼパイル一門に対しては強い感謝の心を持っていた。
何しろ、もしゼパイル一門が魔獣術を開発しておらず、ゼパイルがその後継者を探すといったような真似をしていなかった場合、日本で事故に遭ったレイはそのままあの世に旅立っていたのだから。
また、ゼパイル一門の開発した魔獣術のおかげで、セトという相棒を手に入れることが出来たし、エルジィンにおいて様々な……それこそ、地球にいた時は漫画や小説、ゲーム、アニメといった諸々で楽しむことしか出来なかった体験をしている。
そんな感謝を抱くべきゼパイル一門の制作したゴーレムを壊したくない。
そんな思いで、湖の側にいるゴーレム達を見ていたのだが……
「ピ……ピピ」
「ピピ」
レイには理解出来ない様子で何らかの会話を行い、そのまま仕事に戻っていく。
そんなゴーレムの様子に、安堵するレイ。
あの様子を見る限りでは、取りあえずセトを敵として認識するといったようなことはないと、判断したのだ。
安堵しているレイだったが、そんなレイの心配をよそにセトは気持ちよさそうに湖を泳いでいる。
空を飛ぶのとは、また一風変わった楽しさを経験するセト。
もしかしたら、自分がゴーレムに攻撃をされていたのかもしれないというのは、全く理解していない様子を眺めていたレイだったが、せっかくこんな場所までやって来たのだからということで、周囲を見て回ることにする。
「セト、俺はちょっと周囲を見て回ってくるからな!」
「グルルルルルゥ!」
分かった、と鳴き声を上げるセト。
そうして再び楽しそうに泳ぎ出すセトを湖に残し、レイは湖の周辺を歩き出す。
植物の類はかなり大量に繁殖しているが、やはり虫の類は全くいない。
自然は好きだが虫は嫌いといったような者もいるが、そのような者達にしてみれば、この結界内は理想の場所だろう。
もっとも、その理想を求めて魔の森に……それもかなり奥の方までやって来るのかと言われれば、そんなことをする者はそう多くはない……どころか、非常に希少な気もするが。
そう考えると、自分はラッキーだったんだな、と考えつつ歩いていると、植物の手入れをしているゴーレムを見つける。
伸びすぎた木の枝を切ったりといったようなことをしているのだろうが、その邪魔をするのもどうかと思い、そっと離れようとしたところで不意にゴーレムが鳴き声を発する。
「ピ!」
その声に、一瞬レイは警戒する。
しかし、ゴーレムからは特に敵意のようなものは感じられない。
普通のモンスターと違って、ゴーレムに殺気や敵意の類があるのかどうかは分からなかったが。
ゴーレムが差し出してきた手の中には、赤い果実がある。
皮を剥いたりした訳でもないのに、甘酸っぱい香りを漂わせる果実は、明らかに食べても美味いと思えるものだった。
しかし、レイもエルジィンに来てから色々な果実を見てはきたが、ゴーレムが持っている果実は初めて見るものだ。
大きさとしては、リンゴよりも若干小さいくらいか。
「これ、俺にか? 食ってもいいのか?」
「ピ!」
一応ゴーレムに尋ねてみると、その通りといったように頷く。
そんなゴーレムから果実を受け取り、その持った感触がリンゴというよりはミカンに近い柔らかい感触だったことに驚きつつも、ゴーレムがそう言うのならと思って果実を囓ってみる。
サクリ、と。
ミカンのような感触をしていたとは思えないような食感があり、レイはその食感を楽しみながら味を確認していき……
「……美味い……」
果実を味わったレイの口から出たのはしみじみとした一言のみ。
本当に美味いものを食べた時、出て来る言葉に余計な飾りの言葉は存在しない。
レイの口の中には、そんな圧倒的な美味さのみが残っていた。
味の感触としては、梨のような爽やかで瑞々しい甘さだ。
一瞬にして口の中に瑞々しくも、濃厚な甘さが広がるが、次の瞬間には微かな酸味が残った後を引く。
一口、二口、三口。
あまりの美味さに、レイは感想を口にした後で再び果実を囓っていくが……元々がリンゴよりも若干小さいくらいの果実である以上、すぐになくなってしまう。
「美味かった。ありがとう」
レイは果実をくれたゴーレムに感謝の言葉を口にする。
だが、そうして感謝の言葉を口にしつつも、我知らず物欲しげな様子を見せたのは、それだけゴーレムから貰った果実が美味かったのだろう。
「ピ! ピピピ! ピピ!」
レイの様子を見ていたゴーレムは、少し進むと動きを止め、レイの方を見てくる。
そんなゴーレムの様子から、ついてこいと言ってるように思えたレイは、そのまま後を追う。
ゴーレムを追うこと、数分。
湖の側にある森……いや、規模的には林か。
その林の奥に入ったところで、レイはそこに一本の木があるのを見つける。
不思議なことに、周囲には何の木々も生えていない。
それだけなら闇の世界樹と同じような状況ではあるのだが、その木からは闇の世界樹に感じたような不吉なものは感じない。
それどころか、自分の力を周囲に分け与えているようにすら思える。
何よりもレイの視線を惹いたのは、その木の枝には先程レイが食べたのと同じ果実が多数実っていたことだろう。
「あの果実が、こんなに……」
「ピ!」
呟くレイに、ゴーレムは果実を指さす。
それは、果実を好きなように採ってもいいと、そう言ってるように思えた。
「もしかして、この果実を採ってもいいのか?」
「ピ!」
「……どのくらい採ってもいい?」
「ピピ!」
ゴーレムが何を言いたいのかは、レイにも分からない。
分からないが、それでも仕草でたくさんとやってるように見えたので、確認する意味も含めて口を開く。
「あの木に実ってる果実……俺が全部採ってもいいのか?」
「ピ!」
レイの言葉にゴーレムは頷き……レイは早速果実の収穫を始めるのだった。