2577話
スキル名、電撃のブレスよりもサンダーブレスに修正しました。
ハーピーの使った電撃のブレスのことを考えれば、ブレス系ということでセトに使わせるのもいいかもしれない。
だが同時に、今までの傾向から考えて、デスサイズに使った場合はデスサイズの刃に電撃を纏わせるといったようなことが出来る可能性もある。
そう考えると、どちらも捨てがたく……だが、結局レイが選択したのは、セトに魔石を与えるといったことだった。
何しろ、レイの場合はデスサイズのスキル以外にも多数の攻撃方法がある。
それに比べると、セトの場合は身体を使った攻撃方法があるが、やはりスキルを使った攻撃が多い。
……もっとも、これが最大の問題ではあるのだが、ハーピーの魔石を使っても希望しているスキルを習得出来るとは限らない。
レイが倒したハーピーの場合、電撃のブレスを使った以上はそのスキルを習得出来る可能性が高いのは事実だ。
しかし、場合によっては予想外のスキルを習得する……といった可能性も、決して否定は出来なかった。
「よし、セト。行くぞ」
「グルゥ」
その言葉と共にレイはセトに魔石を与え……
【セトは『サンダーブレス Lv.一』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「よし!」
「グルゥ!」
予想していた通りのスキルの習得に、レイとセトはそれぞれ喜びの声を上げる。
もしかしたらサンダーブレスではなく、もっと他のスキルを習得するのではないかと、そう思っていたためだ。
そういう意味では、今回のスキル習得は大成功だったのだろう。
「よし、セト。ちょっと使ってみてくれ。標的は……あの岩だ」
「グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは早速スキルを発動する。
開いたクチバシから、一直線に電撃が放たれる。
その一撃は、岩を砕くとまではいかないが、それでもヒビを作る程度には強力なスキルだった。
「レベル一にしては、随分と強力なスキルだな」
岩にヒビをつくったサンダーブレスの威力に、レイは素直に驚く。
魔獣術を使い、セトとデスサイズが多くのスキルを習得してきたのを見てきた身としては、レベル一のスキルというのは、かなり威力が弱いという印象だった。
勿論、そのようなスキルが多いというだけで、中にはレベル一から強力な攻撃を発揮したスキルもあったが。
(集束……威力が一点に集中されたブレスだったからか? だとすれば、拡散させて使うと、それはそれで便利そうだが)
サンダーブレスを広範囲に放つことが出来れば、それは一撃で大きなダメージを与えるといったようなことは出来ないかもしれないが、痺れさせることで動きを鈍くするといったような真似は出来る。
「セト、今度は集束ではなく拡散で使ってみてくれ。出来るか?」
「グルゥ? グルルルルゥ!」
レイの言葉を聞いたセトは、少し迷った後で再びクチバシを開き、サンダーブレスを放つ。
その電撃は間違いなく拡散した。
ただし、ハーピーが使ったような拡散ではなく、もっと狭い……ハーピーの集束と拡散の中間くらいの拡散といった感じの拡散だった。
「この辺りは訓練が必要なのか、それともスキルレベルが上がれば使えるのか。……個人的には訓練だと思うんだが、セトはどう思う?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトも同意するように鳴き声を上げる。
この辺は、スキルを習得した者として、何となく感覚で理解出来るのだろう。
「ともあれ、サンダーブレスの効果も確認出来たし……そうなると、この場からもそろそろ離れるか?」
「グルゥ?」
ウナギはもういいの? と喉を鳴らすセト。
元々、ここにレイとセトが留まっていたのは、川にいるだろうウナギを獲る為だった。
それはレイも理解していたが、ここでハーピーと戦ってしまった以上、その音に惹かれて何らかのモンスターが襲ってこないとも限らない。
であれば、ウナギは少々惜しいものの、ここから離れた方がいいと、そう判断したのだ。
何よりここでウナギが捕れたのは事実だが、それはあくまでも一匹だけ。
それ以後はセトが探してもウナギを見つけることが出来なかったのだから、もしウナギを獲るとしても場所を移した方がいいというのが、レイの判断だ。
……ハーピーに襲撃されるといったようなことがあっても、それでもウナギを獲ることを諦めない辺り、レイの食に対する貪欲さが表れていた。
「いっそ、海に行った時にウナギを獲ってみるか?」
一般的にウナギは川で獲れるとされているが、海で産卵しているのを見れば分かる通り、海でも普通に生きていける。
海で獲れたウナギは海ウナギと呼ばれ、普通のウナギよりも高価であり、美味いと言われている。
レイにはその辺りのことは分からなかったが、それでも海でもウナギが獲れるのならと、そんな風に思ったのだ。
とはいえ、当然だが海のウナギは浅い場所ではなく相応に深い場所にいることが多い。
そしてこのエルジィンにおいては、海に多数のモンスターが棲息しているのは珍しくなかった。
実際、レイも今まで何度か海に棲息しているモンスターと戦った経験があったのだから。
「そうなると、もしかしたら海にいるウナギってのは俺が知ってるウナギと違って進化している可能性は否定出来ないか。そもそも、それを言うならこの川だって海まで繋がってるのかどうか分からないけど」
「グルルルゥ」
ウナギについて考えていたレイだったが、セトの鳴き声で我に返る。
「ああ、悪いな。じゃあ、そろそろ先に進むか」
セトの背中に乗って、再びレイとセトは川の源流に向かって進む。
とはいえ、時間的にもうそこまで長時間川に沿って進むといったような真似は出来ない。
それこそ、もう一時間……いや、二時間がせいぜいといったところだろう。
(川の源流に到着するのは難しいかもしれないな)
そんな時間なだけに、今回の魔の森の探索で川の源流を見つけるのは難しいかもしれないなと、そう思う。
今回の探索でどうしても川の源流を見つけなければならない訳でもない以上、問題はないのだが。
これは、あくまでもレイの知的好奇心からの行動でしかないのだから。
それでも川の源泉を見つけることを諦めた訳ではない。
二時間の間に、もしかしたら源泉を見つけることが出来るかもしれないのだから。
(まぁ、今回の一件で源泉を見つけられなくても、また暇を見てくればいいんだけど)
この魔の森のある場所については、しっかりと理解した。
そうである以上、ギルムに戻った後でもまたこの魔の森にやってくることは出来る筈だった。
……とはいえ、レイとセトはそれぞれ微妙に方向音痴気味だったりするので、ギルムからこの魔の森に真っ直ぐやってくることが出来るかどうかは微妙なところだが。
そんな風に思いながら、歩いていていると……
「グルルゥ?」
「セト?」
不意にセトが足を止め、喉を鳴らす。
ただし、その鳴き声は今までのように敵を見つけて警戒をしているのではなく、戸惑った様子を見せる鳴き声だ。
だからこそレイは戸惑い、周囲の様子を見るが……
「何かあるようには思えないぞ?」
レイの目で見た限りでは、周囲に特に何かおかしなところがあるようには思えない。
ただし、セトがこうして戸惑っている以上、何か妙なことがあるのは間違いないのだ。
レイも自分の感覚に自信を持ってはいたが、それ以上にセトの感覚を信じている。
自分の感覚とセトの感覚。そのどちらを信じるのかと言われれば、レイは躊躇なくセトの感覚を信じる。
それだけ、レイはセトの感覚に信頼を置いていたのだ。
「グルルルルルゥ」
レイの言葉にセトは周囲の様子を見回す。
セトも何かがあるというのは分かっているのだろうが、それが具体的に何なのかは分からないのだろう。
それでもセトの様子から何かがあるというのは分かっている以上、レイはセトの背から下りて周囲の様子をしっかりと確認していく。
数分の間、周囲の様子を確認していくと……
「これは……結界!?」
隠れ家を覆っていた結界は、見ただけでそれが結界だというのは分かる代物だった。
しかし、レイが周囲の様子を確認しながら見つけた結界は、その結界と同じではなかった。
一見すると結界が張られているようには見えないのだが、ある一定の地点まで行くとそこに何か……結界があるというのが、分かる。
「つまり、この結界はゼパイル一門が張った結界ではない? いや、けどこの魔の森に結界が張ってあるのに、ゼパイル一門が関係してないというのは、あるのか?」
魔の森はかなりの広さを持つが、それでもゼパイル一門以外にこのような結界を張るといったような真似が出来るとは思えない。
だとすれば、自然とこの結界を張ったのが誰なのかは想像出来た。
「これもゼパイル一門の誰かが張った結界か。だとすれば……」
「グルゥ?」
レイの呟きを聞いたセトが、どうするの? と喉を鳴らす。
そんなセトに対し、レイはそっと結界に向けて手を伸ばす。
心配そうにレイを見るセト。
当然だろう。結界の中には攻撃性の強い結界もある。
それこそ、無関係の者が触った場合、相手に炎や電撃、衝撃……といったような攻撃を行ったりするような結界も、珍しくはない。
だが、レイはそんなセトの心配を理解しながらも、大丈夫だという確信があった。
何らかの証拠がある訳ではない。
それでもレイの中には確信があり……そっと伸ばした手が結界に触れ……そして、何も起きずに結界を通りすぎる。
「ふぅ。どうやら大丈夫みたいだぞ」
結界の中に手を伸ばし、何度か出し入れして安全だということを確認して、セトにそう言う。
レイの言葉に、セトも慎重にクチバシで結界に触れようとし……特に遮られることなく結界を通りすぎる。
「グルゥ!」
自分にも問題なく出来た! と、嬉しそうに鳴き声を上げるセト。
そんなセトと共に、レイは結界の中に入り……動きを止めた。
「これは……」
結界の外からは、その中を見ることが出来た。
そうして見えた光景は、今までの森と全く変わらない光景だった。
だが、結界の中に入ったレイが見たのは、泉……いや、湖と呼んでもおかしくないほどの景色。
さすがにトレントの森の隣に召喚された湖と比べると小さいが、それでも湖と呼ぶのに相応しい規模なのは間違いない。
周囲には花々が咲いており、木々も生えている。
まさに幻想的な光景。
「……グルゥ……」
セトもまた周囲に広がる光景を見て感嘆に喉を鳴らす。
レイは改めて周囲の様子を眺めてみると、湖の端に一つだけ滝がある。
そこから、この湖に水が流れており、その水が魔の森に川として流れていっていた。
「あれ? でも……」
そんな光景を見ていたレイだったが、ふと疑問を抱く。
「生き物がいない?」
それは、魔の森に相応しいモンスターがいないという訳ではなく、モンスター以外の動物や鳥、虫、魚……そんな、本来なら森の中に棲息している筈の生き物がどこにもいないのだ。
生命という意味では、植物の類は普通に存在してるのだが。
(虫とか鳥とかがいないのなら、どうやって受粉してるんだ?)
そんな疑問を抱いたレイだったが、不意に隣で周囲の様子を眺めていたセトが喉を鳴らしはしないものの、警戒した様子で一ヶ所を見ているのを見て、レイもまたそちらに視線を向ける。
レイが見たのは、湖の周辺に生えている木々。
……いや、正確には、その木々の間から姿を現した存在だった。
身長的には一mあるかどうかといったところだろう。
ずんぐりむっくりといった表現が相応しいその存在の影は、一つではない。
二つ、三つ、四つ、五つ……といったように次々と数を増やしていき、やがて二十を超える数が姿を現す。
「ゴーレム?」
そう、それはゴーレムだった
ゴーレムと一口に言っても、その種類は色々とある。
非常に分かりやすく、ゴーレムと言えばこれを思い出すような土のゴーレムを始めとして、岩、泥、木……中には宝石や魔法金属、骨、死体といったように、ゴーレムというのは本当に様々な種類がいるのだ。
そんな中で、レイとセトの前に姿を現したのは、一般的な土のゴーレム。
ただし、ゴーレムの種類は一般的だが、その数はかなり多い。
ゴーレムは特に顔の類もなく、人型ではあるがのっぺりとした土だけが顔のある場所に存在していた。
そんなゴーレムの群れは、レイとセトと向かい合ってじっとしてる。
一体何が? そう思ったレイだったが、この状況では相手が動くまで自分は動かない方がいいと判断し、それでも向こうが攻撃してきたらすぐに反撃出来るように準備を整え……そして、お互いに言葉もないまま向かい合う。
「ピ」
と、ゴーレムのうち、一番先頭にいた個体が不意にそんな鳴き声を上げるのだった。
【セト】
『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.六』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.三』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.五』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.一』『翼刃 Lv.一』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.一』new
サンダーブレス:電撃を放つブレス。集束と拡散の双方が可能だが、基本は集束で拡散には慣れが必要。レベル一の集束で岩にヒビを入れるくらいの威力。拡散は射程距離が短くなる代わりに広範囲に攻撃可能で、相手を痺れさせる効果がある。