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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2574/3865

2574話

【セトは『地中潜行 Lv.一』のスキルを習得した】


 レイとセトの脳裏の中に、そんなアナウンスメッセージが響く。


「よっしゃあっ!」

「グルルルルルルゥ!」


 レイとセトの口から、そんな喜びの声が上がる。

 当然だろう。場合によってはセトの身体中から髪の毛が生えるといったようなスキルを習得していたのかもしれないのだから。

 そんな賭けに勝ち、見事にセトは地中潜行のスキルを習得したのだから、喜ぶなという方が無理だった。

 最初はセトとデスサイズのどちらに魚の魔石を使うのか、レイもセトも非常に悩んだ。

 やはり、魚の身体から生えている髪の毛というのは、見ている方にしても不気味と思わせるものがあったのだろう。

 それでもセトは、地中を潜るスキルを習得出来るようになればレイの役に立つと判断して、魚の魔石を飲み込んだ。

 そうしたセトの気持ちが通じたのか、習得したのは地中潜行という、名前からして魚が使っていたスキルだった。


「スキルの効果を確認……する前に、ヤドカリの魔石も試しておくか」


 そう言い、レイは魚を誘き寄せる為に一匹以外収納したヤドカリの中から、大きな順に二匹分取り出す。

 別に身体の大きさによって、スキルの習得率が変わったりはしないと思うのだが、気分的なものだ。

 もしかしたら、本当にもしかしたらだが、砂粒程の可能性であってもスキルを習得する確率が高まるかもしれないと、そう思っての行動。

 普通ならヤドカリから魔石を取るには、岩に擬態した貝殻からヤドカリの本体を引き抜く必要がある。

 しかし、ヤドカリの貝殻はレイのデスサイズによって切断されていたり、セトの一撃によって砕かれたりしていたので、わざわざヤドカリの本体を引き抜くといったような真似をしなくても、問題なく心臓から魔石を取り出すことが出来た。

 そうして取り出した魔石を川の水で洗う。


「魚の魔石はセトに試して貰ったからな。次は俺がやる」

「グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは頑張れ! と喉を鳴らす。

 とはいえ、レイがやるのはデスサイズで魔石を切断するといったような行為だけなので、負担そのものはデスサイズにいくのだが。


「さて、何かスキルを習得出来ればいいんだけどな」


 そう言い、ヤドカリの魔石を放り投げ、デスサイズで切断する。


【デスサイズは『パワースラッシュ Lv.五』のスキルを習得した】


 そんな声が脳裏に響く。


「よし!」


 結構な数がいたし、ヤドカリそのものはそこまで――あくまでもレイやセトの基準でだが――強くはなかった。

 そうである以上、もしかしたらスキルを習得出来ないかもしれないと思っていたのだが、それは杞憂だったらしい。

 あるいは、ヤドカリの中でも大きな個体の魔石を使った為か。

 習得した……正確にはレベルアップしたパワースラッシュは、反動こそ強いものの、その威力はレイにとっても魅力的だ。


「とはいえ……レベル五なんだよな」


 それだけが、レイにとって唯一の難点だった。

 レベル五に達していない状況であっても、パワースラッシュを使った際の反動は非常に大きい。

 それこそ、反動を上手く受け流すといったようなことが出来なかった場合、手首の捻挫……場合によっては骨折してもおかしくはないと思える程の衝撃を受けるのだ。

 そんな中で、スキルが飛躍的に強化されるレベル五になったパワースラッシュは、一体どれだけの反動を持つのか、使う前からレイも若干及び腰になってしまう。


「取りあえず、スキルがどうなるのかは……セトがヤドカリの魔石を使ってみてからだな。セト、頼む」


 半ば棚上げに近い判断だったが、実際にセトにもヤドカリの魔石を使わせるべきなのは事実である以上、そこまで間違ってはいない。

 そんなレイの言葉にセトは頷き……そして、ヤドカリの魔石をクチバシで咥えると、そのまま飲み込む。


【セトは『バブルブレス Lv.三』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージに、レイは納得したような、納得出来ないような、微妙な表情を浮かべる。

 当然だろう。ヤドカリはバブルブレスの類を使ってはこなかったのだ。

 あるいは、これがヤドカリではなくカニの類なら、まだ納得も出来たのだろうが。


(あ、でもヤドカリも泡を出したり出来たのか? ……まぁ、その辺はいいか、そもそも、俺達が倒したのは普通のヤドカリではなくて、ヤドカリのモンスターだし。なら、ヤドカリにない特徴があってもおかしくはない。疑問なのは、戦闘の中でバブルブレスを使ってくる奴がいなかったことだけど)


 とにかく魔石を使ってスキルを習得したのだから、次はスキルを確認する必要がある。


「そうだな、取りあえずまずは……一番安全そうなバブルブレスから試してみるか」

「グルルルルゥ」


 レイの言葉にセトも異論はなかったのか、少し離れた場所にある岩に向かってクチバシを開く。


「グルルルルルルルルゥ!」


 そこから放たれるバブルブレス。

 レベル二の時は三cmから五cm程度の泡だったのがレベル三になったことによって五cmから七cm程の泡となっている。

 レベルが上がったことによって泡が大きくなるということで、非常に分かりやすい。

 また、放たれた泡が何かに触れると破裂して粘着力のある液体になるのだが、その粘着力もレベル二の時に比べて間違いなく強くなっていた。

 これは、レイやセトにとっても分かりやすく、非常に判断しやすいのは間違いなかった。


「泡が大きくなったってことは、標的に命中する可能性も高くなったということか。……そうなると、今までよりも使いやすくなったのは間違いないな。もっとも、バブルブレスの速度を考えると、少し難しいところがあるけど」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトは同意するように、そして残念そうに鳴き声を上げる。

 実際、バブルブレスは命中すれば粘着性の液体に変化して相手の動きを阻害するという、かなり便利な効果を持っている。

 だが、その速度が遅い為に、実際に使う場合はしっかりと敵に命中させられるようにしてから、使う必要があった。

 具体的には、回避スペースのない場所で使ったり、回避が難しい至近距離で使ったりといったように。


「さて、バブルブレスが強化されたのは分かったな。そうなると、次は……」


 ここで、本来ならレイはデスサイズのパワースラッシュを試してみると、そう言うつもりだった。

 だが、パワースラッシュはレベル五になったのだ。

 スキルが飛躍的に強化されるレベル五に。

 一体どれだけの反動が来るのかを考えると、レイとしても迂闊に試してみたいとは言えない。

 そうして迷っているレイを見て、セトは自分が最初にやると、そう喉を鳴らす。

 レイはそんなセトに対して若干申し訳なく思いながらも、セトが新たに習得した地中潜行というスキルに興味があったので、頷く。


「分かった。じゃあ。頼む。もっとも、その名前とあの魚の能力から考えて、大体予想は出来るけど」


 レイの言葉を聞きながら、セトは地中潜行のスキルを使う。


「グルルルルルゥ!」


 地中潜行が発動……したようにレイには思えたのだが、セトはその場に立ったままだ。


「グルゥ?」


 セトもそんな自分の様子に疑問を抱いたように首を傾げる。

 十秒程そんなセトの姿を見ていたレイだったが、ふと思いつく。


「セト、スキルを使った後で自分が地中に潜りたいと思わないと、潜ることが出来ないんじゃないか?」


 そう言った瞬間、セトの身体はまるで水に落ちるように地中に沈んだ。

 どうやらレイの予想が正しかったらしい。

 そして一分程が経過すると、再び水中から飛び出るように地面からセトが飛び出す。


「グルルゥ」


 ただいま、と。そんな鳴き声を上げるセト。

 その後、レイはセトから地中潜行についてのスキルの詳細を聞き出す。

 ただし、セトはレイの言葉を理解出来るが、レイはセトの言葉を理解出来ない。

 正確には、魔力的に繋がっているおかげか大体の内容は理解出来るものの、詳細な内容までは理解出来ないといった方が正しいか。

 そんな訳で、地中潜行のスキルの詳細について聞き出すには、少し時間が掛かってしまった。

 それでも地中潜行というスキルはかなり特殊で、使いようによっては非常に便利なスキルなのは間違いない。

 だからこそ根気強く聞き出し……


「なるほど、地下二mの位置を一分くらい移動出来るのか。……多分レベルが上がったら深度と潜行時間も増えるんだろうけど……よく頭が出なかったな」


 セトの体長は三mを超えている。

 当然それだけ身体が大きくなれば、上半身も高くなる。

 体長は三m程だが、身長……いや、体高は二m前後はある。

 セトからの説明が事実なら、頭部が微かに出てもおかしくはないのだが……


(いや、もしかしたら地中潜行を使っている間は、頭の先とかが出ないようになってるとか? でも、あの魚は地中から髪の毛を伸ばしていたよな? ……まぁ、スキルだからその辺はかなり曖昧でもおかしくはないけど)


 ともあれ、地中潜行のスキルはかなり便利な代物なのは間違いない。

 例えば砦や城といったような場所でも、地中を通って侵入出来るかもしれないのだから。

 もっとも、砦や城といったような場所は地中にも結界を張っていたりするので、それを誤魔化すか、もしくは強引に突破しなければならないが。


(こっちも、もしかしたらレベルが上がればその辺を誤魔化したり……もしくは、結界が届かないくらい深い場所まで潜ってから、結界を超えて中に入る……といったようなことが出来る可能性もあるか)


 とはいえ、地中にまで張られる結界というのは当然のように相応のコストが必要になるし、希少なマジックアイテムだったり、通常よりも多くの魔力が必要になったりもする。

 そうなると、そう簡単に地中に結界を張ったりといった真似は出来ないので、それを考えれば大抵の場合は問題なく侵入出来るだろう。

 とはいえ、地中潜行出来るのはあくまでもセトだけだ。

 レイがセトの背中に乗ったままで地中潜行を試してみたが、地中に潜ったのはあくまでもセトだけで、レイは地上に残されてしまった。

 つまり、セトに乗ったまま一緒に地中に潜って建物の中に侵入といった真似は出来ない。


(あの魚は青いヤドカリを生きたまま地中に引き込んでたんだけどな。これも、スキルレベルが関係してるのか?)


 そんな風に考えるレイだったが、ともあれこれでセトが新たに習得した二つのスキルの検証は終わった。

 そして残っているのは、レベル五に達したパワースラッシュだけ。

 ここまで来れば、レイもまた覚悟を決める必要があった。


「よし」


 呟き、デスサイズを手に取る。

 いつもは右手にデスサイズ、左手に黄昏の槍を持っているのだが、今回に限っては何があるのか分からない以上、両手でデスサイズを持っていた。


「セト、一応俺から離れてろよ。どんなことになるのか分からないからな」

「グルゥ」


 セトも、パワースラッシュがどういう効果を持つスキルなのかは知っている。

 パワークラッシュにパワーアタックという、似た系統のスキルを持つセトだったが、セトの場合はその恵まれた身体能力のおかげで、レイ程に反動を警戒する必要がない。

 あるいは、レイは自分で持っているスキルではなく、あくまでもデスサイズが習得したスキルを使うといった形であるというのも、関係しているのかもしれないが。

 レイと比べて、セトは自分自身が習得したスキルを使うので、反動がない……という可能性もあった。

 そんなセトだからこそ、反動を受けるだろうレイを心配そうに見ながらも、指示通りレイから離れていく。


「さて」


 セトが十分に離れたのを確認してから、レイはデスサイズを手に、自分の胴体くらいの太さを持つ木に視線を向ける。

 標的となるのは、それこそ岩でもいいのだが……反動のことを考えると、少しでもその反動が小さい方がいいと判断しての行動だ。

 そして、意識を集中し……


「パワースラッシュ」


 スキルを発動すると、狙いを定めた木に向かってデスサイズを振るう。

 半ば爆発音に近い音と共に、木はデスサイズによってへし折られ……


「おう?」


 一体何が起きたのか、全く理解出来ないといった様子で妙な声を上げるレイ。

 当然だろう。レベル五に達して強化されたことで、どれだけの反動が出るのかと思っていたのだが、木を切る……いや、破壊した瞬間に手首に返ってきた反動は、殆どなかったのだから。


「これは……もしかして、レベル五になったことで強化された内容ってのは、反動がなくなるってことなのか?」


 勿論、木を破壊した威力も増していたが、それ以上にパワースラッシュの反動がなくなったというのは、レイにとって嬉しいことだった。

【セト】

『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.六』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.二』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.五』『バブルブレス Lv.三』new『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.一』『翼刃 Lv.一』『地中潜行 Lv.一』new



【デスサイズ】

『腐食 Lv.六』『飛斬 Lv.五』『マジックシールド Lv.一』『パワースラッシュ Lv.五』new『風の手 Lv.四』『地形操作 Lv.五』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.四』『多連斬 Lv.四』『氷雪斬 Lv.三』『飛針 Lv.一』


パワースラッシュ:一撃の威力が増す。ただし斬れ味が鋭くなるのではなく叩き切るような一撃。レベル五以降では威力が上がり反動もなくなる。


バブルブレス:無数の泡を吐き出す。泡の大きさはレベル一で直径一~三cm、レベル二で三~五cm程、レベル三で五~七cm程対象にぶつかると破裂して粘着力のある液体へと変わり、敵の動きを止める。


地中潜行:その名の通り地中を水の中のように移動出来るようになる。レベル一では、地下二mの場所を最大一分程移動出来る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レイの「よっしゃあ!」なんかいい!
[一言] もうちょっとデスサイズのスキルに幅が欲しいよね。 セトの強化を優先し過ぎとも言えるのかね?
[良い点] 便利なスキルやね。 パワー系が反動無しってのは、かなり強いな。
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