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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2569/3865

2569話

 レイの使ったポーションによって、セトの身体に多数存在した斬り傷は、瞬く間に回復する。

 それは、レイが高品質なポーションを使ったからというのもあったが、それ以外にもクリスタルの破片がセトの身体に傷を付ける前に体毛や羽毛によって威力を減じていたことも大きい。


「グルルルルゥ」


 傷を回復したセトだったが、心配そうな様子でレイを見る。

 炎帝の紅鎧を発動した状態ではあったが、それにも関わらずクリスタルの一撃はレイの身体に多数の傷を付けている。

 セトは自分が回復したのだから、レイもまた回復した方がいいと、そう態度で示したのだろう。

 レイもそれは分かったので、セトの傷を癒やして残っていたポーションを傷に振りかけていく。

 高品質なポーションだけあり、レイの傷は瞬く間に癒えていく。

 レイとセトが回復している間、クリスタルドラゴンが黙って見ているのかといえば……それは違う。

 当然だが、クリスタルドラゴンが先程放った一撃も、自分の体内を焼かれる痛みを我慢してのものだ。

 こうしている今もまだ、クリスタルドラゴンの体内ではレイの放った深炎が猛威を振るっていた。

 そのような状況である以上、クリスタルドラゴンも現在は迂闊に動けるような状態ではない。

 出来るだけ身体を動かさずに再生に魔力を回し、少しでも動けるようにと準備を整えていた。

 ある意味で、クリスタルドラゴンが先程のような攻撃を行ったのは、自分の傷を再生する為の時間稼ぎに等しい。


「ふぅ……取りあえず上から攻撃するというのは止めた方がいいな」

「グルゥ」


 傷を回復し終わったレイは、地面に置いてあったデスサイズと黄昏の槍を手にしてそう告げる。

 クリスタルの破片の攻撃によって両手にダメージを受けたレイだったが、それでもデスサイズと黄昏の槍を手放すことはなかったのだ。

 もっとも、デスサイズはともかく黄昏の槍はいつでも手元に戻すことが出来るので、無理に持ってくる必要はなかったのだが。


「そうなると、正面からか。……セト、さっきの攻撃には気をつけながら、また回り込んでくれ」

「グルゥ? ……グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは少しだけ心配そうにレイを見た後、そのままレイから離れていく。

 クリスタルドラゴンの目は一瞬だけレイから離れたセトを見送ったが、すぐにまたレイに視線が向けられた。

 クリスタルドラゴンにとって、セトも警戒すべき相手ではあるのだろうが、それ以上にレイの方が警戒すべき相手なのは当然だろう。

 現在にもクリスタルドラゴンの体内を燃やしている深炎を使ったのは、レイなのだから。

 そんなクリスタルドラゴンの様子を眺めながら、レイはゆっくりと距離を詰めていく。


(さて、この様子を見る限りだと、さっきまで地面を転げ回っていたのは演技だった訳か)


 今のクリスタルドラゴンは、地面に寝そべった状態のままレイの方を見ている。……いや、睨み付けているといった表現の方が相応しい。

 それだけに、先程の行動はレイの油断を誘う為の擬態だったのだろうと判断したレイだったが、実際には何とか痛覚を麻痺させて我慢しているといった方が正しい。


(問題なのは……防御力がどうなってるか、だよな。竜言語魔法なりスキルなりの効果が切れていればいいんだが)


 何らかの手段で防御力の上がっている状態であれば、炎帝の紅鎧を発動した状態のデスサイズの一撃ですら、防ぐのだ。

 それが発動しているのかどうかというのは、レイにとって大きな意味を持つ。

 とはいえ、それは実際に戦って試してみないといけない以上、レイには相手に近付かないといった選択肢はない。


(いや、黄昏の槍を投擲するか? ……それよりもやっぱり出来るだけ素早く近付いてデスサイズで斬り裂いた方がいいか)


 決断すると、レイの動きは早い。

 地面を蹴って、一気にクリスタルドラゴンとの間合いを詰めていく。

 炎帝の紅鎧によって身体強化されている関係もあってか、その速度は圧倒的な速度だ。

 だが、それはあくまでも普通の相手であればの話で、クリスタルドラゴンにしてみれば特に驚く程の速度ではない。

 だが、クリスタルドラゴンの方も、今の状況では迂闊に動けない。

 真っ直ぐ突っ込んでくるのだから、それこそクリスタルブレスでも放てばいいのかもしれないが、そのような真似をした場合、先程と同じように再び体内から燃やされる可能性がある。

 今ですら、まだレイの放った深炎はクリスタルドラゴンの体内で燃え続けており、ダメージを与え続けているのだ。

 それでも、このままレイを自分に近づけるといったような真似をした場合は致命傷になると判断したのか、右手を振りかぶり……叩き付ける。

 いや、正確には叩き付けようとしたところで、レイは炎帝の紅鎧の一部をコントロールし、触手……いや、その太さから鞭と表現すべきか、もしくは柔らかい棍棒と表現すべきか。

 ともあれ、レイの身体を覆っていた赤い魔力はクリスタルドラゴンの前足の一撃に対処するように振るわれ、その一撃を弾く。

 当然だが、クリスタルドラゴンの右手を弾いた以上、赤い魔力の鞭も同様に弾かれたものの、物理的な肉体を持っているクリスタルドラゴンと違い、レイのそれは結局のところ魔力でしかない。

 そのまま弾かれた鞭を再び魔力として吸収したレイは、気が付けばクリスタルドラゴンのすぐ側まで迫っていた。


「取りあえず、上を向け!」


 その言葉と共に、再度炎帝の紅鎧の魔力を動かし、下から掬い上げるようにクリスタルドラゴンの顎を殴る。

 ボクシングのアッパーに近い一撃。


「グギャ!」


 そんな一撃は、自分の右手を弾いた一撃を再度繰り出された。

 クリスタルドラゴンはそれを理解しつつも、今の状況ではろくに身体を動かすことが出来なかった。

 右手の一撃ですら、かなりの体力が必要だったのだ。

 本来なら、この程度の攻撃は全く問題にはならない。

 だが、それでも今のような一撃を受けてしまったのは、やはり体内で燃え続けている深炎によるものだ。

 とはいえ、クリスタルドラゴンも現在の自分の状況が命の危機だというのは理解しており……例え、再度先程と同じように体内を燃やされるような攻撃をされようとも、何も出来ずに殺されるよりはマシと判断する。

 クリスタルドラゴンにとって不運だったのは、上空に向けて多数のクリスタルの欠片を射出するといったような攻撃を出来るのは、あくまでも背中の向いている方だけだということだろう。


「させるかっ!」


 だが、当然そんなクリスタルドラゴンの様子はレイにも見てとれた以上、それに対応するのは当然だった。

 クリスタルドラゴンの喉を狙い、黄昏の槍を投擲する。

 そんなレイの様子に気が付いたのか、咄嗟に右手で喉を守り……竜言語魔法やスキルの効果が切れている現状、炎帝の紅鎧によって強化された身体能力で放たれた黄昏の槍を、腕で防ぐというのは無理だった。


「グガアアアアアアア!」


 それでも腕を貫いて喉にまで黄昏の槍の穂先が届かなかったのは、クリスタルドラゴンは強化されていなくても相応の防御力を持っているからだろう。

 それでも腕を貫かれたことによる激痛に悲鳴を上げるクリスタルドラゴンだったが……

 斬っ!

 強化された身体能力で地面を蹴り、跳躍した勢いのままで振るわれたデスサイズは、クリスタルドラゴンの右腕をあっさりと切断する。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 右腕が落下していくのを見ながら、レイは右腕に刺さっていた黄昏の槍を手元に戻し……


「ほら、次だ! 行くぞ!」


 その言葉と共にスレイプニルの靴を発動し、空中を蹴って左肩を切断するべく移動し……だが、危険を察知、再びスレイプニルの靴を発動させて空中を蹴る。 

 次の瞬間、レイがいた場所をクリスタルドラゴンの巨大な口が通りすぎていく。

 一瞬でも判断が遅ければ、レイは恐らくクリスタルドラゴンによって喰い千切られていただろう。

 あるいは、炎帝の紅鎧がある以上はそれで防げたかもしれないし、そうなれば再びクリスタルドラゴンの体内に深炎を放つといった真似も出来たのだろうが。


「グルルルルルゥ!」

「グガァッ!?」


 噛みつきの一撃に失敗したクリスタルドラゴンは、回り込んでから上空に飛び立ち、そこから落下しながら放たれたセトのパワークラッシュで頭部を思い切り殴られ、強制的に地面に顎を叩き付ける格好になる。

 それは、空中にいるレイにしてみれば首を差し出したかのような格好だ。

 しかし、そのような状況でもレイは油断しない。

 先程同じような状況にあった時、背中から多数のクリスタルの破片を放たれたのだから。

 炎帝の紅鎧とドラゴンローブ、更にはマジックシールドという究極の防御手段と言ってもいい三つがありながら、レイはその攻撃を防ぐことは出来なかった。

 ドラゴンローブに覆われていない場所は多数の斬り傷が出来、ドラゴンローブで包まれている場所も衝撃を完全に殺すことは出来ず、恐らく身体中に打撲の痕が存在している筈だろう。

 そのように一度痛い目に遭っているだけに、今が絶好の機会でも敵の攻撃を警戒するのは当然だった。

 ただし、前回はクリスタルドラゴンの真上にいたが、今は斜め上といった場所にいる。

 もしクリスタルドラゴンが先程と同じような攻撃を行ったとしても、先程のようなダメージをレイに与えることは出来ないだろう。

 つまり、今……レイにとって、クリスタルドラゴンの首を切断するという意味で絶好の好機だったのだ。


「はあああああああああああああああああああああああああっ!」


 スレイプニルの靴で自分よりも上の場所にある空気を蹴り、レイは雄叫びを上げながら真っ直ぐにクリスタルドラゴンに向かっていく。

 そんなレイの声に、自分の危機を察したのだろう。

 クリスタルドラゴンは身体を動かして何とかレイの攻撃を避けようとするものの、セトの放ったパワークラッシュで頭部を思い切り殴られており、平衡感覚を失っていた。

 ……寧ろ、セトが高い場所から落下してきた速度と剛力の腕輪、パワークラッシュといった攻撃を頭部に受けたにも関わらず、頭部が爆散していない辺りクリスタルドラゴンの頑丈さを示していた。

 そしてレイの振るうデスサイズは、真っ直ぐにクリスタルドラゴンの首に刃を食い込ませ……次の瞬間、何の抵抗もなく、クリスタルドラゴンの首を切断する。


「よし!」


 強敵……本当の意味での強敵を倒した充実感を味わいつつも、レイはその充実感を完全に味わうよりも前に、やるべきことがあった。

 デスサイズの一撃によって、頭部を切断された胴体。

 その胴体を、素早くミスティリングに収納したのだ。

 ドラゴンというのは、それこそ身体中が一級品……いや、一級品を超えるような極上の素材の塊と言ってもいい。

 そんな素材の中でも、ドラゴンの血というのは様々な使い道がある素材だ。

 だからこそ、首を切断したことによって多数の血が噴き出すよりも前に、その胴体を収納したのだ。

 とはいえ、尻尾と右手を切断された以上、少なからず周辺にその血は流れている。


(出来れば、どうにかしてこの血も回収したいところだけど……難しいよな)


 クリスタルドラゴンの血は既に地面に染みこんでいたり、周囲に生えている植物に降り掛かっていたりと、様々な場所にある。

 それらの血を回収しようとしても、そう簡単に出来るものではない。


「この周辺……間違いなく、これから荒れるだろうな」


 クリスタルドラゴンの血があるとなれば、それを求めて魔の森のモンスターが集まってきてもおかしくはない。

 幸いにして、今はクリスタルドラゴンが先程まで暴れていた以上、戦闘に巻き込まれることを恐れ、すぐに近付いてくるモンスターはいないだろうというのが、レイの予想だったが。

 ランクSモンスター……それもドラゴンの血だ。

 それを舐めただけで、普通のモンスターなら上位種や希少種に変化しかねない。

 あるいは……と、レイは視線を周囲の木々……具体的にはクリスタルドラゴンの血を被った木々に向けると、何となくトレント系のモンスターとなってるような気がしないでもない。


「グルルルルゥ」


 そう喉を鳴らしながら、セトはレイが切断したクリスタルドラゴンの右腕をクチバシで引っ張ってくる。


「悪いな、セト。お前も疲れたんだろうから、出来ればもう少しゆっくりと休ませてやりたかったんだが……悪いが、出来るだけ早くここを離れた方がいい」


 そう言い、クリスタルドラゴンの右腕をミスティリングに収納すると、続いて頭部も収納し、離れた場所に飛んでいった尻尾も収納してから、その場を離れるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初レイもセトも震えてたわりに、割と楽勝だったような(笑) 銀獅子のほうが手強かったかんじ。 まあレイもセトもあの頃より強くなってるんだろけど。
[一言] 読者に対して強さのアピールにはなったかもしれないけど、初手で炎帝使わなかった無能のアピールでもあるのを作者は理解しているのだろうか・・・
[一言] サルダートならば目を射すで脳即殺 レイはドラゴンの首を切断する
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