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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2564/3865

2564話

 ワームの魔石で習得した……正確には強化されたのは、腐食。

 それもレベル六という、デスサイズが持つスキルの中では最高レベルになっている。

 元々腐食は金属の武器を持っている相手に対しては、使い勝手がよかった。

 よかったのだが、レベル六になったところで金属の武器だけではなく、岩や木といった物まで腐食させることが出来るようになった。

 そういう意味では非常に強力なスキルではあるのだが、同時に使いにくいスキルでもある。

 何しろ、腐食を使った場合、モンスターが相手だと素材を剥ぎ取るといったような真似も出来なくなる。

 人を相手にした場合は強力なスキルではあるのだが、相手を殺すという意味では別に腐食を使わなくても、普通にデスサイズで胴体なり首なりを切断すればいいだけだ。

 そういう意味では、相手に恐怖を与える時に使うくらいしか、使い道はない。

 勿論、あるかないかだと、あった方がいいスキルなのだが。

 どのようなスキルがどのような時に使えるのか分からないのだから。


「取りあえず、スキルが習得出来なかったよりは、出来た方がいいしな。後は……セト?」


 ワームの頭部を収納して、また森の探索に戻ろう。

 そうレイが言おうとしたところで、不意にセトの様子に気が付く。

 全く動く様子がなく、身体が固まっているかのような、そんな様子に。

 最初はワームの頭部の悪臭によって動きが止まっているのかと思ったのだが、こうして改めて見ると、セトは悪臭を嫌っているようには思えない。

 そもそも、悪臭を嫌っているからといって、セトが……あのセトが震えるとは、到底思えなかった。


「待て。震える? ……セトが?」


 勿論、セトが震えるといったことがないとは言わない。

 例えば、とてもではないが食べられるとは思えないような……端的に表現すれば不味い料理を無理矢理食べさせそうになったりしたような時は、セトも震えてもおかしくはないのだ。

 だが、それはあくまでも日常生活の延長線上にある震えであり、今こうしてレイの視線の先にあるようなセトの震え方は、少し疑問だ。


「セト、どうした? 何かあったのか?」

「グ……グルルルゥ……」


 いつも元気なセトとは、到底思えないような鳴き声。

 それを見ただけで、何かとんでもないことが起こっているというのは、レイにも理解出来てしまった。

 そして、数秒後。レイはセトが何を感じていたのかを理解する。


「これは……」


 レイの身体が、我知らずに震えているのだ。

 何かを見た訳でもない。

 にも関わらず、こうして何もしていないレイの身体は震える。

 それこそ、何かを感じているかのように。

 そのような状態だというのに、多少なりとも言葉を発することが出来たのは、レイだからだろう。

 自分でも知らないうちに震える身体を何とか押さえつけながら、周囲の様子を確認し……やがて、木々が折れる音と、相当な重量を持つ何かが近付いてくるのに気が付く。


「何だ?」


 そんなレイの疑問は、やがてレイとセトのいた場所とは反対の方向の木々が折れ、その存在が姿を現したことで理解した。

 それは、大きさその物でいえばそこまで大きくはない。

 周囲に生えている木々と同じくらいの大きさはあるが、昨日レイ達が倒した闇の世界樹に比べれば明らかに小さかった。

 だが……その存在から感じられる気配は、視線を、向けられている訳でもないのに、身動きすら取れなくなる程の圧倒的な気配があった。

 闇の世界樹やヴァンパイアからも、圧倒的な気配は感じた。

 だが、レイの視線の前に存在する相手は、そんな二匹のモンスターを合わせても、間違いなくこちらが格上だと、そう断言出来る程の存在感を持っていた。

 形としては、四本足で背中からはコウモリのような翼が生えており、その顔はトカゲに似ている。

 そう、モンスターの中でも頂点に立つ種族の一つ、ドラゴン。

 それが現在、レイとセトの前に存在していた。

 その上、ただのドラゴンではない。

 身体全体クリスタルで出来ているドラゴンだ。

 最初はゴーレムか何か……もしくは骨がクリスタルの身体から見える様子から、アンデッドの類かも? と思いもしたのだが、目の前のクリスタルドラゴンは間違いなく生きていた。

 その証拠に、鼻を鳴らして臭いを嗅ぎ……レイが魔石を剥ぎ取ったワームの死体を噛み砕きながら飲み込んだのだ。


(つまり、あのワームはこのドラゴンにとって美味い餌ってことなのか? ……あの悪臭で?)


 そう思ったが、レイも臭いが美味いと言われる食材は知っている。

 くさや、臭豆腐といった食材だ。

 とはいえ、それはあくまでもTV番組や料理漫画で見たことがあるといっただけで、自分で直接食べたことはないのだが。

 少なくても、クリスタルドラゴンにとってあのワームが美味いと思っているのは、今の様子から考えて間違いなかった。

 そういう意味では、レイとセトは助かったのだろう。

 もしあのワームの頭部がなければ、クリスタルドラゴンとまともにぶつかることになっていたのだから。

 とはいえ、クリスタルドラゴンがレイとセトを見つけたからといって、何らかの反応をしたのかと言われれば、その答えは微妙だったのだろうが。


「セト」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは何とか震えを克服することが出来たのか、小さく喉を鳴らす。

 セトも、ランクAモンスターのグリフォン……いや、多数のスキルを使いこなす希少種と判断されている為に、扱い的にはランクS相当となっている。

 そして、レイとセトの視線の先で口を動かしてワームの頭部を味わっているクリスタルドラゴンもまた、そういう意味では同じランクSモンスターだろう。

 だが、ランクSモンスターというのは、言ってみればランクAより強いモンスターを一括りにしたランクだ。

 それこそランクAモンスターよりも若干強いだけのモンスターもいれば、ランクAモンスター程度では何匹纏めて襲い掛かっても相手に出来ないような、そんなモンスターもいる。

 そして、レイとセトの視線の先にいるクリスタルドラゴンは、間違いなくそのようなランクSモンスターの中でも上位に位置するだろう存在だった。


(本当に倒せるのか?)


 この魔の森において、レイは最低でもランクAモンスターを二匹倒すということを昇格試験の内容として与えられていた。

 そして実際に複数のランクAモンスターを倒しており、そういう意味では十分の実力を発揮していたと言ってもいいだろう。

 だが……ある意味で調子に乗っていたとでも言うべきレイは、目の前のクリスタルドラゴンを見て、自分の考えが甘かったことを知る。

 それこそイチゴパフェにハチミツを掛け、その上から練乳をこれでもかと掛け、砂糖を大量に入れた餡子を盛り付け、砂糖菓子をトッピングし、その上から砂糖その物をこんもりと盛り付けたかのような……そんな甘さ。

 目の前のクリスタルドラゴンを見た瞬間にレイは自分の考えが甘かったことを理解したが、それでも諦めて撤退するといったことを考えず、どうすれば勝てるのかといったことを考える辺り、ある意味で不屈の精神をしているのだろう。

 クリスタルドラゴンの方は、ワームの頭部を味わうことに集中しており、レイとセトの存在に気が付いた様子はない。

 それが、まるで自分達は敵ではないと思われているようで、レイにとっては面白くなかった。


(問題なのは、あの身体だよな。クリスタルで出来ている……ように見えるけど、まさか本当にただのクリスタルで出来ているなんてことはないだろうし。だとすれば、最大の問題は俺の攻撃でどうにか出来るか?)


 レイの持つ、デスサイズと黄昏の槍。

 その双方共に非常に強力なマジックアイテムではあるのだが、それでもやはりどちらの方が強力なのかと聞かれれば、レイは即座にデスサイズと答えるだろう。

 それだけレイがデスサイズに抱く信頼性は高いものだった。

 そしてクリスタルドラゴンと戦う上で重要なのは、レイの持つデスサイズの攻撃が通じるかどうか。

 その辺のモンスターなら……それこそ、ランクAモンスターが相手であっても、デスサイズがあれば対処は出来るだろうと判断していたし、実際にこの魔の森で何匹ものランクAモンスターを倒してきた。

 しかし……それがクリスタルドラゴンとなると、レイとしてもそう簡単に頷く訳にはいかなかった

 それだけ、クリスタルドラゴンから放たれる気配が圧倒的なのだ。

 クリスタルドラゴンは、まだレイとセトを敵とは認識していない。

 にも関わらず、姿を現しただけでレイとセトはその気配に圧倒され、セトにいたっては震えて動けなくすらなってしまった。

 そんな強敵を相手にしても、レイは逃げるのではなく戦いを挑むことを前提にして考えている。

 それは蛮勇なのか、それとも心のどこかで自分はクリスタルドラゴンに勝てると理解しているからなのか。

 その辺りは、クリスタルドラゴンを観察し、攻撃する隙を窺っているレイにも理解は出来ない。


(ドラゴンには魔法も武器の攻撃も効きにくいってのは、俺のドラゴンローブが証明している。けど、このドラゴンローブは数百年を生きたドラゴンの革と鱗を使って、尚且つ歴史上最高の錬金術師とも言われているエスタ・ノールが作った代物だ。つまり、生身のドラゴンよりも強化されてる筈)


 それは、あるいはレイの楽観的な予想だったのかもしれない。

 だが、それでもレイにしてみればその予想に頼りたくなる。


(それに、ドラゴンと一口に言ってもその種類は様々だ。クリスタルドラゴンと俺のドラゴンローブの素材となったドラゴンが同じ強さを持つとは限らない。……まぁ、クリスタルドラゴンの方が強い可能性も否定は出来ないのだが)


 そう考えつつ、レイはまずは一当てしないことにはどうにもならないだろうと判断する。

 敵の実力は非常に強力なのは間違いないが、具体的にどれだけの強さを持つのかが分からないのだから。

 それはつまり、レイの攻撃が通じるかどうかを試す必要があった。


「セト、これから俺はあのクリスタルドラゴンに攻撃する」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは短く喉を鳴らす。

 レイの魔力から生まれ、レイとずっとに一緒にいて……それ以上にレイのことが好きなセトだけに、レイがこの状況でどのように行動するのかというのは、最初から大体理解していたのだろう。


「けど、相手はクリスタルドラゴンだ。あの皮……っていうか、装甲って表現した方がいいのかもしれないが、そんな場所に攻撃をしてみて、こっちの攻撃が通用するかどうかは分からない。勿論俺も攻撃をする以上は全力で攻撃するが、もし攻撃が通じなかった場合は即座に逃げるぞ」

「グルルルゥ?」


 どこに逃げるの? とセトが喉を鳴らす。

 時間が経ってセトの震えも大分治まってきてはいたのだが、こうしてレイと話をすることによって、その震えはほぼ完全に治まったらしい。

 レイもそのことに気が付き、笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「そうだな。やっぱり隠れ家……と言いたいところだけど、相手がクリスタルドラゴンだからな。下手をすると、隠れ家の結界を破るといったことにすらなりかねない」


 ゼパイル一門の隠れ家に張られた結界だけに、その効果は間違いない。

 だが、それでも相手がランクSモンスターのクリスタルドラゴンともなれば、話は違ってくる。

 大丈夫かもしれない。

 だが、もしかしたら結界を破壊して突破し、隠れ家をも破壊するといったことになりかねなかった。

 魔の森という場所に存在する、絶対的な安全圏。

 それがレイとセトが今回の一件で拠点としている隠れ家なのだ。

 また、絶対的な安全圏というのも大事だが、それ以上に大事なのはやはり隠れ家の中にある、魔獣術を使う為の魔法陣だろう。

 一度使ったレイはもう使えないが、将来的に誰かが使えるようになる可能性は否定出来ない。

 であれば、その魔法陣を破壊する可能性は極力避けるべきだった。


「もしクリスタルドラゴンに攻撃が効かなかった場合、魔の森を走り回って撒く。それでも無理なようなら……しょうがないから、魔の森から脱出して、空を飛んでクリスタルドラゴンを撒いて逃げる」


 クリスタルドラゴンも翼を持っている以上、空を飛べるのは間違いない。

 だが、空を飛ぶ速度や、何よりも小回りという意味でならセトの方が上だろうという予想がレイにはある。

 ……それでも駄目なようなら、最悪エレーナ達や、もしくはグリムにも対のオーブで連絡を取って、一緒に戦って貰うつもりだった。

 期限前に魔の森から脱出してしまった以上、昇格試験が失敗となるのは間違いないのだが、クリスタルドラゴンと戦って死ぬよりはマシだろうと、そう判断する。

 その言葉にセトが頷いたところで、レイはデスサイズに大量に魔力を流し……そして、一気に前に出てクリスタルドラゴンとの間合いを詰める。

 まだワームの頭部を味わっていたクリスタルドラゴンは、そんなレイの存在には気が付かず…… 斬っ!

 そんな音と共に、クリスタルで出来たドラゴンの装甲はデスサイズによって斬り裂かれるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うん、期日は失格理由になりませんよね。 もう2泊して3日目の午前中ですし。 このクリドラをギルムまでトレインして来たら失格、、 てよりギルムが壊滅しかねないけど。 いくら森だとはいえ…
[気になる点] 日本で漫画読んでたならダイ大も読んでたんじゃないのか? 真バーンに初手ギガストラッシュ読んでないのか? 未知の強さの相手には持ちうる最強の攻撃を当てることで相手との力量差を把握すること…
[一言] なぜ初手炎帝の紅鎧使わないのかがよくわからない
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