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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2561/3865

2561話

 睨み合うヴァンパイアとレイとセト。

 周囲には緊張感が満ちていき……その緊張感を破るように動いたのは、セトだった。


「グルルルルルルルルゥ!」


 周囲に響くセトの雄叫び。

 セトの持つスキル、王の威圧だ。

 抵抗に失敗すれば動きを止めることが出来るという効果を持ち、抵抗に成功しても相手の動きを遅くするといった効果があるのだが……


「その手の攻撃が、私に効くとでも?」


 セトの雄叫びを聞いたヴァンパイアだったが、一切の効果がない。

 王の威圧の効果を持つ雄叫びを聞いても、全く気にした様子を見せず、血のレイピアを軽く振って自分には意味がないと示す。


(何でだ? ……いや、これは何らかのスキルを持ってるのか?)


 これまでの戦闘でも、多種多様なスキルを見せてきたヴァンパイアだ。

 当然のように、まだレイが知らないスキルがあってもおかしくはない。


(あるいは魔法か?)


 レイが知っているヴァンパイアの中には、魔法を得意としている者も多い。

 勿論それはレイが日本にいた時に漫画やアニメ、ゲームといったサブカルチャーで得た知識である以上、目の前のヴァンパイアに通じるかどうかというのは、全く別の話だ。

 だが実際にこれまで戦ってきた短い時間で見せたヴァンパイアの数々の能力を思えば、魔法を使えても不思議はない。


「どうしたのかね? 私に勝てないと、そう諦めたのか? とはいえ、もう遅いがね」


 一度間を置いて多少は余裕が出たのか、ヴァンパイアの口調は最初に会った時のものに近くなっている。

 それでも、これまでの戦いでレイとセトをただの獲物ではなく、相応の強さを持つ相手だと判断したのか、その目に油断の色はなくなっていたが。


「勝てない? 俺がお前に? 冗談も程々にしておいた方がいいな。お前には俺とセトの餌になって貰う必要があるんだから、寧ろこっちとしてはお前が逃げないかどうかが心配なんだが」


 背中の痛みを我慢し、そう告げるレイ。

 ドラゴンローブ越しではあっても、ヴァンパイアの持つ血のレイピアで突かれるといった一撃を受けただけに、レイの背中はかなりの痛みがある。

 それでもドラゴンローブのおかげで背中から貫かれるといったことはなかったが、痛いのは事実だ。

 戦いの最中に我慢することが出来ていたのだが、こうして激しい戦いが一時的に中断したとなると、レイにとっても背中の痛みを無視するといったようなことは出来なくなる。


「餌? 私を餌だと?」


 レイの言葉を聞いたヴァンパイアは、苛立ちを露わにレイを睨み付ける。

 ヴァンパイアにしてみれば、餌というのは自分に血を吸われるレイ達のことだ。

 そんな餌が自分を餌と呼ぶのだから、ヴァンパイアにしてみれば、それは決して許容出来ることではない。

 それでも苛立ちから一気にレイに向かって攻撃するようなことがなかったのは、レイとセトの強さをしっかりと理解していたからだろう。

 もしそのような真似をすれば、間違いなく相手を殺すよりも前に自分が大きなダメージを受けるだろうと、そう理解しての行動。

 この辺りの判断は、高い知性を持つヴァンパイアらしい

 レイとしては、ヴァンパイアのような強敵には怒りに我を忘れて襲い掛かってくるといったような真似をして欲しかったというのが正直なところなのだが。


「お前が何を考えていようとも……俺とセトがやることが変わらないんだけどな!」


 そう言い、レイは黄昏の槍を投擲し、デスサイズを振るう。


「飛斬!」

「グルルルルルルゥ!」


 そんなレイに合わせるように、セトもまたアイスアローを発動し、五十本の氷の矢を放つ。

 氷の矢を生み出し、射出するという行為が必要な為、レイの攻撃よりも若干遅く放たれるが、それが結果として黄昏の槍、飛斬、アイスアローといったようにタイミングを合わせたかのように三連続攻撃として成立する。


「そのような攻撃、食らうと思うかね?」


 三連続の攻撃であろうが、どれも単発の攻撃なのは間違いない。

 ヴァンパイアにしてみれば、そのような攻撃を回避するのは難しい話ではなかった。

 そして実際にその言葉通りレイとセトの攻撃を回避することに成功する。

 ……が、レイにしてみれば、その程度のことは予想の範囲内でしかない。

 間合いを詰めつつ、投擲した黄昏の槍が広場の周囲に生えている木を貫きながらどこかに飛んで行くのを確認しつつ、手元に戻すことはしない。

 そのまま、黄昏の槍を入手する前の時の戦闘スタイルでヴァンパイアに攻撃を仕掛ける。


「はぁっ!」


 気合いの声と共に振るわれたデスサイズの一撃は、ヴァンパイアに受け止めることを躊躇させるだけの迫力を持っている。

 実際にヴァンパイアは血のレイピアでデスサイズの一撃を受け止めようとしたものの、素早く危険を察知して回避することに専念した。

 そんなヴァンパイアに、こちらもまた氷の矢を全て放った後は一気に間合いを詰めていたセトが前足の一撃を放つ。

 先程はその一撃を掴まれて投げ飛ばされるといったような攻撃を行ったヴァンパイアだったが、セトはそこに敢えて同じ一撃を放ったのだろう。

 自分を再度投げ飛ばせるのなら、投げ飛ばしてみせろと。

 そう態度で示すかのように。

 ヴァンパイアはそんなセトの様子に若干の疑問を感じたようだったが、自分の方が圧倒的に有利だという認識からか、それとも挑戦されたことから逃げるのはみっともないと思ったのか、ともあれ先程同様にセトの一撃を受け止め、そのままレイに向けて投擲する。

 こんなものか。

 そう言いたげに笑みを浮かべるヴァンパイア。

 レイは飛んでくるセトを見ながら、視界の隅でそんなヴァンパイアの嘲笑とも呼ぶべき笑みを見ていた。

 体長三mのセトが自分の方に向かって飛んでくるのに、何故そのような真似が出来たのか。

 それは、投げ飛ばされたセトが空中で翼を羽ばたかせ、体勢を整えていたからだ。

 元々セトはグリフォン……下半身は獅子で、猫科の生き物だ。

 そして猫は高い場所から落ちても空中で身を捻って上手く地面に着地することが出来る。

 勿論、子猫には無理であったり、大人でも着地が苦手な個体差があったりするのだが。

 先程は身を捻る前にレイにぶつかってしまったので、そのような真似をする余裕はなかった。

 しかし、今回は違う。

 最初から投げ飛ばされるつもりで攻撃を仕掛けたし、セトのそんな様子をレイもまた態度で察していたので、ヴァンパイアがセトを投げつけたところでセトの飛んでくる進路から避けた。

 だからこそ、セトを投げたヴァンパイアの顔を見ることが出来たのだ。


「甘いんだよ!」

「ほう、同じ手段は二度食らわぬか」


 セトを投げた隙を突くかのようにデスサイズを一閃してきたレイに、ヴァンパイアは感心したように呟きながら、レイのデスサイズの一撃を回避しようとし……


「氷雪斬!」


 その動きが限界まで見切るといったような行動だと判断したレイは、すかさずスキルの氷雪斬を使う。

 ヴァンパイアは、レイの一撃などここまで極限の見切りが出来ると、そう判断してミリ単位で攻撃を回避しようとしたのだが、それが裏目に出た。


「なっ!?」


 ミリ単位でレイの攻撃を回避しようとしたヴァンパイアは、デスサイズの刃を覆った氷の刃によって身体を斬り裂かれる。

 それでも傷が浅かったのは、氷雪斬が発動したところで半ば反射的に後ろに退いた為と、何よりもレイの氷雪斬はまだレベル三と、スキルが強化されるレベル五に届いていなかったからだろう。


「おのれぇっ!」


 しかし、ヴァンパイアにしてみればレイの攻撃で傷を付けられたというのは決して許容出来ることではない。

 それこそ苛立ち混じりに間合いを詰めて、鋭く伸ばした爪でレイの顔を斬り裂こうとしてくる。

 これは、レイにとっても予想外の一撃だった。

 ヴァンパイアの性格を考えれば、自分の安全を最優先してレイから距離をとると判断していたのだ。

 そうしたヴァンパイアに攻撃をするつもりだったレイだが、それでも手首を捻り、振るったデスサイズの柄でヴァンパイアの腕を受け流し……頬に灼熱の感触。


「痛っ!」


 レイの口から反射的にそんな声が漏れる。

 実際には痛いのではなく熱いといった感覚なのだが、反射的なものなのでそのような言葉が出たのだろう。

 デスサイズの柄によってヴァンパイアの腕を弾いたことにより、爪の直撃は防げた。

 防げたものの、それは直撃だけで爪の攻撃を完全に回避するといったことは出来なかったのだ。

 ドラゴンローブのフードを被っていれば、その一撃を防ぐことも出来ただろう。 

 だが、ヴァンパイアのような強敵と戦う以上、視界は少しでも広い方がいい。

 ドラゴンローブのフードは、兜程ではないにしろ多少だが視界を妨げる。

 その為にフードを脱いでいたのだが、それが裏目にでたのだろう。

 とはいえ、それなりに深い傷ではあるが爪の直撃ではない。


「セト!」

「グルルルルゥ!」


 至近距離……ゼロ距離と呼ぶに相応しい密度まで近付かれた状態では、レイも迂闊な行動が出来ない。

 これで相手がヴァンパイアでなければ、他にも取れる手段は幾つもあったのだが。

 そのような状況で、レイはヴァンパイアに投げ飛ばされつつ、体勢を立て直したセトに呼び掛け、セトはそんなレイの言葉に即座に従い、前足の一撃を放つ。


「ぐぼぉっ!」


 ヴァンパイアにはらしくない悲鳴を上げつつ真横に吹き飛び、それを見たレイは掬い上げるようにデスサイズを振るう。


「がっ!」


 それはレイが考えて行った行動ではなく、勘に従って放った攻撃。

 実際にその攻撃によってヴァンパイアはデスサイズの柄で殴りつけられ、上空に吹き飛ぶ。


(駄目か)


 その一撃が予想していたよりも少ないダメージしか与えなかったことを残念に思いながらも、レイは頬から流れる血をそのままに空に吹き飛ばされたヴァンパイアを見る。

 するとその視線の先ではヴァンパイアが背中から巨大なコウモリの羽根を生み出し、空を飛んでいた。

 それでも今の一撃はヴァンパイアにとっても痛かったのか、殴られた脇腹を押さえている。


「き、貴様……」


 何かを言おうとしたヴァンパイアだったが、レイは今がチャンスであると判断し、先程広場から複数の木を貫き、破壊しながら飛んでいった黄昏の槍を手元に戻し、ヴァンパイアが対応するよりも前に投擲した。

 その一撃は、恐らくレイが今まで投擲してきた黄昏の槍の一撃の中でも最高峰の速度での投擲。 空気を斬り裂きながら放たれた黄昏の槍はヴァンパイアも危険だと判断したのだろう。

 慌ててその攻撃を回避しようとするも……セトとレイの放った一撃によるダメージはまだ回復しておらず、回避行動が遅れる。

 結果として、黄昏の槍はヴァンパイアの右肩と……その背から生えていた右のコウモリの翼を貫き、砕く。

 本来なら、ヴァンパイアはコウモリの翼がなくても空を飛ぶといったことは出来てもおかしくはないのだが、それでもいきなりのダメージでバランスを崩したのか、地上に向かって落下してくる。

 レイは落下してくるヴァンパイアのいる場所に向かい……


「ペインバースト!」


 その言葉と共にスキルを発動し、デスサイズを一閃。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 その一撃を食らい、上半身と下半身に切断された瞬間、ヴァンパイアの口からはこの世のものとも思えぬ悲鳴が周囲一帯に響き渡った。

 当然だろう。ペインバーストは相手に与えるダメージはそのままだが、痛みを増やすといったスキルだ。

 それを使っているレイは具体的にどのくらいの痛みを増やすのかを完全には理解していないが、レベル四のペインバーストは痛みを十六倍にする。

 それも、その痛みは上半身と下半身を切断された痛みなのだから、まさに地獄の如き痛みなのは間違いない。

 だからこそ、あれだけ気取っている性格をしているヴァンパイアが、身も蓋もない……心からの絶叫といった声を上げたのだろう。

 そして、痛みから逃れる為か、もしくは他にも何らかの狙いがあったのか。

 その辺の理由はレイにも分からなかったが、身体を上下二つに切断されたヴァンパイアは、その双方を霧に変え……


『炎よ、我が意に従い敵を焼け』


 その呪文と共に、直径三十cm程の火球が生み出される。


『火球』


 そして発動する魔法。

 霧が一ヶ所に集まった場所に、火球は命中する。

 霧がすぐにヴァンパイアの身体として再生しなかったのは、ペインバーストにより増幅された痛みが影響しているのだろうと、レイにも想像出来た。

 そして、火球は霧のある場所に命中し……その霧を燃やしつくすのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんとなく、アンデッドって痛みを感じないような気がするんだが…
[一言] (炎帝の紅鎧の情報持ち逃げも何も、何度も大勢の前で使っているような… それにそんな簡単に対策できたら元となった覇王の鎧を生み出したノイズの立つ瀬がない気も…)
[一言] >先程はその一撃を掴まれて投げ飛ばされるといったような攻撃を行ったヴァンパイアだったが、セトはそこに敢えて同じ一撃を放ったのだろう。 掴んで投げ飛ばす攻撃を行ったのであって受け手と攻め手が…
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