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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2559/3865

2559話

 自分に向かって真っ直ぐ突き進んでくるレイを見て、ヴァンパイアは軽く手を振る。

 すると次の瞬間、その手には赤い……血で出来たレイピアが生み出されていた。

 血を操る。それもまた、ヴァンパイアとしての能力の一つなのだろう。


「けど、そんな武器だけで、俺の攻撃をどうにか出来ると思っているのか!?」


 そう叫びつつ、レイはデスサイズで一撃を放つ……振りをしながら、強引に身体を傾ける。

 次の瞬間、レイの身体のあった場所を五十本の氷の矢が通りすぎ、ヴァンパイアに向かう。

 セトのスキル、アイスアロー。

 レベル五に達したことで、その威力は飛躍的に強化されたスキルなのだが、ヴァンパイアを相手に正面から一撃を放っても命中させるのは難しい。

 だからこそ、レイの背後から撃ったのだ。

 レイとセトは、特に打ち合わせの類はしていない。

 それでも、双方共にお互いが現在の状況でどのように行動するのかというのは理解しており、まさに阿吽の呼吸とも呼ぶべき連携を見せた。

 だが……


「ふむ」


 ヴァンパイアは、自分に迫ってくる五十本の氷の矢を見て、血のレイピアを持っていない方の手を軽く振るい、魔力による衝撃波を出す。

 放たれたその衝撃波は、自分に向かってくる氷の矢をあっさりと弾く。

 氷の矢は、一本ずつがそれぞれ命中すれば岩を割るだけの威力を持っているのだが、ヴァンパイアにしてみればその程度の攻撃に対処するのは難しくはない。


「けどなっ!」


 アイスアローの目眩ましとして行動していたレイは、ヴァンパイアの行動を見て驚くも、行動を止めるような真似はしない。

 そもそも、相手は最低でもランクAモンスターといった実力を持つ相手だ。

 いや、それだけではなく、ランクAモンスターとしての実力があった上で、人間と同様の……あるいはそれ以上の知性を持つ。

 そうである以上、レイとしては厄介な相手だと認識するのは当然だった。

 幾ら強い力を持っているとはいえ、それを十分に活かすことが出来ない程度の相手なら、レイにしてみれば倒すのに苦労はしない。

 そんな相手より、寧ろ力が多少弱くてもそれを十分に活かすことが出来るような相手の方が戦いにくい。

 そして、現在レイが戦っているのは、強い力を持ち、それを十分に活かすことが出来るだけの知性を持つヴァンパイアだ。

 自分を目眩ましにした程度の攻撃で相手を倒すことが出来たら、それこそレイは驚いてしまうだろう。

 だからこそ、レイはそんなヴァンパイアの攻撃に惑わされることもないまま、背後から放たれたアイスアローの一撃を回避した動きをそのまま攻撃に転化する。

 ヴァンパイアの横からデスサイズが振るわれ、その一撃を血のレイピアで受け止めるが……


「何っ!?」


 デスサイズの重量とそれが振るわれた時の威力は、ヴァンパイアにとっても予想外だったのだろう。

 血のレイピアでデスサイズの一撃を受け止めはしたものの、デスサイズの刃によってあっさりと血のレイピアは破壊される。

 ヴァンパイアの口から、動揺した声がもれる。

 レイにしてみれば、そんな相手の動揺は付け込むべきもの以外のなにものでもなかった。

 デスサイズの一撃によって破壊された血のレイピアがなくなり、現在のヴァンパイアは武器を手に持っていない。

 その隙を突くかのように、黄昏の槍の一撃を放つ。

 だが、ヴァンパイアは黄昏の槍が当たると思った次の瞬間、無数のコウモリへと姿を変え、その場から移動する。


「ちぃっ!」


 地球にいた時に小説やアニメ、漫画、ゲームといったものを好んでいたレイにしてみれば、ヴァンパイアの能力は大体理解出来る。

 勿論、それは地球にいた時に得た知識で、それがこのエルジィンにおいても通用するかどうかは分からない。

 実際、地球で知った知識でも、ヴァンパイアというのは魅力的な題材だった為か、様々なヴァンパイアが存在し、能力も多種多様だった。

 そんな様々な能力の中で、身体をコウモリにするという能力はヴァンパイアの中でもありふれた能力だ。

 勿論、一匹のコウモリになったり、今回のように複数のコウモリになったりといったように、若干の違いはあるが。

 そうして多数のコウモリになったヴァンパイアに対し、レイはスキルを発動する。


「飛斬!」


 デスサイズの持つスキルの中で、一番攻撃範囲が広いとなると、このスキルとなる。

 次いで多連斬なのだろうが、多連斬はあくまでもデスサイズの一撃に追加で斬撃を放つといったスキルで、その攻撃範囲はデスサイズの攻撃範囲内だ。

 氷雪斬もデスサイズの刃に氷を纏わせるという意味では攻撃範囲が広くなるのだが、あくまでも多少でしかない。

 あるいは、レベルが上がっていけばもっと話は違うのだろうが。


『ふふふふ、無駄だよ。このコウモリは全てが私だ。一匹倒した程度では、意味がない。それはここに来る途中でもそうだっただろう?』


 その言葉に、レイは疑問を抱く。

 一体ヴァンパイアが何を言ってるのか、分からなかったからだ。

 分かるのは、今の話を聞く限りレイ達がここに向かっているのを最初から知っていた……

 そこまで考え、ふとレイはとあることを思い出す。


「あの時、セトが攻撃した件か!?」


 ここに来るまでの途中、セトが何らかの気配を察知してアイスアローを放った。

 だが、セトにも敵を倒したのかどうかも分からない様子だったのだ。

 そのことを思い出したレイは、あの攻撃した相手がこのヴァンパイアが放ったコウモリの使い魔……いや、今のように分裂したコウモリの一匹であったのだろうと、そう判断し……次に聞こえてきた声が、それを証明する。


『どうやら思い出したようだね。だが……だからといって、私の温情を無視した君達を生かして返すつもりはない』


 その言葉と共に、コウモリはレイとセトから少し離れた場所に集まると、再びヴァンパイアへと姿を変える。

 そうして元の姿に戻ると、貴公子という表現が相応しい笑みを浮かべつつ腕を一振りし、再度血のレイピアを作り出す。


(厄介だな。魔法を使うか? ヴァンパイアは炎には弱い筈だし)


 非常に強力な種族のヴァンパイアだが、その強力さに比例するように弱点も多い。

 日光、銀、十字架、ニンニク……少し変わったところでは、流れる水が苦手といったものもある。

 勿論それらの弱点が、レイの視線の先にいるヴァンパイアにも当て嵌まるとは限らないが。


(ともあれ、銀……銀か。ミスリルナイフなら効果はあるか?)


 ミスリルナイフは、別名魔法銀とも呼ばれる。

 普通の銀で出来た武器は持っていないレイだったが、ミスリルナイフは解体用に所持していた。


(もしくは、アンデッドである以上はマジックアイテムのデスサイズと黄昏の槍で攻撃した方がいいのか……迷うな)


 そうして迷っている間にもヴァンパイアは余裕に満ちた表情でレイの方を見ており……


「グルルルルルルゥ!」


 ヴァンパイアの視線がレイに向けられた瞬間、セトが大きくクチバシを開いてファイアブレスを吐く。

 ある程度日本にいた時のレイの知識を引き継いでいるセトだけに、ヴァンパイアには炎が有効だと判断したのだろう。

 幸いにして、ここは魔の森の中でも闇の世界樹が生えていた広場だ。

 炎系の攻撃を行っても、周囲に燃え広がるということはない。


「おっと。そう簡単にはいかないよ」


 ファイアブレスを使ったセトに対し、ヴァンパイアは血のレイピアを持っていない方の手をそちらに向け、血の盾を生み出す。

 ファイアブレスと血の盾。

 普通に考えれば、血の盾が蒸発して終わりだろう。

 しかし、ヴァンパイアの生み出した血の盾は非常に強固な防御力を持ち、ファイアブレスを防ぐ。

 あるいは、ファイアブレスのレベルが後一上がって五になり、飛躍的に強化されていれば血の盾をどうにか出来た可能性はある。

 だが、今の状況でそれを言っても仕方がない。

 何より、レイにとってはファイアブレスで効果がないのはともあれ、ヴァンパイアの片腕を塞いでくれただけで十分だった。


「マジックシールド!」


 一度だけどんな攻撃も防いでくれるマジックシールドを使い、レイはファイアブレスで身動きが出来ないヴァンパイアとの間合いを詰める。

 光の盾などという目立つ物を出した以上、当然だがヴァンパイアはファイアブレスを防ぎながら、一瞬だけレイを一瞥し……レイとの間合いがかなり縮まっていることに少しだけ驚く。

 それでも即座に血のレイピアをレイに向けてきたのは、このような状況でも対処出来るという自信があるからだろう。


(俺も甘く見られたな!)


 確かに、ヴァンパイアは非常に高い戦闘能力を持つ。

 実際、コウモリになってレイの攻撃を回避したり、血の盾でセトのファイアブレスを防ぎ続けているのを見れば、それは明らかだ。

 だが、だからといってレイの攻撃を防げるかと言われれば、その答えは否だろう。


(またコウモリになって逃げるか? けど、そういう手段があると知っていれば、幾らでも対処のしようはある)


 先程はいきなりだったのでレイも驚き、その隙を突いてコウモリの群れがデスサイズの攻撃範囲から逃げ出した。

 だが、多数のコウモリになると知っていれば、多連斬を使って一度の攻撃で大量のコウモリを倒すことが出来るだろう。

 コウモリを一匹二匹倒したところで、ヴァンパイアにとってダメージにはならない。

 だが、それが十匹、二十匹といった数になればどうなるか。

 恐らくだが、それはヴァンパイアにとって大きなダメージとなるのは間違いない。

 とはいえ、それでも相手はヴァンパイアだ。

 可能な限り強力な一撃を放つのは当然だろう。


「多連斬!」


 その言葉と共に放たれた斬撃にヴァンパイアは危険なものを感じたのか、ファイアブレスを防いだままにも関わらず、レイピアを鋭く突き出す。

 その突きの速度は、まさに一級品。

 しかし、レイの振るったデスサイズはそんな血のレイピアの一撃をものとせずに、斬り裂き……同時に、レイピアを持っていたヴァンパイアの身体も斬り裂く。


「な!? ……がぁああっ!」


 まさか新たに強化して生み出した血のレイピアが、再びこうもあっさりと破壊されるとは思わなかったのか、戸惑ったような悲鳴を上げ……だが、多連斬の効果によってヴァンパイアの身体に追加の斬撃が放たれ、痛みに悲鳴を上げる。

 痛みが集中力を乱したのか、セトのファイアブレスを防いでいた血の盾も消滅し、ヴァンパイアを包む。


「うおっ!」


 ヴァンパイアが炎に包まれたまではいい。

 だが、まさかその状況から攻撃を……それも血のレイピアが破壊されてしまったので、指の爪を伸ばして攻撃してくるとは思わず、レイはその攻撃を食らいそうになり……次の瞬間、光の盾がその爪の一撃を受けて、砕ける。


「おまけだ、食らえ!」


 マジックシールドがなくなったのを見るまでもなく、左手で持つ黄昏の槍の一撃を放つ。

 マジックシールドであれば、ヴァンパイアがどのような攻撃をしてきても絶対に防げるという自信がレイにはある。

 だからこそ、攻撃をされたと思った瞬間には半ば反射的にレイは黄昏の槍の一撃を放っていたのだ。


「が……がああ……」


 デスサイズと多連斬によって全身を斬り裂かれ、ファイアブレスで身体を燃やされ、黄昏の槍で鳩尾を貫かれる。

 本来はレイはヴァンパイアの心臓を狙ったのだが、偶然なのか実力なのか、ヴァンパイアは黄昏の槍の一撃を受ける瞬間に体勢を崩し、心臓への直撃を避けた。

 それでも、普通なら致命傷と呼べるだけの攻撃を行ったのだが……黄昏の槍が貫いた場所から、その身体は霧に姿を変えていく。

 倒したか?

 一瞬そう思ったレイだったが、すぐにその考えを却下する。

 ランクAモンスターと思しき相手が、まさかこの程度の攻撃で倒されるとは、到底思えなかったからだ。

 そんなレイの予想を裏付けるように、身体が崩れて霧になった場所が移動していき、レイから距離を取る。


「やっぱりか」


 そんなレイの呟きを証明するかのように、霧は人型をとる。

 ただし……コウモリの時とは違い、身体にダメージがあったのは間違いないのだろう。

 ヴァンパイアは今までの貴公子じみた表情ではなく、怒りと苛立ち、そしてみっともない姿を見せてしまったことに対する屈辱を視線に込めてレイを睨み付ける。

 ヴァンパイアにダメージを与えたという点では、レイだけではなくセトもなのだが……それでもレイの方がヴァンパイアにとっては分かりやすい憎悪を向けるべき相手だったのだろう。


「餌の血袋如きが、私に傷を付けるとは……貴様の血、一滴残らず吸いつくしてくれる!」


 そして、怒りと共にそう叫ぶのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 炎帝の紅鎧使ってこのヴァンパイア脱出の確率100% 研究者だから 騎士の尊厳はまったくない
[一言] なんか、炎帝の紅鎧を毎回ナチュラルに忘れてない? 継戦能力が格段に落ちるのと発動に多少時間がかかる以外のデメリット無かったと思うんですけど。今回も深炎辺りで包み込んでしまえば終わりでは?
[良い点] 毎日更新楽しんでます。 [気になる点] 特にありません。 [一言] ただの血袋が・・・。 安心して下さい。 相手はただの経験値、又はアイテムにのみ期待してますから。
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