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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2551/3865

2551話

 翼刃を習得した後は、トンボの死体をミスティリングに収納して、レイ達は再び魔の森を進み始める。

 そんな中、セトは今までよりも更に真剣に周囲の様子を警戒していた。

 自分の背中に乗っているレイが、トンボに襲撃されたのがそれだけ面白くなかったのだろう。

 レイにとっては、あれはトンボが色々と規格外の存在だったからこその話で、セトが責任を感じる必要はないと思うのだが……レイのことが好きなセトとしては、やはりショックを受けたのだろう。


「セト、周囲の警戒はいつもお前に任せてるけど、俺だって何かあったらすぐに反応出来るようにしてるんだぞ。だから、そこまで気にするな」


 一応セトにそう言うレイだったが、セトの方はそんなレイの言葉を聞いても、今まで以上に頑張って周囲の様子を探るのを止める様子はない。


「グルルゥ? グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かった! 頑張る! と喉を鳴らす。

 レイとしては、もう少しリラックスして欲しいというのが正直なところだったのだが、レイの言葉は寧ろセトのやる気を増幅させただけとなる。

 そんなセトの様子に色々と思うところはあったレイだったが、これ以上は何を言っても恐らく無意味だろうと判断して、今はセトの気の済むようにさせてやる。


(それに、ここは魔の森だ。あのトンボと同じような速度で動き回るようなモンスターが、他にもいないとは限らない。いや、寧ろそのくらいは普通でなければおかしくはない、か)


 魔の森はギルムですら危険だから近付くのは基本的に禁止されている場所だ。

 それだけに、あのトンボと同じような危険度のモンスターが多数いても、それはおかしなことではない。

 いや、寧ろそれは当然と言ってもいいくらいだろう。

 それだけに、セトが索敵を頑張るのは決して間違いではないのだ。

 それこそ、強化されたばかりで、まだ使い慣れていない嗅覚強化のスキルを使っていても。

 最初こそレイはセトを心配したのだが、嗅覚上昇を使っているうちに大分慣れてきたのか、今のセトはもう最初に嗅覚上昇を使った時のように強烈な臭いとその処理に苦労している様子もない。

 そんなセトを見ていると、レイもまた強化されたパワースラッシュを少しでも早く使いこなせるように頑張らないと、と。そんな風に思ってしまう。

 と、そんな風に魔の森を進んでいるセトだったが、不意に走る速度を落とす。

 トンボと遭遇した時のように急停止といった訳ではなかったのだが、それでもそれなりに急だったのは間違いない。

 何故そのような真似をしたのか。

 それは、当然レイにも理解出来ている。

 このような状況でいきなりの行動なのだから、それは当然だろう。


「さて、次はどんな敵だ? 出来れば未知のモンスター……もしくはトンボ辺りなら嬉しいんだけどな」


 先程のトンボは一匹だけだった。

 その魔石をセトに使った以上、出来れば今度はデスサイズに新しいスキルを習得させたいと、そうレイが思うのは当然だろう。

 あのトンボはかなりユニークなモンスターだ。

 機動力に特化し、攻撃力もそれなりに高いが、防御力という点では他のモンスターと比べて大きく劣る。

 そうである以上、攻撃が命中すれば倒せるのだ。……あの速度を考えれば、命中させるのが一番難しいのだが。

 そんなことを考えているレイの視線の先で、やがて茂みが揺れると一匹のモンスターが飛び出してくる。


「虎? いや、違うな。豹……黒豹か?」


 いきなり出て来た相手だけに、最初は虎かと思ったレイだったが、改めて見る同じ猫科でも豹のように思えた。

 勿論、本当に豹なのかどうかは分からない。

 それこそ、日本にいた時のうろ覚えの知識からそう判断したのだから。

 また、豹とレイは言ってるが、正確には豹ではなく豹をベースにしたモンスターだろう。

 何しろと、足の数が八本もあるのだから。


(足が八本ある馬がスレイプニルなら、足が八本ある豹はどういう存在なんだろうな。スレイプニルパンサー? いや、黒豹だし、スレイプニルブラックパンサー? 無意味に名前が長すぎる)


 セトと睨み合っている黒豹を見ながら、レイはそんなことを考える。

 本来なら、今のこの状況では自分がセトの背に乗っているのは自分の重量的に黒豹の攻撃に対処するセトの足を引っ張っているのは間違いない。

 だからといって、黒豹が目の前にいる状況でセトの背の上から降りるといったようなことをすれば、それはそれで黒豹に攻撃させる結果になるだろう。

 その辺のことを考えると、レイも迂闊にセトの背から降りるような真似は出来ない。


(この黒豹も、ランクC……いや、ランクBくらいか?)


 辺境にあるギルムでも、ランクCモンスターはともかく、ランクBモンスターと遭遇することはなかなかない。

 だが、この魔の森においてはランクCやランクBモンスターが当然のように姿を現すのだ。

 それどころかランクAモンスターも姿を現すし、ランクSモンスターのドラゴンも存在していると言われている。

 その辺の事情を考えれば、やはり魔の森は色々な意味で特殊な場所だということなのだろう。

 だからこそ、ゼパイル一門の隠れ家がこの魔の森に用意されたのかもしれないが。

 そこまで考え、ふとレイは嫌な予想を思い浮かべる。

 魔の森だからこそゼパイル一門が隠れ家を用意したのではなく、ゼパイル一門が隠れ家を用意したからこそ、その影響で魔の森が出来たのではないかと。

 そしてあの隠れ家にあったのは、レイが使っているこの身体と、セトを生み出した魔獣術の魔法陣だ。

 もしゼパイル一門の隠れ家によって魔の森が出来たのだとすれば、それはある意味でレイのせいということにもなりかねない。


「いや、気のせいだな」

「グルルルルルルゥ!」

「ガアアアアアア!」


 思わず口に出して否定したレイの言葉を切っ掛けとして、セトと黒豹はお互いに相手との間合いを詰める。

 レイは相手が動いたことを確認しながら、セトの背の上から転げ落ちるようにして降りて……その動きの途中で、黄昏の槍を投擲する。

 当然だが、そのような体勢からの投擲である以上、そこまで高い威力を出すことは出来ない。

 それでも黒豹に対する牽制になればいいだろうと、そう思っての攻撃だった。


「ガアァッ!?」


 まさか、レイからそのような攻撃がくるとは思わなかったのか、黒豹は焦った様子で身体を捻り、黄昏の槍の攻撃を回避する。

 レイが半ば勘に近い状態で投擲した黄昏の槍は、偶然……あるいは実力なのかもしれないが、黒豹の右肩辺りに向かって放たれたのだ。

 幸い――レイにとっては残念なことに――豹というのは身体が非常に柔軟だ。

 ましてや、セトと戦っている黒豹はモンスターである以上、その能力は動物の豹と比べても明らかに上だった。

 だからこそ、咄嗟のこととはいえレイが投擲した黄昏の槍の一撃を回避することが出来たのだろう。

 だが……レイの一撃を回避したとしても、それはあくまでもレイの攻撃でしかない。

 レイの攻撃のすぐ後に放ったセトの一撃は回避出来ない……と思った瞬間、黒豹は空中で身を捻った状態から大きく口を開ける。


「ガアアアアアアアア!」

「グルゥ!」


 黒豹が口を開けた瞬間、既にセトは危険性を察知していたのだろう。

 振り下ろそうとしていた前足はそのままに、後ろ足二本を使って半ば強引に進行方向を変える。

 野生の本能に従って――普段のセトはとてもではないが野生が残っているようには思えないが――の行動だったのだろう。

 そして、セトのその行動は間違いなく今回の黒豹への行動の対処としては正しいものだった。

 大きく開かれた黒豹の口から放たれたのは、ブレス。

 それも分かりやすいファイアブレスだったり、蜂の放ったアシッドブレスといったブレスではなく……複数のシャボン玉を放つブレス。

 見かけだけで判断するのなら、それはどこかファンシーな……もしくは馬鹿らしいと言ってもいいような光景。

 だが、レイはそのブレスが一体どのようなブレスなのかを知っている。

 何故なら、それはセトが習得しているスキルにもあるブレスだったのだから。

 バブルブレス。

 その名の通りバブル……泡やシャボン玉といったものを放つブレスだ。

 一見するとそこまで脅威に見えないブレスなのだが、問題なのはこのブレスで放たれた泡やシャボン玉が破裂した時、それは粘着性のある液体となり、相手の動きを鈍くするということだ。

 一度触れたらもう絶対に離れない……といったような強力な粘着力ではないのだが、それでも動きを鈍らせるには十分なものをもっている。

 その事実を考えると、黒豹が口を開いた瞬間に回避行動をとったセトは賢かったということだろう。


(というか、何で黒豹がバブルブレスを使えるんだ!?)


 セトから降りつつ黄昏の槍を投擲した体勢を整えつつ、レイは疑問に思う。

 蜂のアシッドブレスなら、まだ無理矢理……そう、本当に無理矢理ではあるが、納得出来ないことはない。

 蜂と蟻は分類的にはかなり近い存在で、蟻の中は蟻酸という酸性の液体を持っている種類もいる。

 そうである以上、蜂がアシッドブレスを使えるのは、まだ納得出来るのだ。

 だが、黒豹がバブルブレスを使うというのは……


(いや、そもそもモンスターに常識を当て嵌めることが間違いか)


 体勢を立て直し、地面の上に立って先程投擲した黄昏の槍を手元に戻しつつ、レイは考えを改める。

 その時には、既に黒豹から距離を取ったセトも体勢を立て直しており、奇しくもレイとセトで黒豹を挟み撃ちするといったような格好になっていた。


「セト、この黒豹は厄介だ!」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは鋭く鳴いてその場で黒豹を睨み付け……


「グルルルルルゥ!」


 そんな黒豹に向け、雄叫びを上げる。

 その瞬間、黒豹は明らかに動きが鈍った。

 セトが何をしたのか、それはレイにもすぐに理解出来た。

 王の威圧を使ったのだろう。

 黒豹は何とか動きを硬直させられることは避けられたが、それでもセトの持つ王の威圧は相手の速度を落とす効果を持つ。

 あるいはセトよりも格上の存在なら、素早さを落とすといった行動に対しても防ぐことが出来たのかもしれないが……生憎と、黒豹は高ランクモンスターではあるが、それが出来る程の強さは持っていない。

 それだけに、セトの王の威圧の効果をまともに食らったのだ。


「ガァアアアァッ!?」


 黒豹は不意に自分の動きが鈍くなったことを理解し、戸惑いの声を上げる。

 だが、それは黒豹の隙を窺っていたレイにしてみれば、絶好のチャンス。

 黒豹も、自分に黄昏の槍を投擲してきたレイの存在は理解していたものの、セトの王の威圧の効果によって完全に意表を突かれてしまっていた。

 その結果として、地面を蹴って近付いてくるレイの存在に気が付くのが遅れ、そしてレイの振るうデスサイズの一撃を回避しようとするものの……身体の動きが鈍く、その一撃を完全に回避するような真似は出来ない。

 八本ある足のうち左側の中央の二本の足をデスサイズの刃によって切断される。

 それでも左足のうち、一番前と一番後ろの足を残したのは黒豹の俊敏さによるものだろう。

 だが、レイとセトの前で足を二本失ってしまったというのは、致命的だ。

 黒豹も、自分の動きが鈍くなったことに加えてレイとセトという相手と戦うのは自殺行為だと判断したのだろう、

 大きく口を開き、周囲にバブルブレスを放ちながら、その場から逃げようとし……


「させるかよ!」


 鋭く叫びながら、レイは黄昏の槍を投擲する。

 真っ直ぐに放たれた黄昏の槍は、そのまま逃げ出そうとした黒豹の身体を貫く。


「ガギャアア!」


 胴体……正確には胴体の中でも腰の背後の辺りを貫かれ……それだけではすまず、砕かれた黒豹は、悲鳴を上げながら地面に崩れ落ちた。

 胴体が二つに切断……いや、破壊されているにも関わらず、それでもまだ生きている辺り、高ランクモンスターらしい高い生命力を持っていると言ってもいい。

 それでも、黒豹はまだ生きているといった程度であり、そう遠くないうちに死ぬのは間違いなかった。

 苦しんでいる相手を眺めている趣味もないレイは、まだかろうじて生きている黒豹の首をデスサイズで切断する。

 最後は苦しみから救って貰えると思ったのか、それとも何も考えていなかっただけなのか。

 ともあれ、黒豹は安らかな様子で命を終えた。


「……さて、まさかバブルブレスを使ってくるとは思わなかったな。……ほら、セト」


 そう言い、レイは黒豹の胸を切り裂いて取り出した魔石を流水の短剣で洗って渡す。

 セトも、相手がバブルブレスを使ってきた以上はそうなのだろうと思ったのか、素直に魔石を咥え……


【セトは『バブルブレス Lv.二』のスキルを習得した】


 そんなアナウンスメッセージが、脳裏に響くのだった。

【セト】

『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.六』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.二』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.五』『バブルブレス Lv.二』new『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.一』『翼刃 Lv.一』


バブルブレス:無数の泡を吐き出す。泡の大きさはレベル一で直径一~三cm、レベル二で三~五cm程で、対象にぶつかると破裂して粘着力のある液体へと変わり、敵の動きを止める。

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― 新着の感想 ―
[一言] そしてセトの振るうデスサイズの一撃を回避しようとするものの…… いっそ絵で見てみたい(笑)
[良い点] 素直にバブルブレスか。便利だもんなぁ。
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