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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2541/3865

2541話

 カーバンクルの魔石からセトが習得した魔法反射のスキルの性能を確認すると、レイとセトは再び魔の森を進む。

 ……なお、レイがカーバンクルと遭遇する理由となった果実は、しっかりと採ってレイとセトで分けて食べた。

 どうせなら、冷えた果実を食べたかったというのがレイの正直な感想だ。

 勿論、その果実が甘かったからこそ、そのように思ったのだが。


「セト、もう一時間くらい経ったら、今日の探索は終わりにするか」

「グルゥ?」


 そんなに早く、いいの? とセトは疑問を感じてそう言ってくる。

 まだ日中といった時間帯である以上、今から一時間程が経過しても夕方になるかどうかといったとこだろう。

 であれば、もう少し探索出来る時間があるのにと、そうセトが思うのは当然だった。

 しかし、レイはそんなセトの様子を見ても、考えを変えるといったつもりはない。

 基本的に夜になれば、モンスターの動きは活発になる。

 モンスターを探すという意味では、寧ろ夜に森の探索をした方がいいのかもしれないが。


(魔獣術のことを考えると、やっぱりそっちの方がいいんだよな。けど、今日は巨狼との戦いでかなり疲れたし、初日だから……夜は明日からだな。二泊三日なんだから、少し余裕をもって行動した方がいいだろうし)


 そう思いつつも、ランクAモンスターと遭遇するという意味ではやはり日中よりも夜の方がいいだろうという思いがあるのも事実だった。

 モンスターが活発に動く夜だからこそ、ランクAモンスターも活発に動くだろうと。

 そういう意味では、日中から活動していた巨狼は少し普通とは違ったのだろう。


「ともあれ、もう少し探索はするんだから注意してくれよ。セトの方が俺よりも五感は鋭いんだから」

「グルゥ!」


 嗅覚上昇のスキルを持っているセトは、五感の中でも特に嗅覚が優れている。

 モンスターも生き物である以上、何らかの特殊なスキルを持っていたり、もしくは特殊な生態でも持っていない限り必ず臭いがある。

 そういう意味では、嗅覚というのは五感の中でも大きな意味を持つのだろう。


(出来れば嗅覚上昇のスキルをもっとレベルアップさせれば……あ……)


 そこまで考えたレイは、ふと嗅覚上昇ということで犬系のモンスター……狼……巨狼といった順に考えてしまう。


「いやいやいやいやいやいやいや」


 巨狼の魔石をセトに与えた場合、もしかしたらセトが強化されるスキルは嗅覚上昇なのではないかと思い、慌てたように首を振る。

 とはいえ、レイも別に嗅覚上昇が使えないスキルだ思っている訳ではない。

 戦闘には使えないが、今のように周囲の警戒をしている時や、もしくは他の誰かや何かを追跡する時は、かなり使えるスキルなのは事実だ。

 だが、それでもあの巨狼というランクAモンスターから得られた魔石で強化されるスキルが嗅覚上昇だというのは、どうしても納得出来ないところがある。


「グルゥ?」


 と、レイの様子を見ていたセトは、どうしたの? と喉を鳴らす。

 突然レイが激しく首を横に振ったのだから、そのように思うのは当然だろう。


「いや、何でもない。セトの嗅覚上昇のスキルは使い勝手がいいと思ってな」

「グルゥ! ……グルルルルゥ!」


 あるいは、レイのその言葉がフラグとなったのか。

 レイの言葉に褒められたセトは、次の瞬間に警戒の鳴き声を発し……

 やがて、ブーンといった羽音が聞こえてくる。

 音だけで考えた場合、先程レイが倒した蚊にようにも思えなくはない。

 だが……その羽音は、明らかに蚊のものとは違う、一種の重厚感があった。


「トンボでないだけマシか」


 魔の森で遭遇したモンスター……敵対的なモンスターの中で、唯一何の手出しも出来ずに逃げられたモンスターを思い出すも、聞こえてくる羽音はそのようなものではない。

 もっと違う羽音だったが、その羽音の種類はどこかレイに嫌な予感を抱かせるに十分だった。

 何しろ、羽音の数は時間が経つに連れて次第に増えていったのだから。


「うわぁ……これは……セト、広範囲攻撃の準備をした方がいいかもしれないぞ……っと!」


 セトに呼び掛けたレイだったが、それと同時に飛んできた攻撃を察知し、半ば反射的にデスサイズを振るう。

 レイの目には、しっかりと自分に向かって飛んできていた相手の攻撃が見えていた。


「針か!」


 単純に針だけながら、猿がレイに向かって攻撃してきたことがあったのだが、聞こえてきた羽音から考えると、もっと別の生き物を想像してしまう。

 そして、レイのが予想した生き物と魔の森の奥から姿を現した生き物は、同一の生き物だった。

 ただし、羽音がレイの知っているそれとは明らかに大きかった理由も同時に明らかになる。


「だよな。身体が大きくなれば当然のように羽根も大きくなって、聞こえてくる羽音も大きくなるか」


 レイの視線の先から姿を表したのは、蜂だ。

 それも姿そのものはオオスズメバチと似ている――勿論多少の差異はある――のだが、問題はその大きさだった。

 レイが呟いたように、明らかに普通のオオスズメバチとは違う。

 オオスズメバチはその名前の通り、かなり大きめの蜂で体長が三cmから四cm程もある。

 それだけでも蜂としては非常に大きいのだが、レイ達の前に姿を現した蜂は、その十倍以上、五十cm近い身体をしている。

 そんな巨大な蜂が三十匹以上も空を飛びながら姿を現したのだから、普通に考えて驚異以外のなにものでもない。


「うわぁ……」


 思わずレイの口からもそんな声が漏れる。

 これでやって来たのが一匹や二匹なら、レイも特に気にすることはなく戦闘に突入しただろう。

 だが、これだけの数が襲ってきたとなると、レイとしてもうんざりとした思いを抱かない訳にはいかない。


「グルルルゥ!」


 そんなレイとは違い、セトは自分達の前に姿を現した蜂に向かって、威嚇の声を上げる。

 そんなセトの威嚇に、蜂の群れも脅威を感じたのか動きを止め……


「グルルルルルルルゥ!」


 そうして動きを止めた蜂の群れを前に、セトは先手必勝とバブルブレスを放つ。

 本来なら、セトも一撃で相手を倒せるだろうアイスアローを放ちたかった。

 だが、アイスアローは生み出すのに多少の時間が掛かり、そして生み出してから放つのにも多少だが時間が掛かる。

 セトはそれを嫌い、即座に効果を発揮するバブルブレスを放ったのだ。

 即座に効果が発揮するとなると、それこそ衝撃の魔眼というスキルもある。

 だが、衝撃の魔眼は発動こそ早いものの、威力は足りない。

 ましてや、一度に攻撃出来る相手はそう多くはなかった。

 それに比べると、バブルブレスは一cmから三cm程の泡を無数に吐き出すというブレスで、その泡が何かに触れて破裂すると、それは粘着力のある液体となる。

 結果として、十匹近い蜂がバブルブレスの泡によって羽根を動かせなくなり、地面に落下した。


「ナイス、セト!」


 そう言い、レイは黄昏の槍を地面に突き刺し、ミスティリングから以前まではよく使っていた使い捨て用の刃が欠けていたり、穂先が外れそうになったりするような槍を取り出すと、地面に落ちた蜂に向かって投擲する。

 何故わざわざ黄昏の槍ではなく使い捨ての槍を用意したのかと言われれば、レイはバブルブレスの粘着質の液体や蜂の体液によって黄昏の槍を汚したくないからと答えただろう。

 実際、バブルブレスの泡が破裂したことによって生まれた粘着質の液体は、武器に付着させたいとは思わない。

 そういう意味では、レイの反応は決して間違っていなかったのだろう。

 槍の数だけ蜂が死ぬ。

 だが、当然蜂の方も黙ってやられてばかりではない。

 ブレスにはブレスと、残りの空中に浮かんでいた蜂から一斉にブレスが放たれたのだ。


「蜂がブレス!?」


 レイにとっても、その行動は意外だった。

 とはいえ、ここは魔の森だ。

 そのような場所に生息している蜂のモンスターである以上、ブレスを使えるといった状態になってもおかしくはない。

 また、蜂の放ったブレスはそこまで威力は高くない。

 ……ただし、そのブレスは強酸か何かのいわゆるアシッドブレスらしく、ブレスの触れた植物は溶けてしまう。

 それでも溶ける植物は地面から生えている草の類だけで、魔の森に生えている木々はアシッドブレスが付着しても特に被害を受けたりといった様子はない辺り、アシッドブレスの威力そのものはそこまで強力という訳ではないのだろう。

 もっとも、女王蜂でも何でもない、ただの働き蜂がそれぞれアシッドブレスを放てるという時点で脅威なのだが。


「セト、大丈夫か!?」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは大丈夫! と喉を鳴らし……アシッドブレスに対する反撃だと、アイスアローを生み出す。

 先程は発射するのに若干の時間が掛かるのでバブルブレスを使ったのだが、今はそのようなリスクを負ってでも、残っている蜂を倒した方がいいと判断したのだろう。

 勿論、レイもそんなセトの行動をただ黙って見ていた訳ではない。

 地面に落ちた蜂を倒した時のように、次々と槍を取り出しては投擲していく。

 レイの腕力によって投擲される槍は、本来なら魔の森に棲息する蜂を貫くといった真似は難しいだろう。

 何しろ、そのどれもがもう使い物にならないと判断され、一種のゴミ扱いされていたような槍なのだから。

 だが、そんな槍であってもレイが投擲するとなれば、話は変わってくる。

 蜂の身体を貫き、頭部を砕き、羽根を引き千切り……多数の蜂の命を奪い、もしくは飛べないようにして地面に落下させていく。

 そんなレイの攻撃は強力で、蜂はレイとセトのどちらを攻撃したらいいのかと迷い……だが、その迷いが蜂にとっては最悪の結果をもたらす。

 五十本の氷の矢が一斉に発射され、生き残っていた蜂の全てが身体を氷の矢によって貫かれ、絶命する。

 そうして、戦いそのものは相手の数と凶悪さを考えても驚く程に短い時間で終わった。


「とはいえ、この巨大な蜂は結局のところ働き蜂だ。この調子でまた襲われると厄介だし、出来れば今のうちに女王蜂も倒しておきたいな。……そうなると、巣を見つける必要があるけど」


 体長五十cmの蜂の巣ともなれば、それは一体どれだけの大きさになるのか。

 日本にいた時、TV番組で蜂の巣を駆除するといったのを何度か見たことがあった。

 特に農業の類を積極的に行うアイドルグループが行うスズメバチの駆除は、レイにとっては印象的だった。

 そんなアイドルグループが駆除したスズメバチの巣は、かなり巨大だった。

 普通のスズメバチですら、それだけの大きさの巣を作るのだ。

 だとすれば、体長が普通のスズメバチの十倍以上……それどころか二十倍近い蜂のモンスターが作る巣は、一体どれだけの大きさなのか。

 それこそ、下手をすればレイが現在拠点としている隠れ家と同じような大きさであっても、おかしくはないだろう。


(そのくらいの大きさの巣なら、見つけるのは簡単だろうし……それどころか、他のモンスターに襲撃されてもおかしくはないけど)


 この森に生えている木は大きいことは大きいのだが、それでも魔の森という名前に相応しいくらいに巨大なのかと言えば、その答えは否だ。

 そうである以上、本当に隠れ家程に巨大な巣があるのなら、セトに乗って上空から探せばすぐに見つけられるかもしれない。

 とはいえ、ヒポグリフの件や……それこそ蜂やトンボの件もあるように、空を飛ぶモンスターというのはこの魔の森には多い。

 もしセトが空を飛んだりすれば、魔の森上空を生息域にしているモンスターはすぐに襲ってきてもおかしくはなかった。

 多くの魔石を入手するという意味では、それもいいのかもしれないが、空を飛んでそこら中から一気に襲撃されるというのは、レイを背中に乗せたセトにしてみれば攻撃に対処するのは難しいだろう。


(となると……地上からだな)


 決断すると、レイは三十匹程の蜂をミスティリングに収納していく。

 最後に残った二匹の蜂からは、ナイフを使って魔石を取り出すと流水の短剣の水で洗ってから、まずはデスサイズの分と、空中に放り投げてデスサイズで切断する。


【デスサイズは『ペインバースト Lv.四』のスキルを習得した】


 いつものアナウンスメッセージが脳裏に響く。

 ペインバーストは、その性格上実際に誰かに使ってみないと具体的な効果は分からない。

 しょうがないと判断し、残った魔石をセトに渡し……


【セトは『アシッドブレス Lv.一』のスキルを習得した】


 そんなアナウンスメッセージが脳裏に響く。

 蜂の使っていたブレスだけに、レイも特に疑問に思うことなく、納得するのだった。

【セト】

『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.三』『毒の爪 Lv.六』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.二』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.四』『バブルブレス Lv.一』『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.一』new


【デスサイズ】

『腐食 Lv.五』『飛斬 Lv.五』『マジックシールド Lv.一』『パワースラッシュ Lv.三』『風の手 Lv.四』『地形操作 Lv.五』『ペインバースト Lv.四』new『ペネトレイト Lv.三』『多連斬 Lv.四』『氷雪斬 Lv.三』『飛針 Lv.一』



ペインバースト:スキルを発動してデスサイズで斬りつけた際、敵に与える痛みが大きくなる。レベル二で四倍、レベル三で八倍、レベル四で十六倍。


アシッドブレス:酸性の液体のブレス。レベル一では触れた植物が半ば溶けてしまう程度の威力。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 腐食じゃないのか…
[一言] ペインバーストのLV4が16倍の痛みって… そんなの人間相手に使ったら、余裕で死んでしまうw 女性を巨人の苗床にしてた奴らに使ってやりたいけど、加減できないのが惜しいなぁw一発で逝かせたらも…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] スキル獲得おめでとうございます! でもアジットブレスの使い勝手悪過ぎで草を通り越して木が生えそうです。
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