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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2528/3865

2528話

 どさり、と。そのモンスターは大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。

 その時の音が、相手の体重がどれだけのものなのかを示している。


「ウォーターベアか。まさか、ここで再び遭遇するとは思わなかったな。いやまぁ、以前に遭遇した場所なんだから、再び同じモンスターが現れてもおかしくはないんだろうが」

「グルゥ」


 パワーアタックを使って体当たりを行い、ウォーターベアのバランスを崩すといったことで相手に決定的な隙を作ったセトが、レイの言葉に同意するように喉を鳴らす。

 ウォーターベアはかなりの体重を持つ。

 しかし、セトのパワーアタックを使われては、それに耐えるといったことは不可能だった。

 レイにしてみれば、そうしてバランスを崩した敵を攻撃するのは難しい話ではない。

 結果として、デスサイズによって身体を斬られ、黄昏の槍によって喉を貫かれたウォーターベアは、あっさりと死んだ。

 そんなウォーターベアの死体から魔石を剥ぎ取ると、死体をミスティリングに収納する。


「ともあれ、ランクCモンスターでそれなりに強いしな。……この魔石は俺だな」


 魔の森から出る時に遭遇したウォーターベアの魔石は、セトに使った。

 それによって水球を習得した以上、もうセトがウォーターベアの魔石を使ってもスキルを習得したり強化したりといったようなことはない。

 そうである以上、ウォーターベアの魔石はデスサイズに使わせる必要があった。

 セトも水球を習得した時の事は覚えているのか、魔石を自分ではなくデスサイズに使わせると言っても、それに不満そうな色はない。

 もっとも、魔の森に入ってから短時間で、既に光学迷彩のレベルアップやパワーアタックというスキルを習得しているのだから、それに不満を持ったりしないのは当然だろう。

 ……実際には光学迷彩のレベルアップはともかく、パワーアタックは魔の森の外で倒した牛のモンスターの魔石なのだが。


「さて、そんな訳で……一体どんなスキルが習得出来るのか」


 呟き、魔石を空中に放り投げると、デスサイズで一閃。


【デスサイズは『氷雪斬 Lv.二』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージは、レイにとって納得出来るものだった。


「水系のスキルとなると、当然か。……当然か? いやまぁ、スキルが強化されたのは喜ぶべきことだけど」


 納得出来るような、出来ないような……そんな微妙なことを考えつつ、取りあえずどういう風に強化されたのかと試してみることにする。


「氷雪斬」


 スキルを発動すると、デスサイズの刃が氷に覆われる。

 レイが見た感じでは、レベル一の時に比べると刃の部分を覆っている氷がより大きくなっているように思えた。

 それを見て、レベルアップに納得する。

 本来ならもっと大きな違いを見た目で判断出来れば嬉しかったのだが、レベルが一から二に上がっただけだと考えると、このくらいでも仕方がないかと、そう納得せざるをえない。


「元々俺が水系や氷系の攻撃を使えるだけで運がいいしな」


 レイは魔法使いとしては桁違いの魔力を持っており、新たな魔法も感覚だけで生み出すことが出来るという、突出した才能を持っている。

 しかし、その代償のように炎の属性に特化した存在になっている。

 勿論、他の属性が全く使えないという訳ではなく、桁違いの魔力を大量に消費することで、無理矢理他の属性の魔法を炎の魔法に組み込んで使うといった真似は可能だ。

 ただし、それでも炎と反対の属性を持つ水や氷といったような魔法は、使うことが出来ない。

 そのいい例が、レイの持つ流水の短剣だろう。

 魔法という訳ではないが、マジックアイテムである以上は魔力を消費して使用することもあり、腕利きの者が使えば水の鞭や水の刃として使うことが出来る流水の短剣だが、レイが使うと水を垂れ流すといったようなことしか出来ない。

 もっとも、その水はレイの魔力によって非常に美味な水となっており、天上の甘露とも呼ぶべき美味さを持つのだが。

 そういう意味で、氷系の攻撃が出来る氷雪斬というスキルは、レイにとってもありがたかった。


「もっと氷とか水を使うモンスターが出て来て欲しいな。出来ればレベル五まで上げたいんだが」

「グルゥ……グルルルルゥ」


 レイを励ますように鳴き声を上げるセト。

 これまでの経験から、スキルはレベル五になれば飛躍的に強化される。

 おまけに、その強化された状態から更にレベルを上げると、その強化幅はレベル五になるまでよりも明らかに上なのだ。

 セトの光学迷彩がレベル六になったら効果時間が百秒増えたのがいい例だろう。

 レベル四までは、レベルが一上がると効果時間は十秒増えた。

 つまり、レベル五から六に上がった時は、今までよりも十倍も強化されたということになる。


「まずは、進むか」


 デスサイズを軽く振って氷雪斬を解除すると、レイはセトと共に魔の森を進む。

 魔の森に入ってからそれなりに時間が経っているが、未だにゼパイル一門の隠れ家には到着しない。

 そもそもレイとセトは方向音痴気味で、空を飛ぶのではなく魔の森の中を歩いているのだ。

 そして魔の森の広大さを考えれば、隠れ家に到着するのに時間が掛かるのも当然だろう。


「まだ昼まで結構な時間があるんだ。ゆっくりと探していけば、やがて隠れ家を見つけることも出来るだろ。やっぱり一泊して朝に魔の森に入ったのは正解だったな」


 本来なら、ザカットの案内で昨日の夕方くらいには魔の森に到着予定だった。

 だが、二泊三日という縛りのあるレイとしては、出来るだけ長時間魔の森にいたい為に、わざわざ余計に一泊して時間を調整したのだ。

 その判断は間違っていなかった。

 そう自画自賛しながら、レイはセトと共に魔の森を進む。

 そうして進み続け……レイの隣を歩いていたセトが不意に足を止めたのを見たレイは、それに習うように足を止めた。


「次はどんなモンスターだ? そろそろ、ランクAモンスターが一匹程度は現れて欲しいんだけどな」

「グギャアアアアア!」


 そんなレイの言葉に反応した訳ではないのだろうが、モンスターが雄叫びを上げながら姿を現す。

 ……正確には、モンスターではなくモンスター達がだ。

 今までは運よく一匹での襲撃だった。

 しかし、考えてみればレイがこの魔の森から逃げ出す時にも、一匹だけのモンスターではなく集団で行動するモンスターもいたのだから、このような展開は予想して然るべきだろう。


「蜥蜴のモンスターだ! セト!」


 茂みを突き破るようにして姿を現したのは、蜥蜴のモンスター。

 ただし、蜥蜴とはいえ体高一m近くあり、口から尻尾までは二m半ば程もあるという、かなり巨大な蜥蜴のモンスターだ。

 そんな蜥蜴のモンスターが、十匹近く一斉に襲ってきたのだ。


「グルルルルルルルルルルルルルルルルゥ!」


 茂みから出て来た蜥蜴の群れとレイの間合いが詰められたところで、セトが大きく鳴き声を上げる。

 王の威圧。

 セトの持つスキルの中でも、声を聞いた敵の全てに効果を与えるという、非常に強力なスキルだ。

 その効果はまともに発揮されれば、その場から動けなくなる。

 実際、蜥蜴の半分以上は王の威圧によって強制的に動きを止められ、走ってきた勢いのままで転び、地面を削っていく。

 そして何とか王の威圧に抵抗した蜥蜴も、見て分かる程にその動きは鈍る。


「セト、まずは動いている奴からだ!」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは即座に反応し、自分に向かってくる蜥蜴に突っ込んでいく。

 王の威圧の抵抗に成功した個体は動きが鈍くなっているものの、いつまでもそのままという訳ではない。

 個体差こそあるが、ある程度の時間が経過すれば王の威圧の効果からは抜けてしまう。

 動きの止まっている個体もいずれは王の威圧の効果が解除されるが、それでも抵抗に成功した個体よりは時間が掛かる。

 だからこそ、今はまず動きの遅くなった方を攻撃するのが優先だった。


「氷雪斬!」


 折角なので、レイは先程習得したばかりのスキルを試す。

 相手はもう殆ど動けなくなっているので、わざわざスキルを使う必要はないのかもしれないが、相手が蜥蜴ということで、もしかしたら寒さに弱いのではないか。

 そんな思いがあったことも事実だ。

 どうせなので、強化されたスキルを使ってみたいという思いがあったのも事実だが。


「はぁっ!」


 デスサイズの刃が氷に包まれたのを確認してから、レイはデスサイズを振るう。

 地面から掬い上げるように放たれたその一撃は、あっさりと動きの遅くなった蜥蜴の身体を左右二つに切断する。

 蜥蜴も、本来なら素早い動きでデスサイズの攻撃を回避するといったようなことが出来たのかもしれないが、王の威圧の効果でそんな動きは出来ない。

 結果として、氷でコーティングされた刃は次々と一方的に蜥蜴を斬り裂いていく。


(それにしても、以前と比べて斬れ味が上がっているか? まぁ、レベルが上がったんだから、その辺は当然だろうけど)


 氷雪斬のレベルが二になったことで、デスサイズの刃を覆っている氷は以前よりも大きくなっている。

 最初はそれだけかと思ったのだが、蜥蜴を斬り裂いていく感触から考えると、その威力も上昇しているように思えた。

 しかし、それはレイが実感しているように、レベルが上がったことを考えれば当然なのかもしれないが。


「グルルルルゥ!」


 レイから少し離れた場所では、当然ながらセトもまた蜥蜴に向かって前足の一撃を放って吹き飛ばしている光景がある。

 蜥蜴もその辺の武器は通さないような鱗を持っているのだが、セトの一撃は非常に強力だ。

 それこそ、鱗があっても生身とどう違う? といったような、非常に強力な一撃。

 その一撃によって、蜥蜴は次々と吹き飛ばされ……その上で木の幹にぶつかり、それがまた大きな一撃として蜥蜴にダメージを与える。

 そんな連続した攻撃を行っていった結果、気が付けば数分と経たずに蜥蜴は全てが死んでいた。

 蜥蜴にしてみれば、王の威圧の効果によってろくに動くことも出来ないままの状態で一方的に殺されたのだから、もし蜥蜴が喋ることが出来れば、それはないだろうと叫んでいたかもしれないが。


「さて、問題なのは、この蜥蜴が他にいないかってことだが……セト。どう思う?」

「……グルルルゥ?」


 レイの言葉に、本当に蜥蜴を全部倒したのかどうかを確認しているセトは、少し迷った様子で喉を鳴らす。

 いつもなら、すぐに周囲の様子を確認出来るセトだったが、蜥蜴との戦いの影響もあってか周囲の様子を確認することは出来ないらしい。

 あるいは、魔の森というだけあって何らかの魔力か何かが邪魔をしているのか。


(魔の森だからと言われれば、すぐに納得してしまいそうになるんだよな)


 今までは一匹ずつの攻撃だった以上、集団で襲い掛かって来た蜥蜴の件は、何か今までと変わるのではないかと思ったのだ。

 周囲の様子を確認しつつ、次にレイは蜥蜴の死体をミスティリングに収納していく。

 残り二匹を残し、全てを収納する。

 そして、残り二匹の死体からナイフで魔石を取り出す。


「これ、討伐証明部位ってどこなんだろうな。まぁ、その辺は死体をギルドに持っていけば、向こうで判別してくれるんだろうけど」


 レイは蜥蜴の死体のどの部位が討伐証明部位になるのか、もしくは素材となるのかは分からない。

 そうである以上、やはり他のモンスターと同様に死体をそのまま持っていくのが最善だった。


「とはいえ、これだけ数があるんだし、肉は使ってもいいか。蜥蜴の肉って結構美味いらしいし」


 日本にいた時は、当然だが蜥蜴の肉を食べたことはなかった。

 だが、漫画とかではそれなりに使われるネタでもあったので、エルジィンに来てからも食べる機会があっても、特に忌避感なく食べることが出来たのだろう。

 そんな経験から、恐らく美味いだろうと判断して、今日の夕食はこの肉にしようと決める。

 牛のモンスターの肉もまだ結構な数が残っているのは事実だし、かなりランク以上に美味い肉ではあった。

 だが、それでも今は蜥蜴の肉の方に興味を抱いているのは間違いない。


「さて、そんな訳で……まずは魔石だな。セトから行くか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトが頷く。

 そんなセトに魔石を飲み込ませると……


【セトは『毒の爪 Lv.六』のスキルを習得した】


 脳裏に響く、アナウンスメッセージ。


「なるほど、毒か。……多分、この蜥蜴達は爪に毒があったんだろうな。肉を食べて大丈夫か? ……大丈夫か」


 ゼパイル謹製の身体を持つレイと、グリフォンのセトだ。

 多少の毒など問題はないだろうし、恐らく毒を持っているのは爪か牙……習得したスキルから考えると、恐らく爪だったのだろうと考える。

 そして、レイはデスサイズにも……と、魔石を放り投げ、デスサイズで切断する。


【デスサイズは『多連斬 Lv.四』のスキルを習得した】


 そんなアナウンスメッセージが脳裏に流れるのだった。

【セト】

『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.四』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.三』『毒の爪 Lv.六』new『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.三』『アイスアロー Lv.四』『光学迷彩 Lv.六』『衝撃の魔眼 Lv.二』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.四』『バブルブレス Lv.一』『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.一』


【デスサイズ】

『腐食 Lv.五』『飛斬 Lv.五』『マジックシールド Lv.一』『パワースラッシュ Lv.三』『風の手 Lv.四』『地形操作 Lv.五』『ペインバースト Lv.三』『ペネトレイト Lv.三』『多連斬 Lv.四』new『氷雪斬 Lv.二』new『飛針 Lv.一』


毒の爪:爪から毒を分泌し、爪を使って傷つけた相手に毒を与える。毒の強さはLvによって変わる。


多連斬:一度の攻撃で複数の攻撃が可能となる。レベル二では本来の攻撃の他に二つの斬撃が追加される。レベル三では他に三つ、レベル四では他に四つ。


氷雪斬:デスサイズに刃が氷で覆われ、斬撃に氷属性のダメージが付加される。また、刃が氷に覆われたことにより、本当に若干ではあるが攻撃の間合いが伸びる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒の爪ってレベル六と高レベルだけど、あんまり使わないよね。 普通の敵だと、パワークラッシュで一撃だし。
[一言] 面白い
2021/01/08 13:04 退会済み
管理
[気になる点] 蜥蜴は鳴かない。ゴジラやマンガのイメージかな。 そもそも獲物を狙うときに叫びながら襲うバカな動物はいない。 泣き叫びながらかかっていくのは人間の子供だけ。
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