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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2520/3865

2520話

 ザカットとの会話は、レイにとってもそれなりに面白いものだった。

 元々レイは人との付き合い方が決して上手い訳ではない。

 アンテルムのような件はそもそも論外だったが、冒険者の中には自分の実力を示す為か、最初から自分が上だとマウントを取ろうとする者も多かった。

 当然だが、レイはそんな相手をまともに相手をしたりといったようなことはせず、相手がそうならと同じような感じで返す。

 そういう意味で、ザカットという人物は普通にレイと接するという人当たりのよさがあった。

 ランクA以上の冒険者の中には、色々と尖った性格の持ち主も多い。

 そういう意味では、ザカットをレイの案内としてつけたワーカーの判断は何も間違っていなかったのだろう。


「おや、どうやら盛り上がっていたようですね。もう少し遅く来た方がよかったでしょうか?」


 部屋の中に入ってきたワーカーが、焼きうどんについて盛り上がっていたレイとザカットの様子を見て、そう告げる。

 レイがこの部屋に入ってから、既に三十分近くがすぎている。

 レノラに呼ばれたワーカーだったが、どうしても先に処理をしておかなければならない書類が、何故か今日に限って纏まってやってきたので、その書類を処理してから急いでここに来たのだが、幸いにもレイやザカットが怒っているといった様子がないことに安堵した。


「ギルドマスター。いや、レイの評判は色々と聞いていたんだが、話してみると面白い。特に料理に対する知識は素晴らしいものがある。そもそも、うどんを開発したのがレイだと聞いた時は、感謝したくなった程だ」


 ザカットも、レイ程ではないにしろ食事を楽しむ性格をしている。

 そんなザカットにとって、近年で一番驚いたのはうどん……それも焼きうどんだった。

 ザカットにしてみれば、焼きうどんというのは全く想像もしなかった食べ物だったのだろう。

 そういう意味で、うどんをレイが考えた……正確にはレイが小さい頃に書物で読んだ料理を再現したということになっているのだが、そのことを知ってレイに感謝したのだ。


「なるほど。そう言えばそんな話もありましたね。ともあれ、大丈夫だとは思いましたが、お互いの相性がいいようで何よりです。これなら、魔の森までの移動で特に問題が起こるようなこともなさそうですね」


 元々ワーカーも、レイと気が合うだろうと……最低でも揉めないだろうという相手としてザカットを選んだので、そういう意味では見事に予想が当たった形だ。


「そうだな。ザカットが相手なら俺も問題ないと思う。魔の森までどのくらい掛かるのかは分からないけど、それなりの時間一緒に行動するんだし」


 そんなレイの言葉に、ワーカーは頷く。

 ザカットは、ワーカーにとっても非常に頼りになる冒険者だ。

 実力もそうだが、それ以上に常識的な行動を取るということで。


「では、お互いの相性は問題ないとして、早速本題に入ります」


 ワーカーとしては、レイの件は出来るだけ早く終わらせて自分の仕事に戻りたいという思いがあった。

 緊急性の高い書類については処理したが、こうして話している今も時間が経つに連れて書類は溜まっていくのだから。


「まず、昇格試験についてはレイが魔の森に二泊三日して、ランクAモンスターを最低二匹倒すこと。ちなみにこの倒したモンスターに関しては、証拠として検分するので死体は出来るだけそのまま持ってきて下さい」


 これは、レイがミスティリングを持っているからこそ出せた条件だろう。

 もしレイがミスティリングを持っていない場合は、討伐証明部位を持ってくるといったことにしていた筈だ。

 もっとも、立ち入りを禁止された魔の森のランクAモンスターだ。

 存在そのものが知られていないランクAモンスターがどれだけいてもおかしくはないし、そのようなモンスターの場合はどこが討伐証明部位なのかということも考えるのが難しいだろうが。


「分かった。……ちなみに、そのランクAモンスターの死体の所有権は俺にあるということでいいんだよな?」


 魔石、素材、何よりも肉。

 ランクAモンスターともなれば、それらはどれもがレイにとって非常に有用なものとなる。

 もしこれで、ランクAモンスターの死体は昇格試験で倒されたものだから、所有権はギルドにあるなどと言われれば、間違いなくレイも我慢は出来なかっただろう。

 しかし、ワーカーは当然のようにレイの言葉に頷く。


「ええ。ギルドの方で一通り調べたら、返却する予定です。今は皆が忙しいですが、ランクAモンスターともなれば、喜んで調べるでしょう」


 ワーカーの口から出た言葉は、大袈裟でも何でもなく真実だ。

 ギルドとして、未知のモンスター……もしくは既知のモンスターであっても、ランクAモンスターの詳しい情報は是非とも欲しいものなのだから。

 ましてや、ここはギルムという辺境にある街だ。

 辺境のモンスターというのは、非常に珍しいことで知られている。

 そしてこのギルムで得られたランクAモンスターの情報は、冒険者ギルド全体に広まり、それによってどこかのギルドに所属する冒険者が得られた情報で死なずにすむのだ。

 そういう意味で、ランクAモンスターという滅多に得られない高ランクモンスターの死体というのは、非常に重要だった。


「死体の所有権があるのなら、ギルドの方で調べるというのは構わない。それで、例のマジックアイテムは?」

「これです。なくさないで下さいね」


 レイの言葉に、ワーカーは懐から小さな宝石を取り出す。

 勿論それはただの宝石ではなく、所有者の位置が分かるという発信器やGPS的な機能を持つ宝石だ。

 その宝石を袋に入れ、ワーカーはレイに向かって差し出す。


「この宝石は必ずレイが身につけていて下さい。このマジックアイテムでレイがどこにいるのかが分かるようになっています。到着してから二泊三日が経つよりも前に魔の森を出た場合、昇格試験は失格となりますので注意して下さい」

「分かった。……ちなみに、本当にちなみにの話だが、もし俺が魔の森でモンスターに殺されるようなことがあった場合、このマジックアイテムはどうなるんだ? かなり貴重なマジックアイテムなんだろ?」

「そうですね。その場合は、高ランク冒険者を派遣することになるでしょう。ザカットのように」

「俺かよ? ……言っておくが、俺は魔の森に入るなんてことは絶対にごめんだぞ。いいか、そうである以上は、絶対にレイには昇格試験に合格して貰う必要があるんだ。いいな? 絶対だぞ?」


 本当に心の底から魔の森に入るのが嫌なのか、ザカットはレイにそう言ってくる。


(この嫌がりように、魔の森の場所を知っているのを考えると、もしかして以前魔の森に入ったことがあるのか? それで散々な目に遭ったとか?)


 恐らくはそうだろうという予想がレイの中にはあったが、こうして見た限りでは本当にそうなのかは分からない。

 とはいえ、その件について突っ込むような真似はしない方がいいだろうというのが、レイの考えだった。


「分かった。勿論、俺は今回の昇格試験に受かるつもりだし、魔の森で死ぬつもりもない。それどころか、三匹、四匹、五匹といったように魔の森でランクAモンスターを倒してみせる」


 そう告げるレイの言葉は、自分が絶対に生き残るという自信に満ちていた。

 そう言うだけであれば、誰でも出来るだろう。

 だが、レイの場合はそんな言葉であっても強い説得力を持つ。

 実際、ザカットはそんなレイの言葉を聞いて安心している自分に気が付く。

 魔の森の恐怖を知っているザカットが、だ。

 ワーカーはギルドマスターとしてレイの実力をザカット以上に知っている。

 その為、レイがそう言うのならということで、その言葉を信じることが出来た。


「では、このマジックアイテムが魔の森でなくなるということは、まず心配しなくてもよさそうですね」

「そうだな。俺が聞いておいてなんだけど、無意味な心配をさせてしまったみたいだな。ともあれ、この宝石は肌身離さず持っておくことにする。……ちなみに、本当にちなみにの話だが、ミスティリングの中に収納しておくとかは駄目なのか?」


 そう言ったのは、袋に入っている宝石をレイが持っていても、戦闘中に激しい動きをした時に落としてしまう可能性があると思ったからだ。

 ワーカーが言うように、そこまで大事なマジックアイテムであるのなら、絶対になくさないようミスティリングに収納しておけばいいのではないか。

 そう思っての言葉だったのだが、ワーカーは少し難しそうな表情を浮かべる。


「少し難しい気がしますが……試してみますか。ミスティリングに収納して下さい」


 そう言われ、レイは袋をミスティリングに収納する。

 それを確認してから、ワーカーは目を閉じる。

 一体何を? と思ったが、今までの流れから考えれば難しい話ではない。

 恐らくはレイがミスティリングに収納したマジックアイテムについて調べているのだろうという事は容易に想像出来る。

 ワーカーが、どこにレイがミスティリングに収納したマジックアイテムと対になるマジックアイテムを持っているのかは分からなかったが。

 やがて十秒程が経過すると、ワーカーが閉じていた目を開いて首を横に振る。


「残念ですが、ミスティリングに収納していると反応を検知出来ませんね。そちらの宝石は、ローブの中に入れておくかどうかして、持っていて下さい」

「そうか」


 残念ではあったが、レイはそこまで落ち込んだ様子はない。

 ミスティリングに収納すれば、基本的に時間の流れはないのだ。

 であれば、宝石がワーカーに察知されなくてもおかしくはない。


(懐中時計とかも、ミスティリングの中にある間は動いてないしな。そういう意味では、宝石が効果を発揮しないのは当然か)


 レイが持つ懐中時計であれば、ミスティリングから取り出してレイが使おうとした時に、自動的に時間が調整される。

 であれば、宝石も同様にミスティリングから取り出した後にその効果を発揮することになってもおかしくはない。


「そんな訳で、宝石の件はこれでいいですね? では、私はそろそろ仕事に戻る必要があるので、残りはザカットに任せても?」

「ああ、構わない。……しかし、そっちも大変だな」


 しみじみと、ワーカーを気遣う視線を向けるザカット。

 ザカットは、ランクA冒険者としては常識的な性格をしている。

 そうである以上、ワーカーが現在は仕事で非常に大変だというのが理解出来たので、気遣う言葉を掛けたのだろう。

 もっとも、気遣う言葉を掛けたからといって、それ以上のことは特に何かするつもりがなかったのは間違いなかった。


「そうですね。ですが、この忙しさももう少し時間が経てば落ち着きますから」


 この場合の時間が経てば落ち着くというのは、後何日かすれば……といったような時間ではなく、それこそ季節が秋になればだろう。

 実際に秋になれば、仕事が落ち着くのは間違いない。

 冬になる前に一通りのところまで目処を立てて、そこまで仕事をしたら雪が降る前に自分の故郷に戻るといった者も多く出て来るのだから。

 とはいえ、晩秋から冬に掛けてとなればなったで、ガメリオンの討伐――正確には狩り――だったり、ギガント・タートルの解体だったりと、色々とやるべき仕事が多くなり、そちらで忙しくなるのは間違いないのだが……それでも、今よりは忙しくないのは間違いないだろう。


「じゃあ、レイはこっちに任せてくれ」


 そう言うザカットに、ワーカーは頷き……そして最後にレイに視線を向ける。


「ランクAへの昇格試験、合格を祈っています」


 その言葉を最後に、部屋を出ていくワーカー。

 レイとザカットはその背を見送ってから、早速話に入る。

 とはいえ、やるべきことは最初から決まっている。

 魔の森に向かうだけなのだから。


「ザカットはどうやって移動するんだ? 知ってると思うけど、俺はセトに乗って移動する。……これが普通の時なら、ザカットも一緒に乗せて移動してもいいんだけど、今の状況はそんな真似は出来ないしな」

「そうなるな。魔の森に向かう時はよくても、魔の森から戻ってくる時に困るだろうし」


 セトもレイと一緒に魔の森の中に入る必要がある以上、当然ザカットはレイを魔の森まで案内した後は、自分だけでギルムまで戻ってくる必要がある。

 その時、セトに乗って移動したとなると帰りは当然だが徒歩となってしまう。

 ザカットにとっては徒歩で魔の森からギルムまで進むのは特に問題ないのだが、それでも好んでそのような真似をしたくはない。

 そういう訳で、ザカットはギルドから用意されている馬……それもセトと一緒に行動しても問題ない馬を用意して貰っていると、そう告げるのだった。

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