表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2512/3865

2512話

 体長三mオーバーのセトが姿を現したことにより、当然のように騒動が起きた。

 中にはレイ達を盗賊の仲間で、もう街の中に入っていたのかといったように叫ぶ者もいたが、レイは特に気にする様子はなくその場の代表と思われる五十代程の男の兵士にギルドカードを見せる。

 そしてギルドカードを見せられた兵士は、目の前にいる少年が深紅の異名を持つ冒険者だと知ると、すぐにその場にいた者達にレイは冒険者だと宣言し、そして依頼したいと言ってきた。


「深紅のレイ。まさか、こんな時に異名持ちの冒険者がいるとは思わなかった。……そもそも、グリフォンに乗ってる時点で気が付くべきだったな」

「この状況だとしょうがない。こっちは気にしてないから、そっちも気にするな」

「助かる。それで依頼だが……」

「分かってる。街に向かっている盗賊の殲滅だろ?」

「……いや、街を守って欲しいと言うつもりだったんだが……勿論、盗賊を倒してくれればこちらとしても問題はない。だが、異名持ちの冒険者に渡せる程の報酬を用意するのはむずかしい」


 普通に考えれば、異名持ちの冒険者を雇うとなるとかなり高額になる。

 異名持ちというのは、それだけ特別な存在なのだ。

 レイはその辺りを全く気にしないが、もしレイを雇う場合、異名持ちだということでランクB冒険者でありながら、平均的なランクA冒険者よりも報酬は高額になるだろう。

 この街は平均的な街で、そこそこの蓄えはあるが、それでもレイを雇えるだけの金額をすぐに用意出来るかと言われれば、微妙なところだろう。

 これで何らかの特産品の類でもあれば、別だったのだろうが。

 レイと交渉している兵士は、レイの横に立っているヴィヘラの美貌や肢体に目を奪われないよう、必死に自制心を発揮しながら、レイとの交渉を行う。

 何とかしてレイに依頼を受けて貰う必要がある。それも、依頼料は出来るだけ安く。

 そう思っていたのだが……


「依頼料は、そうだな。小麦粉が入った袋を五袋。それでどうだ?」

「……は? 小麦粉?」


 レイの口から出た言葉は、兵士にとっても……そして周囲で交渉の様子を窺っていた者達にとっても完全に予想外だったのだろう。

 一瞬何を言われたのかが分からず、数秒の沈黙の後に聞き間違いじゃなかったのか? といった様子で尋ねてくる。


「そうだ。この辺りは小麦粉がそれなりに有名なんだろ?」

「いや、それはまぁ、そうだが……それでも特筆するくらいって訳じゃないぞ? うちの小麦粉というか小麦の品質には自信を持っているが、それでも同じくらいの品質の小麦を生産して小麦粉として売ってる場所は幾らでもある」


 自分達が作っている小麦の品質に自信はあるが、特産品とまではいかない。

 そう言う警備兵に、レイはそれでも構わないと頷く。


「小麦粉を使った料理は色々とあるからな。それに、金なら盗賊が持っているお宝を奪えばいいし、生け捕りにした盗賊はこの街の奴隷商に買い取って貰う。そうすれば、金に関しては全く気にする必要はない。どうだ? そっちにとっても悪い話じゃないと思うが」


 尋ねるレイに、警備兵は勿論と頷く。

 街にとって悪い話どころではなく、寧ろ自分達にとって明らかにメリットが多すぎた。

 盗賊が持っているお宝を没収出来ないのは残念だったが、盗賊の討伐をしなくてもいいとなれば、元々なかった金である以上は諦めるのも簡単だ。

 それどころか、奴隷として盗賊達を売ってくれるというのだから、総合的に見れば街にとっては明らかにプラスの取引だ。

 それこそ、小麦粉の袋を五袋渡したところで、圧倒的に利益の方が多いだろう。


「何故そこまで?」

「理由は色々とある。俺達はこの街にポーションを買いに来たんだが、街の住人に親切にして貰ったというのもあるしな。それにこの街の子供達はセトを見ても怖がったりしなかった」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトはその通りと鳴き声を上げる。

 周囲にいた人々はそんなセトの様子に驚き、数歩後退る者もいた。

 だが、子供達が怖がらなかったと言われれば、自分達が怖がる訳にはいかないと思ったのだろう。その場で何とか踏み留まる。

 そんな住人達を見ながら、レイはついでのように口を開く。


「それに、盗賊狩りは俺の趣味だしな」

「……趣味?」


 小麦粉五袋を報酬として貰うと言われた時と同じく、レイと交渉していた兵士は最初何が言われてたのか分からないといった様子を見せた。

 しかし、レイはそんな兵士に何か問題でも? といったように、盗賊狩りという趣味が特におかしくはないと言いたげに、平然とした様子だ。

 実際、レイにとって盗賊狩りというのは趣味と実益を兼ねている。

 それも盗賊というのはどれだけ狩ってもいなくなる事はない。

 倒しても倒しても、狩っても狩っても、殺しても殺しても、盗賊が消えるということはない。

 人の中にはどうしても楽な方に向かう者がいる。

 そんな者達にしてみれば、盗賊というのは働かないで人から金や物を奪って暮らせるという意味で魅力的に思えるのだろう。

 それを魅力的に思えるような者は、人の中からいなくはならない。

 そうである以上、レイの盗賊狩りという趣味が出来なくなるということはないのだ。


「あ、盗賊喰い!」


 と、周囲にいた人々の中から一人がレイを見てそう叫ぶ。

 盗賊喰いというのは、盗賊狩りを趣味とするレイにつけた名前だ。

 深紅とはまた別の意味で異名のようなものだろう。


「ああ、どうやら盗賊達からはそんな風に言われてることもあるみたいだな。……何でそれを一般人が知ってるのかはともかくとして」


 レイの言葉に、周囲にいる者達の視線が盗賊喰いと口にした男に集まる。

 盗賊達からそう呼ばれていると、そうレイが口にしたからだろう。

 もしかしたら、盗賊の仲間なのではといった視線が向けられる。


「まぁ、盗賊喰いってのは別に隠してる訳じゃないし、一般人が情報を持っていても不思議じゃないだろうけど」


 そんなレイの言葉に、話を聞いていた者達はようやく安堵した様子を見せる。

 そして盗賊喰いと口にした男もまた、視線から逃れられたことに安堵した。


(ちょっとくらい訳ありの奴がいても、おかしくはないよな。元盗賊とか。……見た感じ、今回の盗賊と通じている様子はないし)


 おかしな様子もないので、取りあえずそう判断し……兵士に視線を向けて尋ねる。


「それで? 結局、どうするんだ? こっちとしては出来るだけ早く決めて欲しいんだけど」

「分かった、頼む。小麦粉五袋なら、俺の権限で何とかなる」

「分かった。取引成立だな。本来ならギルドを通して依頼して貰った方が確実なんだが、今の状況でそんな真似は出来ないしな。個人的な依頼ということにしておく」


 ギルドを通さない依頼となれば、それこそ盗賊の討伐が終わった後で実は依頼をしてなかったと言い張られても、ギルドに頼るような真似は出来ない。

 もっとも、二人と一匹で盗賊の全てを倒すだけの実力を持っているレイとヴィヘラ、セトに対して、そのような真似をすればどうなるのかは誰にでも理解出来るだろう。

 ましてや、報酬が小麦粉五袋となれば、支払わないで敵対した方が最悪の結果となる。

 勿論、警備兵が小狡い性格をしていれば、その辺は違ったのだろう。

 だが、幸いにしてこの警備兵はそのようなことはなかった


「なら、これで依頼成立だな。後は、盗賊達の情報をくれ。盗賊が来るって話は聞いたんだが、具体的にどの辺りにいるのか、そしてどのくらいの数なのか」


 個人的には、盗賊の規模が大きい方がいいんだが。

 そう言いたかったレイだったが、今の状況でそのようなことを言えば警備兵はともかく、周囲で様子を窺っている住人達を刺激すると思って黙っておいた。

 レイにしてみれば、盗賊の規模が大きいというのは、相手がそれだけ多くの襲撃を繰り返してきた証であり、溜め込んでいるお宝も多いだろうと予想出来る。

 それ以外にも、人数が多いということはそれだけ生け捕りにした時に奴隷商に売る数が多くなるというのもある。


「人数は二十人くらいらしい。現在、この街に向かっている」

「それなりの人数だな」


 二十人という盗賊団は、レイがこれまで狩ってきた盗賊から考えると、平均的な人数のようにも思える。

 そんなレイの言葉を聞いた者達は、それなり? と疑問を持っていたが。

 レイのように、盗賊との戦いに慣れている者と一般人ではその辺の感覚に違いがあるのだろう。


「こっちに向かって来てるのならちょうどいい。ヴィヘラ、セト、さっさと行って倒してくるぞ。盗賊達がどこにお宝を隠しているのかも聞き出す必要があるしな」


 そんなレイの言葉に、ヴィヘラとセトが揃って頷く。

 普通なら二十人を相手に二人だけで戦いを挑むというのは、自殺行為以外のなにものでもない。

 しかし、レイにしてみれば自分が多数を相手にするのは特に何もおかしなことではなかったし、それはヴィヘラとセトもまた同様だった。

 警備兵から盗賊達の来る方向をもう少し詳しく聞き、早速街から出るのだった。






「グルゥ!」


 街を出てから一分もしないうちに、空を飛んでいたセトは地上に盗賊達の姿を見つける。

 セトの飛ぶ速度を考えれば、街に向かっている盗賊達をこれだけの短期間で見つけるというのは難しい話ではなかった。


「とはいえ、あの人数で街に押し寄せるって……もしかして、俺がいなくてもどうとでもなったんじゃないか?」


 セトの背の上で呟くレイに、セトの前足に掴まっているヴィヘラが言葉を返す。


「別に街を占拠するつもりはなかったんでしょ。適当に暴れ回って略奪したら、そのまま街を脱出するつもりだったんじゃない?」

「そうなるか。どうやって街中に入るかってのも、この場合は疑問だけど」


 多分街中に盗賊との内通者か、もしくは入り込んでいる奴がいたのだろう。

 そう思いつつ、レイは自分を盗賊狩りと呼んだ相手のことを思い出す。

 とはいえ、レイが見たところでは元盗賊ということはあるかもしれないが、現役の盗賊であるようには思えなかった。

 そうである以上、恐らくあの男はこの盗賊の仲間ではないだろうと判断し……取りあえず地上に降下して、盗賊を倒してしまえば問題ないだろうと判断する。


「セト、降りてくれ」

「グルルゥ?」


 先制攻撃をしなくてもいいの? とセトはレイの指示に疑問の鳴き声を上げる。

 だが、レイはそんなセトの言葉に頷くだけだ。


「結局のところ、あの連中は盗賊だからな。もし先制攻撃で大きな被害を受けると、即座に逃げ出す可能性が高い」


 盗賊だけに、自分が生き残るのが最優先だと、そう判断するのはおかしくない。

 それどころか、自分が逃げ出す為にも敵の足止めとして仲間を攻撃するといったようなことをしてもおかしくはない。

 盗賊が傷付け合うのはレイにとっては問題ないのだが、奴隷として売るつもりである以上は出来ればあまり怪我をさせたくないというのが正直なところだ。奴隷の値段的に。

 奴隷商が盗賊達を買い取るとしても、怪我をしていればポーションを使わなければならず、その分の値段は差し引かれるだろう。

 また、ポーションを大量に購入した以上、出来れば無駄にポーションを使わせたくはなかった。

 そうレイが説明すると、セトはしっかり納得して地上に向かって降下していく。

 当然だが、盗賊達の中にも勘の鋭い者はいる。

 自分達の方に向かって降下してくるセトの存在に気が付き、何人かが騒ぎ始めた。

 だが、レイはそんな盗賊の様子など全く気にした様子もなく地上に着地したセトの背から降りる。

 ヴィヘラもセトの高度が低くなったところで、捕まっていたセトの前足から手を離して地面に着地している。


「何だ、お前達は!?」


 レイ達の存在に気が付いていなかった盗賊の一人が警戒心を滲ませて叫び……だが、ヴィヘラの姿を見たところで、その顔はだらしなくにやける。

 当然だろう。視線の先にいるのは絶世のという言葉が頭につく美女。

 それも娼婦や踊り子のような薄衣を身に纏っているのだから。

 男の欲情に満ちた視線を向けられたヴィヘラだったが、その美しく整った眉を少しだけ不愉快そうにするだけだ。

 そんな視線を遮るように、レイは自分だけで盗賊達の前に出る。


「さて、一つ提案だ」


 自分達を見ても全く怯える様子がないレイに、盗賊達は不愉快になる。

 だが、セトを最初に見つけた何人かの注意深い者は、グリフォンのセトを連れているという時点でレイが誰なのかを悟り、顔を引き攣らせていた。

 本来なら他の者達もそれに気が付いてもいいのだろうが、それだけヴィヘラという存在は魅力的だったのだろう。


「何だ? 街を見逃して下さいってのか? 残念だが……」

「降伏しろ。そうすれば痛い目に遭わないですむ」


 男の言葉を遮り、レイはそう告げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白い
2021/01/07 18:32 退会済み
管理
[一言] 個人的には降伏しないでレイさんとヴィヘラ様とセトの蹂躙劇を見たいような気がするー でも何人かはレイさんが盗賊食いだと知ってるから難しいかな、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ