2492話
アニメ化してほしいライトノベル・小説は?【#2020年上半期】
https://s.animeanime.jp/article/2020/06/03/54061.amp.html
というのが行われていますので、レジェンドをアニメで見たいという方は投票して貰えると嬉しいです。
今日が締め切りとなりますので、まだの方は是非お願いします。
ランクAへの昇格の件は、取りあえず前向きに検討するということにして、レイは領主の館を出て、現在はセトと共に錬金術師達がいる場所に向かっていた。
領主の館では、今頃ダスカーとニールセンの間で交渉が行われているだろう。
その間に、トレントの森で樵達が伐採した木を錬金術師達に渡す必要があったのだ。
(前向きに検討か。出来れば前向きに検討する方向で考慮しつつ、慎重に考えさせて貰うとか、そんな風に言いたかったところだけどな。もし本当にそんなことを言ったら、間違いなくダスカー様に怒られていたな)
日本にいた時の政治家や役人のことを思い出しながら、そんな風に考える。
もっとも、その辺も色々とネタにされるようになった為か、最近はそこまで露骨に言うような者はいなかったが。
ともあれ、レイとしては早急にランクAへの昇格試験を受けるかどうか決めなければならない。
ダスカーと色々と話した結果、レイの中では受けるという方に気持ちが傾いているのは事実だったが。
そもそも、ダスカーから直々に昇格試験を受けないか……いや、受けて欲しいと言われ、更にはランクA冒険者になって起きる面倒なことも、大概はダスカーの方で引き受けてくれるというのだ。
そのような状況では、それこそ何か昇格試験を受けられない明確な理由でもない限り、レイとしても断ることは出来ないだろう。
(貴族とのやり取りも、代理人がやってくれるって話だったし……ただ、そうなると問題なのはやっぱり王族だよな)
貴族の相手は代理人で構わないが、王族が相手となれば代理人だけという訳にはいかない可能性が高い。
そうなると、結局はレイが王族……場合によっては国王や王子、王女といった面々と直接会う必要がある。
とはいえ、レイとしては王族と会うということそのものには、そこまで緊張する様子はない。
何しろレイの仲間にはヴィヘラがいる。
ミレアーナ王国と同等の国土や国力を持つ大国、ベスティア帝国の皇女が。
正確には、元皇女と言うべきかだろう。
本人は既に皇族であるというつもりは全くないのだから。
レイはそんなヴィヘラと一緒に行動している……どころか、一緒に暮らしているのだ。
そう考えれば、ヴィヘラと同格の王族と会うというのはそこまで緊張するようなことはない。
ただし、問題なのはやはり礼儀作法だろう。
(そっちの方は……ヴィヘラに教えて貰えばどうにかなるか? いや、ベスティア帝国とミレアーナ王国では、礼儀作法とかが違ってもおかしくはないか。だとすれば、エレーナか?)
最近はレイと一緒に行動しているエレーナだが、実家はケレベル公爵家という、爵位の中では最上位に位置する存在だ。
そのケレベル公爵の生まれである以上、当然の話だがエレーナは礼儀作法についても通じている筈だった。
であれば、王族と直接会う際に必要となる礼儀作法を習うのなら、やはりここはエレーナだろう。
今夜にでもエレーナにその辺りのことを聞いてみよう。
そう思っていると、ちょうど錬金術師達が仕事をしている建物に到着する。
「ここはここで、面倒なんだよな。とはいえ、ここでゆっくりする訳にもいかないし、やることをやってさっさと領主の館に戻った方がいいか。……途中の屋台で何か適当に買っていってもいいな」
「グルルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
何か屋台で美味しい料理を食べたいと、そう思ったのだろう。
「この暑さだし、出来れば冷たい料理とかお菓子を食べたいところだけど、正直それは難しいだろうな。冷えた果実とかがあればいいけど」
そう告げるレイだったが、もし冷えた果実を売ってるような屋台があれば、それこそ多くの客によってすぐになくなってしまっているだろう。
また、レイはドラゴンローブの効果によって、そしてセトはグリフォンである以上、幾ら夏の真っ盛りであっても暑さは感じない。
レイとセトの視線の先では、そんなレイ達とは違って暑さによって歩くのも面倒だといった様子を見せている通行人が何人もいる。
(夏だから暑いのはしょうがないか。……日本よりはマシだろうし)
そう思うレイだったが、東北の田舎……それこそ山のすぐ側に住んでいたレイとしては、そこまで強烈な暑さというのは感じたことがない。
いや、それでも最高気温三十五度を超えるような日々も夏には数日あったりするので、全く夏の暑さを知らないといった訳ではないのだが。
また、レイの場合は暑ければ最悪川で泳ぐといった手段もあった。
プールとは違い、水が流れている影響で涼しいのではなく温いといったようなことになることは滅多にない。
それどころか、長い時間川に潜り続けていれば寒さに凍えるようなことになったりもするのだ。
「そう言えば、ギルムからそう離れていない場所にあった川、最近行ってないな」
以前は何度もモンスターを解体する時に使っていた川があるのだが、レイは暫くそこに行っていないことを思い出す。
「グルゥ?」
「そうだな。今度時間を作って遊びに行ってもいいかもしれないな」
セトと会話をしながら道を歩いていると、やがて通行人の姿が少なくなり、錬金術師達がいる建物が見えてくる。
「さて、さっさと片付けるか。セトはこの辺で待っててくれ。くれぐれもこっちに顔を出すなよ」
「グルルゥ」
もしセトが来たのだと知れば、錬金術師達が暴走しかねない。
そのようなことになっても、レイはどうとでも対処出来る自信があった。
あったのだが、それでも面倒なことなのは事実である以上、わざわざそんなことをしようとは思わなかった。
セトもそんなレイの気持ちは分かっているのか、素直に頷いてレイから離れていく。
セトを見送ったレイは、出来るだけ早くすませようと考えつつ建物に向かい……
「ええいっ、いい加減にしろ! 珍しい素材とかはあるが、だからってお前達に渡すつもりがあると思うのか!?」
案の定、錬金術師達はやって来たレイを見て、何か珍しい素材はないのかと、そう迫ってくる。
正直なところ、レイの持つミスティリングの中には大量の素材がある。
それこそ、錬金術師達にしてみれば喉から手が出る程に欲しいような、そんな素材が。
例えば、ドラゴニアスの死体。
大量に存在している、赤い鱗のドラゴニアスの死体は異世界の存在である以上、間違いなく未知の素材だろう。
(あ、何かドラゴニアスの死体なら一匹分くらい渡してもいいかもと思えてきた。どうせ明日になれば使い物にならなくなるし)
一瞬そう思ったレイだったが、一匹死体を渡せば、まだ他にも持っているだろうとレイに向かって襲ってきかねない。
普通に考えれば、錬金術師達が幾ら束になっても、ランクAへの昇格試験を受けるべきだと言われているレイに勝てる筈がないのだが……錬金術師達の執念を考えると、もしかしたらという思いがない訳でもない。
そんな真似をするのなら、それこそ適当に相手をしておいた方がいいだろうと、そう考え……やがて口を開く。
「ギルムの増築工事が終われば、ギルムにやって来る者の数は増える。そうなれば、当然だがこの辺りで活動する者も増えるから、得られる素材は今までよりも多種多様になるかもしれないな」
レイの言葉に、周囲にいた錬金術師のうちの何人かが目を輝かせる。
とはいえ、それはあくまでも何人かだけだ。
多くの者にしてみれば、レイの言う通りに増築工事が進んだとしても、そう簡単に素材が増えるとは思っていない。
……そもそもの話、増築工事が終わればとレイは言っているが、その増築工事が終わるまで一体どれだけの時間が掛かるというのか。
今でさえ、もう二年目に入っているのだ。
にも関わらず、増築工事の終わりは現在も全く見えていない。
つまり、レイが言っている増築工事が終わったらというのは、実際にいつになるのか分からない者が大半なのだ。
だからこそ、レイの周囲にいた錬金術師達の大半はそんなレイの言葉に何らかの期待をするような真似はしない。
もっとも、もし実際に増築工事が終わったらそれに全く期待しないといった訳ではないのだろうが。
錬金術師達にしてみれば、そうやって少しでも素材を確保出来る先は多い方がいいのだから。
だが、それでも結局はまだまだ先の話である以上、今の状況で必要なのは将来的にではなく、現在素材を持ってくる相手……という相手だった。
「ともあれ、今は忙しいんだ。お前達の相手をしている暇はない」
そう告げるレイの言葉に、何人かの錬金術師達が目を光らせる。
この状況でレイが忙しいと言うのであれば、もしかしてそれは何かがあったということの証なのではないか、と。
実際にその言葉は決して間違ってはいない。
妖精の件や異世界の件を含めて、色々とあるのは事実なのだから。
しかし、レイにしてみれば、今は妖精といった件よりもランクAの昇格試験について考えたいというのが正直なところだ。
……それを言えば、それこそ錬金術師達は喜んでレイを離さない可能性が高かったが。
何しろ、ランクA冒険者になれば今までは受けられなかった依頼を受けることが出来るようになり、未知の素材を入手出来る可能性も高くなる。
であれば、それは錬金術師達にとって非常にありがたいことなのだから。
レイが取ってくる素材を目当てに、錬金術師達で争いになるといったようなことになってもおかしくはない。
レイとしては、とてもではないがそんなことを望みはしないのだが。
(ともあれ、こいつらにランクAの昇格については可能な限り言わない方がいいな。うん、そうなったら最悪の場合を考える必要が出て来るし)
そう判断すると、レイは錬金術師達を強引に押しのけてその場から脱出する。
多くの錬金術師達は、そんなレイの様子にこれ以上は怒らせるだけだと判断して自分の仕事に戻っていった。
レイに希少な素材を寄越せと言う錬金術師達だったが、それでも限界というのはしっかりと理解している。
今の状況でこれ以上無理にレイに言い寄るような真似をすれば、それこそ拳が振るわれる可能性は十分にあった。
もしそのようなことになれば、錬金術師達にとっても致命傷となる可能性がある。
それが分かっているからこそ、限界を見極める目は必要なのだ。
……レイにしてみれば、そんな真似をするなら最初から自分に集まってくるなと、そう言いたいだろうが。
「ふぅ。……取りあえずこれで役目は終えた、と」
建物から出たレイは、疲れと共にそう呟く。
錬金術師達のやり取りにおいては、今まで何度も経験している。
だが、それでも錬金術師達のことを思えば、そういうものだと納得するしか出来ない。
「グルルルルゥ!」
建物から出て来たレイを見つけ、セトは嬉しそうに喉を鳴らしながら近付いていく。
レイもそんなセトを撫でて、嬉しそうに言葉を掛ける。
「さて、じゃあさっき言ってたように、屋台を見て回るか。出来れば、美味い料理が多くあればいいんだけどな」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは早く行こうと喉を鳴らす。
セトにしてみれば、ここに来るよりもレイと一緒に屋台を回っている方が楽しい。
何よりも、ここに来るとレイは疲れた様子を見せるのがセトには気になっていた。
それでも、レイはやらなければならないと、ここに来ることを止めることは出来なかったが。
「そうだな、串焼きをまた買ってもいいかもしれないな。ダスカー様のところに置いてきたから、俺達が食う分だけでいいか」
串焼きはギルムでも非常に一般的な料理だ。
それこそ、屋台では多くの串焼きが売っているように。
ただし、数が多いだけに店によって串焼きの味は大きく変わってくる。
肉の品質を見抜く目、肉の下処理、味付け、串の刺し方、焼く時の火加減や、肉を焼いている状態を見極める目。
それ以外にも様々な要素が絡み合って、串焼きは完成するのだ。
そういう意味では、店が違えば串焼きという料理名は同じでも、実際には全く違う味となってしまう。
それでいて、料理そのものはそこまで難しい訳でもないので、どうしても串焼きを売る屋台というのは多くなる。
(そう考えると、何気に串焼きって深い料理だよな。……いや、別に串焼きに限らず、何でもそうなんだろうが)
セトと共に美味い串焼きを売っている屋台を探して歩き続け……幾つかの店で串焼きを購入していく。
美味い串焼きもあれば、そこそこといった串焼きもある。
簡単な調理法だからこそ、調理を失敗しても極端に不味い料理にならないという辺りも串焼きの魅力なのだろう。
……未知の味に挑戦するような者であれば、また別かもしれなかったが。
そうして串焼きを食べ歩き……やがてレイは、ランクA冒険者に挑戦しようと何の脈絡もなく決めるのだった。