2491話
アニメ化してほしいライトノベル・小説は?【#2020年上半期】
https://s.animeanime.jp/article/2020/06/03/54061.amp.html
というのが行われていますので、レジェンドをアニメで見たいという方は投票して貰えると嬉しいです。
最初、レイはダスカーが何を言ってるのか分からなかった。
だが、少し考え……その言葉の意味を理解すると、更に意味が分からなくなる。
いや、ダスカーが何を言ってるのかというのは、レイにも分かる。分かるのだが、何故いきなりそんな事に……自分にランクA冒険者になるように言うのかというのが、分からない。
「えっと、それは何かの冗談ですか?」
一瞬、アメリカンジョークならぬミレアーナジョークやギルムジョークといった言葉を思い浮かべるレイだったが、そんなレイの言葉に対してダスカーは真剣な表情で首を横に振る。
そんなレイとダスカーのやり取りを、ニールセンは串焼きを食べながら面白そうに眺める。
ニールセンにしてみれば、このやり取りは自分が串焼きを食べながら見る酒の肴――どこにも酒はないが――としてはちょうどいい。
特にニールセンにしてみれば、いつもは動揺しないレイがここまで驚き、動揺しているという様子は非常に珍しかった。
ニールセンの酒の肴にされているとも気が付かないレイは、改めてダスカーに尋ねる。
「ダスカー様、俺の聞き間違いじゃなければ、ランクA冒険者になる試験を受けろと、そう言ったように思うんですけど」
「そうだ。そもそもの話、レイのような強さを持つ者がランクB冒険者として活動している方がおかしい」
そう言われると、レイも咄嗟に反論することは出来ない。
自分がランクB冒険者としては圧倒的すぎるというのは、今までの経験から理解していた為だ。
基本的に冒険者のランクはHからSまでの九段階ある。
その中でもランクHは冒険者になったばかりの者が街中の雑用依頼を受ける為のもので、そこで金を稼ぎながら装備を整え、一定以上の戦闘力を持つと証明されることでランクGとなる。
また、ランクSは本当の意味で冒険者の頂点に立つ存在といえ、現在は三人しか存在しない。
そんな最下位と最上位を除けば、残るランクはGからAとなる。
そしてEからGが初心者、CからDがベテラン、AからBが一流と見なされる。
つまり、ランクBである今のレイも、分類的には一流と呼ぶに相応しいのだ。
冒険者になった者の大半がランクCかDになるのが精一杯で、ランクB以上になるのは本当に選ばれた腕利きだけだ。
だが……それでもランクBとAでは、同じ一流でも格が違う。
そういう意味では、レイも本当の意味で一流とは見なされないランクなのは間違いなかった。
もっとも、レイの場合は深紅の異名を持っているので、それこそランク以上の実力者として扱われるのだが。
そんな訳で、現在のレイが未だにランクB冒険者として活動しているのは、ある意味でランク詐欺と表現するに相応しい。
「アンテルムの件も、もしかしたらレイがランクAなら絡まれることはなかったかもしれないしな」
「それはないと思いますけど」
ダスカーの言葉に、レイは絶対にそんなことはなかったと、そう言葉を返す。
実際、アンテルムはレイのことを全く知らない様子だった。
であれば、もしレイがランクA冒険者であっても、それを理解して絡んでこないとは限らなかっただろう。
アンテルムにしてみれば、自分は貴族の血を引く人物で、ランクも冒険者としては最高に近いAだ。
そんな人物だけに、好き勝手出来ると、そう思っていたのだろう。
「……だろうな」
ダスカーも、アンテルムについての情報は色々と集めている。
ただし、レイによって四肢切断されてしまったアンテルムは、自分の強さの象徴でもあったマジックアイテムをあっさりと破壊されたことにより、心を完全にへし折られている。
レイとの間に存在した、圧倒的なまでの実力差を見せ付けられたというのも大きいだろう。
最初こそ互角に戦えていたと思ったアンテルムだったが、実際にはレイが心をへし折る為に手加減をして防戦一方になっていたというのも、プライドの高いアンテルムにしてみれば致命的なまでの行動だった。
それだけに、今のアンテルムは完全に内に籠もっていて意思疎通すら難しい状況になっている。
「ともあれ、だ。アンテルムの件は置いておくとしても、レイのような実力者にランクBのままでいられるのは困る。それは分かるな?」
「まぁ……それは」
ダスカーの言葉には、レイも反論出来ない。
実際、アンテルムの件は特殊な例だとしても、この先もランクの問題で同じようなことが起きないとは限らない。
……実際には、ランク云々よりもレイの外見で侮られるといったことが多いのだが。
セトを連れていれば、グリフォンを従魔にしているということで侮る者も多くはない。
しかし、レイだけで移動している場合、ドラゴンローブにある隠蔽の効果によってとてもではないが実力者であるとは思われず、生意気な相手だと判断して絡まれるといったことは珍しくない。
ギルムにおいてはレイの顔を知っている者も多いのだが……今は、増築工事の仕事を求めて大勢の人が集まっている。
中には当然レイの顔を知らない者も多く、それを考えればトラブルが起きる可能性は常にある。
(ランク云々よりも、やっぱり外見だよな。俺がこの世界に来てから数年が経つけど、全く背が伸びる様子はないし)
レイも今の自分の身体に慣れてはいたが、それでももう少し身長が高くなって欲しいと思うのは男として当然のことだった。
とはいえ、今はそんなことを考えているような余裕はないと判断し、改めてダスカーを見る。
「ランクA冒険者の件は分かりましたけど、そうなると貴族とかと会うことも多くなるんですよね? 残念ですけど、俺はあまり貴族の受けはよくないですよ? ……いえ、寧ろ俺とこうして普通に話しているダスカー様の方が貴族としては珍しいと思います」
そう言うレイの言葉は、お世辞でも何でもなく真実だ。
基本的に貴族というのは、アンテルムを見ても分かる通りプライドの高い者が多い。
そんな人物がレイと会った場合、どうなるか。
それは、考えるまでもなく明らかだろう。
そういう意味では、ダスカーやエレーナ、ヴィヘラ、アーラといった面々の方が特異な例と言ってもいい。
「それは分かっている。だが、現在の状況を考えるとレイには何が何でもランクA冒険者になって貰う必要がある」
「……今のままだと、駄目だってことですか?」
「そうだ。深紅の異名は今や非常に大きくなっている。……表に出せないこともかなりあって、そっちの情報は広まっていないのにな」
実際、今までレイが受けてきた依頼の中で表沙汰に出来ないといったものはそれなりにある。
だが、それ以上にレイは多くの依頼をこなしており、それで有名になっているのも事実だ。
「それでランクA冒険者にならないといけないと?」
「それもあるがな。……AとB。ランクの差は一つだけだが、その影響力の違いは非常に大きい」
レイはダスカーの言葉に素直に頷く。
冒険者の中でもランクAとBでは、どちらも一流として数えられるのではあるが、それでもランクAの方が知名度という点では圧倒的に上だ。
また、レイという存在は貴族に絡まれるということもあるのだが、その時もランクAとBの対応では大きく違ってくるだろう。
そう考えれば、やはりレイがランクAに上がるのは間違いなく最上の選択と言ってもいい。
……とはいえ、ランクAになればなったで現在よりも面倒な出来事が出て来るのは間違いない。
「貴族からの指名依頼はどうするんです? 勿論、最初から受けないと決めてしまえばいいのかもしれませんが……」
「勿論、この状況でレイにランクAに上がるようにと言っている以上、考えてある。代理人を用意して、貴族との接触はその代理人にやって貰えばどうだ?」
「代理人、ですか。……俺としては助かりますけど、相手の方で納得しますか?」
レイの感覚からすれば、自分を……異名持ちの冒険者を呼び出して何かを依頼しようとした時に代理人がやってきた場合、とてもではないが貴族が納得するとは思えない。
中には納得する者もいるだろうが、それを不愉快に思う者もまた多い筈だった。
であれば、代理人を用意するというのは色々と不味いのでは?
そうレイが思うのも当然だろう。
それに、その代理人をレイが信頼出来るかといった問題もある。
代理人ということは、当然だが貴族との依頼で各種交渉もすることになるだろう。
つまり、もし代理人に交渉を任せた場合はその報酬について決めるのは代理人となる。
勿論、それはあくまでも指名依頼の中でもギルドを通さない個人依頼での話であっても、ギルドを通すとなれば、その辺は気にしなくてもいいのかもしれないが。
「代理人が気にくわないという者もいるだろう。だが、代理人の方は俺が用意してもいい」
「……ダスカー様が? 何でそこまでしてくれるんです?」
レイは自分がダスカーと親しいというのは自覚している。
今まで何度もダスカーからの依頼を受けてきたし、依頼ではなく個人的な頼みという形で仕事を引き受けたこともある。
言ってみれば、ギルドを通さない指名依頼といった形で。
そういう意味で、自分とダスカーの間に信頼があるのは間違いない。
また、レイもギルムという街を――完全にではないが――問題なく治めているダスカーを尊敬しているのは間違いない。
だが、それでも何故そこまでのことをしてくれるのかというのは、レイにも分からなかった。
「これは言ってみれば先行投資のようなものだ。レイは自分の存在がギルムにどれだけの利益をもたらしているのか、理解していないな」
その言葉は、大袈裟でも何でもない純粋な事実だ。
レイという存在がこれまでギルムにもたらしてきた利益を考えれば、それこそ代理人の一人や二人用意することくらい、ダスカーにとって何も問題はない。
いや、それでもまだ足りないだろう。
それだけ多くの利益を、ダスカーやギルムはレイから受けているのだ。
「先行投資、ですか。正直なところ、それに応えられるかどうかは分かりませんが。今の状況を考えると、そうした方がいいのかもしれませんね。ただし、その代理人には俺も会わせてくれるんですよね?」
「当然だ。レイの代理人なんだから、レイが満足出来るような人物を用意する」
ダスカーが用意する以上、おかしな人物はいないのは間違いない。
だが、それでも人には相性というのがある。
幾ら有能であっても、性格的に相性の悪い相手とではレイも気持ちよく行動出来ない。
そのようにならないようにする為には、やはりレイと性格的に会う人物を用意する必要があった。
(ここまでされると、さすがに断れないか)
レイとしては、ランクB冒険者のままでもいいという思いがあったのは事実だ。
だが、ギルムの領主たるダスカーにここまでして貰った以上、それを断るといったような真似は出来ない。
そうして考えているレイに、もう一押しと思ったダスカーがランクA冒険者としての利益を口にする。
「ギルドの依頼の中には、ランクA冒険者しか受けられないような、そんな依頼もある。そう考えれば、今回の一件はそう悪い話じゃないと思うが?」
「それは否定出来ませんね。もっとも、ランクA冒険者だけが受けられる依頼そのものはそこまで多くないんですけど」
正確には、ランクとしての区別でランクBとAが一流となっている以上、ランクB以上の冒険者しか受けられないといった依頼は相応に多いのだが、ランクA限定となると……ない訳ではないのだが、それでも決して多くはないのだ。
考えてみれば当然なのだが、ランクA冒険者でなければ受けられない依頼が大量にあるというのは、非常に危険なのだから。
もっとも、ここは辺境のギルムだ。
そういう意味ではランクA冒険者向けの依頼が多数あってもおかしくはない。
「話は分かりました。けど……ランクA冒険者となると、面倒なこともありますよね?」
「勿論だ」
改めて尋ねてくるレイに、ダスカーは当然だといったように頷く。
これがランクSともなれば、それこそ国からの要請すら蹴ることが出来るのだが、ランクA程度ではそこまでのことは出来ない。
「色々と面倒なこともあるが、貴族の件は代理を出せば解決する。しかし……問題は、王族との謁見があった場合だな」
「……あるんですか? 俺、結局のところは一介の冒険者ですよ?」
「異名持ちにして、グリフォンを従魔にして、アイテムボックスを持っているような人物を一介の冒険者とは呼べない」
レイの言葉にあっさりとそう返すダスカー。
実際、レイの持つ要素は色々なところで他人の目にとまりやすいのは、間違いのない事実だ。
(王族か。……ヴィヘラのことを考えれば、そんなにおかしな話じゃないのか?)
レイの頭の中には、ベスティア帝国の皇女にして自分の仲間たるヴィヘラの美貌が思い浮かぶのだった。