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レジェンド  作者: 神無月 紅
ランクA昇格試験
2490/3865

2490話

アニメ化してほしいライトノベル・小説は?【#2020年上半期】


https://s.animeanime.jp/article/2020/06/03/54061.amp.html




というのが行われていますので、レジェンドをアニメで見たいという方は投票して貰えると嬉しいです。

 ギルムに戻ってきたレイは、屋台で適当に買い食いをしながら歩いているのだが……その最中にふとレイは今の状況が危険なことに気が付く。

 現在レイが向かっているのは錬金術師達が伐採された木の魔法的な処理をしている場所だったのだが、そんな場所にニールセンを連れていった場合、ニールセンが興味を持つのは間違いない。

 そして興味を持ってしまえば、ドラゴンローブの中から飛び出す可能性もある。

 そうなった場合、当然だが錬金術師達もニールセンの存在に気が付き、それこそギルム全体に妖精の一件が知れ渡ってしまうだろう。

 レイにしてみれば、そんなことになったらどうしようもない。


(どうする? 木材を運ばないって選択肢はないし……ああ、別にダスカー様とニールセンの話に俺が参加する必要はないのか)


 少し悩んだレイだったが、すぐに解決策を思いつく。

 そもそも、本来ならレイは異名持ちではあっても冒険者でしかない。

 ダスカーとニールセンの交渉に参加しなければならない理由はないのだ。

 ニールセンをトレントの森から連れてくるといったようなことをするとなると、事情を知っているレイの協力が必要であってもおかしくはないのだが。


「ねぇ、レイ。どうしたの? 何か香ばしい香りが漂ってきてるんだけど」

「……あまり無理を言うなよ。エレーナ達がいれば、ニールセンの姿を隠したりといった真似も出来るが、俺とセトだけだといざという時に隠し通せるかどうか分からないぞ」


 レイの言葉に、ニールセンは大人しくなる。

 昨日までであれば、間違いなくこの状況でも何とかしろと言っていただろう。

 それがこうも急に言うことが変わったのは、やはり昨夜のアンテルムの件が原因だろう。

 ニールセンはアンテルムが他の妖精達を脅している光景を直接目にすることはなかったが、妖精達と友好的な関係にあった狼の群れが全滅している光景を見ている。

 そのように中途半端に事情を知っているからこそ、余計に恐怖心を覚えてしまうのだろう。

 黙り込んだニールセンをそのままに、近くから漂ってきている香ばしい香り……串焼きを売っている屋台から、数本の串焼きを買う。

 ただし、その串焼きはここですぐに食べるのではなく、そのままミスティリングに収納する。


「さて、取りあえずこの串焼きが冷める前にダスカー様に会いに行くか」


 焼きたてをミスティリングに収納した以上、冷めるといったようなことはない。

 だが、それでもレイがそう言ったのは、領主の館に行けばニールセンにもその串焼きを食べさせてやることが出来ると、そう言いたかった為だ。


「グルゥ」

「そうだな。セトにも串焼きを……と思ったけど、考えてみればセトは領主の館に行けば、それこそ料理人から色々と料理を貰えるんだろ?」

「グルルルゥ、グルルゥ」


 レイの言葉に抗議するように喉を鳴らすセト。

 領主の館に行けば、料理人から料理を貰えるのは事実だ。

 それこそ、領主の館で雇われている料理人である以上、その技量は非常に高い。

 レイが買った串焼きとは比べものにならないくらいに美味い料理を作れるだろう。

 だが、セトにしてみればどんなに美味い料理であっても自分だけで食べるよりはレイと一緒に食べたいのだ。

 それこそ、美味い料理を自分だけで食べるのと、それよりも味は落ちるがそれなりに美味しい料理をレイと一緒に食べるののどちらを選ぶかと言われれば、セトは一瞬の躊躇なく後者を選ぶだろう。

 そんなセトの様子に気が付いたのか、レイは悪かったと頭を撫でる。


「そうだな。なら俺とセトの串焼きはお預けにして、マリーナの家に帰ったら食べるか」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、これでレイと一緒に串焼きを食べられると嬉しかったのだろう。

 ……それでいて、ここで約束を取り付けた以上、領主の館の中庭で出して貰った料理を食べるというのを止めるつもりもなかった


「えー……じゃあ、私もそうした方がよさそうね」

「は? ニールセンもマリーナの家に来るのか?」


 レイとしては、昨日の今日である以上、ニールセンはダスカーとの交渉が終わった後は、トレントの森にある住処に戻るのだとばかり思っていた。

 だが、ニールセンの今の言葉を考えると、それこそ自分と一緒に来ると言ってるようにしか思えない。


「当然でしょ」

「……マリーナの家だぞ?」

「と、当然でしょ」


 やはり苦手意識があるのか、ニールセンは少し躊躇いながらも、やはりマリーナの家に来るとそう断言する。

 何故そこまでして? とレイも思わないことはなかったが、ニールセンにしてみればギルムという場所は非常に興味深いのだ。

 そうである以上、それを満喫出来る時間を逃すという選択肢は存在しない。

 もう何度かギルムの中を見て回ってはいるのだが、ギルムは街とはいえ、元々準都市とも呼ぶべき広さを持っていた。

 そのような場所を数回で全て見て回れる筈もない。


「それに、長から人々の暮らしをよく見てくるようにって言われてるんだから、これはもう、私の楽しみだけじゃなくて立派な使命よね」

「……なるほど」


 そう言われれば、レイとしても反論は出来ない。

 本当に長からそのような命令を受けたのか? といった疑問はあるが、レイが妖精の長に直接会うことが出来ない以上、ニールセンの言葉を信じるしかないのだ。

 それに、アンテルムの一件で人間という存在に今までとは別の何かを感じたという可能性もある。


「分かった。それでいいのなら、俺は構わない。ただ、マリーナにはニールセンが直接今日も泊まるって言えよ」

「う……その、レイの方から言ってくれない?」


 やはりニールセンにとってマリーナは苦手なのだろう。

 それでも家に泊まりたいと言う辺り、それだけギルムを見て回りたいといったところか。


「あ、そうだ。ならマリーナの家じゃなくて、領主の館に泊まったらどうだ? それならダスカー様と交渉をする時にも色々と手間取らなくて楽なんじゃないか?」

「うーん、でもそれだと私のことを知ってるのはダスカーしかいないから、自由に出歩けないんじゃない?」

「言われてみればそうかもしれないな。まぁ、ダスカー様がギルムの様子を見て回るって可能性もない訳じゃないだろうけど」


 そう言うレイだったが、仕事仕事仕事仕事といったように起きている間中の殆ど全ての時間を仕事に使っている今のダスカーに、ギルムを見て回るような余裕がある筈もない。

 もしそのような状況でニールセンが好きなように街中に出るとしたら、ダスカー以外の誰か別の人物が一緒に行動するしかない。

 つまりそれは、妖精のことを知っている者が増えてしまうということを意味していた。


「駄目ね。それに、ダスカーの家でだとレイのそのドラゴンローブだっけ? その中に入れないじゃない」


 少し考えた後で、ニールセンはあっさりとそう告げる。

 領主の館の中はマジックアイテムで涼しく快適にすごせる。

 そういう意味では、住居としての快適さではマリーナの家と領主の館は大差がない。

 しかし、出掛ける時は話が違う。

 レイのドラゴンローブを自由に使えるのと使えないのは、大きな意味を持つ。


「そうか。……なら、それはそれでいい。ともあれまずはダスカー様に会いに行くぞ」


 そう言い、レイはセトやニールセンと共にダスカーのいる領主の館に向かうのだった。






「レイ、昨日は大変だったな」


 領主の館にある執務室で、ダスカーは仕事を一旦止めると、そう言ってくる。

 昨日の一件があったにも関わらず、ダスカーに疲れたり眠そうな様子はない。

 レイの場合は、寝るのが遅かったのでかなり寝坊してしまい、そのおかげで睡眠不足ということはない。

 だが、それはあくまでもレイの場合だから出来たのだ。

 領主をしているダスカーの場合は、とてもではないがレイのように寝坊をするといった真似は出来ないだろう。

 それこそ、そのような真似をすれば多くの仕事が処理されないまま溜まってしまう。

 つまり、ダスカーは間違いなくいつも通りに起きた筈だ。


(いや、マリーナが帰ってきた時間を思えば、眠らないで徹夜をしたって可能性もあるのか?)


 それにしては元気だ。

 そんな風に思うレイだったが、レイもまた実際に依頼の最中に必要とあれば徹夜くらいは平気で行う。

 それでも好んで徹夜をしたいとは思わないが。

 眠らないというのは、当然のように本人にとっての利益というのはそう多くはない。寧ろ、デメリットの方が圧倒的に大きいだろう。

 にも関わらず、こうしてダスカーが徹夜をしているのはそうしないといけないから、というのが一番大きいだろう。

 ……レイとアンテルムの諍いから始まった問題の解決の為、というが一番大きいのだが。


「そうですね、大変でした。……でもダスカー様も昨日は大変だったのでは?」

「それは否定出来ないな。とはいえ、ギルムのためになると思えば、そこまで大変って訳じゃないが」


 そう告げるダスカーは、強がりを言ってるようには思えない。

 本当に心の底からそのように思っていると、そう思える。

 つまり、それだけこのギルムという場所を愛しているのだろう。


「ギルムにはダスカー様が必要なんですから、無理しないようにして下さいね。……俺が言っても説得力ないですけど」


 今回のアンテルムの件もそうだったが、何だかんだとレイはこれまで色々と問題をギルムに持ち込んでいる。

 その大半がどうしようもないことであり、レイが悪いといった訳ではないのだが……それでも、問題を持ち込んだのは間違いのない事実だ。

 とはいえ、その問題がギルムにとって大きな利益となったことも、少なからずあるのだが。

 ダスカーもそれが分かっているからか、その件については特に何も言わない。

 そうして少し雑談をしたところで、レイは口を開く。


「ダスカー様、俺はこれから伐採された木を錬金術師達に渡してきますので、その間にニールセンとの交渉をして貰ってもいいですか?」

「うん? それは構わないが……ここに来る前に寄ってくれば、そんな真似をしなくてもよかったのではないか?」

「錬金術師達にニールセンが見つかると、面倒なことになりますから」


 そうレイが言うと、ダスカーも納得したように頷く。

 錬金術師達がどれだけ好奇心が強いのかというのは、当然ながらダスカーも知っている。

 同時に、レイが警戒しているのがそれだけではなく、錬金術師がニールセンに興味を持つのではなく、ニールセンが錬金術師に興味を持つといったようなことになりかねないというのも、当然のように知っていた。

 それを言えば、ニールセンが自分も行くと主張する可能性もあったので、言わなかったが。


「分かった。では、ニールセンとの交渉は今のうちにしておこう。その間に、レイは向こうに行ってくればいい」

「ありがとうございます。……ああ、これは交渉の時にでも食べて下さい」


 そう言い、レイはここに来る途中の屋台で購入した串焼きを取り出し、ついでに皿も一枚取り出してその上に置く。

 交渉をする際に串焼きを食べながらというのはどうかと思うが、せっかく焼きたての状態なのだから、冷める前に食べて欲しいと思うのは当然だった。

 そんなレイの様子に若干の疑問を抱いた様子のダスカーだったが、取りあえず心遣いということで感謝の言葉を口にする。


「悪いな」

「いえ。ダスカー様も疲れてるでしょうし、この串焼きでも食べて頑張って下さい」


 実際には、その疲れている部分の多くにはレイが関わっていたりするのだが、レイはそれに気が付いてないのか、それとも気が付いているがスルーしているのか、ともあれ表情に出る様子はない。

 ダスカーの方も、色々な出来事においてレイを責めるつもりはない。

 そもそも、リザードマンや緑人の召喚から始まった一連の事件。

 それについて、レイが関わっているのは間違いのない事実なのだが、それは関わっているというだけであって、実際にレイが何かをしたからこそ騒動が起きた……といった訳ではない。

 であれば。ダスカーとしてもレイを責めるなどといった真似はするつもりがなかった。

 とはいえ……このままレイを執務室から出す訳にはいかない。

 いつレイが来るのかは分からなかったが、こうして来た以上、自分はレイに対してマリーナと共に決めたことを話す必要があった。

 もしかしたらマリーナがこの件を話してくれているのかと思ったが、生憎とレイの様子を見ている限りその様子はない。

 今回の一件は色々な意味で特殊である以上、ギルムの領主として言わなければならないことなのだろうと判断し……


「レイ、お前にはランクA冒険者の昇格試験を受けて貰う」


 そう、告げるのだった。

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― 新着の感想 ―
アニメみたいです。 ブルーレイ買います! 何でアニメにならないのですか?(´;ω;`)
[一言] 「レイ、お前にはランクA冒険者の昇格試験を受けて貰う」 受験しろというのなら、受けるでしょうが、合格するように努力するかどうかは、別ですね。
[気になる点]  焼きたてをミスティリングに収納した以上、冷めるといったようなことはない。  だが、それでもレイがそう行ったのは、領主の館に行けばニールセンにもその串焼きを食べさせてやることが出来る…
2020/06/11 07:56 退会済み
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