2488話
アニメ化してほしいライトノベル・小説は?【#2020年上半期】
https://s.animeanime.jp/article/2020/06/03/54061.amp.html
というのが行われていますので、レジェンドをアニメで見たいという方は投票して貰えると嬉しいです。
トレントの森の中に入り、樵が伐採した木を収納してニールセンのいる場所に向かう……のではなく、レイが向かったのはトレントの森の中央にある地下空間だった。
ニールセンを連れてこの地下空間に来ると、色々と問題があるのは間違いない。
それこそ、異世界に行ったり。
場合によっては、偶然が幾つも重なった結果としてグリムと遭遇してしまうといったようなことにもなりかねない。
であれば、ニールセンを迎えに行く前にグリムに会っておいた方がいいだろうと、そう思ったのだ。
(とはいえ、アナスタシアにしてみれば、何で俺がやって来たんだ? と疑問に思ってもおかしくはないだろうけど。やっぱりウィスプの研究がどれだけ進んだのかを聞きに来たとか、そんな風に言った方がいいか?)
地下空間に続く狭い通路を歩きながら、レイは考える。
なお、当然だが現在のセトは地上で待っていた。
アナスタシアとファナの二人が従魔……というよりも乗り物にしている二頭の鹿は、野生の勘でセトが来たのを察したのか、レイとセトがこの場所に到着した時にはもういなかった。
トレントの森は以前までと違ってそれなりにモンスターも増えてきているので、そのようなモンスターに襲われる可能性もあるのだが、二頭の鹿はモンスターではなくてもかなりの戦闘力を持つ。
それこそ、ドラゴニアスとの戦いで生き延びた鹿の群れに所属していたのだ。
その辺のモンスター程度であれば、強靱な脚力で蹴り殺したり、角で突き殺したりといったような真似をしてもおかしくはない。
……そのような鹿にとっても、セトという存在は脅威でしかないのだろう。
実際、鹿の群れが苦戦していたドラゴニアスを相手に、セトは鎧袖一触といった感じで圧倒していた。
(俺に対しては、そこまで怖がったりしないのは……アナスタシアやファナと同じ種族だからか?)
正確には仮面を被っているファナの種族はともかく、アナスタシアはエルフだ。
レイにいたっては、ゼパイル一門の技術で作られた身体である以上、人間であるかどうかすら微妙なところだろう。
そういう意味では、レイとアナスタシアの種族は違うのだが……鹿から見れば、レイもアナスタシアも人間に近い種族ということで一緒なのだろう。
「セトとは外見が違うしな」
レイとアナスタシアは、細かい部分は違うがそれでも人型というのは同じだ。
それに比べると、レイやアナスタシアとセトでは外見が違いすぎる。
「っと、見えてきたな」
考えごとをしながら狭い通路を進んでいると、やがて光が見えてきた。
地下空間にようやく到着したということで、中の様子を確認してみると……
「レイ? どうしたの?」
テーブルの上で何らかの実験を行ってたアナスタシアが、レイの様子に気が付いたのかそう尋ねてくる。
なお、ファナはウィスプのいる場所の近くにある地面で何かを拾っていた。
(あれ、グリムが使っている計測器とか、そういうのじゃないよな?)
ファナの様子にそんなことを考えつつも、レイはアナスタシアに向かって口を開く。
「ウィスプの一件がどこまで研究が進んだかと思ってな。……その様子を見ると、まだあまり進んでいないみたいだな」
レイの言葉に、アナスタシアは面白くなさそうな表情を浮かべる。
それを見れば、研究が順調ではないというのは明らかだった。
「うん、悪い。その様子だと研究はまだあまり進んでないみたいだな」
「そうよ」
短く、それだけを言ってくる。
アナスタシアにしてみれば、研究を任されて結果が出ないというのは悔しいのだろう。
ましてや、今回の研究対象は異世界から様々な物や者を召喚したり、それどころか異世界とこの世界を繋げるといったような真似すらしていたのだから。
それだけ興味深い相手であるのに、研究成果が出ないというのはアナスタシアにとっては非常に悔しい。
もっとも、アナスタシアにも言い分はある。
地下空間にいるウィスプが非常に希少な存在である以上、大胆な検査が出来ないのだ。
そのような真似をすれば、最悪ウィスプが死んでしまう可能性もある。
非常に希少な存在である以上、大胆な調査を出来る訳がない。
「あー……うん。なら、取りあえずもう少し頑張ってくれ。俺はこの前みたいに適当に洞窟の中を見回ってくるから」
レイの目的は、ウィスプの研究についての進行状況を聞く事でもあるが、それ以上にグリムと接触することだ。
そうである以上、ウィスプの研究についてはそこまで期待していた訳ではない。
「そう。言っておくけど、ウィスプに妙なちょっかいを出したりはしないでよ?」
「分かってる。気をつけるよ」
そう告げると、アナスタシアも一応は納得出来たのか自分の研究に戻る。
それを見ると、レイはアナスタシアから離れるようにしながら洞窟の中を見て回る。
周囲に誰もいない場所に移動すると、アナスタシアやファナに聞こえないように口を開く。
「グリム、聞いてるか?」
『うむ。随分と遅かったようじゃの。昨日来ると言っておったようじゃが?』
レイが呼び掛けると、その声はすぐに耳に入ってくる。
明らかに、レイがこの地下空間に来たのを察知しており、声を掛けるのを待っていたのだろう。
「悪いな。ギルムの方でちょっとした問題が起きたんだよ。そっちはもう解決したけど、それで色々と忙しかったんだ」
『そうか。レイが無事なら構わんよ。こうして儂の前に現れてくれた訳だし』
「いや、前って訳じゃないと思うけどな」
そんな風に少しやり取りをしてから、レイは早速本題に入る。
「それで実験の方はどうなった?」
『そうじゃな。取りあえず問題はないと、そう思っても構わんよ。現在、この空間を固定する為のマジックアイテムを開発中じゃ』
「……早いな。いや、それは助かるけど」
『む? ああ、勘違いさせたようじゃな。開発中なのは事実じゃが、現在開発しているのはあくまでも試作品じゃ。これで様子を見て、問題がないようであればきちんとしたマジックアイテムを作ることになるじゃろう』
グリムの言葉に、レイも納得する。
初めて作る、異世界の素材を使ったマジックアイテム。
そうである以上、それがしっかり動くかどうかを確認し、そしてどれくらいの時間動き続けるのかを確認する必要がある。
だとすれば、まず最初に作るのは試作品だというのはレイにも納得出来ることだった。
「そうなると、試作品じゃなくて本物の方はいつくらいに出来る?」
『さて、どうじゃろうな。試作品がどのような状態なのか……それを確認してからでないと、その辺に関してはどうにも言えないじゃろう』
「だとすると……俺はもう暫くここには来ない方がいいか? 毎日のようにここに来てると、アナスタシアに怪しまれるだろうし」
『そうじゃな。試作品のマジックアイテムを作ってみて、それから改良の目処がついたら、対のオーブで連絡をしよう』
「頼む。それを貰ったら、今度またここに来るから」
『うむ、楽しみにしておるがいい』
若干自慢げなグリムの言葉。
それだけ、マジックアイテムを作ることに自信を持っているのだろう。
使うのが異世界の素材であっても、今回はそれをどうにか出来ると判断しているからこその言葉。
レイにしてみれば、そんなグリムの言葉は非常に頼れるので、不満はないのだが。
「じゃあ、任せた、俺はそろそろ妖精の方に行く必要があるから」
そう告げ、レイはグリムと話していた場所から離れると、適当に地下空間の中を見回ってかアナスタシアのいる場所に戻る。
「特に何かこれといった発見はなかったな」
「それはそうでしょ。そんなことであっさりと何かを発見されていたら、こっちが驚くわよ」
研究中のアナスタシアは、当然といったように言ってくる、
実際、ウィスプの研究をしているアナスタシアにしてみれば、そう簡単に何らかのヒントといったものを手に入れることが出来るのなら、自分の研究はもっと進んでいると主張してもおかしくはない。
「そうだな。まぁ、俺の気分転換も含めてのことだから、そこまで気にする必要はない。……ああ、それと、現在ギルムは色々と騒がしい。アナスタシアの性格を考えれば、わざわざギルムに来ることはないと思うけど、もし来るのなら気をつけた方がいい」
「騒がしい? 増築工事の件以外で?」
レイの言葉に何かを感じたのか、アナスタシアはレポートを書く手を止める。
アナスタシアにとっては、何かがあったというよりも調査を邪魔される方が面白くないのだろう。
レイにもそれくらいの予想は出来る。
「ギルムでちょっとした騒動があったんだよ。それはもう解決したけど、その一件の影響で、また騒がしかったりする」
「それ、レイが原因じゃないでしょうね?」
疑惑の視線を向けられたレイは、そっと視線を逸らす。
騒動を起こしたのはアンテルムだったが、その騒動の原因になったのが自分なのは否定出来ない事実だ。
そうである以上、レイが原因なのかと言われれば、完全には否定出来ないのが痛いところだった。
そんなレイの様子を見て、アナスタシアはやっぱりと小さく呟く。
アナスタシアにしてみれば、レイという人物は騒動を引き寄せる才能……いや、この場合は性質と呼ぶべきか、そのようなものを持っている。
それだけに、今の話を聞いてもレイが原因だと言われれば素直に納得出来た。
原因とされたレイの方は、そんなアナスタシアの様子に面白くないものを感じてはいたが。
「ともあれ、だ。アナスタシアのことだから、わざわざ好んでギルムに行くといったようなことはないと思うが……ん? ちょっと待て。お前、本当にギルムの件を知らなかったのか? 野営地でその辺の情報を聞いてもおかしくないと思うが」
野営地には、当然だがダスカーから指示された者が毎日のように食料を始めとした物資を運んでいる。
そうである以上、当然だがそれを運ぶ者はギルムから出発するのだ。
つまり、ギルムで起きた出来事……ゾルゲラ伯爵家の一件を知っていても、おかしくはない。
そして知っていれば、当然野営地にいる冒険者達に話すし、それを聞けば野営地ではその件が大きな話題になるだろう。
「野営地? そう言えば何か騒いでいたわね。……私はテントの中にいたから分からないけど」
「あー……うん。そうだよな。アナスタシアならそうなるか」
確か、野営地にいた冒険者の中にはアナスタシアを好きだった男もいた筈だが。
そう思ったレイだったが、アナスタシアの様子を見る限りでは特に進展の類はないと思ってもいいのだろうと判断する。
「何?」
「いや、何でもない。アナスタシアには研究を頑張って貰う必要があるからな。ギルムの件にはそこまで興味を持たなくてもいいと思う」
そう言ったレイだったが、その言葉がアナスタシアの興味を惹いてしまったのか、不思議そうな様子でレイに尋ねる。
「そう言われると気になるじゃない。何があったの?」
「なら、野営地で聞けばいいものを。……まぁ、いいか。ギルムにある貴族街で殺人事件が起きたんだよ」
「殺人事件? そこまで珍しいことじゃないでしょ?」
アナスタシアのその言葉は、決して大袈裟なものではない。
辺境のギルムにいる冒険者の中には、気の荒い者も多い。
そのような者達が酔っ払った結果として、喧嘩をして相手を殺してしまうといったことはそれなりにある。
何しろ普段から辺境のモンスターを相手にしている冒険者が、酔っ払って手加減を忘れて殴り合うのだから、相手を殺してしまってもおかしくはない。
また、スラム街関係の事件では更に人が死ぬのは珍しい話ではない。
それでもこうして問題が大きくなったのは、貴族街だからだろう。
「貴族街で起きた問題だからだよ」
「ああ、なるほど」
レイの言葉にアナスタシアは納得したように頷く。
アナスタシアにしてみれば、自分が研究者であるということこそが最重要なのであって、それ以外のことはあまり興味を持たないのだろう。
勿論、完全に興味を持たないという訳ではない。
実際にダスカーに会いに来たのはその辺りも関係している。
「ともあれ、その一件の犯人は捕まって片付いた。片付いたのは事実だが、それでもそんな事件があっただけに、かなり神経質になっている者もいる。そんな場所に行きたいと言うのなら、俺は止めないが?」
「行きたくないわよ」
あっさりと告げるアナスタシア。
純粋な研究者のアナスタシアにしてみれば、ここでウィスプの研究が出来るだけで十分に満足している。
寝る場所も、湖の側の野営地があるので困っていない。
移動の途中でモンスターが出ることもあるが、アナスタシアも精霊魔法を使えるし、鹿も野生動物とは思えない程に強い。
そういう訳で、アナスタシアがギルムの状況に興味を持つことはなかった。