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レジェンド  作者: 神無月 紅
異世界の草原
2411/3865

2411話

 レイがガラスをミスティリングの中に収納するのは、何だかんだと結構な時間が掛かった。

 それこそ、途中で昼食の時間になり、一緒にここまで来た者達にはレイがミスティリングに収納しておいた料理で昼食の時間にして貰った。

 ……そうなると、途中で引き返した連中は昼食をどうするのかという思いがレイにはあったが、取りあえずその辺は後で考えることにしていた。

 ともあれ、そうして昼をすぎ……それから数時間程が経過すると、ようやく火の精霊の力が込められたガラスの収納が終わる。

 これだけ時間が掛かったのは、アナスタシアが慎重に……それこそ、ガラスが割れたりしないようにと、慎重に扱った為だ。

 もしレイだけなら、恐らくもっと短時間で終わっていただろう。……その代わり、ガラスの品質はアナスタシアが集めた時に比べると、圧倒的に劣っていただろうが。


「俺が炎の魔法を使った結果、火炎鉱石になった……ってのはあるけど、このガラスはそれとはまた違うんだよな?」

「当然でしょ。火炎鉱石は……珍しいことは珍しいけど、それでも購入しようと思えば多少高値だけど購入出来るわ。けど、火の精霊の力が封じられたガラスなんて、少なくても私は見たことがないわね」


 なら、何で一目で分かったんだ?

 一瞬そう思ったレイだったが、考えてみればアナスタシアは優れた精霊魔法使いである以上、その程度のことはすぐに分かるのだろうと判断する。


「そうなると、やっぱり希少な訳か。……もし他の場所でここと同じようなことをやったら、また同じように火の精霊の力が込められたガラスになると思うか?」


 火炎鉱石の時は、偶然に偶然が重なって出来た結果だった。

 その後に同じような行動をしたこともあったが、火炎鉱石が出来たことはない。

 なら、この火の精霊の力を封じられたガラスが何度でも作れるようになれば、それはレイにとって非常に嬉しいのだが……

 これと同じような行動をするということは、レイの持つ莫大な魔力であってもそのほぼ全てを消耗する必要がある……どころか、生命力すら使って炎帝の紅鎧を発動するということで、その後は気絶するように眠ってしまうということを意味していた。

 例え再現性があっても、レイがそれを行うかどうかは疑問だろう。

 もっとも、出来るけどやらないというのと、出来ないというのとでは大きく意味が違う。

 だからこそ、レイはアナスタシアに尋ねたのだろう。


「どうかしら。難しいと思うわ」


 レイの問いに、アナスタシアは残念そうな表情でそう返す。

 アナスタシアとしては、火炎鉱石とはまた違った存在のガラス……火の精霊の力が込められたガラスには、強い興味を抱いたのだろう。

 だからこそ、そのガラスを再度作ることが出来るとなれば、嬉しい。

 だが……嬉しいからといって、出来ないことを出来ると言うのは、アナスタシアのプライドが許さない。

 好奇心旺盛ではあるが、だからこそ好奇心の為に嘘を吐くといったような真似は、絶対にしたくないのだ。


「そうか。……ともあれ、ガラスも全部収納したし……」


 そう言い、レイは周囲に視線を向ける。

 そこでは、ザイを始めとした多くのケンタウロス達が、微妙な表情のままに周囲の様子を見ている。

 女王の死体の一部でもあれば、多少は何か思うところもあったのだろう。

 だが、残念ながら灰も残らず消えてしまった以上、女王の痕跡を見ることは出来ない。

 核があれば、まだ多少は違った可能性もあるが……その核も、デスサイズによって切断されて消滅してしまっている。


「ザイ、悪いが時間の問題もある。そろそろここを出たいと思うんだが、構わないか?」

「……了解した。色々と思うところはあるが……いつまでもこうしている訳にはいかないだろう」


 レイの言葉に少しだけ驚いた様子を見せたザイだったが、それでも自分達がいつまでもここにいるのは不味いと思ったのか、レイの提案を受ける。

 今はまだ問題ないが、女王の指示に従ってやって来たドラゴニアス達が、また姿を現さないとも限らない。

 地下空間の中には結局一匹のドラゴニアスもいなかったが、いつまでも本当に姿を現さないとは限らないのだ。

 であれば、いつまでも主力となるレイ達が地下空間の中……それも奥の方にいるというのは、色々と不味い。

 ザイもそのことに思い当たったのか、やがてすぐに他のケンタウロス達に指示を出す。


「全員、聞いてくれ! そろそろ、この地下空間を出るぞ! いつまたここにドラゴニアスが戻ってこないとも限らない!」


 ザイのその言葉に、ここまで来ていたケンタウロス達も途中で引き返した仲間達のことを思い出したのだろう。

 現在のケンタウロスは、ヴィヘラとの模擬戦のおかげで一対一でも普通のドラゴニアスを倒すには十分な実力を持つ。

 だが……それは多数のドラゴニアスを相手にした時は、勝つことは出来ないということでもあった。

 だからこそ、女王の命令によって多数のドラゴニアスが来たら危険だと、そう思ったのだろう。

 ……一対一でなら勝てて、走る速度という点でもケンタウロスの方が勝っているのだから、逃げて個体差の大きいドラゴニアスの中でも速い相手が一匹になったら襲うといったような真似をすれば、対処出来ない訳でもないのだが。


「アナスタシア、行くぞ。もうガラスは全部収納したんだから、ここにいる必要はないだろ」


 ガラスはもうないのに、それでも何故か興味深そうに地面を観察しているアナスタシアに、レイはそう声を掛ける。

 ガラスに興味を持つのは分かるのだが、何故そのガラスがもうなくなってしまった地面にそこまで興味を持つのか。

 それがレイには分からなかったが、そんなレイの言葉を聞いたファナがアナスタシアを引っ張って我に返させる。

 そうして鹿に乗る二人を眺めつつ、レイもまたヴィヘラと共にセトの背に乗る。


「さて、セト。また地下空間の中を移動する事になるけど、頼むな」

「グルルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトが任せて! と鳴き声を上げる。

 そんなレイの鳴き声に合わせるように、偵察隊の面々は移動を始めた。


「さて……後は帰るだけか」

「どうするの? 最後まで一緒に行動する?」


 ヴィヘラが言ってるのは、目的のアナスタシアとファナが見つかったし、ドラゴニアスの件も片付いたのだから、セト籠を使って移動すればすぐにエルジィンに戻れるといったことを言っているのは、レイにも分かった。

 それを承知した上で、レイは自分の後ろにいるヴィヘラに対し、頷く。


「ああ。最後まで一緒に行動するつもりだ。……何だかんだと、ここまで一緒に行動したんだから、きちんと最後まで見ておきたい」


 そう告げるレイの言葉は本心からのものであったが、同時に自分とセトだけではここからエルジィンに……トレントの森の地下空間に続いている場所に行けるかどうか、不安だったというのも大きい。

 アナスタシアやファナ、ヴィヘラといった面々と一緒なら、案内をして貰うことも出来るのだろうが……それを承知の上で、やはり今回は他のケンタウロス達をそれぞれの集落に送っていくということを考えてしまう。


(そう言えば、元々俺がこの偵察隊に参加したのって、アナスタシア達の情報を集める協力をして貰うというのが報酬だったんだよな。……今となっては、全く意味がないけど)


 情報を集めるよりも前に、レイはその張本人達を見つけてしまった。

 そうである以上、レイにとって今回の仕事は報酬がないということになるのだが……それでレイが不満を抱いているのかと聞かれれば、その答えは否だ。

 炎帝の紅鎧を限界まで使った時にどうなるのかといった経験が出来たし、知性があり、特殊な能力を持つドラゴニアスを含めて複数のドラゴニアスの死体を確保出来た。

 そして何より、地形操作のスキルがレベル五になったというのはレイにとって非常に大きな意味を持っていた。

 スキルはレベル五になれば四までと比べて一気に強力になるし……また、地形操作のスキルは基本的に非常にレベルアップしにくい。

 ダンジョンの核を破壊することによって、レベルを上げるのが一般的だったのだ。

 それらを考えれば、今回の一件はレイに多くの利益をもたらした。


(俺個人として見れば、収支的には圧倒的にプラスか。……ケンタウロス達にしてみれば、喰い殺された者のことを考えると、マイナス以外のなにものでもないだろうけど)


 ドラゴニアス達によって、ケンタウロス達が受けた被害はとてもではないが軽いとは言えない。

 一体幾つの集落が全滅したのか、レイにも分からない。

 いや、レイだけではなくケンタウロス達にすら、本来の被害がどれくらいのものなのかは分かっていない者が多いだろう。


「取りあえず、関わった以上は最後まで見届ける。……幸い、最後に寄るザイの集落は、エルジィンに繋がっている場所からも近いしな」

「そう? ……まぁ、いいけど」


 レイの言葉に納得するようにしながらも、少しだけ残念そうなのは、ビューネのことを心配しているからだろう。

 何だかんだと、ヴィヘラがこの世界に来てから結構な日数が経つ。

 それだけに、ビューネがしっかりと仕事をしているのかどうか、それを不安に思うのは当然だった。

 ヴィヘラ以外のレイやその仲間達は、ビューネが何を言いたいのかというのは、何となく分かるようになった。

 だが、それでもビューネのことを本当の意味で理解出来るのは、ヴィヘラだけなのだ。

 ……それならビューネを置いてこなければよかったのではないかと、そうヴィヘラも思わないでもなかったが、それでも自分で選んで現在の状況を望んだ。


「お、見えた」

「え?」


 ビューネについて考えていたヴィヘラは、レイの口から出たその言葉で視線を前に向ける。

 するとそこには、地上に続く坂道があり……自分が一体どれだけ深く考え込んでいたのかに気が付く。


「戻ってきたか。……幸い、ドラゴニアスの襲撃はなかったみたいだな」


 坂の上、地上からは、特に戦いの音といったものは聞こえてこない。

 もう既に戦いが終わっているという可能性も否定は出来ないが……それでも、漂ってくる血の臭いの類は感じないので、恐らく問題はないだろうと判断する。

 周囲に血の臭いが漂っていれば、それこそレイよりも先に嗅覚が鋭いセトがそれを察知し、レイに教えている筈だった。

 だが、幸いなことにセトにそのような様子はない。

 そのことをレイが喜んでいると、セトやケンタウロス達……それと二頭の鹿は、坂道を上がって行き……やがて、地上に出る。

 壁や天井が明るかったので、特に視界に困るということはなかったが、それでもやはり地下から地上に出れば、そこに眩い太陽の光が降り注いでおり、一瞬目が眩む。


(そう言えばアナスタシアは壁や天井が光っている光景を気にした様子がなかったな。普段ならそっちにも興味を示してもおかしくはなかったのに。……それが気にならないくらい、ガラス化した地面の方に興味を持っていたのか? それとも、エルジィンのダンジョンと似ているからか?)


 アナスタシアが興味を示さなかった理由は、レイも分からない。

 だが、そちらにも興味を示していれば、こうして地上に戻ってくるまでにもっと時間が掛かっていただろう。

 それを思えば、その件は決して間違いではなかった……そう思ってしまうのも当然だろう。


「お、戻ってきたか。……おーい、レイ達が戻ってきたぞ!」


 地上にいたケンタウロス達が、レイの姿を見て周囲にそう叫ぶ。

 そして地上に残っていた者、途中で女王のいる場所まで行くのを諦めた者。

 そのような者達が、揃って戻ってきた者達に声を掛ける。


「うげっ! 嘘だろ!? そんな光景があったのか!?」


 そんな中で、やはり一番皆の興味を惹いたのは、レイが生み出した、ガラス化した地面だろう。

 それが具体的にどのような状況で起こるのかといったことは分からなくても、何かとんでもないことが起こったというのは、ケンタウロス達にも理解出来る。

 そんな話を聞かされた者達の中には、実際にその光景を自分の目で見てみたかったと思い、途中で諦めたことを悔いる者も少なくない。

 ……そのガラスはレイのミスティリングの中に収納されているので、しかたがないと思ったレイは、そのガラスを幾つか取り出す。

 ただし、そのガラスには火の精霊の力が封じられている以上、下手な行動をした場合はそれがどのような危険をもたらすか分からない以上、慎重に慎重を期すことになったのだが。

 ある意味でレイの力の結晶と呼んでもいいようなそのガラスに、何人かは恐怖を感じてすらいたが……ともあれ、何とか無事にその辺りは解決するのだった。

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2021/01/03 21:20 退会済み
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