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レジェンド  作者: 神無月 紅
異世界の草原
2387/3865

2387話

「……さて、一体どんな攻撃をしてくるんだろうな」


 深紅の魔力を纏いながら歩くレイは、意図的にゆっくりとした速度で歩いている。

 今のレイがその気になれば、それこそ目にもとまらぬ速度で走ることが可能だ。

 だが、今回の目的はあくまでも七色の鱗のドラゴニアスを誘き出すことなのだから、そのような真似をしたら、どうしても目立たない。

 そうである以上、向こうから出て来るようにする為には、目立ちながら……自分は女王に向かって歩いていると示す必要があった。

 数分程歩き……だが、七色の鱗のドラゴニアスの様子が出て来ないのを不審に思う。

 今の自分が女王の前に立てば、間違いなく女王は傷を受ける。

 それどころか、レイが見たところでは女王はあくまでもドラゴニアスを産むのと、命令を出す指揮に特化しているような形であり、それはつまりレイを前にして対処出来る能力があるとは思えない。

 あるとすれば、それこそ地の精霊魔法だろうが……魔法の類が最も有効なのは、やはり遠距離から中距離だ。

 一応レイには近距離で使うような魔法も持っているが、基本的に魔法使いというのは魔法に特化した存在が多い。

 冒険者であれば、ある程度動けるかもしれないが……それでも、前衛系の相手と正面から戦うといった真似は難しい。

 ましてや、女王は肉の塊である以上、普通に動くといった真似は難しい。

 レイを側に近寄らせた時点で、もう終わりなのだ。

 であれば、その女王を守る筈のドラゴニアス達は……特にドラゴニアスの中では最大の強さを持っているだろう七色の鱗のドラゴニアスは、レイが女王の前に到着するまでに、何とかする必要があった。

 いや、この場合は何とかするのは、女王の前に到着するよりも、レイの攻撃範囲に女王が入る前にだろう。


「俺が来て欲しいと思ってたのは、お前じゃない」


 そう呟き、レイは自分の身体を覆っている深紅の魔力を操作し、自分の上に向けて振るう。

 次の瞬間、光学迷彩を使いながら上空からレイに向かって真っ直ぐ落下してきた透明の鱗のドラゴニアスは、それこそ深紅の魔力によってあっさりと叩き落とされる。

 ゆっくりとはいえ、地面を歩いているレイの上空から、正確に落下するというのは、非常に高い技術や読みが必要だ。

 飢えに支配された普通のドラゴニアスであれば、絶対に出来ないだろう行動。

 それを行った透明の鱗のドラゴニアスだったが、レイはそんな高度な技術や読みを全く無視したように、深紅の魔力で地面に叩き落としたのだ。

 当然ながら、叩き落とされた透明の鱗のドラゴニアスも無事ではすまない。

 深紅の魔力に触れた場所は透明な鱗が焼け爛れ、同時に強力な打撃を食らって地面に叩きつけられた為に、身体中の骨の多くが砕かれるといった有様だ。

 右手のデスサイズも、左手の黄昏の槍も一切使わず、ドラゴニアスの中でトップクラスの戦闘力を持つ一種である、透明の鱗のドラゴニアスを文字通り一蹴したのだ。

 だが、レイはそんなことは全く気にした様子もなく、そのまま女王のいる方に向かって歩く。

 既にかなり近付いている為か、女王の姿はかなり大きくなっている。

 それでも脅威を覚えない……いや、脅威は覚えているが、止めずに足を進めることが出来るのは、少し前に女王の前に行った経験があるからだろう。


(そう言えば、俺を案内した銅の鱗のドラゴニアスはどうしたんだろうな。サンドイッチを美味そうに食っていたから、出来れば死んでいて欲しくないけど)


 自分が渡したサンドイッチを美味そうに食べていた相手。

 それだけに、多少なりとも親近感を抱いていたのだが……それでも、死なないで欲しいという自分の願いは、恐らく叶えられることはないだろうと、そう思った。

 あるいは、既にもう今までの戦いで死んでいる可能性もある。

 何しろ、レイもヴィヘラもセトも、大量のドラゴニアスを圧倒的な力で一方的に蹂躙したのだ。

 その中にレイを案内した銅の鱗のドラゴニアスがいても、全くおかしくはない。

 微妙にテンションが下がるレイだったが、それでも今はやるべきことがあり……


「だよな!」


 叫びつつ、その場で身体を回転させる。


「ギィッ!」


 いきなりレイの真横に転移してきたドラゴニアスは、そんな悲鳴を上げながら、吹き飛ばされる。

 レイのすぐ側……本当に接触するかどうかといったような場所に転移してきたこともあってか、レイが回転しながら振るったデスサイズは、刃ではなく柄……それもレイの持っている場所のすぐ近くで殴って吹き飛ばすような形となった。

 そういう意味では、転移してきた七色の鱗のドラゴニアスは運がよかったのだろう。

 もしもう少しレイから距離を取っていれば、その時は柄ではなくデスサイズの刃がその身体を切断していたのだろうから。

 もっとも、炎帝の紅鎧によって身体能力が上昇し、その上で百kg近い重量を持つデスサイズの柄で殴られ、吹き飛ばされたのだ。

 当然の話だが、吹き飛ばされた七色の鱗のドラゴニアスは、胴体の骨の多くが折れており、その骨が内臓を傷つけるということにさえなっていた。


「取りあえず、これで一匹」


 呟き、レイは深炎を飛ばし、吹き飛ばした七色の鱗のドラゴニアスを燃やす。

 例え転移能力を持っていても、転移した先でも燃やされてしまうのだ。

 そんな一撃からは逃げられる筈もなく、七色の鱗のドラゴニアスは胴体の骨を折られた痛みに身悶えつつ、同時に身体を焼かれる痛みと熱さにも身悶え……やがてその身体は炭に変わり、動かなくなる。

 そんな様子を眺め、レイは満足そうに呟く。

 先程は銅の鱗のドラゴニアスの生死を気にしていたのだが、七色の鱗のドラゴニアスが死んだということには何の感慨も湧かない。

 とはいえ、レイにとっては戦いの中で生きるというのはそう珍しいことでもないので、今はまず自分のやるべきことをやる方が先だった。


「残り三匹。……一斉に襲い掛かってくれば、こっちもやりにくいんだけどな。その辺は理解していないのか、それともそこまで考えが及ばないのか」


 七色の鱗のドラゴニアスの死体をミスティリングに収納しながらそんなことを考えつつ、取りあえず後者の考えをすぐに否定する。

 ドラゴニアスの頂点に存在している以上、そのくらいのことは容易に考えられるだろうと、そう思ったのだ。

 そして実際、戦った感触では七色の鱗のドラゴニアスはかなり知恵の回る存在なのは間違いない。

 そのような七色の鱗のドラゴニアスが、多数で戦った場合の有利さに気が付かないという可能性はなかった。


(あるとすれば、プライドの問題とか? 五匹しか存在ない、ドラゴニアスの中でも頂点に立つ存在だけに、群れて行動するのが我慢出来ないとか。……それはそれで、助かるけどな)


 転移能力を持つ七色の鱗のドラゴニアスだけに、一匹だけならまだしも、複数の個体が連続して転移を行って攪乱するなどといったような真似をすれば、間違いなくレイも混乱する。

 そのようなことになった場合、レイもどのドラゴニアスに攻撃すればいいか迷うだろう。

 ……もっとも、レイには七色の鱗のドラゴニアスが転移してきたところを察するような真似は十分に可能だ。

 そうである以上、敵が転移を繰り返しても何とか対処出来る……出来ればいいな、と。そう思う。

 一匹だけならともかく、複数で同時に転移してきた場合は、その全てに対処する必要がある。

 その上で微妙に時間差をつけられたり、同時に転移してきたり……そんなことを繰り返されれば、レイとしてはその対処に悩むのは当然だろう。


「ともあれ、残り三匹なんだ。その三匹が同時に襲い掛かって来ても、それには対処出来る筈」


 半ば自分に言い聞かせるようにしながら、レイは再度女王のいる場所を目指して歩き出す。

 だが、その移動速度は先程同様にかなりゆっくりとしたものだ。

 これもまた、七色の鱗のドラゴニアスを誘き出す為の行動ではあったのだが……一度そうやって敵を誘き出している以上、また同じ手段が効くかどうかは、微妙なところだった。

 とはいえ、他に何らかの手段がない以上、それは仕方がないのだが。

 いや、あるいはもっと単純にここから女王に向かって攻撃を仕掛けるといった手段もある。

 七色の鱗のドラゴニアスがレイを警戒して行動を起こさない……起こせないとしても、自分達の女王が攻撃されるとなれば、話は変わってくる。

 それに対処する必要がある以上、レイを止めるといったことをする必要があった。

 ……それをレイが行わないのは、単純にそのような真似をした場合、七色の鱗のドラゴニアスだけではなく、現在は様子見をしている女王までもが反応して攻撃に参加する可能性が高いからだ。

 肉塊のような女王がどのような攻撃をするのかは分からないし、そもそも攻撃自体出来るかどうかも分からない。

 いや、あの黒板を爪で引っ掻くような音を発せられるのは、戦闘に集中させないという意味で十分に攻撃と言えるのだろうが。

 ただ、それでも直接的な攻撃力という意味では、それこそ土の精霊を使った攻撃くらいしか存在しない。

 そんな女王にレイが近付くのを、ドラゴニアス達が許容するとは思えなかった。

 もしこれがドラゴニアスではなく人間であれば、それこそ自分達の女王に近付くとは何事かと、そのように思ってもおかしくはない。

 だが、相手は人ではなくドラゴニアスである以上、どのような判断をするのかというのはレイにも分からない。

 レイが知ってる限りでは、ドラゴニアスの思考は完全に自分達とは違うのだから。

 ……もっとも、女王の下まで案内した銅の鱗のドラゴニアスサンドイッチを食べて喜んでいたのを考えると、全てが完全に自分達とは違う考え方だという訳でもないのだろうが。


「とにかく、まずは早いところ出て来てくれないと、こっちとしても戦うに戦えないんだけどな。……ヴィヘラが来るまでの時間稼ぎという意味だと、そんなに悪い訳でもないんだけど」


 現状でヴィヘラが一番楽しみにしているのは、当然のように金の鱗のドラゴニアスとの戦い……ではなく、七色の鱗のドラゴニアスとの戦いなのは、レイにも理解出来る。

 金の鱗のドラゴニアスとの戦いも、勿論楽しみにしているだろう。

 だが、やはり最強の相手を前にして、それでヴィヘラに燃えるなという方が無理だった。

 だからこそ、レイとしては七色の鱗のドラゴニアスがこれ以上減るのは、自分にとっては嬉しいことであっても、ヴィヘラのことを思えばもう少し待っていた方がいいだろうと、そう思ったのだ。


(そうなると、透明の鱗のドラゴニアスの方も、俺とセトで全部倒すといったような事はしない方がいいのかもしれないな)


 光学迷彩と桁外れの跳躍力を持っている透明の鱗のドラゴニアスは、ヴィヘラにとっても是非戦ってみたい相手なのは間違いない。

 レイもそれが分かっているのでそう思うが……それでも、結局のところ向こうが襲い掛かって来たら反撃をするしかないのは事実だ。


「……へぇ」


 そんな中、視線の先に七色の鱗のドラゴニアスの一匹が姿を現したのを見て、レイは感心したような声を上げる。

 奇襲を仕掛ける為に自分のすぐ近くに転移してくるのではなく、自分からそれなりに距離をとった場所に転移してきたのだ。

 それを見れば、奇襲をするのではなく正面から正々堂々と戦おうとしているのは明らかだった。


(最初は俺と戦った後は執念深くどこまでも追ってきた。二匹目は奇襲攻撃を仕掛けてきた。そして三匹目は俺の前に堂々と姿を現す。さて、これは一体どうなってるんだろうな。七色の鱗のドラゴニアスは五匹全てが違う性格をしているのか、それとも単純に学習した成果か)


 突然レイのすぐ側に転移して攻撃しようとしたものの、それはあっさりと反撃を食らってしまった。

 だからこそ、奇襲は効果がないと学習し、正面から堂々と戦いを挑んだのではないか。

 そう思ったレイだったが、奇襲をしても勝てない相手に正面から戦いを挑んでどうにかなるのか? という疑問があるのも事実だった。

 であれば、やはりこれは性格の違いだろうと。

 普通に考えれば、蟻や蜂に近い習性を持つドラゴニアスのような生態の生き物が個々の性格を持つとは思えない。

 だが、レイから見た感じでは、七色の鱗のドラゴニアスはドラゴニアスの頂点に立つ存在だ。

 そうである以上、個性の違いがあるような自我をそれぞれが持っていてもおかしくはない。

 そして何より、このように正面から戦いを挑んでくるような性格は、レイにとって戦いやすい相手である以上、喜ばない訳がなかった。

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[一言] 面白い
2021/01/03 00:52 退会済み
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[気になる点] 銅のやつにあげたのは串焼きでは無くサンドウィッチじゃなかったっけ?
[気になる点] 誤字報告 次の瞬間、コウが校名差異を使いなが上空からレイに向かって真っ直ぐ落下してきた透明の鱗のドラゴニアスは、それこそ深紅の魔力によってあっさりと叩き落とされる たぶん誤字だと思…
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