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レジェンド  作者: 神無月 紅
商隊護衛
236/3865

0236話

 アブエロの街で過ごした翌日、6時の鐘が鳴ってから1時間程した後でアレクトールを始めとする商隊の一行と護衛の麗しの雫のメンバー達、そしてレイは正門の近くで街を出る手続きをしていた。

 昨日の出来事で申し訳なさそうにしている警備兵の責任者にギルドカードを渡していた、そんな時。


「あれ? あんた確か……」


 不意に背後からそんな声を掛けられる。

 ギルドカードを渡したレイがそちらへと振り向くと、そこには4人程の冒険者と思しき者達の姿があった。

 1番目に付くのは、その4人組のリーダーらしき戦士だろう。蛇系等のモンスターの鱗を使って作ったと思われる真っ青なスケールアーマーが酷く目立っていた。そしてレイもまた、そんな特徴的な装備を持つ人物を見て思いだす。


「確かソード・ビーの時に……」

「そうそう! あの時は助かったよ! にしても、何であんたがアブエロの街に?」

「見ての通り、ちょっと護衛でな。……それよりも、よく俺だって分かったな。あの時は1時間も一緒にいなかったし、今の俺は特に目立つでもない普通の格好なのに」


 これがセトがいれば、目印としてはこの上ないのでレイも自分を見つけ出したことに対して特に驚きはしなかっただろう。だが今のレイは隠蔽効果で普通のローブにしか見えないドラゴンローブを被っているだけだ。あるいは、レイの象徴ともいえるデスサイズを持っている訳でも無い。そんな状態の自分をきちんと把握出来たことに驚きを示すのだった。


「何を言ってるのさ。ソード・ビーの殆どを分けて貰ったんだぜ? そんな恩人の顔を忘れる訳ないだろ」

「……そんなものか。まぁ、それはともかく元気そうで何よりだったな。にしても、何でこの時期に外に出る準備を?」


 街を出ようとしている自分達の後ろに並んでいるということは、同じく街を出る用事があるということなのだろう。そう判断して問いかけたレイだったが、冒険者達は苦笑を浮かべるだけだった。


(……なるほど。金欠か)


 その様子を見て、何となく理解するレイ。どことなく金欠状態だったミレイヌに似た雰囲気を放っていた為にそう判断する。

 そしてそれは間違ってはいなかった。


「あ、あはははは。まぁ、その、ほら。ちょっと……な」


 苦しい笑みを浮かべつつ何とか誤魔化そうとするスケールアーマーの男に、小さく頷くレイ。


「ま、頑張れ。俺は……」

「おーい、レイ。出発するからそろそろお喋りはやめてこっちに合流して!」


 何かを言おうとしたレイに、商隊の方からタエニアの声が聞こえてきた。

 そのタエニアに軽く手を上げて了解の意を伝えると、そのまま目の前の冒険者達に声を掛ける。


「……見ての通り、もう行かないといけないらしい」


 そう告げてタエニアの方へと向かったレイに、スケールアーマーを装備している冒険者が慌てて声を投げかけた。


「俺達はランクEパーティの蒼穹の刃だ! ソード・ビーの件には感謝している。何か手伝えるようなことがあったら言ってくれ!」


 その言葉にレイは後ろ向きに軽く手を上げ、アレクトールの商隊の方へと移動するのだった。






「あの人達、知り合い?」


 馬車が進み始めたところでファベルがそう尋ねてくるが、レイはその言葉に小さく首を振る。


「知り合いって程じゃないな。以前ここの近くを通った時にソード・ビーを倒したのはいいんだが、素材を剥いでいる時間が無くてな。偶然通りかかったさっきの連中に譲ってやっただけだよ」

「……アイテムボックスを持っているのに?」


 馬車の近くを歩きながら、首を傾げて尋ねるファベル。その背には愛用の盾が、そして腰にいつでも抜けるように剣の収まった鞘がぶら下がっている。

 アイスバード戦で修復不可能になる程損傷した盾だが、ギルムの街で新調したらしく以前の盾とは全く違う物になっていた。

 その盾へと一瞬視線を向けてから、小さく頷くレイ。


「ああ。アイテムボックスに収納するにしてもその対象に触れないといけないからな。その時間も無かったんだよ」

「……何をまたそんなに急いでいたの?」

「ちょっとな。……お、来たか」


 ファベルを誤魔化すように視線を空へと向けると、そこには翼を伸ばしながら滑空して地上へと降りてきているセトの姿があった。


「グルルルルルルルゥッ!」


 地面に着地するや否や、速度を殺しつつもレイへと突っ込んでいくセト。

 幾ら速度を落としつつとはいっても、2mを越える体長を持つグリフォンが突っ込んでくるのだ。頬を引き攣らせたファベルはそのままレイから距離を取り、あるいは近くにいた馬車もまた巻き込まれては堪らんとばかりに速度を上げる。馬車を引く馬にしても、グリフォンであるセトは怖いのか、特に抵抗する様子も無く……いや、むしろ嬉々として速度を上げるのだった。もっとも、それでも恐慌状態になったりしない辺りは良く調教されている馬だといえるのだろうが。

 だが……


「っと! ……よしよし。セト、1晩外で過ごしたけど元気だったか? 腹は減ってないか?」


 突っ込んで来たセトを、レイは吹き飛ばされもせず……更には、特に苦労した様子も無く受け止め、その場で撫でていた。

 周囲から驚愕の視線を向けられる中、セトも十分にレイに甘えて満足したのだろう。ようやく落ち着いた様子で、自分の定位置はここだとばかりにレイの横へと陣取る。


「あの……レイさん、その、大丈夫なんですか?」

「ああ、ちょっと驚かせてしまったようだな。問題無い。ここで時間をとってもしょうがないし、さっさと先に進むとしよう」


 恐る恐る尋ねてきたアレクトールの言葉にそう返すレイ。その瞬間、周囲の者達の内心は『お前が言うな!』という思いで一致したのはある意味当然だっただろう。


「そ、そうですね。ではアブエロの街からも離れてきましたし、馬車は隊列を。護衛の皆さんは昨日と同様にお願いします。サブルスタの街までの距離を考えると、どうあっても今夜は野宿となりますのでその辺にも気を付けて下さい。では、行きましょう」


 アレクトールのその言葉と共に、昨日同様に馬車が縦に並ぶ。そして麗しの雫の面々が馬車と左右に。レイとセトが背後に位置取る。

 ルイードがセトに構いたがっていたのだが、タエニアが強引に連れていった為に特に騒ぎになるようなこともなく、サブルスタの街へと向かって進み始めるのだった。






 セトという存在がいる影響なのだろう。昨日と同様に、モンスターに襲われることなく一行は街道を進んで行く。

 そもそも、既に辺境から出ている以上はモンスターの襲撃はそれ程心配はいらない。しかしその代わり……


(ちっ、また来たか)


 並外れた視力の良さで、街道の先に生えている木の裏に身を隠している人影の姿を発見し、内心で呟くレイ。

 アブエロの街を出発してからそう時間が経たないうちに、ちょくちょく自分達の様子を確認している存在を見つけていたのだ。その姿は斥候と呼べる程度には身を隠す術に長けており、数時間前に昼食を取った時、護衛の指揮を執っているタエニアにそれとなく言ったことにより他の者達も初めて気が付いたという有様だった。

 この場合、麗しの雫のメンバーの技術が低いのではなく盗賊と思われる者達の技術の方が上なのを褒めるべきだろう。この街道で盗賊行為を行ってきた為に、その技術が磨かれていったのだろうとレイは予想していた。


(やっぱりタエニアやアレクトールの意見を無視してでも、昼食の時に俺だけ別行動をするべきだったか?)


 そうも考えるが、既に自分達の様子を窺っている以上はここで戦力を分けて、その隙を突かれたくないというのがタエニアの意見だった。

 レイがセトに上空から奇襲を仕掛けさせる。そう意見を出すと乗り気になったタエニアだったが、今度はアレクトールが消極的にではあるが反対意見を述べてきた。確かにレイとセトは強力極まりない戦力だ。だが、それはあくまでも個としての戦力であり、手数の多さを活かして盗賊に攻撃された場合を考えると……というのがアレクトールの意見だった。


(けどアブエロの街を出てからすぐに偵察に来たとなると……恐らく、アブエロの街には盗賊達の手の者が入り込んでいるんだろうな)


 それは少しもおかしな事ではない。そもそも盗賊が最も出没するのがアブエロとサブルスタの街を繋いでいる街道である以上、そこを通る商隊の情報を得る為に街中にその為の人員がいるのはある意味で当然なのだから。


「何、レイ。もしかしてまた?」


 歩きながらも、顰められたレイの眉に気が付いたのだろう。馬車の脇を歩いていたタエニアが、その速度を落としてレイの隣まで来て声を掛ける。


「ああ。この街道の先に数本の木が生えているのが見えるか? あの右から2番目の木の後ろについさっきまで盗賊の偵察らしき者がいた。……もっとも、今はもういないけどな。恐らくこっちの護衛の練度や商隊の様子を確認しにきたんだろうな」


 レイの言葉を聞き街道の先へと視線を向けるタエニアだったが、その視力では残念ながら生えている木を見ることしか出来なかった。もっともレイ自身が口にしたように、既に盗賊の偵察役らしき男はいなかったのだが。


「うーん、やっぱり私達を襲う気満々っぽいね」

「だろうな。だから昼食を食べている時に俺がどうにかして盗賊を捕らえてくるって言ったんだけどな。そこで情報を得られればこっちから攻め込んで一網打尽にも出来ただろうに」

「雇い主が駄目って言ってる以上、それは無理でしょ。それに偵察役って言っても、ようは下っ端でしょう? 下手をしたら見つけられるのが目的の生き餌って可能性もあるわよ」

「……盗賊の頭がそこまで回るか?」

「分からないわ。けど、この街道は盗賊が出るとそれなりに広まっているの。そんな中で盗賊を続けている奴等よ? ある程度は頭が回ってもおかしくないわ。まあ、本当に頭がいいのなら自分達の情報が流れている場所で盗賊行為を続けるとは思えないけど」


 タエニアの言葉を聞き、数秒程考えた後に頷くレイ。

 確かに下っ端はともかく、盗賊を率いている者ならそれなり以上に頭が働く……あるいは鋭くてもおかしくはないだろう。


「もっとも、実際に襲ってくる可能性はかなり少ないと考えているんだけどね」

「その根拠は?」


 レイの言葉に、タエニアは視線をレイの隣を歩いているセトへと向ける。


「グリフォンなんて存在がいるのに、盗賊が襲ってくると思う? 普通ならランクAモンスターを連れている時点で襲ってこないでしょ。どう考えても勝ち目はないんだから」

「……確かに」


 タエニアの、当然と言えば当然のその言葉に思わず納得するレイ。

 だが、それでもレイの胸の中にはどこか嫌な予感が存在していた。


「それでも……それでも、もし襲ってくるとしたらいつだと思う?」

「襲ってこないって言ってるでしょうに。……でも、そうね。それでももし襲ってくるとしたら、やっぱり明日の明け方ってところじゃない? その辺が見張りの警戒心も低くなってくる頃でしょうし」

「だろうな。だが、そうなると……明け方の見張りは俺がやった方がいいか」


 既にレイの中では、盗賊達の襲撃があるものとして考えられていた。そんなレイの様子に呆れた様な表情を浮かべつつ、タエニアも確実に襲撃が無いとは言い切れなくなっていた。


(辺境にあるギルムの街で最年少のランクC冒険者になったレイが言うのなら、襲撃の可能性を切り捨てるのは早計かしら?)


 そんな風に内心思いながらも一行は街道を進み続け、やがて太陽が夕焼けに変わる頃にアレクトールがそれなりに大きい林野近くで馬車を止めその場で一晩を明かすことを告げ、それぞれが夜営の準備を始める。






「じゃあ、見張りの交代制は2交代でいいな?」


 夕食を食べ終え、冬だけに既に周囲も暗くなってきており、それでもさすがにまだ寝るには早いと商隊の商人達は焚き火で暖まりながら話をし、あるいは酒を飲み、カードゲームに興じるといった風に時間を潰していた。

 そんな中、麗しの雫の3人とレイは1つの焚き火で暖まりながら今夜の護衛についての順番を相談していた。


「2交代、ねぇ。確かに私達としては3人で固まって見張りが出来るのはいいけど……レイは1人でいいの?」


 タエニアの言葉に、レイは肩を竦めて自分の側で地面に寝転がっているセトへと目を向ける。ちなみに、実際に見張りの相談をしているのはレイとタエニア、ファベルのみでルイードはセトの毛並みを撫でながら恍惚の表情を浮かべている。


「セトがいる時点でそんな心配はいらないさ。正直に言えば、見張りに関してはセトがいればそれだけで十分だとも思っている」

「けどっ!」


 レイの言葉にファベルが反射的に何かを言おうとしたのを、手を差し出して止める。


「分かってるよ。護衛として雇われている以上はきちんと見張りをしないといけないと言うんだろ? もちろん俺もそれに異論は無い。だからこうやって提案しているんだしな」

「……1人と1匹で自信はあるのね?」


 確認するように尋ねてくるタエニアの言葉に、躊躇無く頷くレイ。

 レイにしてみれば、セトがいるという一点で夜の見張りに関しては絶対的な自信を持っている。それは根拠の無い自信という訳では無く、これまで幾度となくセトへと見張りを任せてきた故の自信だった。


「ま、いいわ。確かにセトの存在を思えばレイの自信も根拠のないことではないでしょう。それにレイ自身も私達よりもランクの高い冒険者なんだしね」


 麗しの雫のリーダーであるタエニアが頷き、夜営をする間の見張りの順番は決まったのだった。

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